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第一部 アストラス編~王の落胤~
56.束縛
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ロックウェルが倒れた────。
それはクレイにとっては大事件だった。
回復魔法が使える白魔道士が体調を崩して倒れるなんて余程の事だろうと思えたからだ。
ましてやロックウェルは魔力も高く、そうそう倒れるようなひ弱なタイプではない。
一体どんな無茶をしでかしたのだろう?
(ロックウェル…)
最早会う勇気が出ないなどという考えは頭から吹っ飛び、今すぐにでも自分の目でロックウェルの無事を確認したくて仕方がなかった。
王に見つかろうとどうしようと関係なかった。
そんなものはいざとなったら振り切ってしまえばいい。
そう思いながら全力でただただロックウェルの元へと向かう。
そんなクレイをロイドも必死に追いかけていた。
クレイがロックウェルの元に行けば、自分の元にはもう戻ってくれないと心のどこかでわかっていたから────。
***
「ロックウェル!!」
そろそろシリィがクレイに接触した頃かとそう思っていたところで、突如その姿は目の前へと現れた。
会いたくて会いたくて仕方がなかったクレイの姿に、思わず胸が締め付けられるほど気持ちが溢れてたまらなかった。
けれどその体を抱きしめようと思ったところで、急に現れたロイドにその体を勢いよく奪われてしまう。
クレイを思い切り自分の方へと引き寄せてしっかりと腕に抱き、絶対に渡さないとばかりに距離を取られたのだ。
その息は荒く上がっていて、必死に追ってきたのだと言うのがすぐに見て取れた。
「ロイド?」
それにはさすがにクレイも驚いたようで、目を瞠りながらロイドの顔を見つめている。
「はぁっ…、クレイ!罠だ!」
そんな言葉にクレイは不思議そうに首を傾げるが、ロイドはロックウェルを睨み付けるばかり。
「何を言われたのかは知らないが、お前をここにおびき寄せる罠だ!すぐに帰るぞ!」
そんな言葉に戸惑いながらもクレイはチラリと視線を自分へと向けた後、大人しくロイドの言葉に従った。
「…わかった」
たったそれだけの事ではあったが、自分よりもロイドを取ったクレイにショックを受けた。
自分とは違う男の腕の中で、その男の言葉に大人しく頷き、その身を任せる。
それは何よりも許しがたい行動で、絶対に帰したくないと言う気持ちにさせられた。
だからだろうか?気が付けばその呪文を唱えていたのだ。
それにいち早く気付いたクレイが驚きに目を瞠り、ロイドの身体を自分から引き離すようにドンッと突き飛ばした。
「ロイド!お前は今すぐ帰れ!」
その口調の強さに驚いたロイドは一体何がという顔をしたが、クレイは対抗魔法を唱えることもなく、静かに自分の方へと向き合った。
その瞬間、バチィッ!!という甲高い音と共に、呪文がクレイの身体を縛り上げる。
「クレイ!」
慌てて助けようとするロイドに来るなと言って、クレイはそっと自分に向かってその言葉を紡いだ。
「ロックウェル…。お前は本当に…仕方のない奴だ」
その瞳からポロリと一筋の涙がこぼれ落ちる。
それは封印魔法で縛り上げられた痛みではなく、何かを思っての事のように思えた。
「あの時も…そうだったのか?」
苦しげに紡がれたその言葉に思わず呪文を唱えるのを一旦やめて、クレイを見つめてしまう。
「あの…以前の封印も、こうして────お前の中に俺への嫉妬心があったせいで…封印したのか?」
クレイは真っ直ぐに責めるでもなく自分の方を切ない表情で見つめていた。
水晶化の事件で…本当にあの時、犯人だと確信を持っていたのなら捕まえるだけで良かった。
「お前なら…魔法で拘束することだってできただろう?」
それをわざわざ『封印』と言う形を取った自分を、クレイはどうしてなのかと思い続けていたと言う。
何も話さずいきなり封印と言う形を取った自分────。
それは逃げられると思ったからなのか?
信じてくれていなかったからなのか?
そうやって考えてきた答えが、やっと繋がったように思うと涙を流した。
全ては『嫉妬』ゆえの暴走だったのではないかと……。
言われてみれば確かにその通りで、あの時の自分はクレイの力に…クレイの存在そのものに嫉妬していた。
思い通りにならないクレイにイライラし、遠くに居るようなクレイを自分に振り向かせたかった。
だからその答えは概ね間違ってはいないような気がして、耐え切れず思わず胸を押さえて俯いてしまう。
嫉妬は形を変えてどこまでも自分の心を占めていく。
それだけクレイの存在は自分の中で大きなものだった。
「私にここまでさせるお前が…全部悪いんだ」
正直友人の時に抱いていた時の嫉妬よりも、関係を持ってからの今の方がずっと嫉妬が酷い。
独占欲がどこまでも肥大して、自分で自分を抑えきれない。
ここまで自分を追い込んだのは他の誰でもない、クレイだ。
だから思わずそんな言葉が口からこぼれ落ちた。
そんな自分の言葉にクレイがどう返してくるのかを考えるだけで頭がおかしくなりそうだった。
けれどクレイの口から紡がれた言葉はどこまでも予想外で…。
「あの時は…ただただお前の気持ちがわからなくて、裏切られたと思って悲しかった。それでも…今はこうしてお前に…束縛されるのが嬉しいんだ…」
その言葉に思わず顔を上げクレイの方へと視線を向けると、クレイはどこか嬉しそうにしながら困ったように笑っていた。
「お前の嫉妬はどこまでも俺を喜ばせるものでしかない。だから…このままお前の傍に封印されるのなら…本望だ」
それはロイドの傍よりも自分の傍がいいと…そう言ってくれているのと同義だった。
「クレイ!!」
その言葉と同時に解呪し、思わず掻き抱くようにその体を抱きとめる。
こんな自分を…受け入れてくれるというのだろうか?
どこまでも嫉妬に狂っている自分を…。
クレイはそんな自分にただそっと寄り添って大きく息を吐いた。
「お前は本当にわかりにくい…」
そんなクレイを抱きしめて胸がいっぱいになる。
「私はただお前が好きで好きで仕方がないんだ」
正直に自分の心を伝える。
離れて行かれたくない。
他の男の手を取ってほしくない。
ただ…自分の傍にいてほしかった。
「お前をロイドには渡したくない!」
渡すくらいなら自分の部屋に封印して、もう二度と誰にも触れさせたくないとさえ思ってしまった。
それがどこまでも自分の本心だった。
そうやって思い切り抱きしめていると、クレイがそっと息を吐き、ゆっくりとロイドの方へと目を向けた。
「ロイド…悪いが俺はこのままここに残る」
「クレイ…」
「やはりここに居たいと…そう思うから」
その言葉にロイドは複雑そうな顔をしたが、ギュッと拳を握り締め気持ちを飲みこみ、いつもの様に強気な笑みを浮かべた。
「わかった。ライアード様には私の方から伝えておこう」
「…助かる。また連絡するから心配するな」
「…わかった」
そしてロイドが大人しくソレーユへと戻って行ったのを確認すると、クレイはギュッと抱きつきながら切なさを滲ませ、その言葉を紡いだ。
「もう…お前に捨てられたかと思ってた……」
そんな言葉にヒュースの言葉が思い出される。
やはり自己完結で別れたと思い込んでいたのだろう。
「こんなに嫉妬するほど愛しているのに…捨てるはずがないだろう?」
どうやってもクレイを切り捨てることなどできそうにない自分に思わず自嘲してしまう。
「……。お前の嫉妬はひど過ぎる」
確かにそうかもしれない。けれど────。
「…こんなに嫉妬させるお前が悪い」
そう言いながら絡み合う視線は互いに熱くて…、気が付けば引き寄せられるように口づけを交わしていた。
「んっ…はぁっ…」
久方ぶりの口づけは気持ち良すぎて…思わず酔ってしまいそうになる。
どうしてクレイとの口づけはこれほど気持ちいいのだろうか?
その体が、その瞳が、ただただ自分を求めてくれているのを感じて、体が熱くなった。
「クレイ…お前を愛したい」
このひと月ずっと焦がれてやまなかったその身を愛して、しっかりと全身で感じたかった。
それなのにクレイは少し戸惑いながらそのセリフを口にする。
「ロックウェル…待ってくれ…。その…久しぶり過ぎて恥ずかしい…から…後にしないか?」
そんな可愛い断り文句を言われても正直煽られているとしか思えないのだが…。
「それより…今更だが、本当にここに居ていいのか…とか…その…」
そういった事も聞きたいと不安そうに聞いてきたので、安心させるように抱き寄せ経緯を話してやった。
「お前の瞳については陛下とハインツ王子、ルドルフ王子、ショーンの四人以外に知るのは私とシリィだけだ。その上で陛下と交渉して、王位継承権をお前が放棄すると一言言えば信用すると言ってもらえた」
だから安心していいと伝えるが、クレイは憂うようにため息を吐く。
「…そんなこと…わざわざ言わなくても元々興味はないのに…」
「まあけじめのようなものだと思ってくれればいい」
「……それはどうしても必要なことなのか?」
できれば紫の瞳の事は勘違いだと言うことにして、ただの黒魔道士として認識してもらいたいのだとクレイは口にするが、それは難しいだろうと思えた。
「俺はお前の傍に居られたらそれでいいのに…」
そうやって肩を落としながら自分を想ってくれる言葉が嬉しくて仕方がない。
どうしてクレイはこれほど人の心を擽ってくるのだろう?
「クレイ…やっぱり…」
今すぐ抱かせてくれとそっと甘くその唇を塞ごうとしたところで、突然邪魔者が部屋へと飛び込んできた。
「はいはい!ロックウェルが手を出す前に迎えに来ました~!」
「ショーン?!」
「始まると謁見が明日になってしまうと思って♪」
その言葉に外で聞いていたのかとクレイが真っ赤になる。その表情はどこまでこの関係を知っているんだと言わんばかりだ。
「勿論謁見にはロックウェルも同席するから、身の安全は保障されていますよ。クレイ様?」
「…クレイでいい。わざわざわざとらしく敬称をつけるな」
そんなクレイにショーンがしてやったりと笑みをこぼす。
「…そのままのお前で堂々と物申せばいいから、とりあえず表情は引き締めて謁見に望んでくれ」
ロックウェルとの再会が嬉しいのもわかるが、色気ダダ漏れはよろしくないとからかわれ、クレイは憤慨しながら立ち上がった。
「場所はどこだ?!」
「ではご案内を」
どこかおどけたように言うショーンにいつものように不遜な態度に戻ったクレイが続く。
ロックウェルはそんな二人に軽くため息を吐くと、自分もゆっくりと後を追った。
それはクレイにとっては大事件だった。
回復魔法が使える白魔道士が体調を崩して倒れるなんて余程の事だろうと思えたからだ。
ましてやロックウェルは魔力も高く、そうそう倒れるようなひ弱なタイプではない。
一体どんな無茶をしでかしたのだろう?
(ロックウェル…)
最早会う勇気が出ないなどという考えは頭から吹っ飛び、今すぐにでも自分の目でロックウェルの無事を確認したくて仕方がなかった。
王に見つかろうとどうしようと関係なかった。
そんなものはいざとなったら振り切ってしまえばいい。
そう思いながら全力でただただロックウェルの元へと向かう。
そんなクレイをロイドも必死に追いかけていた。
クレイがロックウェルの元に行けば、自分の元にはもう戻ってくれないと心のどこかでわかっていたから────。
***
「ロックウェル!!」
そろそろシリィがクレイに接触した頃かとそう思っていたところで、突如その姿は目の前へと現れた。
会いたくて会いたくて仕方がなかったクレイの姿に、思わず胸が締め付けられるほど気持ちが溢れてたまらなかった。
けれどその体を抱きしめようと思ったところで、急に現れたロイドにその体を勢いよく奪われてしまう。
クレイを思い切り自分の方へと引き寄せてしっかりと腕に抱き、絶対に渡さないとばかりに距離を取られたのだ。
その息は荒く上がっていて、必死に追ってきたのだと言うのがすぐに見て取れた。
「ロイド?」
それにはさすがにクレイも驚いたようで、目を瞠りながらロイドの顔を見つめている。
「はぁっ…、クレイ!罠だ!」
そんな言葉にクレイは不思議そうに首を傾げるが、ロイドはロックウェルを睨み付けるばかり。
「何を言われたのかは知らないが、お前をここにおびき寄せる罠だ!すぐに帰るぞ!」
そんな言葉に戸惑いながらもクレイはチラリと視線を自分へと向けた後、大人しくロイドの言葉に従った。
「…わかった」
たったそれだけの事ではあったが、自分よりもロイドを取ったクレイにショックを受けた。
自分とは違う男の腕の中で、その男の言葉に大人しく頷き、その身を任せる。
それは何よりも許しがたい行動で、絶対に帰したくないと言う気持ちにさせられた。
だからだろうか?気が付けばその呪文を唱えていたのだ。
それにいち早く気付いたクレイが驚きに目を瞠り、ロイドの身体を自分から引き離すようにドンッと突き飛ばした。
「ロイド!お前は今すぐ帰れ!」
その口調の強さに驚いたロイドは一体何がという顔をしたが、クレイは対抗魔法を唱えることもなく、静かに自分の方へと向き合った。
その瞬間、バチィッ!!という甲高い音と共に、呪文がクレイの身体を縛り上げる。
「クレイ!」
慌てて助けようとするロイドに来るなと言って、クレイはそっと自分に向かってその言葉を紡いだ。
「ロックウェル…。お前は本当に…仕方のない奴だ」
その瞳からポロリと一筋の涙がこぼれ落ちる。
それは封印魔法で縛り上げられた痛みではなく、何かを思っての事のように思えた。
「あの時も…そうだったのか?」
苦しげに紡がれたその言葉に思わず呪文を唱えるのを一旦やめて、クレイを見つめてしまう。
「あの…以前の封印も、こうして────お前の中に俺への嫉妬心があったせいで…封印したのか?」
クレイは真っ直ぐに責めるでもなく自分の方を切ない表情で見つめていた。
水晶化の事件で…本当にあの時、犯人だと確信を持っていたのなら捕まえるだけで良かった。
「お前なら…魔法で拘束することだってできただろう?」
それをわざわざ『封印』と言う形を取った自分を、クレイはどうしてなのかと思い続けていたと言う。
何も話さずいきなり封印と言う形を取った自分────。
それは逃げられると思ったからなのか?
信じてくれていなかったからなのか?
そうやって考えてきた答えが、やっと繋がったように思うと涙を流した。
全ては『嫉妬』ゆえの暴走だったのではないかと……。
言われてみれば確かにその通りで、あの時の自分はクレイの力に…クレイの存在そのものに嫉妬していた。
思い通りにならないクレイにイライラし、遠くに居るようなクレイを自分に振り向かせたかった。
だからその答えは概ね間違ってはいないような気がして、耐え切れず思わず胸を押さえて俯いてしまう。
嫉妬は形を変えてどこまでも自分の心を占めていく。
それだけクレイの存在は自分の中で大きなものだった。
「私にここまでさせるお前が…全部悪いんだ」
正直友人の時に抱いていた時の嫉妬よりも、関係を持ってからの今の方がずっと嫉妬が酷い。
独占欲がどこまでも肥大して、自分で自分を抑えきれない。
ここまで自分を追い込んだのは他の誰でもない、クレイだ。
だから思わずそんな言葉が口からこぼれ落ちた。
そんな自分の言葉にクレイがどう返してくるのかを考えるだけで頭がおかしくなりそうだった。
けれどクレイの口から紡がれた言葉はどこまでも予想外で…。
「あの時は…ただただお前の気持ちがわからなくて、裏切られたと思って悲しかった。それでも…今はこうしてお前に…束縛されるのが嬉しいんだ…」
その言葉に思わず顔を上げクレイの方へと視線を向けると、クレイはどこか嬉しそうにしながら困ったように笑っていた。
「お前の嫉妬はどこまでも俺を喜ばせるものでしかない。だから…このままお前の傍に封印されるのなら…本望だ」
それはロイドの傍よりも自分の傍がいいと…そう言ってくれているのと同義だった。
「クレイ!!」
その言葉と同時に解呪し、思わず掻き抱くようにその体を抱きとめる。
こんな自分を…受け入れてくれるというのだろうか?
どこまでも嫉妬に狂っている自分を…。
クレイはそんな自分にただそっと寄り添って大きく息を吐いた。
「お前は本当にわかりにくい…」
そんなクレイを抱きしめて胸がいっぱいになる。
「私はただお前が好きで好きで仕方がないんだ」
正直に自分の心を伝える。
離れて行かれたくない。
他の男の手を取ってほしくない。
ただ…自分の傍にいてほしかった。
「お前をロイドには渡したくない!」
渡すくらいなら自分の部屋に封印して、もう二度と誰にも触れさせたくないとさえ思ってしまった。
それがどこまでも自分の本心だった。
そうやって思い切り抱きしめていると、クレイがそっと息を吐き、ゆっくりとロイドの方へと目を向けた。
「ロイド…悪いが俺はこのままここに残る」
「クレイ…」
「やはりここに居たいと…そう思うから」
その言葉にロイドは複雑そうな顔をしたが、ギュッと拳を握り締め気持ちを飲みこみ、いつもの様に強気な笑みを浮かべた。
「わかった。ライアード様には私の方から伝えておこう」
「…助かる。また連絡するから心配するな」
「…わかった」
そしてロイドが大人しくソレーユへと戻って行ったのを確認すると、クレイはギュッと抱きつきながら切なさを滲ませ、その言葉を紡いだ。
「もう…お前に捨てられたかと思ってた……」
そんな言葉にヒュースの言葉が思い出される。
やはり自己完結で別れたと思い込んでいたのだろう。
「こんなに嫉妬するほど愛しているのに…捨てるはずがないだろう?」
どうやってもクレイを切り捨てることなどできそうにない自分に思わず自嘲してしまう。
「……。お前の嫉妬はひど過ぎる」
確かにそうかもしれない。けれど────。
「…こんなに嫉妬させるお前が悪い」
そう言いながら絡み合う視線は互いに熱くて…、気が付けば引き寄せられるように口づけを交わしていた。
「んっ…はぁっ…」
久方ぶりの口づけは気持ち良すぎて…思わず酔ってしまいそうになる。
どうしてクレイとの口づけはこれほど気持ちいいのだろうか?
その体が、その瞳が、ただただ自分を求めてくれているのを感じて、体が熱くなった。
「クレイ…お前を愛したい」
このひと月ずっと焦がれてやまなかったその身を愛して、しっかりと全身で感じたかった。
それなのにクレイは少し戸惑いながらそのセリフを口にする。
「ロックウェル…待ってくれ…。その…久しぶり過ぎて恥ずかしい…から…後にしないか?」
そんな可愛い断り文句を言われても正直煽られているとしか思えないのだが…。
「それより…今更だが、本当にここに居ていいのか…とか…その…」
そういった事も聞きたいと不安そうに聞いてきたので、安心させるように抱き寄せ経緯を話してやった。
「お前の瞳については陛下とハインツ王子、ルドルフ王子、ショーンの四人以外に知るのは私とシリィだけだ。その上で陛下と交渉して、王位継承権をお前が放棄すると一言言えば信用すると言ってもらえた」
だから安心していいと伝えるが、クレイは憂うようにため息を吐く。
「…そんなこと…わざわざ言わなくても元々興味はないのに…」
「まあけじめのようなものだと思ってくれればいい」
「……それはどうしても必要なことなのか?」
できれば紫の瞳の事は勘違いだと言うことにして、ただの黒魔道士として認識してもらいたいのだとクレイは口にするが、それは難しいだろうと思えた。
「俺はお前の傍に居られたらそれでいいのに…」
そうやって肩を落としながら自分を想ってくれる言葉が嬉しくて仕方がない。
どうしてクレイはこれほど人の心を擽ってくるのだろう?
「クレイ…やっぱり…」
今すぐ抱かせてくれとそっと甘くその唇を塞ごうとしたところで、突然邪魔者が部屋へと飛び込んできた。
「はいはい!ロックウェルが手を出す前に迎えに来ました~!」
「ショーン?!」
「始まると謁見が明日になってしまうと思って♪」
その言葉に外で聞いていたのかとクレイが真っ赤になる。その表情はどこまでこの関係を知っているんだと言わんばかりだ。
「勿論謁見にはロックウェルも同席するから、身の安全は保障されていますよ。クレイ様?」
「…クレイでいい。わざわざわざとらしく敬称をつけるな」
そんなクレイにショーンがしてやったりと笑みをこぼす。
「…そのままのお前で堂々と物申せばいいから、とりあえず表情は引き締めて謁見に望んでくれ」
ロックウェルとの再会が嬉しいのもわかるが、色気ダダ漏れはよろしくないとからかわれ、クレイは憤慨しながら立ち上がった。
「場所はどこだ?!」
「ではご案内を」
どこかおどけたように言うショーンにいつものように不遜な態度に戻ったクレイが続く。
ロックウェルはそんな二人に軽くため息を吐くと、自分もゆっくりと後を追った。
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