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第一部 アストラス編~王の落胤~
121.安堵の涙
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「おお怖ッ…!」
かつてこれ程恐ろしいクレイを見たことがないとばかりにショーンがそっと腕をさする。
魔力剥奪魔法を使えるクレイに挑むなど、命知らずもいいところだ。
しかも一番大事なロックウェルを狙うなど正気の沙汰ではない。
呆然とへたり込むアベルと、半狂乱で叫ぶフローリアを前にロイドはシュバルツへとご褒美のキスだと言って魔力交流を試みる始末。
最早カオス状態だ。
いくらロイドの結界があるとは言え、一体何がと徐々に注目が集まっている。
速やかに収拾をつけなければ……。
「シリィ!第一部隊と連携!ここは任せる!」
「はい!」
「リーネ!姫を別室へ!俺はアベル王子を連れて行く。ロイド!いつまでも遊んでないでシュバルツ殿をお連れしてくれ!」
そんな言葉に皆が頷き素早く動く。
「安心しろ。私が脱出できないよう結界で閉じ込めてやる」
部屋に強力な結界を張ればそれは牢屋と大して変わらない。
ロイドの申し出は非常に有難いものだった。
「助かる」
「ああ。シュバルツ、お前はこいつらと一緒がいいか?それとも…」
「ロイドと居たい…」
「そうか。そう言うことなら少しくらいは可愛がってやろう」
クッと笑うロイドにシュバルツは何故か夢中のようだ。
「なんだ。クレイを諦める気になったのか?」
それならそれで安心だとホッと息を吐くショーンに、ロイドがそんなわけがないだろうと妖しく笑う。
「できればシュバルツも今夜のカードゲームに混ぜたいと思ってな。それならそれで少し話しておきたい」
「ええっ?!まだやるの?!」
リーネが呆れたように言うが、当然だとロイドは返した。
「クレイは三日間と言っただろう?今日は打ち上げだ」
「え?でもさすがに……」
「クレイがロックウェルと居たいと言い出したらあの男も参加させればいいだろう?それこそ嫌がらせができて万々歳だ」
クレイを取られて気に入らないとばかりに吐き捨てるロイドに、リーネだけではなくショーンもやれやれとため息を吐く。
「本当にお前はクレイが好きだな」
「当然だ。どうして大人しく諦めないといけないんだ…!」
そうしてロイドは使い魔に伝言を頼むとさっさと結界でアベル達を閉じ込め、シュバルツを連れて下がっていった。
***
「ヒュース…ロックウェルはどうだ?」
ロックウェルの部屋へとやってきたクレイがそっと声を掛けると、ヒュースはすぐさま問題ないと答えてくれた。
「そうか…良かった…」
そしてそっと眠るロックウェルの傍へと歩み寄り、その綺麗な銀の髪をサラリと撫で上げる。
「う…ッ…。ふぅ…うぅ…」
やっとの思いで取り戻した恋人に安堵して、クレイは涙が止められなかった。
【クレイ様…】
「ロックウェル…ッ」
これまで見たことがないほど涙を流して泣くクレイに、眷属達がそっと寄り添い慰める。
【クレイ様。もう大丈夫です】
【そうですよ。お助けできたのですし、どうぞご安心ください】
「うっ…ッく…」
そうして暫く泣き続けたクレイの元へロイドの使い魔がやってくる。
『クレイ、どうせ安心して泣いている頃だろう?落ち着いたら今夜はロックウェルと一緒にこちらへ来い。皆で祝勝会をするからな。待ってる』
そんな伝言を受けて、クレイが泣き笑いの表情を浮かべた。
「本当にあいつは…なんでもお見通しだな」
今回の件ではロイドに山程世話になった。
さすがにこれを断るわけにもいかないだろう。
「ロックウェルも一緒にって言ってくれているし……な」
この辺りが気配りができていて凄いなと思った。
今自分がロックウェルと離れたくないのをよくわかってくれているのだ。
「本当に…ロイドはいい男だな」
そして自分の使い魔に喜んで参加させてもらうとだけ伝えてもらい、再度そっとロックウェルへと向き直った。
「ロックウェル…それでも俺にはお前だけだ…」
チュッと軽く唇に口づけを落としてそっと立ち上がり、ヒュースへと告げる。
「ヒュース。後始末もあるから少しお前にこの場は任せる。ロックウェルの目が覚めたら教えてくれ」
【かしこまりました】
そんな言葉を背に、クレイはそっと部屋から出ていった。
(さあ…気は乗らないが、トルテッティの件を王には報告しておかないとな……)
そんな風に思いながら────。
***
ロックウェルが目を覚ますとそこは自室だった。
いまいち頭がはっきりしないが、一体何があったのだろう?
そう思っていると、徐にヒュースから話しかけられた。
【お目覚めでございますか?】
「ヒュースか…」
【はい。この度はとんだ災難でございましたね】
そうは言われても頭がぼんやりしていて状況を把握できない。
そんな自分にヒュースがため息を吐いた。
【…ロックウェル様。記憶を辿ろうとされても無駄でございます。どこまで記憶操作なさったのかまでは私にはわかりかねますが、クレイ様はそのままではロックウェル様のお心が壊れるからと、今回の件に関して記憶を消されたご様子ですので】
「なっ…?!」
そんな言葉に慌てて体を起こす。
一体本当に何があったというのかと尋ねる自分に、ヒュースがここからは独断で話させてもらうと言い詳細を騙ってくれた。
トルテッティの罠にかかった自分。
ショックを受けたクレイを支え、手助けをしつつクレイを落とそうと企んだロイド。
その全ての内容を耳にするだけで正直ショックだった。
けれど────。
【私はですね、クレイ様のお気持ちもよくわかりますし、ロックウェル様のお心が壊れてしまうのは確かに嫌でございます。ただ、のほほんとそれに甘えてもらってはこの後ロイドからそこを弱点とばかりに攻めてこられる可能性が高くなり、結果的にクレイ様だけが傷つくと判断させていただきました】
嫉妬に狂った自分に責められ、仕方がないのだとクレイが受け入れまた心が悲鳴を上げる。
それは眷属としては許せないのだとヒュースが言った。
【今回の件を忘れてくださるのは構いませんが、状況は知っていてほしい。ただそれだけでございます】
そんなヒュースの言葉を噛みしめて、ロックウェルは真剣に思いを巡らせる。
今回ロイドの貢献で助かったのは事実だが、それを起点にクレイを奪おうとしてこられたのは不快でしかない。
今の話だけでも十分ショックではあったが、ヒュースの気持ちもよくわかるつもりだ。
知っているのと知らないのとでは大きな違いだろう。
「…わかった。ただ、願いがある」
【願い…でございますか?】
「ああ。記憶を戻せとは言わない」
心が壊れるというほどの記憶なら、それはそうなのだろう。
けれど、それを踏まえた上で映像を見せてもらうということならワンクッションある分少しはマシなはずだ。
「ちゃんと回復魔法なり精神安定なりの魔法を掛けるから、これまでの事をお前の記憶からでもいいから見せてほしい」
【ロックウェル様…】
「…お前の言うように知っている方がいいと私も思うしな」
そんな言葉にヒュースは満足げに微笑んだ。
【そのご立派な姿勢に感謝いたします】
そう言うことならと言って、ヒュースはそっと頭を差し出し記憶を見せてくれる。
それはとても酷いもので、確かにリアルタイムであれば心が壊れてしまうだろうと素直に思った。
それを見ると同時に約束通り自分に魔法を掛けて精神を安定させる。
【誤解のないようクレイ様側の記憶もお見せいたしましょうね】
そう言ってクレイの眷属のコートを呼び寄せてくれ、同じように記憶を見せてもらえた。
それは見ただけでクレイの慟哭が聞こえてくるようで、ひどく胸が締め付けられてしまった。
これは確かに眷属達がロイドを一概に遠ざけられないわけだ。
ロイドがいなければクレイは壊れてしまっていただろう。
明らかに情緒不安定で、正常な判断能力が低下してしまっている。
シリィが時折魔法で手助けしてくれているのが非常に有難かった。
そうやって皆に支えてもらいながら自分を助けてくれたのに、それを自分には語らず忘れてしまえと言ってくれたクレイに苦しいほどに愛しさが募る。
【ロックウェル様…】
「わかっている」
そう言って再度精神を安定させて、この魔法こそ今のクレイに必要なものだろうと思った。
「私は白魔道士だ。償いも込めて全力でクレイを癒したい…」
【お頼み申します】
眷属達は満足げに微笑みを浮かべると、そっと下がりながらクレイを呼んでくると言ってくれた。
「ロックウェル!」
自分の元へと飛び込んできたクレイの顔を見て、どれだけ心配を掛けたのかを一瞬で実感する。
「クレイ」
「うっ…」
嗚咽を漏らしながら縋りつくように抱きついてきたクレイを抱きしめてそっと幸せを感じたが、その首につけられたキスマークがなんとも腹立たしい。
これだけは後で何とかしてやりたいものだ。
「クレイ…泣くな。もう大丈夫だから」
「ロックウェル…」
泣き濡れるクレイをそっと腕に抱いて精神安定の魔法を掛けてやると、ホッと肩の力が抜けたようでクタリと身を預けてくれた。
「ん…」
そっと頬を染めて口づけを受け入れてくれるクレイを堪能しながらそっとその身を包み込み、甘く声を掛ける。
「事情は軽くヒュースから聞いたが、ロイドには礼をしたいところだな」
「ロックウェル…」
「ずいぶん世話になったんだろう?」
けれどその言葉にクレイは素直に頷きつつも申し訳なさそうに言いよどんだ。
「…そのことなんだが、実はお前に謝らないといけないことがあって…」
「なんだ?」
「その…お前がいない間にロイドと寝てたんだが…」
「……」
どうしてクレイはこんなに言葉のチョイスがおかしいのだろうか?
先程ヒュースやコートから記憶を見せてもらったからこそ何もなかったことを知っているし、本当に添い寝してもらっただけだとわかるが、何も知らなかったら寝た=浮気したとしか受け取れないのだが…。
思わず笑顔で固まった自分にクレイが物凄く言い難そうに先を続ける。
「その…朝寝ぼけてキスマークをつけられて…」
どうやらその目立つキスマークの数々はどうあっても隠せないから白状すると言う流れだったらしい。
「悪かった!」
思い切って頭を下げたクレイには申し訳ないが、その行為は嫉妬を煽る行為以外の何物でもない。
「クレイ?今のセリフは浮気したと言っているようなものだぞ?」
だからこそそう忠告してやったのに、当の本人は何故そうなると言わんばかりに蒼白になった。
「え?違う!浮気はしていない!」
「こんなにキスマークをつけられて?」
「だから寝ぼけてたし、吹っ飛ばすわけにもいかなくて…!」
「押し退けたらいいだろう?」
「だって圧し掛かられてまさぐられてたし…!」
「…ほぅ?それは聞き捨てならないな?」
「あっ…!」
ドサッと寝台へと押し倒しそのままニッと笑ってやると、クレイは目を瞠った後どこか嬉しそうに笑った。
「あ…ロックウェル…」
その表情を受けてシリィ達との会話を思い出す。
そう言えば嫉妬でドSになる自分が好きだと言っていたような気がする。
(本当に可愛い奴だな…)
やはりフローリアなど比較にもならない。
これほど自分を楽しませてくれる相手など他にはいないだろう。
「クレイ…?ロイドに礼を言いに行く前に、お前にはたっぷりと自分が誰のものなのか思い出させてやるからな?」
そんな台詞と共に襲い掛かった自分をクレイがギュッと抱き込んだのを合図に、久方ぶりの甘い時間が始まりを告げた。
かつてこれ程恐ろしいクレイを見たことがないとばかりにショーンがそっと腕をさする。
魔力剥奪魔法を使えるクレイに挑むなど、命知らずもいいところだ。
しかも一番大事なロックウェルを狙うなど正気の沙汰ではない。
呆然とへたり込むアベルと、半狂乱で叫ぶフローリアを前にロイドはシュバルツへとご褒美のキスだと言って魔力交流を試みる始末。
最早カオス状態だ。
いくらロイドの結界があるとは言え、一体何がと徐々に注目が集まっている。
速やかに収拾をつけなければ……。
「シリィ!第一部隊と連携!ここは任せる!」
「はい!」
「リーネ!姫を別室へ!俺はアベル王子を連れて行く。ロイド!いつまでも遊んでないでシュバルツ殿をお連れしてくれ!」
そんな言葉に皆が頷き素早く動く。
「安心しろ。私が脱出できないよう結界で閉じ込めてやる」
部屋に強力な結界を張ればそれは牢屋と大して変わらない。
ロイドの申し出は非常に有難いものだった。
「助かる」
「ああ。シュバルツ、お前はこいつらと一緒がいいか?それとも…」
「ロイドと居たい…」
「そうか。そう言うことなら少しくらいは可愛がってやろう」
クッと笑うロイドにシュバルツは何故か夢中のようだ。
「なんだ。クレイを諦める気になったのか?」
それならそれで安心だとホッと息を吐くショーンに、ロイドがそんなわけがないだろうと妖しく笑う。
「できればシュバルツも今夜のカードゲームに混ぜたいと思ってな。それならそれで少し話しておきたい」
「ええっ?!まだやるの?!」
リーネが呆れたように言うが、当然だとロイドは返した。
「クレイは三日間と言っただろう?今日は打ち上げだ」
「え?でもさすがに……」
「クレイがロックウェルと居たいと言い出したらあの男も参加させればいいだろう?それこそ嫌がらせができて万々歳だ」
クレイを取られて気に入らないとばかりに吐き捨てるロイドに、リーネだけではなくショーンもやれやれとため息を吐く。
「本当にお前はクレイが好きだな」
「当然だ。どうして大人しく諦めないといけないんだ…!」
そうしてロイドは使い魔に伝言を頼むとさっさと結界でアベル達を閉じ込め、シュバルツを連れて下がっていった。
***
「ヒュース…ロックウェルはどうだ?」
ロックウェルの部屋へとやってきたクレイがそっと声を掛けると、ヒュースはすぐさま問題ないと答えてくれた。
「そうか…良かった…」
そしてそっと眠るロックウェルの傍へと歩み寄り、その綺麗な銀の髪をサラリと撫で上げる。
「う…ッ…。ふぅ…うぅ…」
やっとの思いで取り戻した恋人に安堵して、クレイは涙が止められなかった。
【クレイ様…】
「ロックウェル…ッ」
これまで見たことがないほど涙を流して泣くクレイに、眷属達がそっと寄り添い慰める。
【クレイ様。もう大丈夫です】
【そうですよ。お助けできたのですし、どうぞご安心ください】
「うっ…ッく…」
そうして暫く泣き続けたクレイの元へロイドの使い魔がやってくる。
『クレイ、どうせ安心して泣いている頃だろう?落ち着いたら今夜はロックウェルと一緒にこちらへ来い。皆で祝勝会をするからな。待ってる』
そんな伝言を受けて、クレイが泣き笑いの表情を浮かべた。
「本当にあいつは…なんでもお見通しだな」
今回の件ではロイドに山程世話になった。
さすがにこれを断るわけにもいかないだろう。
「ロックウェルも一緒にって言ってくれているし……な」
この辺りが気配りができていて凄いなと思った。
今自分がロックウェルと離れたくないのをよくわかってくれているのだ。
「本当に…ロイドはいい男だな」
そして自分の使い魔に喜んで参加させてもらうとだけ伝えてもらい、再度そっとロックウェルへと向き直った。
「ロックウェル…それでも俺にはお前だけだ…」
チュッと軽く唇に口づけを落としてそっと立ち上がり、ヒュースへと告げる。
「ヒュース。後始末もあるから少しお前にこの場は任せる。ロックウェルの目が覚めたら教えてくれ」
【かしこまりました】
そんな言葉を背に、クレイはそっと部屋から出ていった。
(さあ…気は乗らないが、トルテッティの件を王には報告しておかないとな……)
そんな風に思いながら────。
***
ロックウェルが目を覚ますとそこは自室だった。
いまいち頭がはっきりしないが、一体何があったのだろう?
そう思っていると、徐にヒュースから話しかけられた。
【お目覚めでございますか?】
「ヒュースか…」
【はい。この度はとんだ災難でございましたね】
そうは言われても頭がぼんやりしていて状況を把握できない。
そんな自分にヒュースがため息を吐いた。
【…ロックウェル様。記憶を辿ろうとされても無駄でございます。どこまで記憶操作なさったのかまでは私にはわかりかねますが、クレイ様はそのままではロックウェル様のお心が壊れるからと、今回の件に関して記憶を消されたご様子ですので】
「なっ…?!」
そんな言葉に慌てて体を起こす。
一体本当に何があったというのかと尋ねる自分に、ヒュースがここからは独断で話させてもらうと言い詳細を騙ってくれた。
トルテッティの罠にかかった自分。
ショックを受けたクレイを支え、手助けをしつつクレイを落とそうと企んだロイド。
その全ての内容を耳にするだけで正直ショックだった。
けれど────。
【私はですね、クレイ様のお気持ちもよくわかりますし、ロックウェル様のお心が壊れてしまうのは確かに嫌でございます。ただ、のほほんとそれに甘えてもらってはこの後ロイドからそこを弱点とばかりに攻めてこられる可能性が高くなり、結果的にクレイ様だけが傷つくと判断させていただきました】
嫉妬に狂った自分に責められ、仕方がないのだとクレイが受け入れまた心が悲鳴を上げる。
それは眷属としては許せないのだとヒュースが言った。
【今回の件を忘れてくださるのは構いませんが、状況は知っていてほしい。ただそれだけでございます】
そんなヒュースの言葉を噛みしめて、ロックウェルは真剣に思いを巡らせる。
今回ロイドの貢献で助かったのは事実だが、それを起点にクレイを奪おうとしてこられたのは不快でしかない。
今の話だけでも十分ショックではあったが、ヒュースの気持ちもよくわかるつもりだ。
知っているのと知らないのとでは大きな違いだろう。
「…わかった。ただ、願いがある」
【願い…でございますか?】
「ああ。記憶を戻せとは言わない」
心が壊れるというほどの記憶なら、それはそうなのだろう。
けれど、それを踏まえた上で映像を見せてもらうということならワンクッションある分少しはマシなはずだ。
「ちゃんと回復魔法なり精神安定なりの魔法を掛けるから、これまでの事をお前の記憶からでもいいから見せてほしい」
【ロックウェル様…】
「…お前の言うように知っている方がいいと私も思うしな」
そんな言葉にヒュースは満足げに微笑んだ。
【そのご立派な姿勢に感謝いたします】
そう言うことならと言って、ヒュースはそっと頭を差し出し記憶を見せてくれる。
それはとても酷いもので、確かにリアルタイムであれば心が壊れてしまうだろうと素直に思った。
それを見ると同時に約束通り自分に魔法を掛けて精神を安定させる。
【誤解のないようクレイ様側の記憶もお見せいたしましょうね】
そう言ってクレイの眷属のコートを呼び寄せてくれ、同じように記憶を見せてもらえた。
それは見ただけでクレイの慟哭が聞こえてくるようで、ひどく胸が締め付けられてしまった。
これは確かに眷属達がロイドを一概に遠ざけられないわけだ。
ロイドがいなければクレイは壊れてしまっていただろう。
明らかに情緒不安定で、正常な判断能力が低下してしまっている。
シリィが時折魔法で手助けしてくれているのが非常に有難かった。
そうやって皆に支えてもらいながら自分を助けてくれたのに、それを自分には語らず忘れてしまえと言ってくれたクレイに苦しいほどに愛しさが募る。
【ロックウェル様…】
「わかっている」
そう言って再度精神を安定させて、この魔法こそ今のクレイに必要なものだろうと思った。
「私は白魔道士だ。償いも込めて全力でクレイを癒したい…」
【お頼み申します】
眷属達は満足げに微笑みを浮かべると、そっと下がりながらクレイを呼んでくると言ってくれた。
「ロックウェル!」
自分の元へと飛び込んできたクレイの顔を見て、どれだけ心配を掛けたのかを一瞬で実感する。
「クレイ」
「うっ…」
嗚咽を漏らしながら縋りつくように抱きついてきたクレイを抱きしめてそっと幸せを感じたが、その首につけられたキスマークがなんとも腹立たしい。
これだけは後で何とかしてやりたいものだ。
「クレイ…泣くな。もう大丈夫だから」
「ロックウェル…」
泣き濡れるクレイをそっと腕に抱いて精神安定の魔法を掛けてやると、ホッと肩の力が抜けたようでクタリと身を預けてくれた。
「ん…」
そっと頬を染めて口づけを受け入れてくれるクレイを堪能しながらそっとその身を包み込み、甘く声を掛ける。
「事情は軽くヒュースから聞いたが、ロイドには礼をしたいところだな」
「ロックウェル…」
「ずいぶん世話になったんだろう?」
けれどその言葉にクレイは素直に頷きつつも申し訳なさそうに言いよどんだ。
「…そのことなんだが、実はお前に謝らないといけないことがあって…」
「なんだ?」
「その…お前がいない間にロイドと寝てたんだが…」
「……」
どうしてクレイはこんなに言葉のチョイスがおかしいのだろうか?
先程ヒュースやコートから記憶を見せてもらったからこそ何もなかったことを知っているし、本当に添い寝してもらっただけだとわかるが、何も知らなかったら寝た=浮気したとしか受け取れないのだが…。
思わず笑顔で固まった自分にクレイが物凄く言い難そうに先を続ける。
「その…朝寝ぼけてキスマークをつけられて…」
どうやらその目立つキスマークの数々はどうあっても隠せないから白状すると言う流れだったらしい。
「悪かった!」
思い切って頭を下げたクレイには申し訳ないが、その行為は嫉妬を煽る行為以外の何物でもない。
「クレイ?今のセリフは浮気したと言っているようなものだぞ?」
だからこそそう忠告してやったのに、当の本人は何故そうなると言わんばかりに蒼白になった。
「え?違う!浮気はしていない!」
「こんなにキスマークをつけられて?」
「だから寝ぼけてたし、吹っ飛ばすわけにもいかなくて…!」
「押し退けたらいいだろう?」
「だって圧し掛かられてまさぐられてたし…!」
「…ほぅ?それは聞き捨てならないな?」
「あっ…!」
ドサッと寝台へと押し倒しそのままニッと笑ってやると、クレイは目を瞠った後どこか嬉しそうに笑った。
「あ…ロックウェル…」
その表情を受けてシリィ達との会話を思い出す。
そう言えば嫉妬でドSになる自分が好きだと言っていたような気がする。
(本当に可愛い奴だな…)
やはりフローリアなど比較にもならない。
これほど自分を楽しませてくれる相手など他にはいないだろう。
「クレイ…?ロイドに礼を言いに行く前に、お前にはたっぷりと自分が誰のものなのか思い出させてやるからな?」
そんな台詞と共に襲い掛かった自分をクレイがギュッと抱き込んだのを合図に、久方ぶりの甘い時間が始まりを告げた。
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