黒衣の魔道士

オレンジペコ

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第二部番外編 シュバルツ×ロイドの恋模様

3.※嫉妬~後日談~

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※このお話は、第二部『21.相談』とリンクしています。

────────────────

恋人からふわりと香る女性の香り────。
それは自分がよく知るシリィのものではなく、大人の女性の香りだった。



「ロイド。今日誰かと寝た?」

ソファで寛ぐロイドにさりげなく寄り添いながら魔道書を開き何気ない風を装ってそう尋ねると、尋ねられた本人はあっさりと『寝たぞ』と答えてくる。
先日の一件から数日後唐突に知らされたのだが、どうもロイドはライアードに寄ってくる女性を追い払うため仕事としてたまに彼女達と寝ることがあるらしい。
シリィとの結婚式も控えているこの時期に、第二妃に是非とにじり寄ってくる女性がいるとは驚きだ。
一人娶るのも二人娶るのも一緒だとでも思っているのかもしれない。

(シリィの方も複雑だろうな……)

とは言え自分だって最初から素直にそうかと納得して言えたわけではない。
いくらなんでもそこらへんは恋人がいれば断るなりなんなり別な手段をとれないものなのだろうか?
そう思って口にすると、本人からは黒魔道士と付き合ってるんだからそこは割り切れと言われ、クレイやリーネにも相談したら普通によくあることだと言われてしまった。
流しの黒魔道士ならまだしも、ロイドのようなお抱え魔道士の場合主人の命令は絶対だからそこに私情は挟めないらしい。
仕事の一端だと言われてしまえば自分には何も口を挟むことができない。

(ロイドは私だけのものじゃない……)

それはわかっているが、少しくらい申し訳ないような態度でいてくれてもいいのではないかと思い、そっとそれを言ってみた。

「浮気とまでは言わないけど、少しくらい気を遣って隠すとかしてくれたらいいのに……」

けれど返ってきたのは本当にどうでも良さそうな口調でしかない。

「魔力も持たない相手と寝ても何も楽しいことはないだろう?本当にただの仕事の一端だ。疚しいことなんてないんだから隠すほどのものでもない」
「……そうかもしれないけど」

やはりと言うかなんと言うか、自分の不満は全くロイドには分かってもらえない。
けれど何気なく続けられた言葉に思わず目を瞠る。

「寝るだけなら誰とでもできるが、今私を満足させられるのはお前だけだ。それすらわからないのならお子様返上なんて夢のまた夢だな」

あまりにもサラリと告げられて思わず聞き流しそうになったのだが、その言葉を反芻して思わず赤くなってしまった。

(狡い…!)

本当に自分はロイドを満足させられているのだろうか?
もしそれが本当ならすごく嬉しいのだが……。
いつもリードしてもらっているだけにそこは不安に思っていたのだが、この分なら少しくらい自惚れても良さそうな気がしてきた。

(もっとちゃんと言ってくれればいいのに……)

そう思いながら頬を染めていたのだが、ロイドは無意識にその言葉を言っていたのか不思議そうに首を傾げるばかり。

「どうかしたのか?」
「……なんでもない」
「お子様と言われて怒ったのか?」

そうやって意地悪そうに笑うロイドはいつも通りでカッコいいが、今の心境からいくと言われた言葉に怒ると言うよりも押し倒したい気持ちの方が大きくて────。

「ロイド……」

気付けばそう言いながら魔力を交流させて押し倒していた。

「なんだ。嫉妬の方か?本当にお前はお子様だな」

そう言いながらもロイドはあっさりと自分を受け入れてくれる。
ここに来た最初の頃の戸惑いなど最早一つもない。
ロイドはいつだって駆け引きを楽しみたいだけで、一方的に拒否してくることなんてないのだ。
たまに逃げられることもあるが、それにだってちゃんと理由がある。
どんなに言葉が意地悪でも、どんなにからかってきていても…そこにあるのはほとんどが言葉遊び。
今なら、こういったものは黒魔道士の遊びだと言っていたクレイ達の気持ちがよくわかる。

「ロイド…今日は沢山気持ち良くしてあげるから、思い切り犯してもいい?」
「……まあ明日はそれほど朝も早くないから、回復魔法をちゃんとかけてくれるなら考えなくはない」

実に素っ気なく答えをくれるが、そんな言葉に嬉しい気持ちが込み上げる。
────これは了承だ。
態度に現れていなくても、ロイドはいつだって言葉の中に本音を隠している。
今回の件は渋々ではなく、寧ろ乗り気の方と言えるだろう。
それがわかるくらいには最近ロイドに近づけた気がする。

「ロイドが甘えてくれるくらい頑張るから!」

だからそう言ったのに、ロイドはその言葉には物凄く嫌そうに顔を顰めた。

「私がお前に甘えるなんてするはずがないだろう?そう言うセリフはお子様を返上してから言うんだな」

そうは言うが、絶対に希望はあるはずだ。

(だって可愛いし……)

その点においてはライアードとクレイも認めている。

────『ロイドは本当に可愛い奴だ』って。

最初はこの二人は目がおかしいんじゃないかと思ったものだが、閨でのロイドは本当に可愛いと思うから…きっと彼らのその意見も正しいのだろう。

(普段のロイドの可愛いさもそのうちわかるようになるといいな……)

今はまだカッコいいところしかわからないけれど、これからもいろんなロイドを知っていきたい。
そう思ってこの日の夜はあれこれ試しながら抱いたのだが……。




「うっ…うぅ…」

これまで試したことがなかった体位で、よくわからぬままに突き上げたところで泣かれてしまった。
余程屈辱的だったのか、ロイドはふるふると身を震わせてしまっている。

「ロイド…大丈夫か?」
「煩い…!」

強がってはいるが、どう見ても感じすぎて辛そうだ。
それ以上動くなと言い置かれているので動くに動けないし、どう言葉を掛ければいいのかわからない。

(ど…どうすれば……?)

そう思っていると物凄く複雑そうな顔で『目と耳を塞いで犯してこい』と言う実に難しい注文が来た。

(いや。それは…無理だと思うんだけど……?)

多分この態度から察するに、これまでの行為の中でも断トツに感じる体位だったのだろうことがわかる。
これで攻めまくったら絶対にこれまで見たことがないほどの乱れる様が見られるはず……。
耳を塞げと言うことから、恐らく声が我慢できないほどに気持ちがいいのだろう。

(どうしよう…。物凄く見たい……)

そう思ったら知らず腰が動いてしまっていた。

「ひっ…!あっ…やめっ……!」
「ごめん、ロイド。ちゃんと責任はとるから」
「やっ!あぁああッ!あっあぁ…んんッ!ひぁっ…ッあう…!」

意識が半分飛びそうになっているロイドが敷き布を握りしめてジワリと涙をこぼすのが可愛くて仕方がない。
抉るように突き上げる度にロイドの身体が跳ね、嬌声が口からとめどなく飛び出していく。

「ロイド…摑まっていいから」

そう言ってもロイドは頑なにふるふると首を横に振る。
こんなに感じているくせにどこまでプライドが高いのか。
一体どう言えば甘えてもらえるのだろう?
クレイだったらこういう時どうする?
不本意だが、そうやって黒魔道士の観点から模索してみると一つの結論が出た。

「ロイド…摑まっている方が感じている顔が私に見られなくていいんじゃないか?」

その言葉は確かにロイドの耳に届き心を揺さぶったようで、そのまま縋るように腕を回してきた。

「うっ…シュバルツ…それ、ダメ……」

可愛い…。可愛い、可愛い、可愛い…!!
たまらなく可愛さが込み上げてきて、抱き潰したくなってしまう。

「ふぁッ…!気持ち良すぎてダメ…だ…。溺れる…!」

抱きついたせいかお互い顔が見えない分、ロイドの口からいつもより素直に溢される言葉が愛おしい。

「うん。大丈夫だから…そのまま気持ち良くなって…」
「んあぁああッ!」
「ロイド…好きだよ。どんなロイドも好き。大好き……」

そうやって安心させるように優しく口にしながらも突き上げるのはやめてやらない。
だって本当にこの腕の中で身悶えるロイドが好きだから。
フローリアはじめ、これまで抱いてきた女達相手にこんな気持ちになったことなんて一度もない。
それなりにお互い気持ち良くなれればそれで良かった。
それがセックスだと思っていた。
けれどロイドと寝て、それは本当に子供のお遊びにすぎなかったのだと実感した。
ロイドとの交わりは本当に大人のセックスだった。
あんなお遊びじゃなく、本当に身も心も満たされるような気持ちのいいものでしかなかった。
それでセックスを知ったつもりになっていたけれど────。

(ああ…知らなかったな)

本当に好きな人とするものはもっともっと奥の深いものだったのだ。
相手の一挙手一投足を見ながら、快楽に導いていくのはなんと幸せな時間なのだろう?
もっともっと気持ち良くなってほしい。これは初めて寝た時から思っていたこと。
もっともっと色んな表情を見せてほしい。これもそうだ。
もっともっと可愛い声を聞かせてほしい。これも…。
けれど欲はどんどん深くなっていく。
自分に溺れて、どこまでもその表情を蕩けさせてほしい────その一言に尽きる。
そしてそれを見ることができたなら、これまで以上の多幸感が自分を包み込み更に身も心も気持ちよくさせていく。

「ロイド…愛してる」

だから気づけばそんな言葉が自然と口から飛び出していた。
多分もうすっかり理性を飛ばしてしまったロイドにはその言葉は届いていないだろうけど……。


***


「屈辱だ!」

朝起きた時ロイドはまだ自分の腕の中で眠っていて、どこかあどけないような顔が可愛く思えてそのままそっと見遣っていたのだが、サラリと髪を撫でたところで「んっ」と呻きを上げて、起きたのかなと思っていたらそのまますり寄るように胸に顔を寄せてきた。
そんな仕草が可愛すぎて、思わずポツリと『可愛すぎる…』と呟いたのが悪かった。
次の瞬間バチッと目が覚めたかと思うと、そのまま勢いよく飛び起きてしまう。
その表情はしまったと言わんばかりだ。
そして…照れ隠しの第一声がその言葉だった。
実にロイドらしい。

(これがクレイだったら違ったんだろうな~)

そうは思うが比べるだけ無駄だろう。
自分とクレイの差はまだまだ大きいのだから。

「おはよう、ロイド」

そうやってにこやかに朝の挨拶をすると、バツが悪そうに小さくおはようと言ってくる。
身体は大丈夫そうだが、仕事に支障をきたしてまた怒られるのも嫌なのでそのまま回復魔法を掛けてあげた。
当然だがここで昨夜の件に触れるのは藪蛇だから絶対に触れない。
触れたが最後、二度とするなと言われるのがオチだからだ。
それなら口にせずにたまに閨で挑戦する方がずっといいだろう。
理性を飛ばしたロイドを見られるチャンスは今のところあれくらいしかないのだから────。
嬌声を上げて乱れまくって色香を振り撒く姿はたまらなく扇情的だった。

(凄く可愛かったんだよな…)

是非また見せてもらいたいものだ。

「ロイド。今日は一緒に魔法の研究をしてもいいか?」

だからさっさと別な話題に変えてしまう。

「……ああ。今日はライアード様もデスクワークだし、結界を張って眷属に守らせれば特に危険もないしな」

魔法研究の時間は普通に取れると言われ嬉しくなる。
つくづく趣味が同じで良かった。
そうして楽しげに微笑んでいると、ロイドにため息を吐かれた。

「なんだかやっとお前らしくなってきたな」

それは一体どういう意味なのか?
そう思って首を傾げていると、最初に会った時の事を口にされた。
どうやら、口調は丁寧なのに性格の悪そうな奴だなと思ったらしい。

「あの時は敵だったから何とも思わなかったが…小生意気な奴を従順にするのはなかなか楽しいからな。私に惚れるのは勝手だが、従順なばかりも面白くない。お前はお前らしくここで過ごせ」

どうやら本来の自分を出しても受け入れてやる…ということのようで────。

「ロイド…朝から襲われたいのか?」

あまりの嬉しさにそんな言葉が口を突いて出るほど頬が緩むのを感じてしまった。
好きだから良い面を見せたいし、嫌われたくないから顔色を窺う。
弱いところは見せられても嫌な面は隠しておきたい。
そんな自分に全部見せてみろと言わんばかりのそのセリフは反則ものだ。

「私は可愛いだけの小犬より、爪を隠している鷹の方が好みだ」

黙って襲われるわけがないだろうとサラリと流しつつ、そんなセリフを吐いて今日もロイドは楽しげにクッと笑って部屋を出る。
その表情からは昨夜の面影も今朝の可愛さも見当たらない。
けれど確かにあれもロイドの一部なのだ。

(ああ、そうか)

きっとアレを見せたことで自分だけが弱みを見せたようで気に入らなかったのだろう。

「ふはっ…!」

本当にロイドはどこまでもギブアンドテイクな性格をしていると思う。
思わず笑ってしまうくらい負けず嫌いな誰よりも愛しい恋人────。
ロイドはきっとどんな自分も嫌いになったりしないだろう。
言葉の端々にそんな思いが感じられる。
先日のクレイとのやり取りもやっと理解できたような気がした。
ペットのたとえ話と言ってはいたが、恐らく本当に傍に居ていいと思ってくれているのだろう。

「やっぱり…勝てないな」

ロイドをどこまでも理解しているクレイには当分勝てそうにない。
けれどどうせ先に惚れた方が負けなのだ。
ロイドを捕まえておくのはクレイではなく自分だ。

────好き…。

そんな思いを胸に、今日もシュバルツは笑顔で愛しいロイドの後を追い掛けたのだった。



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