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第三部 アストラス編~竜の血脈~
28.来訪者
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「ここがアストラスで一番大きい街、王都か~」
アキは王が同伴させた黒魔道士ロディに連れられてアストラスへとやってきたものの、すぐに王宮に向かうのではなく街をのんびり歩き堪能していた。
これまで諜報活動をするのが癖になっているということもあり、ある程度アストラスのことを把握してから王宮に行きたいと思ったのが大きい。
それにどうせ今王宮に行ったとしても、ココ姫の件で王宮内はゴタついていることだろう。
それくらいの情報は父からも得ているし、身の安全を第一に考えて行動するようにと密かに伝えられてもいた。
国は大事だがそれ以上に息子のことも大切に思っているのだとどこか遣る瀬無い表情で告げられれば、こちらとしては頑張るよとしか言えなかった。
ココ姫はアストラスに行く際、クレイを出し抜きたいからと黒魔道士を引き連れ馬車を使わず直接城下へと向かい最低限の人数で王宮を訪れたと聞いた。
ちなみに城に直接行かなかったのは強力な結界が張られていて入れないからだ。
このあたりは流石の防衛力だと思う。
そんな場所に乗り込んだココ姫には頭は大丈夫かと言ってやりたい。
普通に考えると物凄く失礼な訪れだ。
なのにアストラス側はあっさりと受け入れたらしい。
このあたりの緩さは大丈夫なのかと少し心配になってしまう。
まあどうせココ姫は『お慕いするハインツ王子に一目会いたくて』とか何とか言って入り込んだのだろうが…。
ココ姫のことは昔から父からも聞いているから何となくそれが正解だろうなと思った。
自分が望むことをどう成し遂げるか────それに対しての実行力が物凄いのだ。
そんな彼女が失敗して帰ってきたというのは俄かには信じられなかったが……。
ココ姫が帰ってからまだ一日ほどしか経っていないし、アストラスの王宮内は当然のようにまだまだ落ち着いていないと思われる。
そんな中のこのこと向かえばロックウェルの言っていた王宮での出仕話が立ち消えてしまう可能性が高まってしまう。
いくらなんでもそれはやっちゃいけないことくらい自分にだってわかった。
そんなことをつらつら考えながらアストラスの街を歩いていると、爽やかな風が頬を撫でるように吹き抜けていった。
この国はカルトリアよりも過ごしやすい気候で、道行く人達の服装はほとんどが軽装の長袖だ。
その中でも魔道士達はそれぞれ白や黒のマントをつけているので非常にわかりやすい。
そして何よりもその人数が尋常ではなく多いのが特徴的だった。
道行く人々の実に半数近くは魔道士なのではないだろうか?
魔法大国とはよく言ったものだ。
本当にこの国は魔道士の数が多い。
これはアストラスの王宮内も同じようで、ザッと調べてみた限り王宮魔道士だけではなく官吏達の中にも魔法を使える者が多々含まれているようだった。
聞くところによるとそれは貴族の半数ほどに魔法の素養があるためらしい。
もちろん魔法が使えない貴族もそれなりにいるらしいが、その分別方面で能力の高い者が多く、特に不遇を味わうと言うこともないとのこと。
魔力を持っていても持っていなくても実力さえ伴えば優遇されるのがこの国の体制のようだ。
そう考えるとロックウェルが自分を誘ってくれたのもわからないではない。
他国出身だとしても実力が見合えばこの国で地位を築くことは可能なのだろう。
それを知れただけでもこの国に来た甲斐があったというものだ。
それは兎も角とチラリと自分の横を歩く男の方を見る。
これまで無表情、無口を貫いていた男が先程からどこか落ち着かない様子を見せ始めたのが気にはなっていた。
もしかしてこの街に来たことがあるのだろうか?
そう思っていると、後ろから急に声を掛けられた。
「ロディ?ロディじゃねぇか?」
振り返るとそこには黒衣を纏った40才前後の男が立っていた。
その声にロディがビクッと大袈裟なほど肩を揺らし、ゆっくりとそちらへと視線を向ける。
「……ファル」
恐る恐る振り返ったロディの目に浮かぶのは────『憂い』だろうか?
どこか悲壮感を感じさせるのは何故だろう?
もしかしてこの男と過去に何かあったのだろうか?
それにしてはファルと呼ばれた男の方にはそんな気配は微塵も感じられないのだが……。
「やっぱり、ロディじゃねぇか!久しぶりだな!確かトルテッティの貴族に依頼されて長期の仕事に行ったんだったよな?なかなか帰ってこねぇから、あっちで暫く腰を落ち着けるのかと思ってたぞ?」
「…………」
明るく言われたその言葉に、けれどロディと呼ばれた男は何も答えようとはしない。
心持ち顔色が悪いのは気のせいだろうか?
その様子にファルも気がついたのだろう。
訝し気に眉を寄せ、ロディへと声を掛ける。
「……何かあったのか?」
そんなファルにロディは暫く唇を震わせ何か言いたそうにはしていたが、結局はギュッと拳を握り締め静かに踵を返し端的に現状のみを告げた。
「悪いが今日は勘弁してほしい。今はこの子供の護衛中なんだ」
「お…おう……」
それに対しファルは戸惑いが隠せないようだったが、暫し沈黙した後で頭をガシガシと掻き、夜はいつもの酒場にいるから困ったことがあればいつでも来いと声を掛けてくるにとどめた。
心配げなその様子から悪い人ではないというのがこちらにまで伝わってくる。
それなのにロディはそれには返さずスタスタと歩き出してしまったので、慌ててファルへとペコッと頭を下げて追い掛ける羽目になった。
これまでこんなことはなかったのに────。
そしてその背を追いながら、初めてほんの少しだけ不安に思ったのだった。
***
ミュラの記憶を戻してから三日後────。
「じゃあロックウェル。今日も仕事を頑張ってこい」
「ああ。お前も、もし仕事が入ったら気をつけて行ってくるんだぞ」
「わかってる」
そうして軽い口づけと共に送り出してもらい王宮へと向かうと、そこには意外な顔があった。
「ステファン?」
ソレーユでミシェルのお抱え白魔道士として働いているはずのステファンがわざわざアストラスの王宮に姿を現すとは何かあったのだろうか?
もしやミシェルがこちらに来ているのかと思い尋ねてみるが、どうやらそれは違うようだった。
「ロックウェル。グロリアス家当主が倒れ、危篤状態だと聞いているか?」
「ああ。耳には入っている」
「そうか。長男がフォルト家に接触してきたらしくて、兄が隙を見せないようにと警告を兼ねて連絡をくれてな。お前の方は大丈夫かと心配になって…」
どうやらそれでわざわざ休日を潰して来てくれたらしい。
ステファンの実家であるフォルト家はグロリアス家寄りの派閥でそれなりに大きな力を持っている。
グロリアス本家の長男が次期当主の座を確実なものにするためにはフォルト家を味方につけたいと接触してくることは容易に想像ができた。
逆に分家であるにもかかわらず魔道士長である自分は敵視するべき存在と映っていることだろう。
これを機に暗殺者を差し向けられても全くおかしくはない。
「私の方は今のところ大丈夫だ。心配をかけてすまないな」
「いや。久し振りに話せたし、ちょうど良かった」
「折角来たんだ。少しあっちでゆっくり話さないか?」
「いいのか?忙しいだろう?」
「大丈夫だ。ちょうどカルトリアの件も落ち着きそうだしな」
ステファンと会うのはシリィの結婚式以来のことだ。
忙しいとはいえ、少しくらいは融通を利かせ時間をとっても罰は当たらないだろう。
あれから国に帰ったココ姫はアストラスに一斉攻撃をと父王に申し出たらしいのだが、取り合ってはもらえず城を出されたと耳にした。
それと共に魔王であるジークがカルトリア王に直接釘を刺してくれたのだとか。
その際見せしめと言わんばかりに冒険者ギルドを灰にしてしまったらしく、それを受けて王は震え上がったと聞く。
それを目にしてこれまで魔王は火の粉を払っていただけで本気ではなかった。本気で怒らせれば国が一瞬で火の海に呑まれ滅亡する。それを回避するためにアストラスには一切手を出すことは罷りならん、との結論に至ったとか。
カルトリアとしては魔の森に入れなくなった事を把握し調査をし始めた矢先での出来事。
なすすべなく国が滅亡するよりも、細々とでも国としてあり、平和に暮らしていきたいといったところなのかもしれなかった。
王には気の毒な話だが、賢明な判断だと思う。
そして姫の私兵だけがどうもその後アストラスに差し向けられたらしいのだが、こちらはこちらで国境線にかけられたクレイの魔法で殲滅されたと聞いた。
深夜突如空が光ったと思ったら轟音を上げて稲妻が無数に落とされ、彼らは一瞬でやられてしまったと、警戒していた国境警備の者が今朝がた報告に来たのでまず間違いはないだろう。
本気で恐ろしいほどの国防魔法だった。
とは言え死なない程度の威力だとクレイは言っていたし、彼らはこの後牢へとボロボロ状態で護送されてくることだろう。
何はともあれハインツとココ姫の婚約は無事に白紙となり、現在は今後をどうするかで大臣達が揉めている最中だ。
王の宣下の元、トルテッティのフローリア姫がハインツの子を産んだ件も正式に周知されることとなり、混乱を極めているのだ。
一応クレイが後見としてついているルドルフが次王になるのは決定と言われているが、現王もまだまだ元気だという事でハインツの子がすでにいるのであればその子が成人するまで現王が玉座に居続けてくれればと願う声もある。
後は王の血を引く者でなくとも次王が許されるのなら、クレイの生み出したより強大な力を持つドラゴンの王をという過激派発言まで飛び出して、一時は収拾がつかなくなってしまう事態にまで陥ってしまった。
とは言え最後の案はクレイが絶対に頷かないとわかっているので、王が『国を滅ぼす案は却下だ』と言って最終的に鶴の一声で収拾を図ってくれたので非常に助かった。
納得がいかないと吠えている輩も未だいるにはいるが、それもそのうち落ち着くことだろう。
そんな感じで大臣達が紛糾しているだけで、王宮魔道士達の方は比較的落ち着いたものだった。
敢えて言うなら、クレイが開発した魔道具を作って欲しいと言われて一部の魔道士が四苦八苦しているくらいだろうか?
自分の方も、ハインツへの魔道士長引き継ぎの件はまだそう急ぐこともないし、自分のドルトからの引継ぎも次王の件がどうなるかによって変わってくるため何とも言えない。
目下のところ魔道士達を鍛えるのに力を注いでいるのと、大臣達から回ってくる依頼を振り分け処理するのが主な仕事となっている。
けれどそれも危急のものは特にはない。
だからこそステファンと話す時間も取れるというもの────。
そうやって暫く情報交換をして近況の報告をしていると、不意に部下達の声がこちらに聞こえてきた。
「ちょっと!簡単かと思ったけど滅茶苦茶難しいじゃない!この台車の絶妙なバランス、どうなってるのよ?!全く真似できないじゃないの!」
「あ~…お前でも無理か。俺もそういう繊細なバランス、無理なんだよな~」
「魔力調整が難しいのよ。一定の浮遊位置で固定しないといけないし、よっぽど上手く魔力操作しないと無理よ?一回だけ上手くできたと思ったけど、もう少し高く浮かせた方が良かったかもとやり直したらもう全然上手くいかなかったのよね」
ああでもないこうでもないと言い合いながら台車作りに挑戦する王宮魔道士達。
最早あれは魔力操作の練習機と化していると言っても過言ではないだろう。
「う~……!ロックウェル様!ロックウェル様ならできますか?」
こちらの話が一段落しているのに気づいたのだろう。
そうやって気軽に声を掛けてきたので、興味を惹かれた様子のステファンと一緒にそちらへと足を運ぶ。
そしてこういうことは得意だと目の前であっさりやってみせると『おおっ』と歓声が上がった。
確かに難しくはあるが、コツさえ掴めば簡単だ。
それを見たステファンが面白そうだと顔を輝かせ、自分も挑戦したいと言い出した。
「これくらいか…?」
そうして微調整をしながらも見事にやり遂げて、ふぅと息を吐いたところでまた周囲から歓声が上がった。
「素晴らしいです!」
「これが一度でできるなんて本当に凄いですよ!」
そんな言葉の数々にステファンはどこか擽ったそうに笑みを浮かべ応えていた。
「さすがだなステファン」
「いや、難しかった」
彼もまた早くに家を出て白魔道士として実戦を積んだ者だけにその実力は高い。
ミシェルが認めて雇っている時点で、その腕前は保証されているも同然だった。
「彼は確かロックウェル様のご友人でしたよね?」
「ああ。幼馴染の白魔道士で、今はソレーユでミシェル王子のお抱え魔道士として働いている」
「ステファンです。どうぞお見知り置きを」
笑顔で優美に挨拶する様は昔となんら変わらない。
そうして懐かしく思っていると、そう言えばと部下から話を振られた。
「ロックウェル様、聞きましたよ!クレイとの間にドラゴンの子供が生まれたんですって?前代未聞だと大臣が嬉しそうに話していましたが、実際のところそんなことが簡単に出来るものなんですか?」
この件に関しては特に周知したわけではないのだが、どうやら噂が既にあちらこちらに駆け巡ってしまっているようだ。
大臣達に口止めしておかなかったのはまずかったかもしれない。
「クレイが産んだわけじゃないぞ?ちょっと特殊な魔力交流をしていたら魔力が高まりすぎて、そこに魔力溜まりができてな…。そこから自然発生的に偶然生まれてきたんだ」
その言葉にステファンが驚いたように声を上げる。
「ドラゴンが生まれた?!あの絶滅した?」
「ああ」
その答えにステファンは信じられないと言うように、あんぐりと口を開けていた。
それはそうだろう。自分だって当事者でなければとても信じられなかったに違いない。
「クレイは本当になんでもありな奴だな」
ステファンがそう言いたくなる気持ちも十分すぎるほどよくわかる。
昔からクレイはこちらの想像を超えたことを何気なくやってしまう奴だったし、自分もステファンにそんな話を溢したことも多々あったからだ。
けれど今回の件に関しては本人が望んでのことではなく本当に偶然の出来事でしかない。
クレイは幸せな家庭とやり甲斐のある仕事があればいいとしか考えていない奴だし、今の自分にはそれが誰よりもわかっている。
クレイを理解するまでは小さな幸せを大事にしているように見える面と優秀過ぎる能力のギャップに戸惑ったものだが、今はそういうところも全部愛しいと思えるようになっているし、だからこそ特別凄いと持て囃す様なこともない。
「私の口からはクレイは不器用で可愛い奴としか言えないな」
そうやってクスッと笑って端的に言うと、変わったなと言われてしまった。
「昔はもっと振り回されてイライラしていたのに」
「そうか?あの頃から仲は良かったと思うが?」
「仲は確かに良かったようだが、防御魔法で先を越された時は悔しそうにしてたし、捕縛数を上回られた時もイラついてただろう?派手な魔法を目にしてこっそり舌打ちしてたのも知ってるぞ?」
「…………」
わざわざそんな大昔のことを持ち出さなくてもいいのに。
確かにファルのところにいた十代のあの頃はまだ若くて、ステファンには素直に感情を曝け出していたかもしれない。
自分の実力がクレイに届かないのが悔しくて自主的に素早く魔法展開できるよう特訓したりもしていたから、思えばあの頃の経験が一番実力をつけるのに一役買っていたと言っても過言ではない。
そこから色々経験も積んで人付き合いも広がって魔道士長になってと濃い日々を送ってきたが、クレイとの付き合いに無駄な時間などはなかった。
「今はもうあの頃とは違う」
「本当に?」
「ああ」
そうしてしっかりと頷いたが、ステファンは信じていないように見えた。
「まあいいが…。冷めやすいお前が滅茶苦茶執着しているようだから、クレイに記憶操作でもされてるんじゃないかと密かに心配してたんだ」
その言葉に思わず目が点になる。
まさかそんな風に言われるとは思っても見なかったからだ。
「フッ、私が追いかけて捕まえたんだぞ?そんな事あるはずがないだろう?」
逃げるクレイを必死に捕まえたあの日が今では懐かしく、すでに遠い過去のことになっている。
「それにクレイが記憶操作で私を捕まえたなら、結婚まではしていなかったと思うぞ?」
そこまで言ってやると、やっとステファンはそれもそうかと笑ってくれた。
「クレイは黒魔道士だし、結婚願望がなさそうだったものな」
「全くなかったな」
「どうやって結婚まで持ち込んだんだ?」
「契約書に混ぜてうっかりサインさせた」
この返答はステファンも意外だったのか、驚いたように目を丸くしてしまった。
「本当に、つくづくロックウェル様に捕まったのが運の尽きですよね~」
「いや。クレイもロックウェル様にベタ惚れだから結果オーライだろう」
「ええ~でもロイドともいい雰囲気だったのに~。あれでしょ?取られないようにって嵌めたんですよね?」
「ロックウェル様の束縛、凄かったですもんね」
それに対して部下はみんなで言いたい放題だ。
けれどそんな話を聞いても昔の自分からは想像ができないのか、ステファンはただただ驚愕していた。
そこへひょっこりとアメットとルナがやってくる。
【お父様、クレイ父様からのお届け物です】
そう言って差し出されたのは水晶のブローチだった。
【この間相談を受けた魔道具作りの一環ですって】
【登録した相手の居場所を把握するアイテムなんだって】
【さっきやっと満足いくのができたってすごく嬉しそうにしていたんです】
【可愛かったよね、クレイ父様!】
二人が楽し気にクスクスと笑い合う。
そして取り敢えずの試作品だから、ドルトに渡す前に使い心地を聞きたいのだとクレイからの伝言を伝えてきた。
「そうか。ありがとう」
そうして笑顔でそれを受け取ったところで、周囲から声が上がる。
「まさかこの二人が噂のお子様ですか?!」
「可愛い!ロックウェル様とクレイにそっくりですね!」
「しかも女の子じゃないですか!二人揃ってアメジスト・アイ!すっごく綺麗ですね~」
「凄い…。本当にロックウェルとクレイの子供って感じだな」
口々に部下達が声を上げる中、これにはステファンも感心したように瞠目していた。
「一体どうやってこんな可愛い子供を作ったんですか?先程特殊な魔力交流と仰ってましたよね?」
「具体的にはどうやったんです?同性婚で子作りなんて興味ありますし、是非教えてください!」
これはもう自然発生的に生まれたというより確信犯で作ったのだろうと言われて、半分当たっているだけに否定はできない自分がいた。
「あ~まあ…その、上からだけじゃなく下からも思い切り魔力交流したらできたというか何というか……」
その言葉に聞いていた皆の目が点になる。
そこを無邪気にルナが補足した。
【お父様はアメットの時、夢中になって上からも下からも沢山魔力を注いでたもんね!私達もついつい魔力いっぱい吸収しちゃった!】
【クレイ父様、気持ち良すぎて昇天するって泣いてましたわよ?私が生まれる直前は心中『死ぬ』しか言ってませんでしたわ】
「…………」
どうやらアメットが生まれる時、クレイの中は『死ぬ』一色だったらしい。
そう言えばやけに死ぬを連呼していた気がする。
けれど目が覚めた後は最高だったと笑っていたし、いつものように気持ち良過ぎて口にしていただけだと思うのだが…。
【人間死にかけると全力で種を残そうとするらしいですし、私の魔力が一段と高いのはそのせいではないかとコートが教えて…ムグッ!】
【アメット!それは内緒だって言われたでしょ?!シーッなんだよ?】
けれどアメットの口から飛び出した言葉に思わずフリーズしてしまう。
これは聞き捨てならない。
ルナに止められアメットはコクコクと頷いているが、最早後の祭りだ。
「ロックウェル様…鬼畜」
「ロックウェル…いつの間にそんなドSになったんだ?」
「後でクレイにお見舞いの品でもご用意しておきますね?」
そんな追い打ちの言葉の数々に固まっていると、そこにラピスとリドまでやってきた。
【お父様!ルナとアメットが遅いので、クレイ父様に言われてお仕事の邪魔になっていないか見にきました!】
その姿に『4回も殺しかけたんですか?!』と皆に慄かれたが、それを聞いたラピスが小首を傾げる。
【なんのこと?】
そして先程の話をするとニコニコ笑いながら答えた。
【大丈夫!僕の時は『大好き!』と『最高!』って感じだったし、アメットの時みたいにしなければ兄弟100人も夢じゃないから!ね、お父様?】
そんなに期待の眼差しを向けられても答えられるはずがなく、居た堪れない気持ちでそっと視線を逸らした。
アメットの時の状況を改めてクレイに聞いて、場合によっては謝ろう────そう反省しながら。
アキは王が同伴させた黒魔道士ロディに連れられてアストラスへとやってきたものの、すぐに王宮に向かうのではなく街をのんびり歩き堪能していた。
これまで諜報活動をするのが癖になっているということもあり、ある程度アストラスのことを把握してから王宮に行きたいと思ったのが大きい。
それにどうせ今王宮に行ったとしても、ココ姫の件で王宮内はゴタついていることだろう。
それくらいの情報は父からも得ているし、身の安全を第一に考えて行動するようにと密かに伝えられてもいた。
国は大事だがそれ以上に息子のことも大切に思っているのだとどこか遣る瀬無い表情で告げられれば、こちらとしては頑張るよとしか言えなかった。
ココ姫はアストラスに行く際、クレイを出し抜きたいからと黒魔道士を引き連れ馬車を使わず直接城下へと向かい最低限の人数で王宮を訪れたと聞いた。
ちなみに城に直接行かなかったのは強力な結界が張られていて入れないからだ。
このあたりは流石の防衛力だと思う。
そんな場所に乗り込んだココ姫には頭は大丈夫かと言ってやりたい。
普通に考えると物凄く失礼な訪れだ。
なのにアストラス側はあっさりと受け入れたらしい。
このあたりの緩さは大丈夫なのかと少し心配になってしまう。
まあどうせココ姫は『お慕いするハインツ王子に一目会いたくて』とか何とか言って入り込んだのだろうが…。
ココ姫のことは昔から父からも聞いているから何となくそれが正解だろうなと思った。
自分が望むことをどう成し遂げるか────それに対しての実行力が物凄いのだ。
そんな彼女が失敗して帰ってきたというのは俄かには信じられなかったが……。
ココ姫が帰ってからまだ一日ほどしか経っていないし、アストラスの王宮内は当然のようにまだまだ落ち着いていないと思われる。
そんな中のこのこと向かえばロックウェルの言っていた王宮での出仕話が立ち消えてしまう可能性が高まってしまう。
いくらなんでもそれはやっちゃいけないことくらい自分にだってわかった。
そんなことをつらつら考えながらアストラスの街を歩いていると、爽やかな風が頬を撫でるように吹き抜けていった。
この国はカルトリアよりも過ごしやすい気候で、道行く人達の服装はほとんどが軽装の長袖だ。
その中でも魔道士達はそれぞれ白や黒のマントをつけているので非常にわかりやすい。
そして何よりもその人数が尋常ではなく多いのが特徴的だった。
道行く人々の実に半数近くは魔道士なのではないだろうか?
魔法大国とはよく言ったものだ。
本当にこの国は魔道士の数が多い。
これはアストラスの王宮内も同じようで、ザッと調べてみた限り王宮魔道士だけではなく官吏達の中にも魔法を使える者が多々含まれているようだった。
聞くところによるとそれは貴族の半数ほどに魔法の素養があるためらしい。
もちろん魔法が使えない貴族もそれなりにいるらしいが、その分別方面で能力の高い者が多く、特に不遇を味わうと言うこともないとのこと。
魔力を持っていても持っていなくても実力さえ伴えば優遇されるのがこの国の体制のようだ。
そう考えるとロックウェルが自分を誘ってくれたのもわからないではない。
他国出身だとしても実力が見合えばこの国で地位を築くことは可能なのだろう。
それを知れただけでもこの国に来た甲斐があったというものだ。
それは兎も角とチラリと自分の横を歩く男の方を見る。
これまで無表情、無口を貫いていた男が先程からどこか落ち着かない様子を見せ始めたのが気にはなっていた。
もしかしてこの街に来たことがあるのだろうか?
そう思っていると、後ろから急に声を掛けられた。
「ロディ?ロディじゃねぇか?」
振り返るとそこには黒衣を纏った40才前後の男が立っていた。
その声にロディがビクッと大袈裟なほど肩を揺らし、ゆっくりとそちらへと視線を向ける。
「……ファル」
恐る恐る振り返ったロディの目に浮かぶのは────『憂い』だろうか?
どこか悲壮感を感じさせるのは何故だろう?
もしかしてこの男と過去に何かあったのだろうか?
それにしてはファルと呼ばれた男の方にはそんな気配は微塵も感じられないのだが……。
「やっぱり、ロディじゃねぇか!久しぶりだな!確かトルテッティの貴族に依頼されて長期の仕事に行ったんだったよな?なかなか帰ってこねぇから、あっちで暫く腰を落ち着けるのかと思ってたぞ?」
「…………」
明るく言われたその言葉に、けれどロディと呼ばれた男は何も答えようとはしない。
心持ち顔色が悪いのは気のせいだろうか?
その様子にファルも気がついたのだろう。
訝し気に眉を寄せ、ロディへと声を掛ける。
「……何かあったのか?」
そんなファルにロディは暫く唇を震わせ何か言いたそうにはしていたが、結局はギュッと拳を握り締め静かに踵を返し端的に現状のみを告げた。
「悪いが今日は勘弁してほしい。今はこの子供の護衛中なんだ」
「お…おう……」
それに対しファルは戸惑いが隠せないようだったが、暫し沈黙した後で頭をガシガシと掻き、夜はいつもの酒場にいるから困ったことがあればいつでも来いと声を掛けてくるにとどめた。
心配げなその様子から悪い人ではないというのがこちらにまで伝わってくる。
それなのにロディはそれには返さずスタスタと歩き出してしまったので、慌ててファルへとペコッと頭を下げて追い掛ける羽目になった。
これまでこんなことはなかったのに────。
そしてその背を追いながら、初めてほんの少しだけ不安に思ったのだった。
***
ミュラの記憶を戻してから三日後────。
「じゃあロックウェル。今日も仕事を頑張ってこい」
「ああ。お前も、もし仕事が入ったら気をつけて行ってくるんだぞ」
「わかってる」
そうして軽い口づけと共に送り出してもらい王宮へと向かうと、そこには意外な顔があった。
「ステファン?」
ソレーユでミシェルのお抱え白魔道士として働いているはずのステファンがわざわざアストラスの王宮に姿を現すとは何かあったのだろうか?
もしやミシェルがこちらに来ているのかと思い尋ねてみるが、どうやらそれは違うようだった。
「ロックウェル。グロリアス家当主が倒れ、危篤状態だと聞いているか?」
「ああ。耳には入っている」
「そうか。長男がフォルト家に接触してきたらしくて、兄が隙を見せないようにと警告を兼ねて連絡をくれてな。お前の方は大丈夫かと心配になって…」
どうやらそれでわざわざ休日を潰して来てくれたらしい。
ステファンの実家であるフォルト家はグロリアス家寄りの派閥でそれなりに大きな力を持っている。
グロリアス本家の長男が次期当主の座を確実なものにするためにはフォルト家を味方につけたいと接触してくることは容易に想像ができた。
逆に分家であるにもかかわらず魔道士長である自分は敵視するべき存在と映っていることだろう。
これを機に暗殺者を差し向けられても全くおかしくはない。
「私の方は今のところ大丈夫だ。心配をかけてすまないな」
「いや。久し振りに話せたし、ちょうど良かった」
「折角来たんだ。少しあっちでゆっくり話さないか?」
「いいのか?忙しいだろう?」
「大丈夫だ。ちょうどカルトリアの件も落ち着きそうだしな」
ステファンと会うのはシリィの結婚式以来のことだ。
忙しいとはいえ、少しくらいは融通を利かせ時間をとっても罰は当たらないだろう。
あれから国に帰ったココ姫はアストラスに一斉攻撃をと父王に申し出たらしいのだが、取り合ってはもらえず城を出されたと耳にした。
それと共に魔王であるジークがカルトリア王に直接釘を刺してくれたのだとか。
その際見せしめと言わんばかりに冒険者ギルドを灰にしてしまったらしく、それを受けて王は震え上がったと聞く。
それを目にしてこれまで魔王は火の粉を払っていただけで本気ではなかった。本気で怒らせれば国が一瞬で火の海に呑まれ滅亡する。それを回避するためにアストラスには一切手を出すことは罷りならん、との結論に至ったとか。
カルトリアとしては魔の森に入れなくなった事を把握し調査をし始めた矢先での出来事。
なすすべなく国が滅亡するよりも、細々とでも国としてあり、平和に暮らしていきたいといったところなのかもしれなかった。
王には気の毒な話だが、賢明な判断だと思う。
そして姫の私兵だけがどうもその後アストラスに差し向けられたらしいのだが、こちらはこちらで国境線にかけられたクレイの魔法で殲滅されたと聞いた。
深夜突如空が光ったと思ったら轟音を上げて稲妻が無数に落とされ、彼らは一瞬でやられてしまったと、警戒していた国境警備の者が今朝がた報告に来たのでまず間違いはないだろう。
本気で恐ろしいほどの国防魔法だった。
とは言え死なない程度の威力だとクレイは言っていたし、彼らはこの後牢へとボロボロ状態で護送されてくることだろう。
何はともあれハインツとココ姫の婚約は無事に白紙となり、現在は今後をどうするかで大臣達が揉めている最中だ。
王の宣下の元、トルテッティのフローリア姫がハインツの子を産んだ件も正式に周知されることとなり、混乱を極めているのだ。
一応クレイが後見としてついているルドルフが次王になるのは決定と言われているが、現王もまだまだ元気だという事でハインツの子がすでにいるのであればその子が成人するまで現王が玉座に居続けてくれればと願う声もある。
後は王の血を引く者でなくとも次王が許されるのなら、クレイの生み出したより強大な力を持つドラゴンの王をという過激派発言まで飛び出して、一時は収拾がつかなくなってしまう事態にまで陥ってしまった。
とは言え最後の案はクレイが絶対に頷かないとわかっているので、王が『国を滅ぼす案は却下だ』と言って最終的に鶴の一声で収拾を図ってくれたので非常に助かった。
納得がいかないと吠えている輩も未だいるにはいるが、それもそのうち落ち着くことだろう。
そんな感じで大臣達が紛糾しているだけで、王宮魔道士達の方は比較的落ち着いたものだった。
敢えて言うなら、クレイが開発した魔道具を作って欲しいと言われて一部の魔道士が四苦八苦しているくらいだろうか?
自分の方も、ハインツへの魔道士長引き継ぎの件はまだそう急ぐこともないし、自分のドルトからの引継ぎも次王の件がどうなるかによって変わってくるため何とも言えない。
目下のところ魔道士達を鍛えるのに力を注いでいるのと、大臣達から回ってくる依頼を振り分け処理するのが主な仕事となっている。
けれどそれも危急のものは特にはない。
だからこそステファンと話す時間も取れるというもの────。
そうやって暫く情報交換をして近況の報告をしていると、不意に部下達の声がこちらに聞こえてきた。
「ちょっと!簡単かと思ったけど滅茶苦茶難しいじゃない!この台車の絶妙なバランス、どうなってるのよ?!全く真似できないじゃないの!」
「あ~…お前でも無理か。俺もそういう繊細なバランス、無理なんだよな~」
「魔力調整が難しいのよ。一定の浮遊位置で固定しないといけないし、よっぽど上手く魔力操作しないと無理よ?一回だけ上手くできたと思ったけど、もう少し高く浮かせた方が良かったかもとやり直したらもう全然上手くいかなかったのよね」
ああでもないこうでもないと言い合いながら台車作りに挑戦する王宮魔道士達。
最早あれは魔力操作の練習機と化していると言っても過言ではないだろう。
「う~……!ロックウェル様!ロックウェル様ならできますか?」
こちらの話が一段落しているのに気づいたのだろう。
そうやって気軽に声を掛けてきたので、興味を惹かれた様子のステファンと一緒にそちらへと足を運ぶ。
そしてこういうことは得意だと目の前であっさりやってみせると『おおっ』と歓声が上がった。
確かに難しくはあるが、コツさえ掴めば簡単だ。
それを見たステファンが面白そうだと顔を輝かせ、自分も挑戦したいと言い出した。
「これくらいか…?」
そうして微調整をしながらも見事にやり遂げて、ふぅと息を吐いたところでまた周囲から歓声が上がった。
「素晴らしいです!」
「これが一度でできるなんて本当に凄いですよ!」
そんな言葉の数々にステファンはどこか擽ったそうに笑みを浮かべ応えていた。
「さすがだなステファン」
「いや、難しかった」
彼もまた早くに家を出て白魔道士として実戦を積んだ者だけにその実力は高い。
ミシェルが認めて雇っている時点で、その腕前は保証されているも同然だった。
「彼は確かロックウェル様のご友人でしたよね?」
「ああ。幼馴染の白魔道士で、今はソレーユでミシェル王子のお抱え魔道士として働いている」
「ステファンです。どうぞお見知り置きを」
笑顔で優美に挨拶する様は昔となんら変わらない。
そうして懐かしく思っていると、そう言えばと部下から話を振られた。
「ロックウェル様、聞きましたよ!クレイとの間にドラゴンの子供が生まれたんですって?前代未聞だと大臣が嬉しそうに話していましたが、実際のところそんなことが簡単に出来るものなんですか?」
この件に関しては特に周知したわけではないのだが、どうやら噂が既にあちらこちらに駆け巡ってしまっているようだ。
大臣達に口止めしておかなかったのはまずかったかもしれない。
「クレイが産んだわけじゃないぞ?ちょっと特殊な魔力交流をしていたら魔力が高まりすぎて、そこに魔力溜まりができてな…。そこから自然発生的に偶然生まれてきたんだ」
その言葉にステファンが驚いたように声を上げる。
「ドラゴンが生まれた?!あの絶滅した?」
「ああ」
その答えにステファンは信じられないと言うように、あんぐりと口を開けていた。
それはそうだろう。自分だって当事者でなければとても信じられなかったに違いない。
「クレイは本当になんでもありな奴だな」
ステファンがそう言いたくなる気持ちも十分すぎるほどよくわかる。
昔からクレイはこちらの想像を超えたことを何気なくやってしまう奴だったし、自分もステファンにそんな話を溢したことも多々あったからだ。
けれど今回の件に関しては本人が望んでのことではなく本当に偶然の出来事でしかない。
クレイは幸せな家庭とやり甲斐のある仕事があればいいとしか考えていない奴だし、今の自分にはそれが誰よりもわかっている。
クレイを理解するまでは小さな幸せを大事にしているように見える面と優秀過ぎる能力のギャップに戸惑ったものだが、今はそういうところも全部愛しいと思えるようになっているし、だからこそ特別凄いと持て囃す様なこともない。
「私の口からはクレイは不器用で可愛い奴としか言えないな」
そうやってクスッと笑って端的に言うと、変わったなと言われてしまった。
「昔はもっと振り回されてイライラしていたのに」
「そうか?あの頃から仲は良かったと思うが?」
「仲は確かに良かったようだが、防御魔法で先を越された時は悔しそうにしてたし、捕縛数を上回られた時もイラついてただろう?派手な魔法を目にしてこっそり舌打ちしてたのも知ってるぞ?」
「…………」
わざわざそんな大昔のことを持ち出さなくてもいいのに。
確かにファルのところにいた十代のあの頃はまだ若くて、ステファンには素直に感情を曝け出していたかもしれない。
自分の実力がクレイに届かないのが悔しくて自主的に素早く魔法展開できるよう特訓したりもしていたから、思えばあの頃の経験が一番実力をつけるのに一役買っていたと言っても過言ではない。
そこから色々経験も積んで人付き合いも広がって魔道士長になってと濃い日々を送ってきたが、クレイとの付き合いに無駄な時間などはなかった。
「今はもうあの頃とは違う」
「本当に?」
「ああ」
そうしてしっかりと頷いたが、ステファンは信じていないように見えた。
「まあいいが…。冷めやすいお前が滅茶苦茶執着しているようだから、クレイに記憶操作でもされてるんじゃないかと密かに心配してたんだ」
その言葉に思わず目が点になる。
まさかそんな風に言われるとは思っても見なかったからだ。
「フッ、私が追いかけて捕まえたんだぞ?そんな事あるはずがないだろう?」
逃げるクレイを必死に捕まえたあの日が今では懐かしく、すでに遠い過去のことになっている。
「それにクレイが記憶操作で私を捕まえたなら、結婚まではしていなかったと思うぞ?」
そこまで言ってやると、やっとステファンはそれもそうかと笑ってくれた。
「クレイは黒魔道士だし、結婚願望がなさそうだったものな」
「全くなかったな」
「どうやって結婚まで持ち込んだんだ?」
「契約書に混ぜてうっかりサインさせた」
この返答はステファンも意外だったのか、驚いたように目を丸くしてしまった。
「本当に、つくづくロックウェル様に捕まったのが運の尽きですよね~」
「いや。クレイもロックウェル様にベタ惚れだから結果オーライだろう」
「ええ~でもロイドともいい雰囲気だったのに~。あれでしょ?取られないようにって嵌めたんですよね?」
「ロックウェル様の束縛、凄かったですもんね」
それに対して部下はみんなで言いたい放題だ。
けれどそんな話を聞いても昔の自分からは想像ができないのか、ステファンはただただ驚愕していた。
そこへひょっこりとアメットとルナがやってくる。
【お父様、クレイ父様からのお届け物です】
そう言って差し出されたのは水晶のブローチだった。
【この間相談を受けた魔道具作りの一環ですって】
【登録した相手の居場所を把握するアイテムなんだって】
【さっきやっと満足いくのができたってすごく嬉しそうにしていたんです】
【可愛かったよね、クレイ父様!】
二人が楽し気にクスクスと笑い合う。
そして取り敢えずの試作品だから、ドルトに渡す前に使い心地を聞きたいのだとクレイからの伝言を伝えてきた。
「そうか。ありがとう」
そうして笑顔でそれを受け取ったところで、周囲から声が上がる。
「まさかこの二人が噂のお子様ですか?!」
「可愛い!ロックウェル様とクレイにそっくりですね!」
「しかも女の子じゃないですか!二人揃ってアメジスト・アイ!すっごく綺麗ですね~」
「凄い…。本当にロックウェルとクレイの子供って感じだな」
口々に部下達が声を上げる中、これにはステファンも感心したように瞠目していた。
「一体どうやってこんな可愛い子供を作ったんですか?先程特殊な魔力交流と仰ってましたよね?」
「具体的にはどうやったんです?同性婚で子作りなんて興味ありますし、是非教えてください!」
これはもう自然発生的に生まれたというより確信犯で作ったのだろうと言われて、半分当たっているだけに否定はできない自分がいた。
「あ~まあ…その、上からだけじゃなく下からも思い切り魔力交流したらできたというか何というか……」
その言葉に聞いていた皆の目が点になる。
そこを無邪気にルナが補足した。
【お父様はアメットの時、夢中になって上からも下からも沢山魔力を注いでたもんね!私達もついつい魔力いっぱい吸収しちゃった!】
【クレイ父様、気持ち良すぎて昇天するって泣いてましたわよ?私が生まれる直前は心中『死ぬ』しか言ってませんでしたわ】
「…………」
どうやらアメットが生まれる時、クレイの中は『死ぬ』一色だったらしい。
そう言えばやけに死ぬを連呼していた気がする。
けれど目が覚めた後は最高だったと笑っていたし、いつものように気持ち良過ぎて口にしていただけだと思うのだが…。
【人間死にかけると全力で種を残そうとするらしいですし、私の魔力が一段と高いのはそのせいではないかとコートが教えて…ムグッ!】
【アメット!それは内緒だって言われたでしょ?!シーッなんだよ?】
けれどアメットの口から飛び出した言葉に思わずフリーズしてしまう。
これは聞き捨てならない。
ルナに止められアメットはコクコクと頷いているが、最早後の祭りだ。
「ロックウェル様…鬼畜」
「ロックウェル…いつの間にそんなドSになったんだ?」
「後でクレイにお見舞いの品でもご用意しておきますね?」
そんな追い打ちの言葉の数々に固まっていると、そこにラピスとリドまでやってきた。
【お父様!ルナとアメットが遅いので、クレイ父様に言われてお仕事の邪魔になっていないか見にきました!】
その姿に『4回も殺しかけたんですか?!』と皆に慄かれたが、それを聞いたラピスが小首を傾げる。
【なんのこと?】
そして先程の話をするとニコニコ笑いながら答えた。
【大丈夫!僕の時は『大好き!』と『最高!』って感じだったし、アメットの時みたいにしなければ兄弟100人も夢じゃないから!ね、お父様?】
そんなに期待の眼差しを向けられても答えられるはずがなく、居た堪れない気持ちでそっと視線を逸らした。
アメットの時の状況を改めてクレイに聞いて、場合によっては謝ろう────そう反省しながら。
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