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第三部 アストラス編~竜の血脈~
30.※ミュラとの接触
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「はっ…ぁんっ……!」
今日もクレイが腕の中で甘く蕩けた顔で可愛く啼く。
つい先程まで嬉々として試したい体位を試していたのだが、十分に満足したところで今度はこちらの好きにさせてくれていた。
黒魔道士然としたクレイをこうして溶かすのはまた格別だ。
正直今日のロイドとのやり取りはこれまでと然程変わらないようには見えた。
けれどその内容はただのロイドの愚痴のようなもので、シュバルツがわかってくれないからクレイに慰めてもらっていると言う感じに映った。
それはどうやらその通りだったらしく、二人で目で会話しクレイがロイドを慰めているのは明白だった。
とは言えそう甘やかさなくてもいいのではないかと思い優しくそう言ってやったら、クレイはこれまでのように反発してくる事なく、何故かそっと口づけを送ってくれた。
これは正直意外でしかなく、つい呆けてしまったほどだ。
しかも甘えたくなると言って身を寄せてくれたことも意外だった。
一体これまでと何が違うのか……。
こうして自然に甘えてもらえるのは物凄く嬉しいが、シュバルツが魅了の魔法を開発したのかと疑いたくなるのもわかるほどクレイの方から甘えてくるのは不思議に感じられた。
そんな自分に【自分を受け入れてもらえている、わかってもらえているという信頼感がどうもクレイ様を良い方向に変えてくれたようですね】と嫉妬されないからこその安堵もあるのではないかとヒュースはこっそり言ってくれたのだった。
「んんっ…!はぁ…ロックウェル…今度はあっちがいい」
そう言って立位で達したところで息を整え誘われたのはソファだった。
そろそろ立ってやるのが疲れてきたから移動したいといったところか。
「次は狭いところでやりたくなった」
「ああいいな。お前の恥ずかしいところを沢山見てやろうな」
ソファは実はクレイの苦手な体位が多く試せる絶好の場所だ。
故にベッドではなくソファを選んだのは虐めて欲しいと言ったも同然で、そんなクレイの行動にまたしても嬉しくなってしまう。
次はドSで嬲ってもらいたいと訴えているのは間違いない。
こうして自分だけを求めてもらえるのはたまらなく嬉しくて、妙に男心が擽られてしまう。
ここで満足させてやれなければ男が廃るというものだろう。
「今日は久し振りに玩具もたっぷり使ってやろうな」
以前の嫉妬に駆られた時とは違い、これからはクレイを存分に愛するためにだけ玩具を使ってやりたい。
虐め方にだって色々あるものだ。
ただ嬲るだけではなく愛情を感じさせながら官能を引き出す使い方も当然ある。
虐められるのが大好きなクレイの要望を満たしつつ愛情も伝える…そんな閨をこれからは充実させていきたいと思った。
「はっはふっ……、ロックウェル…ッ!これ、なんだか前と違う……ッ!」
「そんな事はない。気のせいだ」
そう言いながらも、クレイの胸をクリップで挟み僅かな魔力で振動させる。
そうしてゆるりと立ち上がってきた雄の先端から凹凸のついた長い器具を差し込んでいく。
「んんっ…!は…ぁ…これ、ダメ…」
「大丈夫だ。ちゃんと加減する」
そして奥まで挿れたところでこちらにも微弱な魔力を送り込んだ。
「は…はぁう…ッ!気持ちいい…」
ピクンピクンと身体を僅かに震わせて、クレイの表情が恍惚としたものに変わっていく。
「クレイ、気持ちいいか?」
「ん…いいッ!」
「そうか。じゃあ後ろにも挿れてやろうな」
その言葉と共にズズッとそそり立った自身を挿れていってやると、クレイが嬌声を上げてソファに爪を立てた。
「んあーーーーッ!」
ギュッと締めつけふるふると身を縮め身体を震わせているが、その姿は虐めて下さいと言っているようなものだ。
「あ…ロックウェル……」
涙目で煽ってこられるのも堪らなく嗜虐心を満たしてくれる。
「わかっている」
そしてソファを最大限に利用して足を上下に思い切り割り開き、恥ずかしい体勢を取らせた上で一気に奥まで抉るように腰を進めた。
先程まで挿れていたから、抵抗なくあっという間にそこへと収まっていく自身にほくそ笑む。
声もなく叫びを上げるクレイの奥をズンズンと突き上げ責め立てると、必死に逃げようとするかのように更にソファに爪を立てて腰を引くが、逃さないように腰を引き戻して容赦なく奥の奥まで犯した。
最初の頃はここを玩具で開発したが、慣れた今では自身でも十分楽しませてやれる。
「やらぁああッ!そこ、いやぁああッ!」
「もっと奥まで欲しいの間違いだろう?こんなに誘い込んでくるくせに…説得力がないな」
襞をカリの部分でコリコリと擦るようにしてやるとクレイが必死に身をくねらせ、それと同時に中の締めつけが強くなる。
身体はどこまでも正直だ。
ここから大量に注がれるのがクレイは大好きだというのに、いつもこうして可愛く抵抗してくるからたまらない。
これでもかと嗜虐心を煽ってくれるクレイが物凄く好きだ。
「ほら、魔力も込めて注いでやるからしっかり受け取れ」
「んひッ!らめっ、らめぇええっ!」
そう言いながらも腰を突き出し激しく振ってこちらを求めてくるのだからダメなはずがない。
「お前が求めるだけ、しっかり満足させてやるからな」
前と後ろから前立腺を責め立て、体位も変えて奥まで深く犯しつくす。
「あぐッ!ンアぁあッ!そんなにいっぺんにしないでッ!熱いぃッ!イってる!イってるぅ!いあぁあぁあッ!」
ドライで飛びまくり身悶え涙するクレイが可愛くて仕方がない。
「仕方のない奴だな。今度はこっちの体位がいいのか?」
「これもダメッ!あぁッ!ロックウェル…!溶ける……ッ!奥、嵌ってるッのに、そんなに突かないでッ!ひッ!」
「もうちょっといけるだろう?」
クレイの好きな事は全て分かっているから、全力で可愛がり満足するまで嬉々として魔力も子種も奥まで注いでやった。
「ふぁあ……ッ!ロックウェル…ッ!も、良すぎて死んじゃう!このまま壊れるほど愛してッ!」
完全に蕩けきり、陥落したクレイが色香全開で自分を甘く誘ってくる。
そんなクレイに回復魔法を掛けて、自身もまた溺れていった。
「あーーーーッ!」
「クレイッ、クレイッ!」
細腰を掴み、飽きる事なく何度も穿っては嬌声を上げさせる。
クレイはまるで麻薬のようだ。
「ん…んは……ぁッ」
そして最後に玩具を外して絶頂まで追いやれば、激しく身を震わせながら満足気に気を失った。
「はぁ…今日も最高だった」
自分をここまで満足させてくれるクレイは本当に最高だ。
相手が女なら絶対にここまではできないし、男だとて他の誰にも真似などできないだろう。
以前とは違い、自分の伴侶なのだと心の底から実感できる今が幸せ過ぎて少し怖い。
どうか誰にもこの幸せを壊されませんようにと願いながら、そっと愛しいクレイの髪に口づけを落とした。
***
「ロックウェル様。今日は随分とご機嫌ですね」
部下からそんな風に言われても構わないほど今日は最高に機嫌が良かった。
「新婚と言うのは思った以上にいい…と改めて思ってな」
思わずそう言ってしまったのだが、部下からはもうとっくに一年以上経ったのではと呆れられてしまった。
言いたい気持ちはわかるが、こればかりはクレイがズレているせいで実感するのが遅くなったのだから仕方がない。
「これまでは一方的に浮かれていただけだったと認識したんだ。今がまさに蜜月と言っていいだろうな」
クレイとの新しい関係が幸せ過ぎてつい惚気てしまうが、その辺りをわかっていない部下達は口々に言ってきた。
「あの取っ替え引っ替えのロックウェル様が結婚しただけでも驚きましたが、そこから全く飽きることなくずっとクレイだけを見てるというのが信じられないです」
「そうですよ~。ここだけの話、『三年以内に離婚』に賭けてる人が一番多いんですよ」
「一度結婚してるから、離婚後の後釜を狙ってる女性もすっごく多いですよ!」
「……私は離婚する気は一切ないんだが?」
「いやいや、ほら!相手がクレイでしょう?黒魔道士を長期間拘束できないだろうって考える奴と、ロックウェル様が一人で満足するはずがないって考える奴が半々でいるんですよ」
自分のことはまあ置いておくとして、どうやら彼ら曰く黒魔道士の離婚率はそれほど非常に高いのだそうだ。
「黒魔道士同士の夫婦は子供のために一時的に籍を入れて、別れた後は友人同士って言うのが割と普通なんですよね」
子供の戸籍さえ作れば後は互いに好きに過ごしていくものなのだと教えてくれる。
それはその黒魔道士が一流であればあるほど顕著で、子育てしながらでも仕事を選んで生活していける者ほど離婚を選ぶらしい。
元々が結婚という縛りに拘らない黒魔道士だからそれが普通なのだと言われ、確かに黒魔道士同士ならそうかもしれないなと納得がいった。
けれど自分達は黒魔道士と白魔道士だ。
その点で言えばこのケースは当てはまらないだろう。
それを指摘すると─────。
「確かにそうかもしれませんけど、白魔道士と黒魔道士の夫婦は喧嘩が絶えないと言われてますからね。別れても全然おかしくないんですよ」
「そもそも価値観が全然違いますしね」
離婚してからも友好的な付き合いの出来る黒魔道士同士の夫婦よりも、険悪な状態で離婚になってしまうことが多いこちらの夫婦の方がある意味厄介なのだと告げられた。
「そうそう。それにクレイはフリーの黒魔道士、方やロックウェル様は王宮勤めの多忙な管理職。お互いの立場が違いすぎるので、擦れ違いが生じて別れる可能性大って思われてるんですよ」
ただ自分が他者に嫉妬するほどクレイを愛しているとわかっている者も多いので、『三年以内に離婚』に賭ける者が多かったのだとか。
いずれにせよ、クレイが自分の束縛を嫌って離婚を持ち出すか、自分がクレイの奔放さに愛想が尽きて別な相手とくっつくか時間の問題だと思われていたらしい。
非常に的を射た見解なだけに、それはそれで非常に複雑だった。
確かに家出騒動がなかったとしたら自分の嫉妬が益々エスカレートして、遅かれ早かれ数年以内に関係が破綻していた可能性は否定できない。
今回の事で二人の仲が深まったからよかったものの、それは本当に偶然の産物だったと言えるだろう。
そうして黙り込んでいると、部下の黒魔道士が笑顔で暴言を吐いた。
「と言うか、付き合ってた時から散々寝てたらいい加減飽きてきませんか?いくらクレイが優秀な黒魔道士だとしても、百戦錬磨なロックウェル様と一年以上愉しめばそろそろマンネリになるでしょう?それこそ子供もできたことですし、このままレスになってもおかしくないのでは?」
その辺どうなのだと言われて、思わずはっきりと答えてしまった。
「……悪いがクレイには全く飽きないな。次から次に私を魅了して止まないから、つい子供を作りすぎてしまったくらいだぞ?まだまだ毎日でも抱き潰したいし、一生傍に置いて愛で続けたい」
あんなクレイに飽きるなんてあり得ない。
そうはっきりと明言してやったのだが、部下達は呆気にとられたように口を揃えてそんなバカなと言ってきた。
「……冗談でしょう?」
「さすがにそれは……」
どうやら信じていないらしく、苦笑している者までいる。
けれど事実なのだから仕方がないではないか。
「…ではお前達は抱かれる側が抱かれながら抱きたいと言ってきたら驚かないか?」
「え?」
「強請れと言って散々焦らしてやったら、懇願ではなく挑発するように蠱惑的に誘われて…それで猛らない自信があるか?」
「うっ…」
「もう陥落したと思って蹂躙して完全に主導権を握っているところで、僅かな隙を狙って形勢逆転を仕掛けられたら、もっと自分に夢中にさせてやると逆にヤル気になったりはしないか?」
「…………するかもしれませんね」
「だろう?」
元々魅力的な相手だが、こんな風に楽しませてくれる相手に飽きるなどあるわけがない。
だからこそ面白く、且つ愛おしくいつまでも夢中になるのだと言ってやると、納得がいったとばかりに皆に頷かれた。
「まさにロックウェル様のために存在するような相手ですね」
「本当に。そういうことなら寧ろ他の相手では物足りないと感じるでしょう」
そんな言葉にうんうんと皆が同意する。
「クレイの手管、私も見習わせてもらいます!」
「うぅ…私ももっと黒魔道士として精進しなくちゃ」
「クレイ恐るべし……。俺ももっと色々やってみるか」
そんな風に勝手に盛り上がる彼らを横目に休憩は終わりだと促し、気持ちを切り替えて仕事へと集中することにした。
***
それから数日後─────。
「ロックウェル様」
「ドルト殿」
仕事がひと段落したタイミングでドルトが自分の所へとやってきて、ソレを笑顔で示した。
「この水晶のブローチですが、さすがの一品でした」
それはクレイが先日作り子供達が届けてくれた魔道具だった。
一応自分でも試し、特に問題もなさそうだったのでそのままドルトへと渡したのだ。
「これがあれば陛下も大臣達もすぐに見つけられるので、非常に助かっています」
その口調と表情に僅かながら含みを持たせてくるところがドルトらしい。
恐らく悪巧みをする者達を探るのにも一役買っているのだろう。
本来の目的以外にネズミの捕獲にも役立つのであればまさに一石二鳥だ。
「非常に便利で使いやすく仕事に役立っているので助かっていると、どうぞクレイにお伝えください」
そうして微笑むドルトに、こちらもまた笑みで応える。
「ええ。そう伝えればクレイも喜ぶことでしょう」
そこで話はハインツとフローリアの話へと変わった。
それによると王宮に挨拶に来たフローリアとルッツが先程陛下との対面を終えたらしい。
そしてその場で正式にルッツがハインツの子であると認められたのだそうだ。
周囲の者達の態度も終始好意的で、特に問題もなかったとのこと。
このままいけば順当にフローリアとの婚姻が成り立ち、二人は幸せになれることだろう。
これで一つの憂いは無事に目途がついた。
「ドルト殿。その後奥方はいかがお過ごしですか?」
あと自分達の生活に陰りを齎すとすればミュラの件だろうかと思い話を振ってみると、ドルトはどこか申し訳なさそうな表情をしながら口を開いた。
「妻は…ここ最近ふさぎ込んでいる状況ですね」
記憶が戻り過去の自分を振り返っては涙を流したり大きな溜息を吐いたりと反省はしているようだという。
それを聞きクレイに対して何か言っていなかったかと一応尋ねてみると、それなのだがと沈痛な面持ちで別邸に来た日の心境を口にされた。
ミュラとしてはクレイと仲良くしたい気持ちがあってのことで、それが裏目に出たことであのような事になって申し訳なかったとの事だった。
悪気はなかったのだと言われても、これには正直どうするべきなのか皆目見当もつかない。
クレイが傷ついたのは事実だし、かと言ってこのままというのも後味の悪い展開だと思った。
「ドルト殿…正直これ以上クレイを傷つけたくない気持ちはありますが、せめて奥方のその気持ちだけは私の口から伝えさせていただければと思います」
今はそうする以外手はないだろうと言うと、ドルトもそれで十分だと言ってくれた。
けれどそこへヒュースが口を挟んでくる。
【少しよろしいでしょうか?】
「ああ」
それによるとどうやらクレイの方も時折溜息を吐いているらしいということが分かった。
自分や子供達が側にいる時などは大丈夫なようだが、やはりミュラの記憶を戻してしまった件で密かに心を痛めているらしい。
仕方のない面はあるが、眷属達としても少しでも何とかしてやりたい気持ちが大きいのだそうだ。
【それでですね、一先ず緩衝材として子供達のうちの誰かを母君の元に行かせてみてはいかがでしょう?】
それは正直意外な申し出だった。
「子供達の誰か…か」
悪くはないと提案だとは思う。
魔物達なら怯えられるだろうが、子供達は目の色は兎も角として姿は子供だ。
上手くいけば橋渡しの役目を果たしてくれるかもしれない。
となると、ここは一番しっかりしてそうなラピスがいいだろうか?それともクレイ似ではない方がいいならルナかリドか…。
「ここはやはり女同士の方がいいかもしれないな。ルナでどうだろう?」
そうだそうしようと口にしたが、ヒュースが口にしたのは別の相手だった。
【ルナよりもここはアメットの方が適役ですよ】
「アメット?」
それこそクレイに一番似ているし、避けた方が良いのではないだろうか?
そう思ってヒュースへと言うと、軽く笑いながらそれは違うと言われてしまった。
【クレイ様に似ていると言うことはそれだけ母君にも似ていると言うことです】
だからこそ意味があるとヒュースが言うので、それならばと呼び出してもらうことにした。
【お父様。ヒュースから聞きましたが、私に本邸に行けというのは本当ですか?】
アメットは来て早々困惑するように眉を下げた。
けれどそんなアメットにドルトが大きく目を瞠る。
「…………ミュラにそっくりだ」
そう言えばアメットにドルトはまだ会ったことがなかったかもしれないと思い、改めて紹介する。
「ドルト殿、次女のアメットです」
【アメットです。初めまして】
そうして礼をするアメットにドルトはハッと我に返って自己紹介をした。
「初めまして。私はドルト。レイン家の当主をしている」
【クレイ父様から聞いていますわ。尊敬するとても素晴らしいお方だと】
「……ありがとう」
少し困ったように笑うドルトにアメットがほのかに笑った後、こちらを向いた。
【お父様…クレイ父様とお母様の橋渡しを私なんかができるとお思いですか?】
どこか不安そうなアメットの気持ちもわからないではないが、ここはクレイのために一肌脱いで欲しいなと思った。
「不安なら誰かと一緒でも構わないが、ヒュースがアメットなら大丈夫だと太鼓判を押しているから、私はそれならばと思ったんだ」
どうだと尋ねてやると少し考えてから分かったと頷きを返した。
【それなら私から徐々に慣らす感じで頑張ってみますわ。それで怖がるようならクレイ父様に会わせるなんて無理もいいところですもの】
自分は別にミュラから怖がられようと全く気にしないが、クレイが傷つく姿を見るのは絶対に嫌だからとアメットは強い眼差しで言い切った。
【クレイ父様はお母様に似ている私も分け隔てなく可愛がってくださるもの。そんな父様の為ならこの役目、やらせていただきます】
「そうか。では時期が来るまではくれぐれもクレイの耳に入れないように」
きっとそんな話を聞けば勝手なことをするなと言って阻み、また勝手に傷ついて考え込んでドツボにハマるだろう事が容易に想像できる。
だから本人には内緒でまずはミュラの方に接触し、様子を見ようと皆で頷きあった。
***
その日、ミュラはそわそわしながらソファに座って来客を待っていた。
夫であるドルトから、クレイの子供達のうち一人が遊びにきてくれることになったと聞いたからだ。
その話を聞いた際、その子供はクレイに似て紫の瞳をしているドラゴンの子供だと言われた。
人とは違うが小さな子供だから叫んだらビックリするし、絶対にしないようにと念を押された。
その話を聞いた時は正直冷や汗をかいてしまった。
幼かったクレイの姿が思い出されて、胸がバクバクと弾む。
その子もこちらを見てあの子のように傷ついた顔をこちらに向けて来るのではないか?
それとも父を傷つけた相手として憎悪の眼差しを向けて来るのではないか?
そんなネガティブな思いばかりが込み上げてきてしまうが、クレイへの贖罪の気持ちがあるのならここで一歩踏み出すべきだと言われた。
だからこそこうしてその子を待っているのだが─────。
コンコン、という軽いノックの音に続きカチャッと扉がゆっくりと開かれる。
そしてドルトに連れてこられたのはクレイにも似ているが、どちらかというと自分の幼い頃にそっくりな女の子だった。
【初めまして、お母様。アメットと申します】
そうして淡い黄色のドレスの裾をそっとつまんで頭を下げる。
その後スッと上げられたその顔にあるのはクレイと同じ煌めく紫の瞳なのに、不思議と恐怖は込み上げてはこなかった。
そして、その瞳に嫌悪感も怒りも疎みも含まれていないことにも驚いた。
クレイは子供達に自分の事を何も話していないのだろうか?
「初めまして。私はミュラよ。今日はよろしくね」
そして少しだけ笑みを浮かべると、アメットはニコッと邪気のない笑みを返してくれた。
そこから庭園を散歩したりお茶を飲んだりしながら話してみると、アメットは実に素直で可愛らしい子供だった。
気づけば紫の瞳にも見慣れて、綺麗だなと思えるようになっている自分がいて意外だった。
【お母様】
そう呼んで笑いかけられると嬉しい気持ちがこみ上げる。
けれどそれと共に、どうして自分は昔クレイとこういう風に過ごせなかったのだろうという後悔が込み上げてきてしまった。
若かったと言えばそうなのだろう。
そしてフローリアが言っていたように、あまりにも自分は未熟な母親だった。
そんな自分が不甲斐なく感じられる。
「……アメット。貴女のお父様のお話を聞かせてくれる?」
気づけば自らそんな風に口にしている自分がいた。
よく考えたら自分はクレイから逃げてばかりで、その存在を受け入れることが出来ず避けてばかりいた。
話をする努力もせず、何を考え何を好むのかさえ何一つ知らなかった。
思い出されるのはただただ傷ついたような目で縋るようにこちらを見つめてくる姿と、項垂れながら泣きそうになっている姿だけだ。
幼い頃はこちらを気遣うようにわざと明るく振舞おうとしたり懸命に声をかけてくることもあったが、いつしかそれさえなくなってしまった。
【クレイ父様の事ですか?】
「ええ」
我が子のことなのに何も知らないというのも随分薄情だなと、今更ながら自嘲してしまう。
【クレイ父様はとっても優しいんですよ!兄妹皆分け隔てなく可愛がってくれるんです!この間も魔道書を読みながら、優しく黒魔法について教えてくれました】
「そう」
【あと、色々外遊びにも付き合ってくれるんです!黒魔道士なので好きな場所にいつでもいけるでしょう?だから、他国の荒野とかにもすぐに行けるので、そこで兄妹に魔法を教えてくれたりするんです。遊びを絡めて教えてくれるので、結構楽しいんです】
それを聞き、どうやらクレイは子供達と仲良く暮らしているということがわかった。
「ロックウェル様はご一緒しないの?」
仕事が忙しいのはあるだろうが、夫婦仲の方はどうなのだろうか?
男同士の結婚というのがよくわからないが、友人同士で住むと言うのと大差はないだろうからそこはあまり気にしていなかったのだが、仕事が全然違うと聞いたのですれ違ってはいないかが少し心配になった。
【お父様は昼間はお仕事が忙しいから、クレイ父様とだけですわ。でも夫婦仲は凄くいいので心配しなくても大丈夫ですよ?】
そしてクスクス笑いながら、クレイについて色々な話をしてくれた。
特にロックウェルと一緒にいる時は幸せそうにしているというのを聞いて、挨拶にきてくれた時の姿を思い出す。
そっと寄り添って彼を頼りにしている姿を見て、本当に好きなんだなと思ったものだ。
【クレイ父様はとっても可愛いんです!でも普段は人見知りなのか壁を作ってしまうようで、親しい人にしかそんな姿をなかなか見せないんですよ】
アメットはどこか残念そうにそうやってクレイについて語る。
【あのお父様だって、クレイ父様を落とすのにはすっごく苦労したと聞きましたわ】
それから二人の馴れ初めなどまで楽しげに聞かされた。
それによるとどうやらロックウェルの方からクレイを落としにいったらしい。
【お父様はクレイ父様にゾッコンなので、あの手この手で虜にして最終的に法律まで変えて結婚してしまったのです。創国以来のラブロマンスだと一部の淑女達が騒いだらしいですよ】
無邪気に笑いながら教えてくれたが、これは自分が思っていた以上に凄いことなのではないだろうか?
滅多に聞かない白魔道士と黒魔道士の結婚。
初めての男同士の結婚。
しかも王宮でトップレベルの地位にいる魔道士長と王の庶子の婚姻だ。
弊害は多々あっただろうなという発想にこれまで思い至らなかった自分は、どれだけ世間知らずだったのだろう?
けれどそれだけ愛してくれる相手に出会えて良かったと思える自分が居た。
そしてきっとそれがあったからこそ、レイン家に戻る気にもなってくれたのだろう。
「……あの子が幸せなら、私は言うことはないわ」
願うのはただ、クレイの幸せだけだ。
自分が傷つけてしまった事はもう取り返しがつかないことだということくらい嫌というほどわかっている。
だから─────。
「アメット。今日は来てくれてありがとう。クレイの事を沢山知れて嬉しかったわ」
それは本当に本心からの言葉だった。
今日過ごした時間は穏やかで楽しい時間ではあったが、きっとアメットと会えるのもこれが最後だろう。
そう何度も会えるとは端から考えてはいない。
それほど虫のいい話があるわけがないからだ
だからこそ、勝手だとは思ったがクレイに宛てて手紙を書いた。
「これを…クレイに渡してもらえる?」
読んでもらえないかも知れない。
手に取ってさえもらえないかも知れない。
宛名を見て、すぐさま燃やされてしまうかも知れない。
けれど自分が犯した罪はそれだけひどい事なのだと自覚しているから、そうなっても仕方がないと思った。
これはただの自己満足に過ぎないけれど、それでもいいからとペンを手に取ったのだ。
そしてアメットはどこか複雑そうな表情で困ったようにしながらも、それを受け取り挨拶をして帰っていった。
今日もクレイが腕の中で甘く蕩けた顔で可愛く啼く。
つい先程まで嬉々として試したい体位を試していたのだが、十分に満足したところで今度はこちらの好きにさせてくれていた。
黒魔道士然としたクレイをこうして溶かすのはまた格別だ。
正直今日のロイドとのやり取りはこれまでと然程変わらないようには見えた。
けれどその内容はただのロイドの愚痴のようなもので、シュバルツがわかってくれないからクレイに慰めてもらっていると言う感じに映った。
それはどうやらその通りだったらしく、二人で目で会話しクレイがロイドを慰めているのは明白だった。
とは言えそう甘やかさなくてもいいのではないかと思い優しくそう言ってやったら、クレイはこれまでのように反発してくる事なく、何故かそっと口づけを送ってくれた。
これは正直意外でしかなく、つい呆けてしまったほどだ。
しかも甘えたくなると言って身を寄せてくれたことも意外だった。
一体これまでと何が違うのか……。
こうして自然に甘えてもらえるのは物凄く嬉しいが、シュバルツが魅了の魔法を開発したのかと疑いたくなるのもわかるほどクレイの方から甘えてくるのは不思議に感じられた。
そんな自分に【自分を受け入れてもらえている、わかってもらえているという信頼感がどうもクレイ様を良い方向に変えてくれたようですね】と嫉妬されないからこその安堵もあるのではないかとヒュースはこっそり言ってくれたのだった。
「んんっ…!はぁ…ロックウェル…今度はあっちがいい」
そう言って立位で達したところで息を整え誘われたのはソファだった。
そろそろ立ってやるのが疲れてきたから移動したいといったところか。
「次は狭いところでやりたくなった」
「ああいいな。お前の恥ずかしいところを沢山見てやろうな」
ソファは実はクレイの苦手な体位が多く試せる絶好の場所だ。
故にベッドではなくソファを選んだのは虐めて欲しいと言ったも同然で、そんなクレイの行動にまたしても嬉しくなってしまう。
次はドSで嬲ってもらいたいと訴えているのは間違いない。
こうして自分だけを求めてもらえるのはたまらなく嬉しくて、妙に男心が擽られてしまう。
ここで満足させてやれなければ男が廃るというものだろう。
「今日は久し振りに玩具もたっぷり使ってやろうな」
以前の嫉妬に駆られた時とは違い、これからはクレイを存分に愛するためにだけ玩具を使ってやりたい。
虐め方にだって色々あるものだ。
ただ嬲るだけではなく愛情を感じさせながら官能を引き出す使い方も当然ある。
虐められるのが大好きなクレイの要望を満たしつつ愛情も伝える…そんな閨をこれからは充実させていきたいと思った。
「はっはふっ……、ロックウェル…ッ!これ、なんだか前と違う……ッ!」
「そんな事はない。気のせいだ」
そう言いながらも、クレイの胸をクリップで挟み僅かな魔力で振動させる。
そうしてゆるりと立ち上がってきた雄の先端から凹凸のついた長い器具を差し込んでいく。
「んんっ…!は…ぁ…これ、ダメ…」
「大丈夫だ。ちゃんと加減する」
そして奥まで挿れたところでこちらにも微弱な魔力を送り込んだ。
「は…はぁう…ッ!気持ちいい…」
ピクンピクンと身体を僅かに震わせて、クレイの表情が恍惚としたものに変わっていく。
「クレイ、気持ちいいか?」
「ん…いいッ!」
「そうか。じゃあ後ろにも挿れてやろうな」
その言葉と共にズズッとそそり立った自身を挿れていってやると、クレイが嬌声を上げてソファに爪を立てた。
「んあーーーーッ!」
ギュッと締めつけふるふると身を縮め身体を震わせているが、その姿は虐めて下さいと言っているようなものだ。
「あ…ロックウェル……」
涙目で煽ってこられるのも堪らなく嗜虐心を満たしてくれる。
「わかっている」
そしてソファを最大限に利用して足を上下に思い切り割り開き、恥ずかしい体勢を取らせた上で一気に奥まで抉るように腰を進めた。
先程まで挿れていたから、抵抗なくあっという間にそこへと収まっていく自身にほくそ笑む。
声もなく叫びを上げるクレイの奥をズンズンと突き上げ責め立てると、必死に逃げようとするかのように更にソファに爪を立てて腰を引くが、逃さないように腰を引き戻して容赦なく奥の奥まで犯した。
最初の頃はここを玩具で開発したが、慣れた今では自身でも十分楽しませてやれる。
「やらぁああッ!そこ、いやぁああッ!」
「もっと奥まで欲しいの間違いだろう?こんなに誘い込んでくるくせに…説得力がないな」
襞をカリの部分でコリコリと擦るようにしてやるとクレイが必死に身をくねらせ、それと同時に中の締めつけが強くなる。
身体はどこまでも正直だ。
ここから大量に注がれるのがクレイは大好きだというのに、いつもこうして可愛く抵抗してくるからたまらない。
これでもかと嗜虐心を煽ってくれるクレイが物凄く好きだ。
「ほら、魔力も込めて注いでやるからしっかり受け取れ」
「んひッ!らめっ、らめぇええっ!」
そう言いながらも腰を突き出し激しく振ってこちらを求めてくるのだからダメなはずがない。
「お前が求めるだけ、しっかり満足させてやるからな」
前と後ろから前立腺を責め立て、体位も変えて奥まで深く犯しつくす。
「あぐッ!ンアぁあッ!そんなにいっぺんにしないでッ!熱いぃッ!イってる!イってるぅ!いあぁあぁあッ!」
ドライで飛びまくり身悶え涙するクレイが可愛くて仕方がない。
「仕方のない奴だな。今度はこっちの体位がいいのか?」
「これもダメッ!あぁッ!ロックウェル…!溶ける……ッ!奥、嵌ってるッのに、そんなに突かないでッ!ひッ!」
「もうちょっといけるだろう?」
クレイの好きな事は全て分かっているから、全力で可愛がり満足するまで嬉々として魔力も子種も奥まで注いでやった。
「ふぁあ……ッ!ロックウェル…ッ!も、良すぎて死んじゃう!このまま壊れるほど愛してッ!」
完全に蕩けきり、陥落したクレイが色香全開で自分を甘く誘ってくる。
そんなクレイに回復魔法を掛けて、自身もまた溺れていった。
「あーーーーッ!」
「クレイッ、クレイッ!」
細腰を掴み、飽きる事なく何度も穿っては嬌声を上げさせる。
クレイはまるで麻薬のようだ。
「ん…んは……ぁッ」
そして最後に玩具を外して絶頂まで追いやれば、激しく身を震わせながら満足気に気を失った。
「はぁ…今日も最高だった」
自分をここまで満足させてくれるクレイは本当に最高だ。
相手が女なら絶対にここまではできないし、男だとて他の誰にも真似などできないだろう。
以前とは違い、自分の伴侶なのだと心の底から実感できる今が幸せ過ぎて少し怖い。
どうか誰にもこの幸せを壊されませんようにと願いながら、そっと愛しいクレイの髪に口づけを落とした。
***
「ロックウェル様。今日は随分とご機嫌ですね」
部下からそんな風に言われても構わないほど今日は最高に機嫌が良かった。
「新婚と言うのは思った以上にいい…と改めて思ってな」
思わずそう言ってしまったのだが、部下からはもうとっくに一年以上経ったのではと呆れられてしまった。
言いたい気持ちはわかるが、こればかりはクレイがズレているせいで実感するのが遅くなったのだから仕方がない。
「これまでは一方的に浮かれていただけだったと認識したんだ。今がまさに蜜月と言っていいだろうな」
クレイとの新しい関係が幸せ過ぎてつい惚気てしまうが、その辺りをわかっていない部下達は口々に言ってきた。
「あの取っ替え引っ替えのロックウェル様が結婚しただけでも驚きましたが、そこから全く飽きることなくずっとクレイだけを見てるというのが信じられないです」
「そうですよ~。ここだけの話、『三年以内に離婚』に賭けてる人が一番多いんですよ」
「一度結婚してるから、離婚後の後釜を狙ってる女性もすっごく多いですよ!」
「……私は離婚する気は一切ないんだが?」
「いやいや、ほら!相手がクレイでしょう?黒魔道士を長期間拘束できないだろうって考える奴と、ロックウェル様が一人で満足するはずがないって考える奴が半々でいるんですよ」
自分のことはまあ置いておくとして、どうやら彼ら曰く黒魔道士の離婚率はそれほど非常に高いのだそうだ。
「黒魔道士同士の夫婦は子供のために一時的に籍を入れて、別れた後は友人同士って言うのが割と普通なんですよね」
子供の戸籍さえ作れば後は互いに好きに過ごしていくものなのだと教えてくれる。
それはその黒魔道士が一流であればあるほど顕著で、子育てしながらでも仕事を選んで生活していける者ほど離婚を選ぶらしい。
元々が結婚という縛りに拘らない黒魔道士だからそれが普通なのだと言われ、確かに黒魔道士同士ならそうかもしれないなと納得がいった。
けれど自分達は黒魔道士と白魔道士だ。
その点で言えばこのケースは当てはまらないだろう。
それを指摘すると─────。
「確かにそうかもしれませんけど、白魔道士と黒魔道士の夫婦は喧嘩が絶えないと言われてますからね。別れても全然おかしくないんですよ」
「そもそも価値観が全然違いますしね」
離婚してからも友好的な付き合いの出来る黒魔道士同士の夫婦よりも、険悪な状態で離婚になってしまうことが多いこちらの夫婦の方がある意味厄介なのだと告げられた。
「そうそう。それにクレイはフリーの黒魔道士、方やロックウェル様は王宮勤めの多忙な管理職。お互いの立場が違いすぎるので、擦れ違いが生じて別れる可能性大って思われてるんですよ」
ただ自分が他者に嫉妬するほどクレイを愛しているとわかっている者も多いので、『三年以内に離婚』に賭ける者が多かったのだとか。
いずれにせよ、クレイが自分の束縛を嫌って離婚を持ち出すか、自分がクレイの奔放さに愛想が尽きて別な相手とくっつくか時間の問題だと思われていたらしい。
非常に的を射た見解なだけに、それはそれで非常に複雑だった。
確かに家出騒動がなかったとしたら自分の嫉妬が益々エスカレートして、遅かれ早かれ数年以内に関係が破綻していた可能性は否定できない。
今回の事で二人の仲が深まったからよかったものの、それは本当に偶然の産物だったと言えるだろう。
そうして黙り込んでいると、部下の黒魔道士が笑顔で暴言を吐いた。
「と言うか、付き合ってた時から散々寝てたらいい加減飽きてきませんか?いくらクレイが優秀な黒魔道士だとしても、百戦錬磨なロックウェル様と一年以上愉しめばそろそろマンネリになるでしょう?それこそ子供もできたことですし、このままレスになってもおかしくないのでは?」
その辺どうなのだと言われて、思わずはっきりと答えてしまった。
「……悪いがクレイには全く飽きないな。次から次に私を魅了して止まないから、つい子供を作りすぎてしまったくらいだぞ?まだまだ毎日でも抱き潰したいし、一生傍に置いて愛で続けたい」
あんなクレイに飽きるなんてあり得ない。
そうはっきりと明言してやったのだが、部下達は呆気にとられたように口を揃えてそんなバカなと言ってきた。
「……冗談でしょう?」
「さすがにそれは……」
どうやら信じていないらしく、苦笑している者までいる。
けれど事実なのだから仕方がないではないか。
「…ではお前達は抱かれる側が抱かれながら抱きたいと言ってきたら驚かないか?」
「え?」
「強請れと言って散々焦らしてやったら、懇願ではなく挑発するように蠱惑的に誘われて…それで猛らない自信があるか?」
「うっ…」
「もう陥落したと思って蹂躙して完全に主導権を握っているところで、僅かな隙を狙って形勢逆転を仕掛けられたら、もっと自分に夢中にさせてやると逆にヤル気になったりはしないか?」
「…………するかもしれませんね」
「だろう?」
元々魅力的な相手だが、こんな風に楽しませてくれる相手に飽きるなどあるわけがない。
だからこそ面白く、且つ愛おしくいつまでも夢中になるのだと言ってやると、納得がいったとばかりに皆に頷かれた。
「まさにロックウェル様のために存在するような相手ですね」
「本当に。そういうことなら寧ろ他の相手では物足りないと感じるでしょう」
そんな言葉にうんうんと皆が同意する。
「クレイの手管、私も見習わせてもらいます!」
「うぅ…私ももっと黒魔道士として精進しなくちゃ」
「クレイ恐るべし……。俺ももっと色々やってみるか」
そんな風に勝手に盛り上がる彼らを横目に休憩は終わりだと促し、気持ちを切り替えて仕事へと集中することにした。
***
それから数日後─────。
「ロックウェル様」
「ドルト殿」
仕事がひと段落したタイミングでドルトが自分の所へとやってきて、ソレを笑顔で示した。
「この水晶のブローチですが、さすがの一品でした」
それはクレイが先日作り子供達が届けてくれた魔道具だった。
一応自分でも試し、特に問題もなさそうだったのでそのままドルトへと渡したのだ。
「これがあれば陛下も大臣達もすぐに見つけられるので、非常に助かっています」
その口調と表情に僅かながら含みを持たせてくるところがドルトらしい。
恐らく悪巧みをする者達を探るのにも一役買っているのだろう。
本来の目的以外にネズミの捕獲にも役立つのであればまさに一石二鳥だ。
「非常に便利で使いやすく仕事に役立っているので助かっていると、どうぞクレイにお伝えください」
そうして微笑むドルトに、こちらもまた笑みで応える。
「ええ。そう伝えればクレイも喜ぶことでしょう」
そこで話はハインツとフローリアの話へと変わった。
それによると王宮に挨拶に来たフローリアとルッツが先程陛下との対面を終えたらしい。
そしてその場で正式にルッツがハインツの子であると認められたのだそうだ。
周囲の者達の態度も終始好意的で、特に問題もなかったとのこと。
このままいけば順当にフローリアとの婚姻が成り立ち、二人は幸せになれることだろう。
これで一つの憂いは無事に目途がついた。
「ドルト殿。その後奥方はいかがお過ごしですか?」
あと自分達の生活に陰りを齎すとすればミュラの件だろうかと思い話を振ってみると、ドルトはどこか申し訳なさそうな表情をしながら口を開いた。
「妻は…ここ最近ふさぎ込んでいる状況ですね」
記憶が戻り過去の自分を振り返っては涙を流したり大きな溜息を吐いたりと反省はしているようだという。
それを聞きクレイに対して何か言っていなかったかと一応尋ねてみると、それなのだがと沈痛な面持ちで別邸に来た日の心境を口にされた。
ミュラとしてはクレイと仲良くしたい気持ちがあってのことで、それが裏目に出たことであのような事になって申し訳なかったとの事だった。
悪気はなかったのだと言われても、これには正直どうするべきなのか皆目見当もつかない。
クレイが傷ついたのは事実だし、かと言ってこのままというのも後味の悪い展開だと思った。
「ドルト殿…正直これ以上クレイを傷つけたくない気持ちはありますが、せめて奥方のその気持ちだけは私の口から伝えさせていただければと思います」
今はそうする以外手はないだろうと言うと、ドルトもそれで十分だと言ってくれた。
けれどそこへヒュースが口を挟んでくる。
【少しよろしいでしょうか?】
「ああ」
それによるとどうやらクレイの方も時折溜息を吐いているらしいということが分かった。
自分や子供達が側にいる時などは大丈夫なようだが、やはりミュラの記憶を戻してしまった件で密かに心を痛めているらしい。
仕方のない面はあるが、眷属達としても少しでも何とかしてやりたい気持ちが大きいのだそうだ。
【それでですね、一先ず緩衝材として子供達のうちの誰かを母君の元に行かせてみてはいかがでしょう?】
それは正直意外な申し出だった。
「子供達の誰か…か」
悪くはないと提案だとは思う。
魔物達なら怯えられるだろうが、子供達は目の色は兎も角として姿は子供だ。
上手くいけば橋渡しの役目を果たしてくれるかもしれない。
となると、ここは一番しっかりしてそうなラピスがいいだろうか?それともクレイ似ではない方がいいならルナかリドか…。
「ここはやはり女同士の方がいいかもしれないな。ルナでどうだろう?」
そうだそうしようと口にしたが、ヒュースが口にしたのは別の相手だった。
【ルナよりもここはアメットの方が適役ですよ】
「アメット?」
それこそクレイに一番似ているし、避けた方が良いのではないだろうか?
そう思ってヒュースへと言うと、軽く笑いながらそれは違うと言われてしまった。
【クレイ様に似ていると言うことはそれだけ母君にも似ていると言うことです】
だからこそ意味があるとヒュースが言うので、それならばと呼び出してもらうことにした。
【お父様。ヒュースから聞きましたが、私に本邸に行けというのは本当ですか?】
アメットは来て早々困惑するように眉を下げた。
けれどそんなアメットにドルトが大きく目を瞠る。
「…………ミュラにそっくりだ」
そう言えばアメットにドルトはまだ会ったことがなかったかもしれないと思い、改めて紹介する。
「ドルト殿、次女のアメットです」
【アメットです。初めまして】
そうして礼をするアメットにドルトはハッと我に返って自己紹介をした。
「初めまして。私はドルト。レイン家の当主をしている」
【クレイ父様から聞いていますわ。尊敬するとても素晴らしいお方だと】
「……ありがとう」
少し困ったように笑うドルトにアメットがほのかに笑った後、こちらを向いた。
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どうだと尋ねてやると少し考えてから分かったと頷きを返した。
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自分は別にミュラから怖がられようと全く気にしないが、クレイが傷つく姿を見るのは絶対に嫌だからとアメットは強い眼差しで言い切った。
【クレイ父様はお母様に似ている私も分け隔てなく可愛がってくださるもの。そんな父様の為ならこの役目、やらせていただきます】
「そうか。では時期が来るまではくれぐれもクレイの耳に入れないように」
きっとそんな話を聞けば勝手なことをするなと言って阻み、また勝手に傷ついて考え込んでドツボにハマるだろう事が容易に想像できる。
だから本人には内緒でまずはミュラの方に接触し、様子を見ようと皆で頷きあった。
***
その日、ミュラはそわそわしながらソファに座って来客を待っていた。
夫であるドルトから、クレイの子供達のうち一人が遊びにきてくれることになったと聞いたからだ。
その話を聞いた際、その子供はクレイに似て紫の瞳をしているドラゴンの子供だと言われた。
人とは違うが小さな子供だから叫んだらビックリするし、絶対にしないようにと念を押された。
その話を聞いた時は正直冷や汗をかいてしまった。
幼かったクレイの姿が思い出されて、胸がバクバクと弾む。
その子もこちらを見てあの子のように傷ついた顔をこちらに向けて来るのではないか?
それとも父を傷つけた相手として憎悪の眼差しを向けて来るのではないか?
そんなネガティブな思いばかりが込み上げてきてしまうが、クレイへの贖罪の気持ちがあるのならここで一歩踏み出すべきだと言われた。
だからこそこうしてその子を待っているのだが─────。
コンコン、という軽いノックの音に続きカチャッと扉がゆっくりと開かれる。
そしてドルトに連れてこられたのはクレイにも似ているが、どちらかというと自分の幼い頃にそっくりな女の子だった。
【初めまして、お母様。アメットと申します】
そうして淡い黄色のドレスの裾をそっとつまんで頭を下げる。
その後スッと上げられたその顔にあるのはクレイと同じ煌めく紫の瞳なのに、不思議と恐怖は込み上げてはこなかった。
そして、その瞳に嫌悪感も怒りも疎みも含まれていないことにも驚いた。
クレイは子供達に自分の事を何も話していないのだろうか?
「初めまして。私はミュラよ。今日はよろしくね」
そして少しだけ笑みを浮かべると、アメットはニコッと邪気のない笑みを返してくれた。
そこから庭園を散歩したりお茶を飲んだりしながら話してみると、アメットは実に素直で可愛らしい子供だった。
気づけば紫の瞳にも見慣れて、綺麗だなと思えるようになっている自分がいて意外だった。
【お母様】
そう呼んで笑いかけられると嬉しい気持ちがこみ上げる。
けれどそれと共に、どうして自分は昔クレイとこういう風に過ごせなかったのだろうという後悔が込み上げてきてしまった。
若かったと言えばそうなのだろう。
そしてフローリアが言っていたように、あまりにも自分は未熟な母親だった。
そんな自分が不甲斐なく感じられる。
「……アメット。貴女のお父様のお話を聞かせてくれる?」
気づけば自らそんな風に口にしている自分がいた。
よく考えたら自分はクレイから逃げてばかりで、その存在を受け入れることが出来ず避けてばかりいた。
話をする努力もせず、何を考え何を好むのかさえ何一つ知らなかった。
思い出されるのはただただ傷ついたような目で縋るようにこちらを見つめてくる姿と、項垂れながら泣きそうになっている姿だけだ。
幼い頃はこちらを気遣うようにわざと明るく振舞おうとしたり懸命に声をかけてくることもあったが、いつしかそれさえなくなってしまった。
【クレイ父様の事ですか?】
「ええ」
我が子のことなのに何も知らないというのも随分薄情だなと、今更ながら自嘲してしまう。
【クレイ父様はとっても優しいんですよ!兄妹皆分け隔てなく可愛がってくれるんです!この間も魔道書を読みながら、優しく黒魔法について教えてくれました】
「そう」
【あと、色々外遊びにも付き合ってくれるんです!黒魔道士なので好きな場所にいつでもいけるでしょう?だから、他国の荒野とかにもすぐに行けるので、そこで兄妹に魔法を教えてくれたりするんです。遊びを絡めて教えてくれるので、結構楽しいんです】
それを聞き、どうやらクレイは子供達と仲良く暮らしているということがわかった。
「ロックウェル様はご一緒しないの?」
仕事が忙しいのはあるだろうが、夫婦仲の方はどうなのだろうか?
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【お父様は昼間はお仕事が忙しいから、クレイ父様とだけですわ。でも夫婦仲は凄くいいので心配しなくても大丈夫ですよ?】
そしてクスクス笑いながら、クレイについて色々な話をしてくれた。
特にロックウェルと一緒にいる時は幸せそうにしているというのを聞いて、挨拶にきてくれた時の姿を思い出す。
そっと寄り添って彼を頼りにしている姿を見て、本当に好きなんだなと思ったものだ。
【クレイ父様はとっても可愛いんです!でも普段は人見知りなのか壁を作ってしまうようで、親しい人にしかそんな姿をなかなか見せないんですよ】
アメットはどこか残念そうにそうやってクレイについて語る。
【あのお父様だって、クレイ父様を落とすのにはすっごく苦労したと聞きましたわ】
それから二人の馴れ初めなどまで楽しげに聞かされた。
それによるとどうやらロックウェルの方からクレイを落としにいったらしい。
【お父様はクレイ父様にゾッコンなので、あの手この手で虜にして最終的に法律まで変えて結婚してしまったのです。創国以来のラブロマンスだと一部の淑女達が騒いだらしいですよ】
無邪気に笑いながら教えてくれたが、これは自分が思っていた以上に凄いことなのではないだろうか?
滅多に聞かない白魔道士と黒魔道士の結婚。
初めての男同士の結婚。
しかも王宮でトップレベルの地位にいる魔道士長と王の庶子の婚姻だ。
弊害は多々あっただろうなという発想にこれまで思い至らなかった自分は、どれだけ世間知らずだったのだろう?
けれどそれだけ愛してくれる相手に出会えて良かったと思える自分が居た。
そしてきっとそれがあったからこそ、レイン家に戻る気にもなってくれたのだろう。
「……あの子が幸せなら、私は言うことはないわ」
願うのはただ、クレイの幸せだけだ。
自分が傷つけてしまった事はもう取り返しがつかないことだということくらい嫌というほどわかっている。
だから─────。
「アメット。今日は来てくれてありがとう。クレイの事を沢山知れて嬉しかったわ」
それは本当に本心からの言葉だった。
今日過ごした時間は穏やかで楽しい時間ではあったが、きっとアメットと会えるのもこれが最後だろう。
そう何度も会えるとは端から考えてはいない。
それほど虫のいい話があるわけがないからだ
だからこそ、勝手だとは思ったがクレイに宛てて手紙を書いた。
「これを…クレイに渡してもらえる?」
読んでもらえないかも知れない。
手に取ってさえもらえないかも知れない。
宛名を見て、すぐさま燃やされてしまうかも知れない。
けれど自分が犯した罪はそれだけひどい事なのだと自覚しているから、そうなっても仕方がないと思った。
これはただの自己満足に過ぎないけれど、それでもいいからとペンを手に取ったのだ。
そしてアメットはどこか複雑そうな表情で困ったようにしながらも、それを受け取り挨拶をして帰っていった。
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