【本編完結】公爵令息は逃亡しました。

オレンジペコ

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1.※プロローグ

ここは王城の一室────。
そこで俺は一人の男の腕の中でいつものように喘がされていた。

「んっ…あっ…はぁっ…」

初めの頃はどこかぎこちなかったはずのその手は、今やすっかり手慣れた様子で俺を快感の海へと連れ去っていく。

「エディ…」

しっとりと艶を含んだ声で囁きを落としてくる相手の腕の中、俺はあっさりと絶頂へと追いやられ、余韻に震える身体と乱れた呼吸を整えながら考える。
この関係はいつ終わりを迎えるのだろうかと。




ジルフィール公爵家の次男、エディアス。
それが俺の名だ。
俺を抱くのはこの国、マーヴァインの第二王子アリスト=マーヴァイン。
将来的に俺はこのアリストの側近になる予定。

ちなみに俺には兄が一人いて、両親は常に兄優先の長男至上主義。
まあある程度はどこの家もそんなものだろうと思う。
ただ他と違ったのは、兄がちょっとどころではなく厄介な人だったというその点に尽きる。

『エディアス。今日も頼んだぞ』

兄がそう言いながら学園の課題を丸投げしてくるのなんて当たり前。
しかもチェックだけはしっかりやってくるから、手抜きは一切許されない。
兄は別に頭が悪いわけじゃなく、どちらかと言うと天才とも言える男で、問題を見るだけで答えがわかる人なのだ。
全部脳内処理で答えを叩き出すから、過程を紙に書くという面倒ごとが煩わしいと言いながら俺に押し付けてくる。
そこに悪気は一切ない。
本人的に『些事は弟のお前がやれ』という認識なのだ。
面倒臭がりにも程がある。

そんな感じだから両親も面倒ごとは俺がやって当然だと言い出す始末。
これは何も学園に入ってからの話というわけではない。
俺が10才を迎える頃には既にそれが当たり前になっていた。
どうせそのうちやるんだし今やろうと一緒だと言われるが、二年先の勉強を先取りってふざけるなと言いたい。

最初のうちは寝る間も惜しんで勉強する羽目になったし、頑張った俺を少しは褒めて欲しい。
疲労回復魔法、身体強化魔法は本当に便利で、当時特に使いまくっていたからかなり鍛えられたし、風呂に入る時間があれば勉強しろと言われた日は生活魔法である洗浄魔法で凌いでいたからそれも今では自由自在だ。
一般的に手洗い魔法と言われる魔法を使って全身を綺麗にする羽目になるなんてと、最初は惨めで泣きじゃくったっけ。
今は情事の後にも使えて便利だと思ってるし、熟練度が高いお陰で一瞬で綺麗になるからもうそんな風に思ったりはしないけど。
本当に魔法様様だ。

「エディ。今日も泊っていかないのか?」
「ああ。今日も帰る」

アリストがいつもの如く引き留めてくるけれど、俺はある程度落ち着いたらさっさとベッドを降りる。
まだ少し学園の課題が残っているのだ。
兄の分が終わっても、自分の分だってやらないといけない。
それが残っているから、早く帰ってやらないと。

「じゃあまた」
「……仕方ない。またな」

そう言って俺はアリストの部屋を後にする。
一瞬で視界が変わり、見慣れた自分の部屋へと辿り着き、俺は思い切り伸びをした。
転移魔法って本当に便利。

ちなみに我が家は馬車も当然父や兄優先で、俺はオマケだ。
学園へ行く際、行きは兄と一緒でも帰りが違うなんてよくある話。
置いてけぼりにされたら友人に頭を下げて同乗させてもらう羽目になった。
それもまた惨めで、俺は書庫で見つけた魔法書を読み込み、意地で転移魔法を習得した。
これなら置いていかれても一人で帰れる。
今はそれが役に立っている。

それ以外にも普段から兄の後始末をしている関係で覚えたスキルや魔法も多々ある。
色々あるけれど一例をあげるならこれだろうか?
兄が魔法でやらかして壁を破壊したと聞かされた際、そこに出向いて謝罪して修繕のためあれこれ本をひっくり返して修繕方法を学び、できる限り手を尽くした。
そこで必然的に修繕スキルが身についた。
中には怒り狂って完璧に戻せという人もいたから、そこからまた勉強して修復魔法を覚えた。
今では手慣れたものだ。

そんな日々を送る俺の苦労をわかってくれたただ一人の人。
それがアリストだった。
アリストも俺と同じく兄に振り回される立場だったから。

彼の兄は言わずもがな。この国の王太子だ。
こちらはうちとは違い不出来な兄で、そんな王太子を支えるために努力を強いられたらしい。
帝王学をはじめとする学問も、魔法も剣術も語学さえ、全てにおいて妥協は許されず厳しく学ばされたアリスト。
その環境はあまりにも過酷だった。
それなのに本人はそれをあまり表には出さない。

『タイプは違うが、振り回されるって点じゃあ一緒だな』

幼い日に泣きながら我が家の事情を聞いてもらった時にそう言ってくれたから、俺はアリストと友達になった。

それ以来時折愚痴を溢し合い、他愛のない話をして和む平和な時間を共に過ごした。
そんな友情を育む時間が崩れたのはかれこれ1年ほど前だ。

酷く落ち込み今にも泣きそうな顔をするアリストを慰めたくて、俺がそっと触れるだけのキスをしたのが切っ掛け。
そこからはもうなし崩しだった。
止める間も無く激しく口づけられて、あれよあれよと言う間に抱かれてしまった。
でも後悔はしていない。
だってアリストは────。

『エディ…初めてを俺にくれてありがとう』

そう言ってどこか心満たされたように笑ってくれたから。
ちゃんと慰めになったようで良かったと俺は心底安心し『アリストが喜んでくれたなら嬉しい』って笑顔で答えたんだっけ。
それ以来、こうして恋人でもないのに抱かれる関係になった。

ここ数か月、兄が王太子の仕事の手伝いを始めてからアリストにまで仕事が降ってくるようになったため、それを補佐するために俺も毎日のようにここへと出入りしているし、そのついでで抱かれる頻度が増えた。
こんなにも頻繁に抱かれるとなんだか恋人同士のようだと錯覚してしまいそうになるから非常に困る。
本当は今も少しくらい事後の余韻に浸りたい気持ちがあるけど、勘違いしないようにちゃんと線引きはしておかないといけない。
俺達はあくまでも友人同士。
それ以上でもそれ以下でもない…よし!

ちなみにベッドの中では『愛してる』ってアリストは言ってくるけど、ピロートークを本気に取るほど俺は馬鹿ではないつもりだ。
俺自身はアリストのことが大好きだけど、これはあくまでも俺の片思いと割り切っている。
この国に同性婚の制度はないんだから、王子であるアリストに何かを期待するはずがない。
普段の俺達は第二王子と公爵令息という関係を崩すことはないし、ちゃんと俺は自分の立場を弁えている。
端的に言って今の俺達の関係はセフレと呼ばれるものなんだろう。

好きな相手に気分次第で抱いてもらえる。
俺はそれだけで十分だったんだ。


****************

※補足
ここでの貴族が通う学園は15~20才までの6年制学校設定です。

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