【本編完結】公爵令息は逃亡しました。

オレンジペコ

文字の大きさ
25 / 51

24.戻って逃げて、さてどうしよう。

しおりを挟む
兄とクリストファー王子が元の鞘に戻ってよかったと安堵したのも束の間、クリストファー王子は俺を見た後、さっさとアリストのところへ行けと言ってきた。

「エディアス。今すぐアリストのところへ行ってこい」

その目は兄を抱きたいから出て行って欲しいと言わんばかりだ。
まあわからなくはない。
でも兄はもう抱かれたくないと言っていた気がするけど、大丈夫なんだろうか?

「兄上。頑張ってくださいね。ちなみに前からというのは別に普通です。ちゃんとクリストファー王子に教えてもらってください」
「……は?」
「では失礼します」
「待て、エディアス!あれが普通だなんて、あるはずがないだろう?!」
「なんだ、ジオラルド。エディアスにそんな話をしていたのか?もしかして閨の勉強をしたことがないのか?」
「なっ?!わ、悪いか!そんな時間があったら他にやることがいくらでもあるだろう?!」
「そうか。なら俺が手取り足取り教えてやろう。大丈夫だ。お前は賢いからな。あっという間に覚えられるはずだ」
「当然だ!でも…っ」
「心配するな。ちゃんと正しい知識を教えてやる。それとも怖いのか?」
「こ…っ?!そんなはずがないだろう?!」

(クリストファー王子、メチャクチャ嬉しそうだな)

きっと楽しくてしょうがないんだろう。
まさかあの兄が掌の上でコロコロ転がされる日が来るなんて思いもしなかった。
上には上がいるということか。
まあこれなら兄を任せても大丈夫だろう。

「エディアス!ちゃんとアリストのところに行くんだぞ?」

最後にクリストファー王子のそんな声を背に受けながら、俺はそっと部屋を出て扉を閉めた。

(さて。どうしよう?)

正直戻りたくはないし、このまま逃げたかった。
でもどこに?
そう考えたところで、ハッと思い出してしまった。

(しまった…)

勢いで転移魔法を発動して戻ってきてしまったから、収納魔法に皆の着替えなどを入れっぱなしにしてしまっていたことに気づいてしまう。
これは流石に返さないとマズいだろう。
なにせ城まで遠いのだ。
着替えがないのは困るはず。
他にも野営道具などもいくつか収納してしまっているから困るのは明らかだった。

(やってしまった……)

俺はそっとその場を離れ、チラッと腕時計へ目をやった。

(21時半…か)

どうやら随分話し込んでいたらしい。
思っていたよりも時間が経過していて驚いた。

「う~ん……」

正直言ってアリストと顔を合わせるのは御免だった。
あんな風に飛び出してしまったのだから当然だ。
兄が言っていたようなことはもちろんできそうにない。
俺はちゃんと分を弁えているつもりだし、アリストの幸せを壊すような真似はしたくなかった。
俺が我慢したら済む話だし、距離を置いて気持ちの整理をゆっくりしていこうと思う。
でも、預かっている品々については別だ。
これはないと困るだろう。

「お付きの騎士にそっと渡しておいたらいいかな?」

きっと誰かはアリストの護衛として宿の扉の所に立っているだろうし、その相手に渡せばいいかと思い至る。
それなら気まずい思いはしなくても済むし、向こうだって助かるはずだ。
まだ移動前の今のうちに渡しておくべきだろう。

「よし。そうしよう」

そうと決まったらさっさと実行に移そう。
アリストの魔力と近しい場所にいる相手の近くに、【転移】!

「…………あれ?」

てっきり街中の宿に転移すると思っていたのに、何故かそこは木々が生い茂る場所で、困惑を隠せなかった。
一体どうなっているんだろう?
そう思いながらキョロキョロとあたりを見回すと、目当ての相手はちゃんとすぐ近くにいた。
近衛騎士のフランクだ。

「フランク!フランク!」
「……?エ、エディアスさ…っ」
「しー!静かに!」

慌てて静かにするようひそひそ声で静止すると、向こうも慌てて口を噤んで小さくコクリと頷いてくれる。

「エディアス様。心配致しました」
「ゴメン」
「いえ。でも戻ってきていただけて安心しました」

ホッとしたようなフランクに心配をかけていたんだと申し訳ない気持ちになるけど、俺は戻る気はないとちゃんと言っておくことにした。

「急にいなくなって悪かった。でもその…戻ってくる気はなかったんだ。ただ、色々預かっていたのを思い出して…」
「……!そうですか。それなら…ええと、こちらの方に出してもらってもいいですか?荷物の振り分けはちょっと俺にはわからないので、すぐにレントかオグナーを呼んできます。すみませんがこちらでお待ちください」

フランクは気を遣ったのか、アリストの従者としてついてきている二人の名を出してそう言ってくれた。
これなら安心だ。
そう思って一先ずその場に着替えやら野営道具やらを出していったのだけど、案外出すのはあっという間で、フランクが戻ってくる前に全部出してしまった。

「どうしよう…?」

やっぱり待っておいた方がいいだろうか?
そう思いつつ、あんな風に飛び出したせいでアリストが無駄に心配していないか気になって、少しだけ様子を見に行ってみることに。
けれどそこにはフランクと従者の二人も一緒に居て、なにやら取り込み中のように見えた。

「アリスト殿下!落ち着いてください!」
「そうですよ!急いては事を仕損じると言うではないですか!今度失敗したら取り返しがつきません!」
「でも、折角向こうから来てくれたのにっ…」
「落ち着いてください。まずは誤解を解くのが一番かと。我々が説明しますので、アリスト殿下はまだ出ないでください」

なんとなく出辛い。

(どうしよう?)

そう思っていたところでその言葉が耳に飛び込んできた。

「エディアスの誤解は俺が解く!ちゃんと話せばわかってくれるはずだ!」
「アリスト殿下!」
「だってそうだろう?俺の愛情はたった一人にしか向けられていないって言えば済む話なんだから!」

正直言ってその言葉は強烈だった。
改めて言われなくたってちゃんとアリストの愛情が婚約者に向けられてるって…わかってるけど、思った以上に胸を抉られて、ショックで涙が込み上げてきてしまう。

「うぅ…」
「…っ?!アリスト殿下!黙ってください!」

その言葉と同時に全員の目がこちらを向く。

「エディアス?!」

アリストがこちらを向く。
でも、やっぱり無理だと思った。

「ゴメン。でも俺、誤解なんてしてないしっ…アリストが婚約者の事、俺より好きなのもちゃんとわかってるから!」
「待て、エディアス!違うんだ!頼むから聞いてくれ!誤解だ!俺が愛してるのは…っ!」

もうこれ以上傷つきたくない。
そう思って、俺は今度は兄の元ではなく、アリストとの思い出が詰まった場所へと転移した。

そこは城の中にあるアリストの自室だ。
奥に行けば幾度となく抱かれたベッドが置かれてある。
流石にそこを借りて寝る気はないから、ソファを借りて少しだけ眠ることに。

「はぁ……」

俺も兄のようにもっと自分本位になれたらいいのに────。

そんな事を考えながら、俺はそっと目を閉じた。


****************

※次はクリストファー×ジオラルドの仲直りエッチの話なので、興味のない方はパスしてください。
宜しくお願いしますm(_ _)m

しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。 パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。 このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

処理中です...