【本編完結】公爵令息は逃亡しました。

オレンジペコ

文字の大きさ
27 / 51

26.報告と兄の見解

しおりを挟む
俺は朝一番で転移魔法を使い兄の泊まっている宿まで転移したものの、クリストファー王子が泊まっていたらと思うと困ってしまった。
一応昼まで待った方がいいだろうか?
そう思い、午前中いっぱいは冒険者ギルドに行って仕事を受けることにした。
そして改めて昼時に兄の元へと向かうと、クリストファー王子の姿はなく、代わりに訝し気な顔をした兄に出迎えられてしまった。

「エディアス。ちゃんとアリスト殿下のところへ行ってきたのか?」

どうやら兄としては行かなかった可能性の方を考えたらしい。

「ちゃんと行ってきましたよ」

でも余計に傷ついただけだったと、つい落ち込んでしまう。
そんな俺の様子を見て兄はちゃんと話せと言ってソファに俺を座らせた。

「その様子だと誤解は解けなかったようだな。何があった?」
「その…アリストとは会ったと言えば会ったんですが…」
「ちゃんと話さなかったのか?」
「……はい」
「何故だ?」
「…………アリストが好きなのは婚約者だけだって聞いてしまって、つい逃げてしまいました」

そう言ったら兄は重い溜息を吐いて、『困った奴だ』と口にした。

「折角のチャンスを無駄にしたアリスト殿下は馬鹿だとは思うが、お前も早とちりが過ぎるぞ?」
「早とちりなんてしていませんけど」
「はぁ…本当にお前は頑固だな。もっと冷静に多角的に物事を考えてみろ。決めつけてかかると真実から遠ざかることだってある。俺とクリスの件だって似たようなものだっただろう?」

確かにそれはそうだ。
兄にしては珍しく取り乱していたし、冷静になるのに時間がかかっていた。

「一つ言えるのはアリスト殿下はお前を大事に想っているということ。これはわかるな?」
「はい」

それはまあまず間違いはない。

「それと、お前以外にアリスト殿下が恋人を作る暇はなかった。これは?」
「え?それはないでしょう?」
「何故だ?」
「アリストは優しいし、カッコいいからモテる奴ですよ?」
「そこは否定しないが、モテるという意味では王太子のほうがモテていたぞ?」
「そうですか?」
「あれでも次期王だからな。婚約者の席も空いていたし、女ならまず間違いなくそちらにいく。それにあの王太子は女好きな上にナルシストだ。なんだったらアリスト殿下に来ていた縁談話も全部自分に来たものだと考えて、姿絵なんか全部奪っていたくらいだ。馬鹿過ぎて話にならん」

(え~……)

それは流石に初耳だ。

「そんな王太子を差し置いて王がアリスト殿下を優先して婚約者を置くこともなかったし、他国からの縁談も俺が調べた限り一切なかった。故に政略結婚の線はほぼない」

なるほど。兄の話は説得力がある。
そもそもアリストに王から縁談話が持ちかけられたなら、当然王子妃にとなるはず。
なのにアリストは王位継承権を放棄してまで爵位と領地を貰ったと言っていたから、自主的に好きな相手と結婚するというのはまず間違いない。
でも兄はアリストが恋人を作る暇はなかったという。
これはどう見るべきなんだろう?

「本当に恋人を作る時間はなかったんでしょうか?」
「ないに決まっているだろう?あの半年でどれだけ俺がアリスト殿下に仕事を回したと思っている?お前だって知っているはずだ。加えて言うなら学園ではお前と行動を共にしていただろうし、お前の知らない出会いがあるとも思えない。そんなアリスト殿下に新たな出会いがあるとしたら卒業式後に行われる予定だった王城記念パーティーくらいのものだろう」

ああ、あれか。
俺が兄に渡すことなく死守したアリストが指定してきた色を入れた服。
綺麗な深紫色のタキシードで、タイの色はアリストの髪色を取り入れたものだ。
俺は髪色が赤銅色だから似合わないんじゃないかって言ったんだけど、いつも黒系か茶系だし、たまには違う色も着てみたらいいじゃないかと勧められたんだよな。

「おまけに夜だって殆どお前と過ごしていたはずだ。そんなアリスト殿下が現時点で伴侶にと望むなら、それはお前以外にあり得ない」
「……え?」
「こんなにわかりやすくて簡単な答えがどうしてわからないのか、本当に理解に苦しむぞ?」

兄は呆れたようにそう言うけど、それこそあり得ないだろう。

「あの、兄上?マーヴァインでは同性婚はできませんけど?」

兄が知らないはずがないと思いながらも、一応そう言ってみる。
すると案の定、不機嫌そうに『それくらい知っている』と叱られた。

「マーヴァインにその制度がなくても他国ではあるだろう?その証拠にここサザナードでは認められている。視野を広く持てといつも言っているだろう。この馬鹿者が!」
「うっ…そ、それはそうですが…」
「更に言うなら人の価値観などそれこそ様々だ。国の法で認められていないからと言って、早々諦めがつくものではない。それはお前が一番よくわかっているはずだ。アリスト殿下が好き過ぎて逃げ出してきたくらいだからな」
「うぅ…」

それは確かに。
流石兄。傷口に容赦なく塩をグリグリ擦り込んでくる。

「お前は視野が狭まっているようだから敢えてヒントをやるが、アリスト殿下がお前をお前と同じように好きだと仮定した場合、お前と家族になるにはどうすべきだと思う?」
「え…?アリストが、ですか?」

俺と同じ好きと言うのはないと思う。
でもここで兄に言っても『仮定した場合と言っただろう?!お前の耳は飾りなのか?!』と言われるだけだから、ちゃんと考える。

「ええと…単純に結婚したいなら同性婚が認められている国で挙式して結婚、家族になって合法的に結婚となると…そうですね、なんとか法の抜け穴を突いて籍を入れ…て?」

(あれ?)

「そうだ。そしてマーヴァインならその場合養子縁組が最も容易な方法となる」

そう言われて俺はダラダラと冷や汗が出始めてしまった。

「あ、あの、兄上」
「なんだ?」
「俺…アリストから養子縁組を提案されて、サインしてしまったんですが?」
「ならお前がサインした時点でアリスト殿下はお前と結婚したつもりだっただろうな」
「で、でもそれは俺をジルフィール公爵家から穏便に除籍させるためで…」
「単に友情からお前を助けたいと思ったなら、裏から手を回してあのふざけた両親を陥れてお前を当主に据える方法だってあっただろう?それをせずお前と家族になる選択をしたということは、他の相手と結婚する気はないという意思表示だ。つまりお前以外と人生を歩む気はないということだな。アリスト殿下はそんな言葉をお前に言わなかったのか?」

どうしよう?
冷や汗が止まらない。
だって俺は確かに『生涯を共に』とアリストから言われていたんだから。

「言って…ました」
「ほら見てみろ。俺はいつだって正しいだろう?」

敬えと言わんばかりの得意顔にイラッとするが、確かに兄の言葉はいつも正しい。
だから本当にどうしようもなく困った時はつい兄のところに来てしまうのだけど…。

「まあお前のことだから、でもでもだってとグルグル考えて、すぐには納得しないだろうがな。今すぐアリスト殿下のところに飛んでいって真偽を確認するか、向こうからやってきて熱く口説かれて逃げ場がなくなるのがいいか…さて、お前はどうする?」

自分で判断しろと言われて俺は思い切りたじろいだ。
でも兄は絶対にこういう時俺を逃してはくれない。
判断を後回しにしても、問題は大きくなることはあってもなくなることはないと何度も教えられてきたし、その言葉は何も間違ってはいなかった。

だから兄からこう言われたのなら絶対に問題から目を背けてはいけないし、答えを出せと言われたなら答えないといけない。
その代わり間違った答えを口にしたら暴言が飛び出してくるけど、ちゃんと止めてはもらえる。
だから俺は思い切ってその言葉を口にした。

「……今夜…行ってきます」
「そうか。ならそれまで俺に付き合え。クリスが俺に魔法陣学を教えてやると言ってくれたんだ。折角だからお前も連れて行ってやろう。お前は魔法が得意だからな。良い気分転換になるはずだ」
「…それ、兄上がやらかした時のフォロー役にと考えていませんか?」
「もちろんそうなった時は任せる。だが折角の機会だ。しっかり学んでお前の糧にしろ。魔法陣の事を学ぶことは決してマイナスには繋がらないしな」

いつもならこんな兄に『相変わらず無理矢理巻き込んでくるんだから』と溜息しか出ない俺だけど、今日は弱っているせいか何故か兄の言葉がいつもとは違って聞こえるような気がした。
それは昨日の不器用な慰め方が頭をよぎったせいかもしれない。
さっきの言葉はなんとなく見方を変えると、こうならないだろうか?

『会うのが夜ならそれまで側にいてやるか。ついでに新しい事にも取り組ませてみよう。その方がきっと気も紛れるだろうしな』

まあ…きっとただの気のせいだろうけど。


しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。 パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。 このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。

処理中です...