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月を欲しがる子供のように。
しおりを挟むロバートとニコラスが幽閉され、八カ月が過ぎたころ、ギタレス王国王太子夫妻に待望の第一子が誕生した。
祝福の鐘と人々の歓声を遠くに聞きながら、塔の屋上で青い空を背にそびえる王城を見上げて、ロバートとニコラスは僅かな可能性を願い、ワインのグラスをぶつけあった。
どうか、あの子が自分たちの子でありますように――と。
双子の身の回りの世話をする者たちは皆、必要以上のことをしゃべらず、身のこなしにも隙がない。
恐らく、ただの使用人ではなく、いざというときには死刑執行人を兼ねる者なのだろう。
不自由な暮らしだが、二人一緒に放りこまれたことが救いといえば救いだった。気心の知れた話し相手に困らない。
日々の慰めは、差しいれのワインと本。
ここにきて、初めてロバート達は本を読みはじめた。
以前は、無味乾燥な文字の羅列に何の意味があるのかと思っていたが、無聊を慰めるには役に立つ。
そして、幽閉から一年と二ケ月が過ぎたころ、ひとつ、楽しみが増えた。
新月の夜、マリステラが、慰問におとずれるようになったのだ。
恐らくは「今度は姫を」と第二子を望むジェラルドの指示なのだろう。
何の説明も受けていないが、ロバートとニコラスは、おそらく夫婦がそういう趣向――他の男に抱かせて興奮するような――を好むのだろうと思っている。
もしくは、ジェラルドが種なしか。そちらの可能性は低そうだが。
どうであれ、ロバート達が唯一抱ける女がマリステラであることは確かで。
ていのいい当て馬か種馬として使われていると知りながら、月に一度の御馳走を貪らずにはいられなかった。
そして、六度目の慰問の夜。
「……義姉上、ほら、脚ひらいて。ロビン兄さんがペロペロしてくれるって」
「……やぁ」
汗ばんだ男の声に、とろけた女の声が答える。
ニコラスは小さく笑い声を立てると、膝に乗せたマリステラのつむじに鼻先を埋めて、溜め息をついた。
「あー、いいにおい」
くすぐったいのか嫌々と首を振り、はなれようとする細い腰に腕をまわして引寄せれば、弱いところを抉ったのか、ふるりと華奢な身体が震える。
その隙を逃さず、ニコラスは背中から覆いかぶさるように手を伸ばし、マリステラの両膝をすくいあげた。
「っ、あ」
おさなごのように抱えられ、ぱかりとさらけだされたマリステラの口からこぼれたのは期待を滲ませた甘い声。
一妻多夫のお国柄ゆえか、それとも彼女が特別淫乱なのか。マリステラは呆れるほどに快楽への誘惑に弱い。
「……尻だけじゃあ、さびしいだろう?」
ロバートは薄ら笑いを浮かべながら、彼女の前に跪き、むずがるように爪先を揺らすマリステラの割れ目に手をかけ、ひらいて、舌を伸ばした。
以前は女に跪き、奉仕をするなど屈辱だと思っていた。
女は、いくらでも変わりがいる、自分達に快楽を与えるための存在でしかなく、彼女たちの快楽のために何かをしてやろうと思ったことなどなかった。
お高い媚薬を使ってやっているのだから、それで充分だと思っていた。
けれど、今は違う。
媚薬は使えず、マリステラの機嫌を損ねれば、すぐさま、外の見張りに引きはがされる。
ロバート達は、主人の手を舐める犬のようにこびへつらい、ご奉仕し、身体を使わせていただく立場となったのだ。
だから、屈辱にも耐えねばならない――というのは、理由の一割。
多少は前戯をした方が反応がいいし、マリステラの機嫌もよくなるのは確かだが、まだるっこしい奉仕をせずとも、ジェラルドによって丹念に丹念に愛され、開発されつくしたマリステラの身体は男の欲望に反応し、たやすく濡れて受けいれる。
ロバートやニコラスが、彼女に奉仕する残り九割の理由は……。
「ん、ぅうっ」
蜜をこぼす穴をじゅくりとほじって、つつ、となぞりあげ、ぷっくりと顔を覗かせる花芯に吸いつけば、桜貝のような可憐な爪が並ぶつまさきが、きゅっと丸まる。
う、と呻きをこぼしたニコラスが、唇を引きむすび、ゆるゆると腰を揺らしはじめる。
「っ、あ、ああ……っ」
ちゅるんと吸いだした快楽の芽を、こちょこちょと舌先で嬲りながら、ロバートは物欲しそうにひくつく蜜口へ、じゅぷんと指を差しこんだ。
ぐるりと探って、みつけだした弱点を二本の指の腹でそうっと押しあげれば、熱い媚肉が指に食らいついてくる。
「っ、やぁ、それ、きらい……!」
ぎゅっと目をつむり、ゆるゆると首を振るマリステラを上目遣いに見上げながら、ロバートは、にやりと目を細めた。
そうして、ことさらねっとりとやさしく舌を使って、吸いついて、むずがるマリステラを絶頂へと導いていった。
「やっ、あ、あぁ、ん、~~っ」
白い身体が打ち震える。はふ、と息をついて、虹色の瞳が恨みがまし気にロバートを睨みつける。
「いやだと、いったのに」
「どうして? 気持ちいいでしょう?」
「……でも、いやなの」
あきれるほど快楽に弱く、貪欲な彼女が、これを嫌う理由はひとつ。
そして、それこそが双子が奉仕を楽しむ九割の理由でもあった。
「そうだよね、いやだよねぇ」
ニコラスがマリステラの耳たぶを舐めあげ、囁いた。
「だって、ジェラルド兄さんには、してもらえないもんねぇ?」
マリステラは答えなかった。
「……なぁ、マリステラ。せっかくの月に一度の逢瀬だ。ここでしかできないことを楽しんでくれ」
「ここでしか、できないこと?」
「そう、身体が二つないとできないことをだ。……たとえば、二つの穴に同時に精を注がれるとかな。好きだろう?」
「……きらい」
「そうか」
ロバートは立ちあがり、前をくつろげ、「いや」と顔を背けるマリステラに覆いかぶさって。
いきり立つ雄の切っ先をなすりつけ、とろけた穴を貫いた。
あの七日間と同じ。
新月の晩の慰問内容は、すべてジェラルドに筒抜けで、上書きをされる。
――何をしてもかまわないわよ。後でジェリーに同じことをしてもらう約束なの。ふふ、楽しみだわ。
最初の慰問の晩。薔薇色の唇をほころばせ、そう囁いたマリステラを、ロバート達は怒りと欲望に任せて押したおした。
どこもかしこも敏感に反応する身体を散々にいじくりまわし、淫乱、好き者、穴女と罵りながら好き勝手に突きさしては腰を振り、一晩かけて犯しぬいて。
すっきりしたのは、いっときだけ。
翌日、上等なワインと共に「実に刺激的で楽しかった」とかかれたジェラルド直筆のカードが届いて、双子はワインを屋上から投げすてた。
それから、双子は話しあい、決めたのだ。
これからは、ジェラルドには再現できないことをしてやろう、と。
張り形を使った再現では物足りなくなるような、身体が二つなければできないことを、と。
上手くいっているかどうかは、わからない。
けれど、二度目の慰問の翌日、ワインに添えられて届いたカードには「よく考えたな」と書かれていた。
三度目からは、ワインだけでカードは付いてこなくなった。
それが答えだと、双子は信じたかった。
「っ、……マリステラ、気持ちいいか?」
ロバートの問いに答えはない。
ただ、息を乱して、二人の男の間で喘ぐ女を見つめながら、ロバートは一年と八カ月前の光景を思い出していた。
この塔に入れられた最初の晩。
双子の目の前でジェラルドに抱かれ、悶えくるっていた淫らな姿を。
――いつか、あの時以上に狂わせてやりたい。
それは、ロバートとニコラスの終生の悲願。
――俺達なしでは、物足りない身体にしてやる。
それが、今の双子の生きる目標であり、希望だった。
ジェラルドが再現できるような行為では、マリステラには響かない。
元々心が動く余地はないのはわかっている。
だから、せめて、身体だけでも。
夫に命じられて身をゆだねるのでなく、彼女自身の欲望でもって。
――いつか、俺達を求めてほしい。
月を欲しがる子供のように愚かな真摯さをこめて、ロバートは、兄の愛する海の月へと口付けた。
END
ご読了、ありがとうございました。
快感に弱いが精神は強いヒロインと、それを愛する変態紳士、精神をボコられるクズが好きです。
応援ありがとうございます!
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