浮気彼氏の射精管理はじめました!

犬咲

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延長戦 ~今ならば。~

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 「仕事おわったよ」と拓海に送信しようとして、やめた。
 そんなこと教えなくても、きっと拓海は出来うる限り最速で、うちに来る。そんな確信があった。今日は寄り道なんてしないで、まっすぐに。
 息をきらして駆けてくる彼を思いうかべれば、自然と口元がほころんだ。

 ――楽しみだなぁ。

 今週は、やはり一度も会えなかった。
 先週金曜、愛猫は祈りが通じて開腹なし、内視鏡での処置で済んだ。
 時間が遅かったので、そのまま病院預かりとなり、翌朝迎えにいったときには「なんで置いていったのよ!」と猫パンチをくりだせるくらいに回復していた。
 まんまるおなかから取りだされたネズミの玩具は、かかりつけ病院における猫ちゃん誤飲ランキング上位の危険物らしく、実家にあったストックは全て処分しした。
 それから代わりの玩具を買いに行ったり、犬の散歩をしたり、お風呂に入れたりしているうちに日は傾き、気付けば空は茜色。
 夕飯を食べて帰ろうかな、と思っているところに美咲が到着して「せっかく二人とも高い新幹線使ってきたんだし、ちょっと早いけど、明日、春のお彼岸参り行こうか」と母が言いだして、結局週末は丸々実家で過ごすことになった。
 その間、拓海とは何度も電話をしたのだが……。

 ――留守番中の犬みたいだったなぁ。

 「大したことなくてよかったね」「ゆっくりしてきなよ」「いや、ホント、全然平気だから」労いの言葉や強がりの後には決まって「イイコでまってるから」。
 ほんの少し煽っただけで声を詰まらせるくらい、追い詰められているくせに。
 本当はすぐにでも帰ってきて、外して抜いて欲しいはずなのに。
 まるで躾の行き届いた犬のようだ。

 ――ほんと、可愛い。

 早く、彼を可愛がりたい。
 実家にいる間、こちらに戻ってからも、会えない間、ずっとそう思っていた。
 ひと月前に抱いた怒りも嫌悪も、今はもう、ほとんどない。
 それ以前に抱いていた彼への献身的な恋情も、今はもう、ない。
 あの頃の私は臆病な犬だった。
 嫌われないか、愛されているか、いつも不安で飼い主のご機嫌を伺う犬。
 飼い主を信頼できない犬ほど、悲しいものはない。
 だが、今は違う。私は、もう惨めな犬ではない。

 ――拓海も、違うよね。

 最初のころはともかく、今の彼は自分を惨めだとは思っていないだろう。
 飼われる喜びを知った今は。きっと。

 ――今なら、信じられるかも。

 躾の行きとどいた犬ならば、飢えても見境なしに噛みついたりはしないだろうと。
 それならば、仰々しいステンレスのアンチバイトマスクなど必要ない。

 ――楽しみ。

 家路を急ぎながら、スプリングコートの胸にそっと手を当て、その下の鍵に想いをはせた。

 

「……お帰り」

 部屋の前、かけられた言葉に言葉を返すよりも早く抱きしめられた。
 ドアに背を押しつけられて、笑みがこぼれる。
 あらかじめ、カバンから鍵を出しておいてよかったと思いながら後ろ手に探り、ドアを開けた途端にギュッと腰に回された腕に力がこもって、ぐいと抱きあげるように押しこまれた。

「めぐみ、めぐみ……っ」

 額に唇が押しあてられ、すりり、と鼻先が髪にもぐる。
 すうぅ、と大きく息を吸いこみ、はふ、と吐きだしてから「会いたかった」と呟いた拓海の声の切実さに胸がキュンと締めつけられた。

「私も、会いたかった」

 そう返して頬を撫でれば、拓海の瞳がジワリと潤む。

「ホント? うれしい」

 へへ、と笑った拓海の頬を、透明な滴が伝うのを目にして気付けば唇を重ねていた。
 一瞬、驚きに固まった拓海の唇は、すぐさま私を貪りはじめる。
 三ケ月ぶりのキスは、懐かしさなんてまるでない。新鮮で凶暴なものだった。

「めぐ、みっ、ん、……っ」

 キスのあいまに、拓海の手はコートの下の肉体を確かめるように、私の背や腰を忙しなく這いまわる。
 肌に食いこむ指の強さ、そこから伝わる衝動の激しさに、じわりと下腹部が熱を持つ。

「拓海、お風呂……っ」

 熱を隠さず囁けば、拓海は犬のように息を荒げて頷いた。
 靴を脱ぎ捨て、もつれあうように浴室のドアを開ける。
 脱いで、と促す必要はなかった。
 コートとジャケット、シャツのボタンを引きちぎる勢いで外して前をはだけ、その場で全部まとめて脱ぎ捨てようとするのを「ダメ、濡れちゃうから外に」とたしなめると飢えた犬のような唸り声が返ってきた。
 ばさりと廊下に投げた上に、インナーシャツを引きはがすように脱ぎ捨てて、もつれる指でベルトを外そうとする拓海を眺めながら、私も脱いだ。
 コートも、ワンピースも、タイツも、一瞬迷ってから、ブラジャーのホックも外して、肩から紐を滑らせた。

「拓海、みてないで脱いで」

 視線の熱が伝わるならば、肌が焦げてしまいそうだ。

「あ、ごめん、でもっ」
「早く。一人で脱ぐの恥ずかしいよ。ね、先に脱いで。私も脱ぐから」

 からかうようにパンツの両脇、結ばれたリボンを摘まんで促せば、拓海は、ゴクッと喉を動かして、子供のように頷きながらスラックスとパンツをまとめて引き下ろした。
 ぷらん、と見えた銀色の輝き。チラリと目をやればケージの中、膨れあがった欲望にステンレスが食いこみ、サイズの合わない首輪を着けられた犬のような痛々しい様子になっていた。

「……痛そう」

 慰めるように指先でケージをなぞれば、ぴくん、と跳ねて、拓海の喉から呻きがこぼれる。

「わかってるなら、さわんないでっ」

 泣きそうな声が胸をくすぐる。

「ごめんね」

 笑いながら謝って、しゅるり、とパンツの紐をほどいた。ぱさりと足元に落とせば、触っていないのに、またケージが揺れて、拓海の息が乱れた。

「っ、めぐみ、あの、さわっちゃだめ?」
「誰に? 私に? それとも、自分に?」
「めぐみにっ」
「私のどこに? こことか?」

 くすりと笑って、見下ろす拓海によく見えるように胸を両手で寄せてもちあげて、白い肉に指先を沈ませてやれば、拓海の両手が反射のように持ちあがった。

「まだ、だーめ。外すのが先だよ」
「ぅうぅっ」

 呻きと共に長い指が握りこまれて、震えながら身体の両脇に下ろされる。

 ――ほんと、イイコ。

 心の中で呟きながら、首から下げた鍵を取って、拓海の足元に膝をつく。
 ステンレスのケージを摘まんだ拍子に、ぱたた、と膝に温い滴が落ちてきた。
 カチリ、と鍵を回して、錠を外す。
 そっと引っぱってみても、肉に食いこんだケージは動かない。

「もー、拓海、これじゃ外せないよ」
「ごめっ、でも」
「でもじゃなくて、解決策を考えて」
「ん、氷は?」
「私が冷たいからイヤ」
「そんな……でなきゃ、無理だってっ」
「あ、わかった。こうしよ」

 うふふ、と笑って、私はタオルの棚を開け、奥のポーチを取りだした。
 中に何が入っているのか、今の拓海は知っている。

「それで、何すんの?」

 取りだされたピンクのローターを見つめる拓海の瞳は興奮と期待に輝きながら、不安で揺れている。

「こうするの」

 カチリとスイッチを入れて始まるモーター音。
 ぶるぶると震えるローターを右手で摘まんで、左手でコックケージの根元を押さえる。
 コックケージの先っぽには、私の小指位なら入るサイズの排尿用の穴が空いている。

「えっ、ちょ、ダメダメ、やめっ、~~~~ッ」

 その穴にローターの先を押しつけた。
 声にならない声をあげて拓海が腰を引くのを追いかけ、ぐちゅりと強く押しあてる。
 ステンレスに触れたローターが、ガガガガ、と耳ざわりな音を立て、ケージ全体に振動が伝わって。
 がしりと肩をつかまれた。食いこむ指に眉をひそめた瞬間、がくん、と拓海の腰が跳ねた。

「きゃっ」

 ぬめる指から飛んだローターが、こん、こん、こん、とユニットバスの床を転がっていく。
 それを追いかけ、拾いあげ、リモコンのスイッチを切って。

「……これで、取れるでしょ?」

 漏れでた精液にまみれたコックケージを摘まんで、ぬるりと抜き取った。

「っ、ん……ぅっ」

 ひくりひくりと腰を震わせながら、拓海は呆然とした顔で私を見つめていた。

「……なん、で?」

 何で、こんなひどいことをするの? せっかくイイコで待ってたのに、どうして?――と飼い主に訴える犬のようなまなざしで。
 問いには答えず、リングも外して、ケージとローターと一緒に洗面台に置く。

「一回だけなのに……出ちゃったじゃん」

 震える声に胸が熱くなる。
 可哀想で、本当に可愛い。
 シャワーを細くだして、精液にまみれた指を流して、ついで、拓海のモノにかけてやる。

「っ、やめて。また、たっちゃ――」
「ねぇ、拓海。一ケ月は、もう過ぎたよ」
「え?」
「射精管理は、もうおしまい。……だから、さわっていいよ」

 今なら――そう囁いた瞬間、よし、を出された犬のような勢いで拓海が飛びついてきた。



 どん、と浴室の壁に背がぶつかったと思うと、唇をふさがれ、胸と胸がふれあって、押しつぶされる。
 一瞬背中に感じた壁の冷たさは、すぐに拓海の熱にまぎれて感じなくなった。
 ぎゅっとお尻をつかまれて、膝の間に拓海の右足が割りこんでくる。
 こじあけた隙間、もぐりこむ指先が私の熱に触れて、一瞬のためらいの後、ぐちゅりと深く差しこまれた。
 あふれる蜜をかきまぜ、かきだした長い指が、ぐぢゅりと割れ目をなぞりあげ、ぴんとしこったクリトリスへとなすりつけられる。

「っ、……ふ、ぁ、はぁ……っ」

 ローターとも自分の指とも違う硬さ、感触、力加減で、こりゅこりゅとこねまわされる快感に舌が震える。

「めぐみ、きもちいい?」
「ん、きもちい……っ」

 答えた瞬間、拓海が犬のように身を震わせて、下腹部に濡れた熱が押しつけられた。ぐりり、と腹を押す硬さに吐息がこぼれる。

「もう勃ってる」

 ふふ、と笑う声に返事はなかった。
 クリトリスをひとしきり撫でさすった指が、入口へと戻り、数を増やして押しこまれる。
 水音高くかきまわし、ばらばらと中を探る仕草は、私の快感を引きだすというよりも、自分が押しいるための動きだった。
 その動きは、以前と似ているようで似ていない。
 以前の私は濡れてほぐれて入れられるようになるまで、いつも時間がかかっていたから。毎度の義務的な前戯を、拓海が時々面倒に思っていたのを知っている。いつになったら慣れるんだよ、と。
 そういうことは、口に出さなくても伝わってしまうものだ。

「なぁ、めぐみ、いれていい?」

 せっぱつまった問いかけに頬がゆるむ。
 今の拓海は面倒だなんて、微塵も思いはしないだろう。したくてたまらないのは私だけじゃない。

「ん、んっ、だ、めっ」
「っ、ぅぅ、ねぇ、いれたい……っ」
「まだ、だぁめ」
「ぅぅうっ」

 唸りながら、拓海が大きく背を丸めて、胸の先っぽに食らいついてきた。
 ちゅぱちゅぱと吸って、舐めて、噛んで、歯を立てたまま舐めまわす。
 ゾクゾクと背筋を這う疼きに、胎の奥から新たな蜜があふれて、拓海の指を伝い落ちる。

「ん、胸、きもちいい」
「んぐ、ふ、んぅんんっ」
「まって、もう少し、んんっ、そんな吸ったらのびちゃう、からぁ」

 ぐりゅん、と一層奥を抉る指に腰を震わせて、拓海の頭をかき抱く。ぐしゃぐしゃと汗に湿る髪をかきまぜながら、耳たぶを引っぱり、囁く。

「っ、あ、ん、わかった、じゃ、一回、クリトリスでいかせて……っ、そうしたら、入れていいよ」

 そう囁いた瞬間、ぬるん、と指が引きぬかれて、ぐりゅり、とクリトリスを押しつぶされた。
 そのまま容赦なく、指の腹ですりあげられる。
 強い刺激に腰が逃げて、がしりとお尻をつかまれる。
 胸の先っぽを嬲る舌や歯の刺激もそのままで、二か所から与えられる快感に頭が痺れてくる。
 びくびくと腰が震えはじめて、胸にかかる拓海の息が一層乱れる。

「っ、あ、あ、たくみ、いきそ、あっ、んん、イク、いっちゃ……っ」

 拓海を追いつめるために口に出してみた言葉は、私のことも追いつめた。
 つまさきが痺れるような感覚。
 ふわっと、一瞬の浮遊感。
 直後、足元から這いあがった痺れが、一瞬で私を包んだ。
 声も上げられなかった。
 拓海の頭を強くだきしめて、ついでに彼の指も強く締めつけながら、私は達した。
 ドキドキと心臓がうるさくて、頭はふわふわで。最高だった。
 二週間前よりも、三週間前よりも、ずっとよかった。
 とろん、とした気怠さに、はぁ、と息を吐いて。
 ゆらりと立ちあがった拓海に抱きしめられた。
 やさしく彼の背を撫でて、きもちよかった、と甘く囁いてあげようとして――ぬるりと押しあてられる熱、あ、と身構える間もなく、ずんと突きあげられた。
 胎へと響く衝撃に、絶頂直後のまどろみが吹き飛ぶ。

「めぐみ、めぐみっ、あ、っ、ぅぅ、あぁ、すっげ、きもち、あっ、めぐみぃ……っ」

 うわごとめいた声で私を呼ぶ拓海には、余裕も技巧もない。ただ私を抱きしめて、腰を打ちつけるだけだ。

 ――そういえば、ゴム、してない。

 気付いたところで、今の拓海を止める気にはなれなかった。

 ――生、きもちいい。

 正直、入れられる側としては0.03ミリの厚みの有無なんてわかりはしないが、感情的には段違いだ。
 いつもよりも熱い。カリの張りや硬さも鮮明に感じられる――ような気がして、そして何よりも。

 ――妊娠、しちゃうかも。

 そう思うと無責任すぎる行為にゾクゾクしてくるのだ。

「ね、ねぇ、たくみっ、ゴム、してなっ」

 そのゾクゾクを彼にも味合わせたくて、焦ったふりで言ってみる。
 ピタリと動きをとめた拓海は、私と視線を合わせると、思いきり腰を突きだした。
 頭に響く衝撃に甲高い喘ぎがこぼれる。
 ずず、と引かれて、もう一度、ずん、と突かれる。
 そのまま、ぐりぐりと腰をすりつけられて、奥に、クリトリスに響く快感に背が震えた。

「……これじゃ、ダメ?」

 耳元で囁かれる汗ばんだ声に首を振る。

「ぅ、ん、それ、だめ、きもちいぃ……っ」

 そう答えれば、そうじゃないとばかりに強く揺さぶられた。

「このままじゃ、ダメ?」
「ん、なにが」

 わかった上で、言って欲しくて聞きかえした。

「っ、だしたい」

 答えながら、拓海は私の答えを待たずに腰を振りはじめた。
 がくがくと揺さぶられながら、拓海の首に手を回し、強く抱きかえしながら、耳たぶに歯を立てる。

「っ、なに、を?」

 笑い混じりの私の声に、拓海もわかったのだろう。私が拒んでいないことを。見つめあう瞳が笑みに歪んだ。

「せーえきっ、このまま、めぐみの中にっ、俺の精液、ぶちまけたい……!」

 背に回った腕に力がこもって、胎に響く衝撃が早く、小刻みになる。
 出す気なんだ。私の中に。全部。赤ちゃんできちゃうかもしれないのに。
 そう思うと、愉快で、少しだけ不安で、とても気持ちがよかった。

「は、ぁ、どぉしよ、っかな、あっ」
「だす、もうだすっ、めぐみがダメっていっても、だすけどっ、いいって言って! 出したいから、いいって言ってよ……っ」
「んっ、んんっ、ふふっ、しょうがないなぁ」

 茶番だ。それでも、必死すぎる拓海が愛おしくって、私は拓海の頬に唇を押しあてると、そっと耳元で囁いた。

「っ……ぁ、出していいよ、そのかわり、責任とってね」
 
 言いおわると同時に、胎が破けそうな勢いで突きあげられた。
 衝撃に頭が真っ白に染まる。
 びくん、と大きく、拓海のものが跳ねて、抱きあう身体に震えが走った。
 壁と拓海の間で押しつぶされるようにして、ふれあう肌から伝わる激しい脈動、頬をくすぐる拓海の荒い呼吸を感じながら、私は、途方もない満足感を感じていた。

「……めぐみ」

 囁く声は二度目の射精を終えた後だというのに、いまだに熱が冷めていない。

「なに?」
「……俺と、結婚してください」

 今、いうのかぁ――少しだけ呆れながらも、答えは決まっていた。

「いいよ」

 今の拓海ならば。

「いいの?」

 拓海の声が上ずる。

「いいよ!」

 もう一度、ハッキリと答えれば、みるみるうちに拓海の瞳が潤んで、まばゆいような笑顔になった。
 無邪気な子犬のような笑顔。
 私が愛した笑顔だ。
 きっと、この先も愛していける。そう、今ならば信じられる気がした。

「不束者ですが、どうぞよろしくね」

 ニコリと笑みを返せば「こちらこそ!」という言葉と共に、私に入ったままの拓海の分身が元気よく跳ねた。
 
 
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