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第2章 辺境伯爵領

第92話 えっ!? あんた行くつもりなのかい!?

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 「ーーえっ!? 軟派ナンパかよ!?」

 そんな声に釣られてか、ぞろぞろと近づいて来る気配がある。誰だ?

 「ウチのリーダーがごめんなさいね~」

 「そうそう、誰彼だれかれ構わず盛ってんスから」

 「年中発情期」

 「す、す、すみません!」

 4人の特徴ある女の声が聞こえるが、肩を莫迦力ばかぢからで抱かれてるせいで身動きが出来ん。

 何者なにもんだ、こいつ? リーダーって言ったな?

 「五月蝿うるさいねぇ。あんたたちリーダーに向って随分な言い様じゃないかぃ。あたしは年中盛ってもないし、無境なくあさってもねぇよ。こいつはって思うやつにしか声を掛けちゃいねぇ」

 どうやら俺は、先輩冒険者の御眼鏡にかなったらしい。喜んで良いのか?

 振り向こうと力を入れるが、どうにもならん。

 肉食動物に捕獲された兎はこんなもんか……。

 「すまんね。顔を見たくても身動きが取れんから、ああ、俺はハクト。仮面を着けてるほうがヒルダで、着けてない方がプルシャンだ。ヒルダの肩に居るのがスピカ。食うなよ?」

 「食べやしないよ。そんな腹の足しにもなりやしないちっさい子はね」「うおっ!?」

 「腹の足しになるなら、食うって言ってるんじゃねえのか、それ!?」と思ったら、肩を抱かれたままグルンと体を回されて、初顔合わせだ。

 獣人と人族の混成パーティーだな。ん?

 人間の姿に獣耳だと!?

 慌てて虎女と目の前にいる、金髪を伸ばした線の細い姉ちゃんとを見比べた。虎女は、間違いなく俺と同じタイプの獣人だ。虎が二足歩行出来るようになったと思えばいい。だから、当然、体毛で覆われてる。狼娘リリーの時も思ったが、髪の毛は普通に伸びてるのと、女特有の曲線があるから、違いは直ぐ判る。

 頭髪が有る無しじゃ、随分雰囲気違うんだが……うらやましいと思っちまったよ。

 ただ、虎女の場合は体毛によく似た金髪を短く刈ってるから一瞬判らなかったのさ。

 けど、目の前の姉ちゃんは違う。明らかに向こうの世界のイメージそのままだ。わけえ連中がしてた格好にそっくりなのさ。

 「ああ、初めて見るやつは同じような反応だね。このはハーフなのさ。父親が獣人で母親が別だと、母親の種族が色濃く出ちまうんだよ。獣の王国じゃ鼻つまみもんさ」

 なる程。どこも似たようなものか。

 「すまんね。珍しくて変な目で見ちまった」

 「良いんですよ~。まだハクトさんは紳士的で好感が持てます~。リーダーが狙ってなからったわたしが狙いたいくらいですよ~」

 「……痛えっ!?」

 柔らかい笑顔に一瞬見惚みとれていたら、後ろから背中の肉を2箇所抓られた。おいっ!?

 「あっはっはっは! 愛されてるねぇ~。まあ見ての通り、鼻つまみ者同士パーティを組んでるのさ。この恥しがり屋の熊人ゆうじんのハーフでソレンヌ。金髪の方が狐人のハーフで、ヴェーラ。ちっこいのがホビットのオリーヴ。で、毒を吐くちびがロザリーだよ」

 言われてみれば、確かに背の低い娘が2人並んでる。

 ホビットって小人か!? 昔なんかの小説で呼んだ記憶があるが覚えてねえな。

 120㎝くらいの大きさの子がオリーヴで、ロザリーが150㎝くらいの方だな。そりゃあんたからすりゃ、皆ちびだろうさ。何てったって虎女190㎝近くあるんだからよ。

 「で、あんたは?」

 「あ~、あたしはまあいいんだよ。リーダーで通ってるしね」

 「いや、あんたは俺らのリーダーじゃねえだろうがよ」

 「クローディーヌ」「ちょっ、ロザリー何で言うのさ!?」

 「ちびって言った」

 毒吐くってとこは良いのかよ!?

 「へぇ。クローディーヌねえ。随分と姫様見たい名前じゃねえかよ」

 「ーーっ」

 見上げながら笑うと、顔を逸しやがった。

 「照れた。クロが照れるの珍しい」

 いや、そこ可怪しいだろ!? 人に寝ようって誘うやつが、名前くらいで照れるのかよ!?

 「こうやって知り合えたのも何かの縁ですし~、一緒にお茶でも飲みませんか~?」

 ヴェーラだったか、狐耳の姉ちゃんがのんびりと誘ってくる。「いいぜ」と答えようと口を開きかけた時だった。

 「た、助けてくれっ!? 今建築現場で棟上むねあげ中に足場が崩れたんだ! 誰でも良い、手を貸してくれ!」

 バタバタと1人の男がギルドの広間ひろまへ駆け込んで来たかと思うと、そう助けを乞い始めた。……んだが、だれ1人動かねえ。



 どうなってやがる?



 何事かと、この場に居た奴らは全員、駆け込んで来た男に視線を向けたあと、知らんぷりをしやがった。



 可怪しいだろうが。



 俺が1歩踏み出しかけた瞬間、クローディーヌが肩に回した腕に力を入れてきた。何だ?

 「止めときな。あたしらが動かなくても、街の警備兵が動く」

 「いや、可怪しいだろが。困ってたら手を貸すだろうがよ!?」

 「ないね」

 にべもない返事が届く。

 「他のもんも動いてねえとこを見ると、皆なそうかよ」

 「動いた所で、小銅板1枚の価値にもなりやしないよ。あたしらは、慈善事業してるんじゃない。日銭を稼いでるんだよ? 日によっちゃその日に食べるものに困ることもある。金を払ってもらい、その分仕事する。何か可怪しな事言ってるかい?」

 至極しごくとうだ。正論過ぎて、気持ちわりいくらいにな。

 「……ここの常識はそうなんだろうな」

 「いいかい。あんたは冒険者になったばかりで知らないだろうが、皆、1度は通る道だ。良かれと思ってやった人助けで、命を取られそうになったり、奴隷に売られそうになったりね。ウチの子たちも似たような事を経験してる。だから、幾ら騒がれても我が身第一さ。あたしらは女だ。男どもに比べて何倍も苦労してんだよ」

 「……」

 甘っちょろいのは俺だって言うのかよ。くそっ。んな話聞かされたら責めれねえだろうが。

 「解ったら知らん顔しときな。あんたたちもだよ」

 そんな話をしている間も、男が助けを必死に求めてる声が俺の耳に届いてる。ギルド職員の姉ちゃんたちも誰1人表に出てこないのは何でだ?

 「ギルドは斡旋が仕事。金を払わないと動かない」

 俺の疑問にちびのロザリーが答えてくれた。俺の中でふつふつと湧いてくるものがある。

 「ああ、もう! 知るかっ! おい、そこのあんた! 俺が行ってやる! 案内しろ!」「そうか! ありがたい!」

 俺の声にお床が反応して駆け寄ってくる。ここに来てもどうにもならんぞ?

 「えっ!? あんた行くつもりなのかい!?」「「「「えっ!?」」」」

 俺の叫びに、虎女を含めパーティメンバーが俺を凝視する。ま、そうなるわな。

 「直ぐ行く! 外で待っててくれ!」「判った! 頼む!」

 男を外に追い出してから、受けた理由を手短に説明する。早い話が完全に俺の自己満足のためだ。何もせんでウジウジ後からするよりも、体を動かす。

 「あたしの言ったことちゃんと聞いてたのかい!?」

 頭からかぶり付くかのような勢いで、クローディーヌが顔の前で吠えた。

 こ、怖えーー。

 「ああ、良く解ったさ。それはあんたらの都合で、俺の都合じゃねえってこった。何もせんで、放っておくっていうのが出来ない性分でな。我ながら、損な性格だって思うわ。けど、ヒルダとプルシャンは付き合わせるつもりはねえ。わりいが一緒に」

 「何を言ってるのだ、主君。主君が行くならわれも行くに決まっておろう」

 「そうだよ! 留守番は嫌っ!」

 そう話してる最中に、ヒルダとプルシャンが割り込んでくる。

 「お前らな……」

 「あっはっはっはっはっ! 良いねえ、あんたら気にったよ。どうせ暇してたんだ。一緒に行ってやろうじゃないの。あんたたちも良いね?」

 「今更ね~」

 「リーダーは言い出したら聞かないッスからね」

 「仕方ない。恩を売る」

 「だ、だ、大丈夫です!」

 「……すまん、恩に着る!」

 皆の言葉を聞きながら、クローディーヌのたくましい腕を肩からを外した俺は、騒然とするロビーで皆に勢い良く頭を下げるのだったーー。





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