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幕間

閑話 ロザリー・メシアンの焦燥

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 わたしはロザリー。

 ロザリー・メシアン。

 魔法公国にある導師評議会の1席を持つメシアン家の長女がわたし。

 魔法公国というくらいだから、なぎの公国と同じで、一番偉い人は大公陛下。

 だけど、皆そうじゃないって知ってる。

 魔法公国で1番力があるのは導師評議会。全部で21席ある。メシアン家ウチ第11席ギャーラェ

 だから権力はある。

 でも、そこに居続けるためには、力もお金も要る。

 父様は導師グルだから、わたしと妹に実力を付けるようにいつも五月蝿うるさかった。

 始め父様の期待に応えたいと思って頑張ってたけど、妹に固有ユニークスキルが発現した時点で止めた。どう考えても跡継ぎは妹。婿を取って家を継ぎ、導師評議会に入る道が見えた。

 わたしには道がない。

 急に途切れたと言っても良い。

 都にある魔術学園もそこそこの成績で卒業したけど、それだけだ。

 やる気を失ってただ、ボーッっとしてたら父様から縁談が来た。

 は? 縁談? 第18席アターラェ莫迦ばか息子? 明らかに次への布石だ。

 家の為に嫁に行け? それくらいしか価値がない。そう言われてる気がしたの。渋るわたしに、家族の視線が冷たくなった気がする。



 ――居辛い。



 そう思っていた頃、10年前からウチにいる執事のハンスが旅の荷物を渡してくれた。

 聞けば、第1席エークのイグラシア家に仕えていたことがあり、長女の出奔を止めれたなかったということで首になったのを、わたしの父様に拾ってもらったらしい。

 「困惑。同じ事になんるじゃ?」

 「ロザリー様を見ていますと、あの日の御嬢様を思い出してしまいました。このまま家の名で己が潰れてしまうのでしたら、自由を得るのも1つの生き方ではありませんか? 何。わたくしめはこれでも優秀と言われております。こちらでお暇を頂くような事があっても、また拾って頂けます」

 「感謝。壮健を祈る」

 「はい。ロザリー様もお達者で。旅をされるのでしたら耳寄りな情報を1つ。冒険者ギルドというとこに行って登録して下さい。きっと旅の路銀を得る助けになるはずです」

 「了解。探してみる。ハンス、少し屈んで」

 「こうでございますか?」

 「ん。行って来る」

 恥ずかしかったけど、ハンスの頬に接吻をしたの。

 「ほっほっほ。これはこれはありがとうございます。どうぞお気を付けて」

 嬉しそうに笑う白髪の執事の顔は、家を出るわたしの心を軽くしてくれた。

 それから言われた通り冒険者になったわたしは、鉄級ロハ冒険者になるまで都から離れた街のギルドで依頼をこなした。これが意外に大変。

 箱入り娘だったと、痛感しっ放しだ。

 そして、鉄級ロハになったわたしが、初めて護衛依頼を完了させて獣王国の冒険者ギルドに居た時、そいつが入って来たの。

 ピンと来た。一緒に動くべきだって。

 「発見。そこのあなた、わたしと同じボッチとみた。一緒に動くと良い」

 なるだけ友好的に声を掛ける。成功。

 「は?」

 受付の猫のお姉さんはさっきわたしの依頼の手続きをしてくれた人だ。あそこが良い。

 「申告。このホビットとパーティーを組むことになった。登録よろしく」

 「パーティー名はにゃににされますか?」

 受付カウンターは高いから、両手でカウンター持ってないとなかなか難しい。何とか目がだせた。問題ない。あ、パーティー名考えなきゃ。

 「名案。自由は外せない。でも、それだと強さが足りない。だから自由の牙にする」

 「畏まりました。では、お2人の身分証をお貸し頂けますか?」

 クスクスと笑いながら猫のお姉さんが処理を進めてくれた。助かる。わたしの身分証を渡して、と。後は、あのホビットの身分証だ。

 「は? 何っスか?」

 身分証を出せと、手招きしてみたけど通じてない。やっぱりホビットは変な種族。

 「至急。身分証を出す。パーティー登録に必要」

 「えっ……」

 「安全。女1人は危ない。わたしと一緒にいると良い。だから身分証出す」

 「何言ってるんっスか。あんたと初対面でしょ? 嫌っスよ」

 どうやら、人見知りらしい。これはわたしが前面に出ないと。

 「愚図。良い大人が受付のお姉さんを困らせない。わたしに渡せないなら、自分で出す」

 「はぁっ? それあんたが勝手に」

 「否定。あんたじゃない。ロザリー」

 「え、あ、ちょ、何で押すんっスか!? 待つっス!」

 ホビットは人族よりも寿命が長いから、のんびりが多いってことね。理解。

 「オリーヴさんでしたね。良かったですね。楽しい仲間にゃかまが出来て。身分証をお願いします」

 これがわたしとオリーヴの出逢い。

 それからしばらくして、寂しそうにしてる混血ハーフの女の子2人組をギルドで見つけたの。ピンと来た。一緒に動くべきだって。

 そしたら、大きな虎人こじん族の女が現れたじゃない。食べられるかと思った。ドキドキしたけど、ハーフの子たちと知り合いみたいだったから、取り込んだの。

 ウチはちっちゃいのしか居ないから、男の冒険者たちになめめられる。屈辱。

 そしたら、オリーヴがリーダーをその虎人族の女に変えるという。

 感動。わたしの努力で人見知りが治った。虎人族の女クロがリーダーならそれで良い。

 後はクロが鉄級ロハまで上がるの待って出国。

 魔法公国の名前が出たから嫌そうな顔だけして無視。山麓の王国はオリーヴが嫌そうだった。結局消去法で凪の公国へ行くことに。

 そしたら、ヴィーラの母上が送別会を開いてくれた。

 ギルド職員らしい。

 ヴィーラの家で食事の手伝いをする。家では使用人がしてたけど、家出してからは自炊。

 名前を名乗って家出したことを話すと、何故か包丁を落とした。危険。

 拾おうとして同時にしゃがむと、母上の太腿に刺青いれずみが見えた。同じモノがわたしの太腿にもある。これはある家系の者に彫られる証。目が合った。

 「理解。ハンスに聞いた。イ」「それ以上は言わない。全て捨てて、魔法も使えない振りをしてるんだから」

 ヴィーラの母上に、優しく人差し指で口を抑えられた。

 「了解。誰にも話さない」

 「ふふふ。娘がもう1人増えたわね」

 そう言って抱き締めてくれたの。でも、あの胸は危険。

 それから、なぎの公国に入って依頼をこなし、銀級チャンディに昇級。わたしの働きが大きい。

 公都まで行きたいとオリーヴが夢を語ってた頃、クロに書簡が届く。

 疑問。何故居場所が判る? 内通者が居る? 警戒が必要。

 書簡の内容は、クロの家から「一度帰ってこい」だった。よくある話。面倒。魔法公国に行かないのなら、どっちでも良い。

 クロが悩んでたら、ヴィーラが「嘘なら帰って怒ってやれば良いけど、本当だったら後悔しないの?」って話してるのが聞こえた。疑問。敢えて言う必要がある?

 ソレンヌをる。いつも以上にソワソワ。正直。ま、わたしには関係ない。

 結局獣王国へ帰ることになった。順調に領都から、川辺の街のホバーロまで返って来たら出逢ったの。



 ハクトダーリンと。



 初め見たのは冒険者ギルドだった。

 毛艶のない、髭の張りもない雪毛ゆきげの兎人オヤジを見た時、初めは何も思わなかった。

 クロが発情したのは判った。男嫌いが珍しい。

 導師ぐるの中にも黒毛の兎人が居たから、兎人は珍しくない。

 気になりだしたのは、薬草摘みの時から。

 森は危険が多い。1人で薬草摘みに行かないのは常識。

 でも、ハクトは薬草の取り方も扱い方も知らなかった。不思議。わたしも男が苦手。父様が怖かったからというのもある。執事のハンスは別だけど、ハンスはおじいちゃん。

 流血草があった。ハクトに取り方と注意点を説明する。

 「ふふ。少量は問題ない。沢山食べると、傷が固まらなくなる」

 そしたら、流血草を舐めた。吃驚。

 慌てて吐き出す姿に、堪え切れなくなった。

 「ぷーっ。薬草は苦い。効能が強い物ほど苦くて毒性が強くなる」

 「ロザリーさんや、それを先に言ってくれ」

 不思議。普通に話せる。

 「常識」

 その後の薬草を摘む時間はとても楽しかった。ハクトを目で追って、目が合うと薬草のことを話して笑って楽しかった。

 でも、そんな時間は急に終わった。クロとオリーヴが茂みから出て来たの。

 オリーヴは顔が真っ青。腕を怪我してる。こんなとこにオーク!? 危険!

 そしたら、ハクトがわたしを横抱えして駆け出した。こんなに早く動けるんだ!? 驚愕。

 「あたっ」

 わたしを下ろしたところで、すねを蹴ってやった。脛当てと足首の境目。

 「レディを横抱えした罰」

 「そりゃ悪うござんした。次は気を付ける」

 「なら良い」

 この気持良くわからない。恥ずかしくてハクトの顔が見れないの。ぷいっと横を向いて、離れたとこに居るソレンヌたちの所に逃げることにした。



 笑うなら笑ったら良い。



 不安。正直どうハクトと接したら良いか判らない。クロたちは抱かれても良いって言ってる。あのソレンヌも。わたしはどうしたいの?

 宿に帰って来たら事件が起きてた。

 ハクトが動くならわたしも行く。取り残されるのは嫌だ。

 他の人じゃなく、わたしを見て欲しい。焦燥? 嫉妬?



 ヤダな。



 コワリスキー商会へ乗り込んだハクトは凄かった。どっちがチンピラか判らない。

 でも、凄くドキドキした。それでなんとなく気付いたの。

 ああ、わたしハクトに恋してるんだ。これが恋なんだ。驚愕。

 恋愛なんて一度も経験のないわたしが、恋!?

 獣人は基本群れを作りたがる。わたしの場所があるなら、ハーレムでも良い。

 決意して、わたしはハクトダーリンに抱かれた。

 驚愕。雄のあれは凶悪。目が覚めたらヒリヒリしてた。上手く歩けない。

 目が覚めた時、同じベッドにわたし、プルシャン、ハクト、ヒルダの4人が居た。オリーヴから聞いてから驚かない。でも、歩き方が可怪しくなる。羞恥。

 良い方法を思いついた。ハクトの膝の上。歩けないから運んでもらう。そのまま食事を取る。最高。お礼に「あ~ん」をしてあげる。至福。

 でも問題がある。オリーヴがこの位置を狙うの。譲らない。

 でもハクトに撫でられると、何故か気持ち良い。変な声が出て力が入らなくなる。

 あと、クロが「ダメ虎」になった。気持ち悪い。

 別れの日が来た。本当は一緒に行きたかったけど、痩せ我慢。いざ見送る時になったら、こう胸がキューッと苦しくなったの。そしたら、皆抱き着いて接吻し始めたから、わたしもした。今度はカツンって歯に当てなかったよ?

 一緒に居た時間は短いけどその分濃厚だった。幸福。でも、寂しい。



 これが愛? 判らない。



 ハクトを愛してる? 判らない。



 でも、ハクトの事を考えたら胸がキューってなる。



 わたしたち5人が同じように抱擁して、接吻して見送りの儀式は終わり。

 3人の背中が見えなくなるまで見送った。オリーヴは泣いてたけどわたしは泣かなかった。

 それからドワーフの鍛冶師夫婦の居る店に来た。ドワーフも導師グルの中に居るから珍しくはない。ちょっと変わってるだけ。

 驚かされたことがある。

 ハクトがわたしたちに合わせて作ってくれた白い籠手。何と王級ラージャ籠手だった。

 オマケに、材質が深淵しんえんの森の魔物の殻。驚愕。

 王級ラージャ武具なら金貨が2,3枚だけど、材質を考えたら、桁が跳ね上がる。

 思わず、ニヤニヤしたらオリーヴに脇を小突かれた。羞恥。

 でも、まだ終わらなかった。 

 他の4人が一様に武器を取り出すを見て、わたしもハクトから渡された使い古された味のある木の杖を取り出してみせた。そしたらーー。

 「あんた、これも魔硬木まこうぼくだよ。これも物を作った後に変質してる。どうなんてるんだい!?」

 「むむむ」

 ってうなる姿は新鮮だった。

 【武器鑑定】してもらうと、もっと驚いたの。
 
 【火炎のスタッフ
  英雄級ナヨク魔杖
  魔硬木製
  火属性(小上昇)
  火耐性(小上昇)

 英雄級ナヨクってだけでも驚いたけど、わたしの苦手な火属性を補ってくれる杖だと判って嬉しくなった。わたしが得意なのは風だから。

 籠手だけでも驚いたけど、わたしの事を想ってくれてるって判って、胸の奥が熱くなるった。愛してるかどうかはまだ判らないけど、大好きなのは間違いないの。幸福。

 そう思ったのはわたしだけじゃなく、他の4人もそう。納得

 だって、皆上気してる。そう思ったらオリーヴと目が合って、一緒に笑ってた。

 ふふふ。家出しなきゃこれは味わえなかった。もう、帰る気ないけど。

 そんな事を思いながら、工房の奥から聞こえて来るカーン、カーン、という鉄を叩く鎚の音に、わたしたちは身を委ねていたーー。





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