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第2章 骨の谷
第30話 えっ!? お前がそれするの!?
しおりを挟むえっ!? あれ? 赤くなった!?
「うぐああぁぁぁっ! 【骨抜き】っ! 【骨抜き】っ! 【骨抜き】っ! 【骨抜き】っ! 【骨抜き】ぃっ!」
痛みに意識を引き戻された俺は、この気を逃さずに、左前足の後趾を抜き取る。
正直、体の表面はズブズブの火傷で感覚がねえ。ってことは一番ひどい火傷か?
そんなことは、スピカさえ助け出せればどうでも良い。
というか、どうにかなるだろうとどっかで思ってる自分も居る。
『ふははは。何とも良い面構えになったではないか』
洞窟の中の方に距離を取った俺を見て、レッド・ドラゴンが嘲笑う。
あれだ、毛の全く無い猫みたいな格好になってるのさ。勿論、全身大火傷でな。
けど、【回復強化】が仕事し始めてるのも分かる。
「ぬかせ。自慢の髭が台無しじゃねえかよ。どうしてくれる? それに、チンケな魔法しか使わねえじゃねえか。あん? ご自慢の息吹はどうした? 風邪でも引いて喉をやられちまったのか?」
俺を油断させるつもりなのか、吐く程の価値はねえと思ってるのか、吐くと自分に何かしらマイナスな事が起きるのか、何故だか知らん。
流石に吐けねえということはないと思うが、な。
『ふん。蚤にブレスなど勿体無い。魔法で十分過ぎる』
「その割には、蚤を潰せてないようじゃねえか」
《【骨抜き】の熟練度が7になりました。【骨融合】の【熟練度】が6になりました。【骨錬成】の【熟練度】が6になりました。【骨形成】の【熟練度】が6になりました。【粉骨砕身】の【熟練度】が5になりました。【回復強化】のレベルが6に上がりました》
足下の骨を足の裏からズルズルと体に吸い込んでいると、またアナウンスが聞こえた。
ーー随分上がったな。
『ふは。言いよるわ。だがな、余の寝床に土足で踏み込んだ咎は許さぬ。【જ્યોત કાંટા】。【આગ તીર】』
はん、洞窟の中でブレスを使って台無しにしたくねってことか。
随分と甘ちゃんだな。
「っと」
足下から吹き上がる炎の荊棘を力一杯跳んで躱す。その下を火の矢が10本通り過ぎて洞窟の壁に刺さるのが見えた。
ふぃ~危ねえ。中途半端に跳んで躱してたら串刺しだったな。
「【骨爪】!」
『ぬっ。斬っただと!? 莫迦な!?』
さっき荊棘を切った時に熱に耐え切れずに砕けた【骨爪】で、レッド・ドラゴンの翼膜を少しだけ裂くことが出来た。
洞窟の天井を蹴って加速した甲斐があったってもんだ。
相変わらず、爪が赤い。
真っ赤ではないが、俺の皮膚よりも赤いな。火傷してるが……。
これはあれか?
こいつの骨を少しだけど、吸収してるからか?
「【骨抜き】っ! 【骨抜き】っ! 【骨抜き】っ!」
そのまま着地して腹の下に潜り、残った右後ろ足の小指から骨を抜くことに成功した。
ーーやった。
『ちょこまかと鬱陶しい。幾ら貴様が策を弄しようが、余の体に疵を付けることなど叶わぬと知れ。生きたまま喰らうた方が力になるのだが、もはや面倒だ消し炭して喰らうてやる』「【骨飛礫】!! 誰が言わせるかよ!」 バキッ 『【સ્મશ――】ガフッ!?』
っぶねえっ!!
今の魔法、絶対に使わせたらダメなやつだ。俺の直感がそう訴えてやがる。
しかも、何だ今の【骨飛礫】。ゴルフボール大だったはずが、バランスボール並にでかかったぞ!?
今まで効かねえだろう、と思って使わなかったが、こんだけでかくなりゃ、牽制には持って来いだな。
『お の れ 蚤 の 分 際 で!』
おおう。顔にぶつけられて金ぴかな眼の瞳孔が縦に細くなったぞ。
「うぐっ」
ぐおっ。まただ。急に息苦しくなりやがった。
ーーあれか?
まぢに怒ったってやつか?
まぢ怖え。ちびりそうだぜ。
《【骨融合】の【熟練度】が7になりました。【骨錬成】の【熟練度】が7になりました。【骨形成】の【熟練度】が7になりました。【骨爪】の【熟練度】が4になりました。【粉骨砕身】の【熟練度】が6になりました。【回復強化】のレベルが7に上がりました》
ゴウッ
レッド・ドラゴンが咆哮を放ちながら腕を振る。
ギリギリで躱すが、爪の突き刺さった骨の絨毯が爆発し、破片が俺の体を切り裂いた。
ってえ。
腕を振るい、咬み付き、燃える荊棘を出し、腕を振るい、尾を撓らせるレッド・ドラゴン。
怒りで猛っているものの、爆発系や破壊系の魔法は使ってこない。ここに来てもまだ俺のことを侮っているようだ。
躱しながら【骨飛礫】という名の大砲をぶっ放して、更に煽る俺。
ダメージは入って無さそうだが、怒りゲージはそろそろ満タンになるはずだ。それはその時を待った。
『おのれ、おのれ、おのれ! 下等生物の分際でぇぇぇーーっ!! 潰してくれる!!』
激昂したレッド・ドラゴンが体を捻った時、それは起きたーー。
『グギャア――ッ!!』
尾を振り回そうと踏ん張った時に、骨が抜けて宙ぶらりんになった左後ろ足の小指を巻き込んで自重で引き千切ったんだ。
おぅ、あれは痛え。
箪笥の角で小指を打った時を思い出し、俺も眉を顰めたが、好機を逃がす気はない。
バランスを崩してヨタヨタと揺れているのを尻目に、千切れた指に腕を突っ込んで、骨を吸収する。腕が血塗れになるが知らん!
今までは5本の指に爪をというイメージだったが、腕1本に1つの爪というイメージで【骨法】を発動させてみる。
「【骨爪】!」
腕全体が鋸鎌のような形状の緋色の爪に変わった。
「デケえな!! おらぁっっ!!!」
『っ!? そんだそれは!? ギャアアァァァァァーーーーッ!?』
思った通りだった。こいつの骨を吸収したお蔭で、鱗を刺し通せる爪を作れるようになってたって事だ。
ゴツンと爪の先が骨に当たる感触を伝えてので、すぐさま試みる。
「【骨抜き】!」
今度は、1発で成功だ。尻尾の骨全部じゃないだろうが、刺した周辺の骨は吸収したはず。
『ま、待て。よ、余が悪かった。話を聞こう。いや、話そうじゃないか』
そう、慌て始めたレッド・ドラゴンは俺の眼の前で四肢を畳み、翼を畳み、骨絨毯の上に伏せの姿勢を取ったんだーー。
えっ!? お前がそれするの!?
「いいぜ。俺の要求は1つだ。喰ったスピカを吐き出せ」
服従のポーズだろうが何だろうが、スピカを取り戻せねえんだったら意味がねえんだよ。
『む……。要求は判ったが、既に喰らってから時が過ぎておる。……お主は悪いが』
貴様が、お主になったぞ?
どうした、レッド・ドラゴン!?
「良いから、頭を下げて口を開けろ。それとも何か? 喉をこいつで裂いてやろうか?」
『ま、待て。早まるな』
グルグルと喉を鳴らしながら、俺の前に頭を下げてくるレッド・ドラゴン。さっきまでの威厳も、息苦しさもねえ。レベルの差は圧倒的にこいつの方が上だが、命の危険を覚える程に俺の爪が成長したってことか。
ま、油断は大敵だがな。
ゆっくりと鰐に似た莫迦でかい口を開けた。
真っ赤な喉の奥にある3つの穴まで良く見える。
ん?
3つも穴が要るか?
まあ良い。舌の奥まで指を突っ込めば嘔吐くもんだ。
同じようにすりゃスピカも吐き出すだろう。
そう思い、舌の奥に手を突っ込んでやろうと左手を伸ばした瞬間、俺は炎と熱に奔流に呑み込まれたーー。
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