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第1章 西挟の砦
第89話 えっ!? 俺!? 本気かよ!?
しおりを挟むあーーやっちまった……。
目の上に手を当て顔を天井に向けてるところへ、ぶつかるように体を預けてくる感触が体を揺らす。ヒルダとプルシャンだ。
「主君。前から学があるとは思っていたが、これほどとは思わなかったぞ」
「ハクト、凄いねーっ! わたしはチンプンカンプンだけど。皆驚いてたよ!」
「ああ、ありがとよ」「「ふあああっ!?」」
皆がワラワラと部屋から出て行くのを見ながら、縋り付くように体を密着させてきた2人の頭をやや乱暴に撫でると、また奇声を上げてた。一体何なんだ?
慰みものにされてた姉ちゃんたちも、女騎士たちに1人、また1人と運び出されている。
腹の子に影響なけりゃ良いがな……。
厚手のシーツのような布に乗せられて運びだされる妊婦に気付き、そう思わずにはいられなかったよ。後は、ここからどうトンズラこくか、だが。
じーっとこっちを見詰める姫さんと目が合っちまった。
「……じゃあ、嫌疑は晴れたみたいだしよ。ここらで」
「待って下さい! まだ知恵をお借りしできませんか?」
「えっ!? いや、もう十分だと思うが?」
「候爵殺害を否とされた場合、どうすれば良いのでしょうか?」
いや、知らんがな。
「いや、姫さんよ。そりゃ買い被り過ぎってもんだ。俺は軍師でも戦略家でも何でもねえ。知らねえ事のほうが多い。今回は偶々似たようなことを知ってたから助言できたんであって、いつもそうだとは限らねえ。それにだ。俺は只の縁起の悪い雪毛の兎オヤジだぞ。あんまり拘わらん方が良いと思うがね?」
「雪毛の兎人について悪い印象が広まってるのはわたしも知っています。ですが、ハクトさんは別です。どうかお力添えを」
「わたしからもお願いします」
頭を下げる姫さんの横に、シーツで体を包んだエレンさんが立ち頭を下げてきた。
おいおい、あんたそれどころじゃねえだろうがよ。姫さんより自分のこと気にしろって。
ゾクッ
っと背筋に悪寒が走る。
おい、色男、剣先で首筋をチクチクすんな。いつの間に戻って来たんだ?
「殿下が頭を下げておられるのだ、返答によっては判ってるな?」
「いや、それ脅しだろう?」
「ふん。礼は言っておく。お蔭で一網打尽にできそうだ。協力に感謝する」
「もっと下手に出た言い方はできないもんかね?」
感謝も上から目線と来たか。まあ、名前が3つ並んでたってことは、ヒルダと同じ貴族の出なんだろう。おまけに騎士の更に上の職種なら、自然とそうなるか。やっぱり上流階級とは相容れねえな。
「どうやら無駄口が多いらしいな」
「そんなに褒めんな。恥ずかしいからよ」
「褒めてはおらん! 口の利き方に問題があると言ってるのだ」
こいつ、からかい甲斐があるな。
「判ってるって。冗談だって。そんなにカリカリすんな。けどまあ、敬意は払うが俺はさっきから言ってるように、この国の者じゃねえし、正直、政には関わりたくねえと思ってる。今更だがな。妙案なんてすぐに浮かぶもんじゃねえが……手っ取り早いのは誰かに罪を擦り付けてしまうこったな」
そう言った瞬間、俺に視線が集まるのが判った。
「えっ!? 俺!? 本気かよ!?」
「適任だな」
と色男。
「ハクトさんしか居ないかと」
とエレンさん。
「国という縛りがありませんし」
副団長さんに。
「大騎士に勝てますし」
狼娘。取り巻きどもは、コクコクと皆首を縦に振ってやがる。
「おい、お前ら! 人事だと思って何言いやがる! 俺の平穏な生活が無くなっちまうだろうが! 人に擦り付けんな!」
「人に擦り付けろと言ったのは貴様だろうが」
「うぐっ」
それを言われると返す言葉がねえ。色男の突っ込みに唸ってしまった。
ぱんっ
と可愛らしい柏手が打たれる。姫さんだ。
「そうですわ! そこの大きな白い騎士さんに、ハクトさんの代わりをしてもらうというのはどうでしょう!? 聞けば、ハクトさんが召喚されると聞きました。普段は目立たたいのであれば、身代わりとしてはうってつけなのではないでしょうか?」
会心の案を閃いたとばかりに、嬉しげに考えを披露する姫さん。確かに、出入りが自由な存在である骸骨騎士なら、条件に当て嵌まらなくもねえ。
現に、回りの奴らは「その手がありました!」とか「流石、姫様!」と喝采の嵐だ。
そもそも、俺がそこまでする必要はねえんだがな……。上手く使われてるだけなんだし。
まあ、一緒に飯を食った仲だと、どうも情に絆されちまうんだよ……。俺の悪い癖だ。
なぁ、ガイ、どうするよ?
声に出さず、そんな思いを込めて骸骨騎士を見ると、コクリと頷きやがった。
「はぁ~……。しゃあねえな。ガイもそれで良いって言ってるこったし。良いぜ」
ボリボリと後頭部を掻きながら承諾すると。安堵の声が色んなところから漏れ聞こえた。
「ありがとうございます!」
「但し! 俺たちの身の保証を確約する物を貰いたい。あー姫さんからは貰ってるから、色男、あんただ。あんたから身の安全を保証する一筆と物を貰いたい。それを出さねえとこの話はなしだ」
これくらいは要求しても罰は当たらんだろう。寧ろ善意でするほうが怪しいぜ。
「アマデオ。わたしからもお願いします」
「は。では、一筆認めてまいります」
そう言って城主の死体が未だ転がった寝室を出て行く色男の背中を見送りながら、俺は大きく息を吐いたーー。
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