29 / 54
第1章
第29話 ランクアップ
しおりを挟む
「ランクアップですか?」
「ああ、そうだ。お前さんみたいな実力者を、10級のままにはしておけねぇからな」
どうもガズさん、登録のあとにランクアップについて話すつもりだったらしい。
それを、ジャレッドくんに邪魔されてしまった。
ほんと、迷惑なヤツだったな。
「最初は7級か8級くらいで考えてたんだがな。お前さんはいまから5級だ」
「5級ですか!?」
10段階中の真ん中ってことは、地球でいうDランク相当ってことだよな?
いきなり過ぎじゃね?
「アラタさま、すごいです!」
アイリスは無邪気に喜んでいるけど……。
「いいんですか、いきなり5ランクもアップして?」
「かまやしねぇよ。5級までは受付担当の裁量で決められるからな。問題がありゃギルマスから差し戻されるだろうが、その心配はないとみてるぜ、俺は」
「だとしても、いきなり5級……」
俺が不安げにしていると、ガズさんが苦笑した。
「あのなぁ、お前さんは4級冒険者に圧勝したんだぜ? 俺に権限がありゃあもうひとつ上げたいくらいだ」
「いやでも、それは武器のおかげで……」
「その武器を用意したのも使いこなしたのもアラタだろう? だったらそれも含めてお前さんの実力じゃねぇか」
「そうですよ! アラタさまはすごいんですから、もっと自信を持ったほうがいいです!」
「うーん……わかったよ」
これ以上遠慮するのもあれだし、俺は5級への昇級を受け入れることにした。
「主、もう終わったか? 儂、帰って昼寝したい」
足下にいたシャノアが、退屈そうに訴えてくる。
「はいはい、わかったよ。もう、大丈夫ですよね?」
俺が問いかけると、ガズさんはあたりをキョロキョロと見回している。
「おい、いまの声は?」
ああ、そうか、ガズさんの位置からじゃ、シャノアの姿が見えないのか。
「いまのは俺の飼い猫の声で……」
そこまで言うと、シャノアはひょいっと飛んで受付台に乗った。
「シャノアだ」
そしてガズさんにしゃべりかけた。
「えっ……?」
ガズさんが、固まる。
「ね、猫が、しゃべった!?」
あー、うん。
そりゃ驚くよね。
「シャノアさまはすごいんですよ! なんと神獣で【忍者】なのです!!」
「し、ししし神獣で、【忍者】ぁ!?」
自慢げに言うアイリスの言葉に、ガズさんはさらに驚いた。
「神獣で【忍者】のシャノアだ。今後ともよろしく」
続けてシャノアがそう言って鼻を鳴らす。
その言い回し、どこで覚えた?
「そ、そうか……なんというか、すごいな……」
ガズさんの混乱は完全に治まらないものの、なんとなく理解はしてもらえたようだった。
「あっ、そうだ。シャノアの扱いはどうなるのかな?」
「シャノアさまの扱いですか?」
「というかシャノアは、俺が活動しているあいだどうする? アイリスのところで留守番でもしとくか?」
「なにを言っておる。儂はもう、主が帰ってくるのを待つのはいやだ。なにがなんでもついていくぞ」
そっかぁ……そうだよな。
これまで寂しい思いをさせてたもんなぁ。
【忍者】のジョブを得ているし、たぶんついてこられるとは思うけど……。
「そうなるとシャノアの立ち位置をはっきりさせとかないとな」
「やはり、従魔として登録するのがいいのでしょうか」
「うーん、それが無難かな」
地球の冒険者にも、ビーストテイマーやモンスターテイマーがいた。
〈調教〉スキルがあれば、動物や野良モンスターを従えられるのだ。
となればこちらにもそういうスキルがあってもおかしくない。
なんならジョブもありそうだ。
「ちょっと待ってくれ」
そこへガズさんが待ったをかける。
「シャノアさんよ、あんたしゃべれるんだよな?」
「うむ、このとおり問題なくしゃべれるな」
「そのうえ【忍者】のジョブも持っている?」
「そのようだな」
「悪いが少し見させてもらっても?」
「よかろう」
そこでガズさんは、じっとシャノアを見つめた。
おそらく〈鑑定〉しているのだろう。
「おう、本当に神獣で【忍者】だな」
「ふふん」
シャノアが自慢げに、鼻を鳴らす。
「ジョブを持っていて、会話ができるんなら、シャノアさんも冒険者にならないか?」
おおっとガズさん、とんでもないことを言い始めたぞ?
さすがのアイリスも、驚いて目を見開いている。
「そうすれば、主と一緒にいられるのか?」
「もちろんだとも。パーティーを組めばいい」
「では、なってやろう」
俺と一緒にいたいから冒険者になるなんて……シャノア、かわいいやつ!
それからガズさんは手際よく手続きを進め、シャノアの冒険者タグを用意した。
「それじゃあシャノアさんよ、こいつを常に携帯していてくれ」
「む、これを持っておらねばならんのか?」
「悪いが、決まりなんでな」
「むぅ……」
なにやらシャノアは、不機嫌そうだった。
「首にでも巻いといたらどうだ?」
タグにはチェーンがついているので、長さを調整すれば問題なさそうだ。
「バカを言うな。儂が首輪を嫌いなのは知っておるだろう?」
「あー」
そういえばシャノアを飼い始めたころ、首輪をつけてやろうとしたんだが、もの凄く嫌がるのでやめてやったことを思い出す。
「そういやそうだったな」
「主め、忘れていたのか! ひどいヤツだ!」
シャノアはそう言って、受付台に置いた俺の手をガシガシと噛んだ。
「痛い痛い、悪かったよ」
まぁ、甘噛みなんで全然痛くないけどな。
そのあと首を撫でてやると、そのまま俺の手に顔を押しつけて甘え始めた。
「はぅん……」
「おぅふ……」
そんなシャノアの様子に、アイリスとガズさんがうっとりしてしまう。
「それって、俺が持ってちゃだめですか?」
「……ダメだな。身に着ける必要はないが、提示を求められた際に本人が見せなければいけないからな」
「じゃあ、やっぱり従魔ってことで……」
「それはそれで首輪が必要だ」
「なんと……」
さて、どうしたものか。
「でしたら、シャノアさまに〈収納〉スキルを習得していただくというのは?」
「ふむ、なるほど」
アイリスの提案に、ガズさんが頷く。
シャノアが〈収納〉スキルを?
「ん?」
なんだか状況をよくわからず首を傾げるシャノアを〈鑑定〉する。
さすが神獣というべきか、キャパシティには充分な余裕があった。
「ほら、〈収納〉だ」
なにやらごそごそしていたガズさんが、受付台に少し大きなビー玉のようなものをおく。
間違いなく〈収納〉のスキルオーブだ。
「置いてあるんですね」
「冒険者になるヤツの大半は、登録と同時に覚えるな。お前さんはすでに使えるようだが」
おっとバレてたか。
決闘のときに銃やらナイフやらを出し入れしたから、それを見てればわかることだし、隠すつもりもなかったけど。
「でしたらそれは、ウォーレン商会につけておいてください」
「いくらなんでもそれは……」
「いいですよ、高いものでもありませんし」
そっか、こっちの世界じゃスキルオーブは安いんだったな。
「えっと、それじゃ……ありがとう」
「なんか知らんが、儂からも礼を言おう」
「いえいえ、どういたしまして」
スキルオーブをシャノアの前に置く。
「ところでこれはなんだ?」
「そいつは〈収納〉ってスキルを覚えられるものだよ」
「〈収納〉?」
「ほら、こうやって」
そこで俺はちゅるちゅるのおやつを出してやる。
すると、シャノアの目が大きく開き、ヒゲがピンとたった。
「ものを自由に出し入れできるやつだよ」
そう言っておやつをしまうと、シャノアは目を細め、ヒゲを萎れさせながらうなだれた。
「帰ったらやるから」
「うむ、約束だぞ」
その言葉で、シャノアはピンと身体を起こす。
「それで、この玉っころをどうすればよいのだ?」
「うーん、俺は手に持って念じると、習得できたけど」
あの肉球じゃあ、オーブは握れないよな。
「ふむ、では食うか」
「あっおい!」
食うと言ったので止めようと思ったが間に合わず、シャノアはスキルオーブを口に咥えた。
次の瞬間、オーブが溶けるように消え去ったかと思うと、シャノアの身体が淡く光った。
「……習得できたのか?」
「おそらく」
心配する俺をよそに、シャノアは受付台に置かれた自分のタグに触れた。
すると次の瞬間、タグが消えた。
「おおっ!」
思わず、声を上げる。
「シャノアさんよ、出せるかい?」
「こうかな」
ガズさんが問いかけると、シャノアの足下にタグが現れた。
「どうやら問題ねぇな」
「シャノアさま、すごい!」
まったく……ジョブを得ただけでなく、オーブでスキルまで覚えるとは、家族ながらすごいヤツだよ。
無事タグを持ち歩けるようになったシャノアは、とりあえず10級から始めることになった。
「いきなり【忍者】なんつージョブを得たんだから、本来ならもうちょい上から始めてもいいとは思うが、実力は未知数だし、なにより前例がないからな」
ガズさんは申し訳なさそうに言ってくれたが、おれとしてはシャノアと一緒に冒険できるだけでありがたく、一切の不満はなかった。
「ああ、そうだ。お前さんみたいな実力者を、10級のままにはしておけねぇからな」
どうもガズさん、登録のあとにランクアップについて話すつもりだったらしい。
それを、ジャレッドくんに邪魔されてしまった。
ほんと、迷惑なヤツだったな。
「最初は7級か8級くらいで考えてたんだがな。お前さんはいまから5級だ」
「5級ですか!?」
10段階中の真ん中ってことは、地球でいうDランク相当ってことだよな?
いきなり過ぎじゃね?
「アラタさま、すごいです!」
アイリスは無邪気に喜んでいるけど……。
「いいんですか、いきなり5ランクもアップして?」
「かまやしねぇよ。5級までは受付担当の裁量で決められるからな。問題がありゃギルマスから差し戻されるだろうが、その心配はないとみてるぜ、俺は」
「だとしても、いきなり5級……」
俺が不安げにしていると、ガズさんが苦笑した。
「あのなぁ、お前さんは4級冒険者に圧勝したんだぜ? 俺に権限がありゃあもうひとつ上げたいくらいだ」
「いやでも、それは武器のおかげで……」
「その武器を用意したのも使いこなしたのもアラタだろう? だったらそれも含めてお前さんの実力じゃねぇか」
「そうですよ! アラタさまはすごいんですから、もっと自信を持ったほうがいいです!」
「うーん……わかったよ」
これ以上遠慮するのもあれだし、俺は5級への昇級を受け入れることにした。
「主、もう終わったか? 儂、帰って昼寝したい」
足下にいたシャノアが、退屈そうに訴えてくる。
「はいはい、わかったよ。もう、大丈夫ですよね?」
俺が問いかけると、ガズさんはあたりをキョロキョロと見回している。
「おい、いまの声は?」
ああ、そうか、ガズさんの位置からじゃ、シャノアの姿が見えないのか。
「いまのは俺の飼い猫の声で……」
そこまで言うと、シャノアはひょいっと飛んで受付台に乗った。
「シャノアだ」
そしてガズさんにしゃべりかけた。
「えっ……?」
ガズさんが、固まる。
「ね、猫が、しゃべった!?」
あー、うん。
そりゃ驚くよね。
「シャノアさまはすごいんですよ! なんと神獣で【忍者】なのです!!」
「し、ししし神獣で、【忍者】ぁ!?」
自慢げに言うアイリスの言葉に、ガズさんはさらに驚いた。
「神獣で【忍者】のシャノアだ。今後ともよろしく」
続けてシャノアがそう言って鼻を鳴らす。
その言い回し、どこで覚えた?
「そ、そうか……なんというか、すごいな……」
ガズさんの混乱は完全に治まらないものの、なんとなく理解はしてもらえたようだった。
「あっ、そうだ。シャノアの扱いはどうなるのかな?」
「シャノアさまの扱いですか?」
「というかシャノアは、俺が活動しているあいだどうする? アイリスのところで留守番でもしとくか?」
「なにを言っておる。儂はもう、主が帰ってくるのを待つのはいやだ。なにがなんでもついていくぞ」
そっかぁ……そうだよな。
これまで寂しい思いをさせてたもんなぁ。
【忍者】のジョブを得ているし、たぶんついてこられるとは思うけど……。
「そうなるとシャノアの立ち位置をはっきりさせとかないとな」
「やはり、従魔として登録するのがいいのでしょうか」
「うーん、それが無難かな」
地球の冒険者にも、ビーストテイマーやモンスターテイマーがいた。
〈調教〉スキルがあれば、動物や野良モンスターを従えられるのだ。
となればこちらにもそういうスキルがあってもおかしくない。
なんならジョブもありそうだ。
「ちょっと待ってくれ」
そこへガズさんが待ったをかける。
「シャノアさんよ、あんたしゃべれるんだよな?」
「うむ、このとおり問題なくしゃべれるな」
「そのうえ【忍者】のジョブも持っている?」
「そのようだな」
「悪いが少し見させてもらっても?」
「よかろう」
そこでガズさんは、じっとシャノアを見つめた。
おそらく〈鑑定〉しているのだろう。
「おう、本当に神獣で【忍者】だな」
「ふふん」
シャノアが自慢げに、鼻を鳴らす。
「ジョブを持っていて、会話ができるんなら、シャノアさんも冒険者にならないか?」
おおっとガズさん、とんでもないことを言い始めたぞ?
さすがのアイリスも、驚いて目を見開いている。
「そうすれば、主と一緒にいられるのか?」
「もちろんだとも。パーティーを組めばいい」
「では、なってやろう」
俺と一緒にいたいから冒険者になるなんて……シャノア、かわいいやつ!
それからガズさんは手際よく手続きを進め、シャノアの冒険者タグを用意した。
「それじゃあシャノアさんよ、こいつを常に携帯していてくれ」
「む、これを持っておらねばならんのか?」
「悪いが、決まりなんでな」
「むぅ……」
なにやらシャノアは、不機嫌そうだった。
「首にでも巻いといたらどうだ?」
タグにはチェーンがついているので、長さを調整すれば問題なさそうだ。
「バカを言うな。儂が首輪を嫌いなのは知っておるだろう?」
「あー」
そういえばシャノアを飼い始めたころ、首輪をつけてやろうとしたんだが、もの凄く嫌がるのでやめてやったことを思い出す。
「そういやそうだったな」
「主め、忘れていたのか! ひどいヤツだ!」
シャノアはそう言って、受付台に置いた俺の手をガシガシと噛んだ。
「痛い痛い、悪かったよ」
まぁ、甘噛みなんで全然痛くないけどな。
そのあと首を撫でてやると、そのまま俺の手に顔を押しつけて甘え始めた。
「はぅん……」
「おぅふ……」
そんなシャノアの様子に、アイリスとガズさんがうっとりしてしまう。
「それって、俺が持ってちゃだめですか?」
「……ダメだな。身に着ける必要はないが、提示を求められた際に本人が見せなければいけないからな」
「じゃあ、やっぱり従魔ってことで……」
「それはそれで首輪が必要だ」
「なんと……」
さて、どうしたものか。
「でしたら、シャノアさまに〈収納〉スキルを習得していただくというのは?」
「ふむ、なるほど」
アイリスの提案に、ガズさんが頷く。
シャノアが〈収納〉スキルを?
「ん?」
なんだか状況をよくわからず首を傾げるシャノアを〈鑑定〉する。
さすが神獣というべきか、キャパシティには充分な余裕があった。
「ほら、〈収納〉だ」
なにやらごそごそしていたガズさんが、受付台に少し大きなビー玉のようなものをおく。
間違いなく〈収納〉のスキルオーブだ。
「置いてあるんですね」
「冒険者になるヤツの大半は、登録と同時に覚えるな。お前さんはすでに使えるようだが」
おっとバレてたか。
決闘のときに銃やらナイフやらを出し入れしたから、それを見てればわかることだし、隠すつもりもなかったけど。
「でしたらそれは、ウォーレン商会につけておいてください」
「いくらなんでもそれは……」
「いいですよ、高いものでもありませんし」
そっか、こっちの世界じゃスキルオーブは安いんだったな。
「えっと、それじゃ……ありがとう」
「なんか知らんが、儂からも礼を言おう」
「いえいえ、どういたしまして」
スキルオーブをシャノアの前に置く。
「ところでこれはなんだ?」
「そいつは〈収納〉ってスキルを覚えられるものだよ」
「〈収納〉?」
「ほら、こうやって」
そこで俺はちゅるちゅるのおやつを出してやる。
すると、シャノアの目が大きく開き、ヒゲがピンとたった。
「ものを自由に出し入れできるやつだよ」
そう言っておやつをしまうと、シャノアは目を細め、ヒゲを萎れさせながらうなだれた。
「帰ったらやるから」
「うむ、約束だぞ」
その言葉で、シャノアはピンと身体を起こす。
「それで、この玉っころをどうすればよいのだ?」
「うーん、俺は手に持って念じると、習得できたけど」
あの肉球じゃあ、オーブは握れないよな。
「ふむ、では食うか」
「あっおい!」
食うと言ったので止めようと思ったが間に合わず、シャノアはスキルオーブを口に咥えた。
次の瞬間、オーブが溶けるように消え去ったかと思うと、シャノアの身体が淡く光った。
「……習得できたのか?」
「おそらく」
心配する俺をよそに、シャノアは受付台に置かれた自分のタグに触れた。
すると次の瞬間、タグが消えた。
「おおっ!」
思わず、声を上げる。
「シャノアさんよ、出せるかい?」
「こうかな」
ガズさんが問いかけると、シャノアの足下にタグが現れた。
「どうやら問題ねぇな」
「シャノアさま、すごい!」
まったく……ジョブを得ただけでなく、オーブでスキルまで覚えるとは、家族ながらすごいヤツだよ。
無事タグを持ち歩けるようになったシャノアは、とりあえず10級から始めることになった。
「いきなり【忍者】なんつージョブを得たんだから、本来ならもうちょい上から始めてもいいとは思うが、実力は未知数だし、なにより前例がないからな」
ガズさんは申し訳なさそうに言ってくれたが、おれとしてはシャノアと一緒に冒険できるだけでありがたく、一切の不満はなかった。
応援ありがとうございます!
5
お気に入りに追加
915
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる