幸せを知る異世界転移

ちゃめしごと

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Prologue

盗賊団 金猫のチャルチュ

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 ベンダルさん、僕を一週間前に拾って下さったお髭の方のことだ。
 彼に連れられてやってきたのはレイシュルール盗賊団という集団だった。

「(盗賊…僕は、どうやら盗賊団に入ってしまったみたいです)」
 僕の盗賊に対して持っていたイメージは、乱暴、不潔、卑怯というネガティブイメージばかりだった。

 けど、ここにいるレイシュール盗賊団の皆は違う。互いにいがみ合ったり、貶し合ったり、時には暴力沙汰までおこすのに、最後には笑顔で肩を組んで酒を飲み交わしている。

 今晩も僕は二人の盗賊仲間と一緒に夕餉を頂いている。








「ユーマ、飲んでるかい?」
 今日も今日とてお酒が美味い!私は金猫のチャルチュ!この盗賊団でも指折りの双剣使いさ!

 一週間前にウチに入って来た私らの弟分、ユーマッて名前のガキは金猫なんて呼ばれる私でも驚く整った容姿をしている。私だって波の大きな長い金の髪をしていてそこから金猫なんて大層なあだ名を付けられたんだ。もしもユーマが成果を上げたら黒猫って名前を貰えるかもしれないね!

「チャルチュさん、僕はまだ未成年ですよ」
 笑みを交えてそう返してくれるようになったのはつい最近のことだ。







 一週間前、ここにやってきたばかりのユーマはベンダルの野郎の腰巾着みてぇに引っ付いて歩き回っていた。
 私は最初、てっきりユーマが家出したクソガキだと思っていたから言っちゃいけねぇことを言っちまった。

「ベンダルだって忙しくねぇんだ。さっさと家出なんてやめて親元に帰りな」
 今考えてみれば、親のいるガキが何の理由も無く家出して盗賊団なんかに来るわきゃ無いのにねぇ。

 私の言葉にユーマは揺れた水面くらいにしか思えない感情の変化を見せた。

「心配してくれて、ありがとうございます」

 心配なんて誰がしたんだと思わず口ごもっちまったよ、何処の世界に悪態かれて心配だって判断する奴がいるのさ。

 その後、ベンダルからこっそりと教えてもらったことなんだけどユーマに親はいないらしい、何を言ってんだと私は思ったね、人間ってのは親から生まれてくるもんだろ?私にだって思い出したくも無いけれども親って奴はいた。
 

 ある夜、私はユーマが火の番をしている時にこれまでの人生について聞いてみた。

「これまでは…これ、まで?その…僕のこれまでの人生って、何なのでしょうか?」

 何で質問した私が質問されているのさと思った。それに、何を聞かれているのか私自身よく分からなかった。

「ベンダルと会う前は何をしていたのさ?」
 そう言い換えて聞いてみると、ユーマは唐突に空を見上げた。つられて私も空を見上げてみると、満天の星空が広がっていた。

 久しぶりに見た星空は変わらずに美しかった。

 私が金猫と呼ばれる由縁はこの金色の髪だけじゃないのさ、私の一族が代々引き継いできた特殊能力としか形容出来ない瞳、『夜猫の瞳』という暗闇を見通す瞳だ。

 そんな私の瞳は、夜空の星々を他の奴らよりも美しく映し出す。

 私はこの瞳が好きだ。けれど、人ってのは自分達を中心に考えて異質な者を迫害するもんだ。それさえなければもっとこの瞳のことを好きになれたはずなんだけどね。

 なんて、一人で昔の事を思い出していたらユーマが口を開いた。

「部屋…扉があって、冷たくて、本が置かれた部屋」

 そこまで口にしてこちらを見たユーマの顔を見て、私は反省した。
 聞いちゃいけねぇことを聞いたんだって分かった。

 だって、ユーマの顔には感情の欠片も感じられなかったんだ。
 感情を表現しようと笑顔を作ってはいるけれども、そこに楽しさだとか、悲しみを讃えた笑みってわけでも無かった。

 ユーマはもう一度、星空に視線を向けた。
「あの空を見ると、少しだけ思い出すんです。真っ暗な天井を、暗くて、冷たくて、光の差し込まない窓を」

 何も言えなかった。
 ただただ、この五歳のガキがこれまでどんな経験をしてきたのかと気になった。気になったけど、そこに踏み込むことはユーマを壊すことになっちまうんじゃないかと怖くなった。

「僕の世界は、そこだけでした。起きて、寝て、本を読んで、誰かに構って貰えるだけで嬉しかった…僕は、僕は死んで、それで、ここに来ました」
 そう言ったユーマの視線の先には、満天の星空が映っていなかったんだと思う。

 焚き火に照らされたユーマの瞳は黒くて、ひたすらに黒くて、星空が魅せてくれているこの美しい景色がどう映っているのだろうかと疑問に思った。

「その…すいません、答えになっていましたか?」

 心配そうな表情を覗かせるユーマを見て、私は自らを恥じた。
 自分の固定観念でユーマという個人を測ってしまったことに、自らの興味本位でユーマの悲しみを引き出してしまった行いを。

「あぁ、充分だよ」
 私に言えることは、それだけだった。

 これからはもっと、ユーマに優しくしよう、いつか、こいつの瞳にも綺麗な星空が映る様に。

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