幸せを知る異世界転移

ちゃめしごと

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Prologue

盗賊団 剛腕のマシェット 2

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 私はマシェット、この盗賊団に所属して四年になる。

 これまで、新しく多くの仲間が加わった。身寄りの無い者、私の様に没落した貴族、冒険者だったが依頼を失敗して違約金の支払いを行えなかった者、奴隷だったが逃げてきた者、根っからの悪人はこの盗賊団に入団することは出来ない、リーダーのレイシュールの方針だ。

 いつの時代も、不思議と人を見る目がある人間がいる。レイシュールはその中の一人だ。

 盗賊団の中には、レイシェールがトップであることに疑問を抱く者もいる。しかし、その疑問というのは『何故こんな凄い人が盗賊団を?』という疑問だ。かくいう私もその一人だ。

 レイシュールは人を見る目だけでなく、強さと賢さも兼ね備えた真の強者だ。右手に持った白刃、そして左に持った白銀の盾、盗賊活動の際は白銀の盾こそ置いていくが、軍との争いがあった際は持ちだされるその二つの象徴から近隣の国家は『白の盗賊団』と言われている程だ。

 そんなレイシュールが何故盗賊団にいるのか、その理由を知っているのは…悔しいが、レイシュール本人だけだ。
 誰もが知りたい、誰もが気になっている。しかし、それを聞いてレイシュールがいなくなることが恐ろしい。

 だから誰も聞けない、誰も口にしない、きっといつか、レイシュール本人が教えてくれると信じて。
 
 そんなレイシュール盗賊団にこの前、小さな少年が新しく入団した。

 不思議な雰囲気の黒髪に黒い瞳の少年だった。名前をユーマ、彼はとても臆病で、彼はその分優しさを持っていた。

 入団式の日、私達レイシュール盗賊団の入団の儀、とはいってもレイシュールと目を合わせるだけなのだが、それを終えたユーマは緊張の糸が切れたかの様に卒倒した。

 ただレイシュールが、
「これで今日からお前は俺達の仲間だ、ユーマ」
 そう言っただけなのに、ユーマは目に涙を浮かべて安心した表情を私達に向けて、眠りについた。
 
 その後、皆の前でベンダルが語った。
「こいつには、親がいないらしい…きっと、その傷もまだ癒えちゃいねぇ、だけどよ、こいつは…このガキは他者に優しさを与えることが出来る」

 私を含めて、何人かが息を呑んだ。

 その少年、ユーマはどう見ても三歳か四歳の少年だ。成長不良だと考えれば五歳だともいえた。
「お前らの中で、レイシュールや俺にこの盗賊団に誘われた時に咄嗟に礼が言えた奴は手を上げろ」

 …見回してみたが、手を挙げた者はいなかった。

「マシェット、お前ェは確か拾われてきてから一週間でやっと口をきいたな」
「あぁ、私もその少年と同じ様に親を失って、街中を歩いているところをレイシュールに拾われた。しかし、私は礼を言うには一か月が掛かった」

☆ 

 そう、私は、私はあの日、親王派の貴族の手の者に嵌められた両親が断頭台で悲鳴と怨嗟の声を挙げたあの日、同時に剥奪された貴族としての位によって、何も持たぬ者となった。
 その時、希望も未来も無いと街中をフラついていた私は偶然にも果物を買いに来ていたレイシュールとぶつかった。

 レイシュールは私の顔を見ると、何やら企みめいた顔をして私に言った。
『お前のその眼、俺の所で輝かしてみないか?』 
 無言で後に付いて歩きだした私に、レイシュールは満足気な表情を浮かべて足取り軽やかに街を歩いた。



「そうだ。ところがこのガキは、俺が誘ってすぐに『ありがとうございます』と言いやがった。俺には分からねぇ、自分のことだけで精一杯だって時に、他人に礼を言えるなんてどんな精神をしてんのか俺には…分からねぇ」

 本当に、その通りだ。
 私にも分からない、お礼を言うだって?どうしてそんな考えが浮かぶんだ?

 辛くてどうしようもない程苦しい時、私を救ってくれたレイシュールに私は礼の一つも告げられなかった。
 弱くて成果も挙げられない時、私を手伝ってくれたベンダルに私は礼の一つも告げられなかった。

 心に余裕が無い、礼を言ったところで返ってくる物がない、私は自分の損得だけを考えて行動していた。
 何故、彼は礼が言えたのだろうか?

 眠りにつくその少年の表情は非常に穏やかで、見ている者の心すら溶かしてしまう程に安らいでいた。
 それを見て、答えに辿り着く。

 あぁ…そうか、先程ベンダルが言ったじゃないか、優しいからだ。

「突然の新入りだ。こころよく思わない奴もいると思う、だが、頼む」
 ベンダルが腰を折った。つまりは、頭を下げた。

「こいつに、優しくしてやってくれ」
 ベンダルが頭を下げたことにざわつく者もいたが、反論を唱える者は一人もいなかった。 

 優しく…私はその言葉を聞いて、過去の記憶を探った。
 かつて父は私にどの様に接してくれたか、それを思い出した。

 貴族として、剣を教えてくれた。
 貴族として、礼儀を教えてくれた。
 貴族として、乗馬を教えてくれた。

 そして、父として優しさを教えてくれた。
 褒めてくれた、構ってくれた、怒られることもあったが、それも優しさだ。
 
 今の私は強い、恐らくはこの盗賊団の中でもレイシュールの次に強いのではないだろうか?
 しかし、父を超えられるとは思えない。
 私は父が戦うところを見た事は無い、しかし、教えを請う中で強さを感じた、優しさの中に厳しさを感じた。

 私は父の何処に強さを感じていたのだろうか、私は何故、今もなお父を超えられないと感じるのだろうか?
 
 優しくしよう、あの少年に優しく接し、私に強さを感じてくれたその時、問うてみよう。
 私の何処に強さを感じたのか、それがきっと、私の持つこの疑問の答えだ。


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