幸せを知る異世界転移

ちゃめしごと

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Prologue

盗賊団 知り合い

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 レイシュール盗賊団に参加して一カ月が過ぎたある日、僕はいつも通りにアジトである郊外の一軒家、その地下に広がる蟻の巣穴の様な団員の寝床で目を覚ました。

「お、目を覚ましたんか」

 独特なイントネーションで挨拶をしてくれた人は、僕の傍らに立って目ざめを待ってくれていたらしい。
 誰かが…目を覚ましたら傍に居てくれる事って、安心するんだね。

 僕の目覚めを待って下さっていたのはダイナーさん、えっと、鍵足のダイナーさんという二つ名を持っている人だ。

「どうしたん?」

 寝惚けの残る頭に質問をされても、ちゃんと応えられる自信が無いので目を擦って眠たさを示すと頭を撫でてくれた。
 この世界に来て初めて頭を撫でて貰ったのだけど、僕は頭を撫でられるのが凄く好きなみたいだ。

 嬉しくてはにかんでいるとダイナーさんは僕の事を抱き上げて、洗面所まで連れて行ってくれた。洗面所といっても巣穴の中に川の水を引いて下流で再び合流させているだけの簡素なつくりだ。

 顔を洗って、ようやく寝惚けも少し解れて来た所でダイナーさんに一礼。
「おはようございます」
「おう!おはよっ!」

 僕の知る人の中でも一番バンダナが似合う男性だ。深緑色のバンダナをしていて橙色の髪の毛を上げている。目元が少し出る程度の威圧感のある人相を更に引き立てる格好をしているけれど、陽気な人なのは話さなければ分からない。

 これまで、服装も髪型も意識する事が無かった僕にとっては、参考にさせてもらいたい人だ。

「ユーマ、そういやお前って五歳って聞いたけんど」

 僕の十年間の人生から五年を引いたから五歳、間違いじゃ無い筈だ。

「なんか、落ち着いてる…よな!そういう所、格好良いんぞ!」

 笑顔を良く零れさせるダイナーさんは、表情豊かで…僕とは大違いだ。
 そういえば、どうしてダイナーさんは僕が起きるのを待っていてくれたんだろうか?

「ん、俺が何の用事かって感じの顔をしてんな?へへへ、喜べユーマ、今日は―――街に行くぞ!」

 …街!

「ど、ど、どう、どうすれば」
「そんな尻尾振った子犬みたいにソワソワするんな、ユーマと、俺と、ガネットで行くぞ」


 僕にとって、今この世界で知っている場所はこの巣穴と、元々いた森だけの世界だ。

 街、全く想像が出来ないや、前の世界でもお医者さんには来て貰っていたから。
 僕みたいな出来そこないを、外に出す訳にはいかないんだって言われてた。だけど、僕自身外に出てしまうと体が持たないから、優しさとして受け止めていたんだ。

 本当は、言葉の通りの意味だって分かっているけれど…眼を逸らしていた。

「僕…街に行っても大丈夫でしょうか?」
「どうした?なんか不安な事でもあるんか?」
「僕みたいな人間が街に行くと…見るのも嫌だという人がいるんじゃないかと」
「……馬鹿、この馬鹿、そんな事を思う奴はな、俺がぶっ飛ばしてやるかんら、誰も思わねぇかんら」
 
 ダイナーさんに抱きしめられて、僕はそう言ってもらえた。

 昔、父さんが僕に言った言葉、『お前は外に出るな、お前は恥だ。お前が外を歩けば誰もが避けるだろう。一目に触れればその者も眼にした事を後悔するだろう。お前は恥だ。いいな、覚えておけ』

 この世界に来て、僕はその言葉に従わなくても良くなったのかな。
 盗賊団の皆さんは、誰も僕を見て嫌な顔をしない、頭を撫でて下さる。

 どうしてかは…分からないけれど。

 もしも、盗賊団の皆さんの行動に、僕を思っての行動が在るのならそれだけで、僕は嬉しいなって、そう思う。
 誰かに意識されたり、誰かに存在を認めて貰える幸せを、それだけで僕は感じる事が出来るから。

「まぁ、街に行くのは買い出しもだけど…お前の事を知ってる人がいるかもしれないだんろ?」

 ―――ドクン―――

 それは、善意から発してもらった言葉だと、理解しているのに…。

 僕の胸は、重く…重く…沈んでいく。

 僕にこの世界で、知り合いなんて居るハズが無いから、素直に…ありがとうございますと、言えそうにない。

「まぁ、適当に支度をしておいてくれよんな、後でまた呼びに来るからんよ」

 向けられた善意に、「やめてください」と、そう言う事が、僕には出来なかった。
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