20 / 55
Prologue
盗賊団(次回予告的なお話)
しおりを挟む正直な話、私は自分自身が馬鹿なのでは無いかと思う時がある。
それは父の金を盗んだ時も後から思った事だが、今現在も自分で発言しておいて馬鹿な事を言ったと思っている。
「しょ、正気かよレイシュール」
思わずといった様子で言葉を漏らしたベンダルに、私は顔を向ける事が出来なかった。
他の複数人の盗賊団の仲間達も、ある者は笑い、ある者はやる気を眼に灯し、ある者は呆れた眼で私を見ていた。
「も…もう一度言ってくれないか?何をしたいって?」
ベンダルの問い掛けに、私は顔を背けるように、盗賊団の面々に背を向けた。
もう一度言う事になるとは思ってもみなかったが、今度は言葉を考えて言えそうだ。
「…ユーマに、私の仕事ぶりを見せたいのだ」
大きな音を誰かが立てて、一人、笑いを我慢して椅子ごと転げた様だ。
あれは…ダイナーか、アジトの床を何度も拳で叩いて必死に笑いを堪えているが、口元から空気が抜ける音が何度もしている。
後で笑えない様にしてやろう…。
「ユーマ二…ドウミセル?」
ガネットからの指摘に、私は思わず黙り込んだ。
…まるで考えていなかった。
ただ単純に、ユーマに凄いと思われたいという願望が口から突いて出ただけ…という事実は隠しておこう。
「戦闘があると…ユーマが…危険」
ジュネはユーマと最近良く遊んでいる所を見るし、ユーマを心から心配してくれての言葉だろう。あれからも何度かユーマに戦闘の雰囲気を教える為に頑張っている様だ。
しかし、戦闘があると危険か…私が一番得意なのは盗みでは無く戦闘だが…ユーマを背負ったまま戦闘は出来ないしな。
「ん、それならアレは?ほらほら、廃城とか探索する奴」
チャルチュが金の髪を試行錯誤しながらヘアスタイルを整えがてらに口を挟んできた。
「財宝発掘の事かなん?」
「そうそう!あれならユーマも危なくないし、大丈夫なんじゃないか?」
ダイナーも乗り気の様だ。
…だが、待て、確かにそれなら安全だしユーマも皆と共に行動が出来て楽しい時間を過ごせるだろう。
「そうだな…丁度、数日前にアジトから西の方角に地下遺跡を見付けたと団員の一人から報告が上がっている。そこに行ってみるか」
あの団員には感謝だな、それにしても財宝発掘か…ユーマ程の歳の頃は書物で読んだ物語にワクワクした物だ。
そうと決まれば早速準備を…いや、待てよ…我が盗賊団で財宝発掘を担当しているのは金猫の二つ名を持つチャルチュと、どんな宝箱でも開けて見せる凄腕の鍵足のダイナーだ。
…私は、何も出来ないのではないか?
「トレジャーハントカ…」
「財宝発掘だと俺達は留守番だな」
ガネットとマシェットがそう呟くのを聞いて、いつもであれば私も留守番組である事に思い至った。
まさか、こうなる事が分かっていて…!?
「ふふ、ふふふふ、ふふふふふふふ」
「くく、くくく、くくくくくくく」
チャルチュとダイナーが不敵な笑みを浮かべながらこちらを見ていた。確実に、こいつらの作戦に嵌められたのか…!
団長たる者、一度言葉にしたら覆る訳にはいかない、財宝発掘は決行だ。
果たして私に、財宝発掘の場で父親として誇らしい姿を見せる事が出来るだろうか。
「チャルチュ、俺達は明日の道具の整備とかしておくんよ」
「そうだなダイナー、私達は明日ユーマにちゃんと良い所魅せられる様にな!」
高笑いをしながら去って行く二人の姿を、私は悔しさから握り込んだ拳に視線を落として、見送る事も出来なかった。
ベンダルからの一言
「ウチの盗賊団、ユーマが関わると一気に馬鹿になるし三人とも忘れてるみたいなんだけどよ、チャルチュは猫目で活躍するし、ダイナーも鍵開けで活躍するだろうけど、守る為に一番傍に居る事が出来るのってレイシュールなんだよな」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる