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Prologue
盗賊団 財宝発掘 1
しおりを挟むアジトからしばらく歩いた所に、古城を見付けたという測量士のヤルタさんは僕を先導して向かっていた。
先に向かうと言った義父さんとダイナーさんを追い駆ける形でヤルタさん、僕、チャルチュさんの三人で向かっている。
アジトの周辺は毎日の様に戦闘担当の構成員さん達が頑張って下さっているお陰で危険な生物の影も無い、ただ…進んでいく過程で幾つかの問題が発生している。
「お、ユーマユーマ、これこれ、この実も食えるんだよ」
チャルチュさんの純粋なる善意から来る森の中の紹介、これが、ヤルタさんをイラ立たせていた。
「や、ヤルタさん!待って下さい!」
淡いライトグリーンの髪色をしたヤルタさんが先を歩く中で、何度も立ち止まる必要が出てくる所為で眼に見えて苛々が増していた。
「この木の実な、酸っぱくて人によっては嫌いって奴もいるんだが、その酸味が後を引いて私からすると美味いんだこれが」
足を止めてくれたヤルタさんは気にも留めず。僕を後ろから抱きすくめながらチャルチュさんの木の実紹介は続く。
「他にもこの木の実は有用でな、食べてみると…んぐ…べぇ…ほれ、舌が蒼くなってただろ?潰すと濃い色が出るから何かにマークを付ける時にも便利なんだよ」
確かにすごく便利そうな木の実だけど、僕はそれ以上に前方でこちらを睨んでいるヤルタさんに申し訳なくて仕方が無かった。
「ちゃ、チャルチュさん、その木の実貰ってもいいですか?」
「お、いいぞ、ほら…枝ごとだ!」
豪快な方だと思いながらも、足を前に向ける。
「それで、歩きながらお話の続きを聞かせて頂いても良いですか?義父さんやダイナーさんも待っているでしょうし」
「あぁ、勿論良いよ…ほらほらヤルタ、足が止まってるぞ!」
「…ユーマ君、ありがとうね…それに対してチャルチュさんは」
呆れた視線を向けているけれど、本気で嫌っている訳じゃないのが伝わってくるのはこの盗賊団の仲の良さが分かる部分だ。
本当に嫌っているのなら、今の言葉に猛反発したり、無視にまで発展しちゃうだろうから、きっとヤルタさんもチャルチュさんの自由奔放さの全てが嫌いという訳では無いと思う。
現に、チャルチュさんが木の実の説明をする時、ヤルタさんは自分の持っている紙に何かを書きこんでいるんだ。
きっと、木の実の特徴とか、チャルチュさんの話してくれる内容を書いているんだと思う。
内側に凝縮され過ぎていて食べた時に弾ける木の実や、辛過ぎて食べる事には向かないけれど濃い赤色を出す木の実、今貰った酸っぱいけれど蒼色を出す木の実など、学びに繋がる物が多く在った。
きっとチャルチュさんからすれば自分の知識の一端に過ぎないのかもしれないけれど、僕やヤルタさんにとっては新しいお話で、凄く新鮮な物だ。
僕にとってはこの世界の物の全てが新鮮で、ヤルタさんは『歩いてばかりの日々なんだ。前だけ見て、周りはあまり見ていない』と話していた。
だからだろう。チャルチュさんに厳しめな事を言いながらも、向き直って前方に視線を向ける時、彼の口元は少しだけ笑みが浮かんでいた。
「ユーマも木の実を色々と集めてみると良いぞ、私みたいに腕力じゃどうしても勝てない相手でも、自然の武器を使うと勝てる事も意外とあるからな」
自然の武器という言葉に、僕はマシェットさんと一緒に灰猪を狩った時に使用した罠を思い出した。
「そうですね…少し、意識してみようと思います」
「おう!例えばユーマ、さっき少しだけ持たせた弾ける方の実、あれも音が出るから敵になった相手に投げつければ少しだけでも相手を驚かせる事が出来るぞ」
僕は覚えておけるように話の合間に何度も頷く事で、耳から入って来た言葉を飲み込んでいった。
前方を歩くヤルタさんも先程よりも歩く速度を落としてこちらに耳を傾けている様だ。
素直すぎるチャルチュさんと、素直じゃ無いヤルタさん、二人がもっと仲良くなって、チャルチュさんの知らない場所にヤルタさんが連れて行ってあげたりすれば色々な事を発見して帰ってきてくれそうだ。
「あレ?」
唐突にヤルタさんが、声を漏らした。意図して出したと言うよりも、本当に零れ出た様な言い方だった。
「そっか…ここに既二」
何かに気が付いた様だったから気になって、僕はヤルタさんの傍に駆けて行った。
「どうかしたんですか?」
「…ユーマ君、ここを見て御覧、足元の草木…よく見るト」
言われて足元を見てみると、草に紛れて石の破片…だろうか、地面に埋め込まれた石があった。
「それに、そっちの樹の近く。僕達がこれから行く場所から考えてみるとアレモ」
指差した先には。そこにあったのは、一見すれば壊された巨大な岩だった。
だけど、これから向かう場所と先程の埋められた石から考えると、それは石柱の痕跡にも見えた。
事実は定かでは無い、だけど、そういう想像の広がる発想の欠片が転がっている様に思えた。
そうして周りを見ると、不思議と色々な物の配置に意味がある様に思えてくる。
僅かに他の木々よりも成長の遅い部分は、かつて都市が繁栄し他の木々とは成長のタイミングが違うのでは無いだろうか?
見方を少し変えただけで様々な発見が道の上には転がっていた。
ヤルタさんもそう考えているのかその目は輝いていた。
「何二人で感動してるんだよ、歩いてればその位気が付く事だろ?」
ヤルタさんの眼が輝きを失った。チャルチュさんの一言に深く傷ついた様だ。
「…チャルチュさんは気が付いていたんですカ?」
ヤルタさんは少し訝しむ様子でチャルチュさんに棘のある聞き方をしていた。悔しさの滲み出た言い方だけれど、チャルチュさんは欠片も気にしていない様だ。
「気付くも何も、古城の跡地があるのは知らなかったけどこんだけ露骨に置かれてんだ。とっくに滅んでると思ったが、まだ古城の跡地なんて物があるとはびっくりだ」
それを聞いて僕が思ったのは、視点の違いだ。
ヤルタさんが見ているのは道、誰かが歩ける場所や、自分が歩いて来た場所を見続けて来た。
チャルチュさんが見ているのは自然、誰も足を踏み入れない場所や普通は眼の届かない場所、意識せずにそういう所に眼が行くからこそ、色々な物を見つけて来たんだ。
何よりもチャルチュさんの凄い所は、嫉妬するのでは無く素直にほめたたえる事が出来る所だと思う。
「ソレを見付けたんだから、ヤルタも凄いよな」
「…どうモ」
恥ずかしげに頬を染めながら前を向き直し、歩き出したヤルタさんを僕は追い駆けた。
もうすぐで古城の跡地に辿り着く。義父さんからは『気を引き締めて行け』と言われているけれど、ヤルタさんの様子を見ていると和やかな気持ちが湧き出して来てしまう。
「チャルチュさんも…木の実の知識、凄いと思いまス」
「んお?そうか?あははははは、ありがとなヤルタ」
先程までの少しの険悪感も何処へやら、二人はその後少しずつ会話の数を増やしながら、義父さん達と合流するまでに何度も話していた。
財宝発掘が始まる前に僕が僕の視点で見付ける事が出来た仲間同士の小さな絆が生まれる瞬間、今日という日はもしかしたら、財宝以上の想い出が出来るかもしれないと、僕は胸を躍らせ二人の後を追った。
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