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Prologue
盗賊団 雇われ測量士 ヤルタ
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難しい事を考えるのは得意じゃ無い、ただ歩きまわるのだけが僕の趣味、その過程で自分の歩いた場所を描き示して行くのが僕の仕事ダ。
森の中は迷い易いと人は言うけれど、僕にしてみると一度歩いた場所を紙に紙に描いて行けば絶対に迷う事は無いと思ウ。
だけど、僕がやっている事を凄いと褒めてくれたのが今雇われている盗賊団の首領、レイシュールさんダ。
僕は測量士ヤルタ、レイシュール盗賊団に雇われた測量士ダ。
雇われの測量士 ヤルタ
思えば昔から、僕は何をするにも人よりも一歩も二歩も遅い人間だっタ。
何をするにも気になる事があるから、それを解決するまでは次の事に進めなかっタ。
孤児院で育って、自分が誰の子かも分からない僕は周りからも不気味がられてしまい溶け込む事が出来ずにいタ。
だから僕は一人で色々な場所を歩いたんダ。
街を隅から隅まで、スラムと呼ばれている地域を歩くのは少し怖かったけれど、自分の足跡を紙に刻んでいく事が楽しくて仕方無かっタ。
自然とその行いは街中に知れ渡る事となり、僕は歩き続ける変人として奇異の視線で見られる事になっタ。
それがどうしたと感じたのは、自分の行いを間違っている事だとは思わなかったからダ。僕がしている事は、僕に出来る事、出来ない事をやろうとせずに出来る事をやり続ける道を選んダ。
出来ない事が出来るようになる事も素敵な事だとは思うんダ。だけど僕は、増やすよりも突き詰めたイ。
例え変人と呼ばれようとも、僕が作る地図は正確で、街中の一画ずつ丁寧に仕上げていくのが楽しくて仕方が無かっタ。
それを買ってくれる人もいタ。変人だと貶されながらもその言葉に耳を貸さずに出来栄えだけを評価してくれた人がいタ。
僕は長年の人生で、21年の時を過ごして耐え忍び、突き詰めた先でようやく認められる事が出来たんダ。
そう。僕は幸せだっタ。
あの事件が起きるまでは…。
『貴様がヤルタか?』
孤児院で子供達と共に食事をしている朝の時間帯、兵隊風の格好をした男達が僕の家に押し掛けて来タ。
―――他者の作った地図を自分が作製した物として売った―――
そんな罪が、僕に架されタ。
『貴様の罪状は理解出来たな、連行する…抵抗はするなよ…この場所を、荒らされたく無ければな』
周りの子供達が、険呑な雰囲気に怯え涙を浮かべていタ。奥の部屋から院長先生も出て来て、何事かと心配そうな眼で僕を見ていタ。
僕は、この孤児院で今では稼頭ダ。お金を多く持って帰って来る存在ダ。
居なくなる訳にはいかない、だけど…この場を荒らされれば、帰ってくる場所も無くなってしまウ。
「分かっタ…付いて行くヨ…絶対に何かの間違いダ」
『…生意気な眼をする。良いだろう。その気概に免じてこの場は決して荒らさん、連れて行け』
こうして僕は引き立てられタ。何もしていないのに、誰かの思惑の中に嵌め込まれてしまっタ。
僕が牢屋から出る為には刑期を終えるかお金を積まなければ出れないと言われタ。
人生のドン底、味わったことの無い絶望に覚悟を決めようと涙を流し終える時を待っていた僕の下に、一人の男性が近付いて来タ。
銀色の髪をした。高身長の男性だっタ。
天から舞い降りた金髪の天使さえも嫉妬する悪魔の様な魅力を持ったその男性は、僕の牢屋の鍵を開けると、僕に手を差しのべながら言っタ。
『君があの地図を描いた青年だな、私はレイシュール…少し特殊な集団を率いている。凄いや素晴らしいじゃない、君の地図を見て感じた』
差し伸べた手を僕の前に持ってくる為に一歩近づいて、その人は僕によく通る澄んだ声で告げタ。
『ヤルタ、君が欲しい』
それは、僕の誰にも言えない初恋の瞬間で、僕がレイシュール盗賊団に雇われる切っ掛けとなった出来事。
銀色の煌きは、僕の罪を購う為に支払われた数十枚の金貨さえも超える希望を僕に魅せタ。
それが…僕の人生の、本当の意味での始まりの瞬間だっタ。
盗賊団としての活動の中で、僕を購入する為に支払った費用分が稼げれば僕は盗賊団を止めても良いとレイシュールさんに言われていル。
辞めるわけが無い、こんなに好きな人の傍にいられる事を辞めるハズが無イ。
それに、街の中で完結していた僕の人生が、この盗賊団に雇われてからは一気に広がったんダ。
レイシュールさんは僕に伝えていないけれど、僕が育った孤児院にお金を寄付してくれている事も僕は知っていル。
以前、孤児院に帰った際に銀髪の紳士がお金を沢山置いて行ってくれたと話されタ。
どこまで感謝すれば、どこまで貴方への愛を深めれば僕は貴方の隣に立つ資格を得られるのだろウ。
僕に宛がわれたアジトの部屋で、一人天井で揺れるランプを見上げて拳を握っタ。そんな事をしても、本当に欲しい輝きは手の中にやってこないの二。
明日はレイシュールさんの義理の息子となったユーマ君を連れて、レイシュールさん、チャルチュさん、ダイナーさん、そこに古城跡の発見者である僕を加えた五人で財宝発掘に向かウ。
古城の中がどんな風になっているのか、僕は確認していなイ。
道を描いて来た僕が、未知に挑戦する。何だか少し洒落の様だけど、今からドキドキが止まらなイ。
「レイシュール…さン」
小さく声に出して、あの方の名前を呼んでみル。
闇に溶けて行った言葉の様に、僕の恋心もまたまどろみの中に溶けて行っタ。
森の中は迷い易いと人は言うけれど、僕にしてみると一度歩いた場所を紙に紙に描いて行けば絶対に迷う事は無いと思ウ。
だけど、僕がやっている事を凄いと褒めてくれたのが今雇われている盗賊団の首領、レイシュールさんダ。
僕は測量士ヤルタ、レイシュール盗賊団に雇われた測量士ダ。
雇われの測量士 ヤルタ
思えば昔から、僕は何をするにも人よりも一歩も二歩も遅い人間だっタ。
何をするにも気になる事があるから、それを解決するまでは次の事に進めなかっタ。
孤児院で育って、自分が誰の子かも分からない僕は周りからも不気味がられてしまい溶け込む事が出来ずにいタ。
だから僕は一人で色々な場所を歩いたんダ。
街を隅から隅まで、スラムと呼ばれている地域を歩くのは少し怖かったけれど、自分の足跡を紙に刻んでいく事が楽しくて仕方無かっタ。
自然とその行いは街中に知れ渡る事となり、僕は歩き続ける変人として奇異の視線で見られる事になっタ。
それがどうしたと感じたのは、自分の行いを間違っている事だとは思わなかったからダ。僕がしている事は、僕に出来る事、出来ない事をやろうとせずに出来る事をやり続ける道を選んダ。
出来ない事が出来るようになる事も素敵な事だとは思うんダ。だけど僕は、増やすよりも突き詰めたイ。
例え変人と呼ばれようとも、僕が作る地図は正確で、街中の一画ずつ丁寧に仕上げていくのが楽しくて仕方が無かっタ。
それを買ってくれる人もいタ。変人だと貶されながらもその言葉に耳を貸さずに出来栄えだけを評価してくれた人がいタ。
僕は長年の人生で、21年の時を過ごして耐え忍び、突き詰めた先でようやく認められる事が出来たんダ。
そう。僕は幸せだっタ。
あの事件が起きるまでは…。
『貴様がヤルタか?』
孤児院で子供達と共に食事をしている朝の時間帯、兵隊風の格好をした男達が僕の家に押し掛けて来タ。
―――他者の作った地図を自分が作製した物として売った―――
そんな罪が、僕に架されタ。
『貴様の罪状は理解出来たな、連行する…抵抗はするなよ…この場所を、荒らされたく無ければな』
周りの子供達が、険呑な雰囲気に怯え涙を浮かべていタ。奥の部屋から院長先生も出て来て、何事かと心配そうな眼で僕を見ていタ。
僕は、この孤児院で今では稼頭ダ。お金を多く持って帰って来る存在ダ。
居なくなる訳にはいかない、だけど…この場を荒らされれば、帰ってくる場所も無くなってしまウ。
「分かっタ…付いて行くヨ…絶対に何かの間違いダ」
『…生意気な眼をする。良いだろう。その気概に免じてこの場は決して荒らさん、連れて行け』
こうして僕は引き立てられタ。何もしていないのに、誰かの思惑の中に嵌め込まれてしまっタ。
僕が牢屋から出る為には刑期を終えるかお金を積まなければ出れないと言われタ。
人生のドン底、味わったことの無い絶望に覚悟を決めようと涙を流し終える時を待っていた僕の下に、一人の男性が近付いて来タ。
銀色の髪をした。高身長の男性だっタ。
天から舞い降りた金髪の天使さえも嫉妬する悪魔の様な魅力を持ったその男性は、僕の牢屋の鍵を開けると、僕に手を差しのべながら言っタ。
『君があの地図を描いた青年だな、私はレイシュール…少し特殊な集団を率いている。凄いや素晴らしいじゃない、君の地図を見て感じた』
差し伸べた手を僕の前に持ってくる為に一歩近づいて、その人は僕によく通る澄んだ声で告げタ。
『ヤルタ、君が欲しい』
それは、僕の誰にも言えない初恋の瞬間で、僕がレイシュール盗賊団に雇われる切っ掛けとなった出来事。
銀色の煌きは、僕の罪を購う為に支払われた数十枚の金貨さえも超える希望を僕に魅せタ。
それが…僕の人生の、本当の意味での始まりの瞬間だっタ。
盗賊団としての活動の中で、僕を購入する為に支払った費用分が稼げれば僕は盗賊団を止めても良いとレイシュールさんに言われていル。
辞めるわけが無い、こんなに好きな人の傍にいられる事を辞めるハズが無イ。
それに、街の中で完結していた僕の人生が、この盗賊団に雇われてからは一気に広がったんダ。
レイシュールさんは僕に伝えていないけれど、僕が育った孤児院にお金を寄付してくれている事も僕は知っていル。
以前、孤児院に帰った際に銀髪の紳士がお金を沢山置いて行ってくれたと話されタ。
どこまで感謝すれば、どこまで貴方への愛を深めれば僕は貴方の隣に立つ資格を得られるのだろウ。
僕に宛がわれたアジトの部屋で、一人天井で揺れるランプを見上げて拳を握っタ。そんな事をしても、本当に欲しい輝きは手の中にやってこないの二。
明日はレイシュールさんの義理の息子となったユーマ君を連れて、レイシュールさん、チャルチュさん、ダイナーさん、そこに古城跡の発見者である僕を加えた五人で財宝発掘に向かウ。
古城の中がどんな風になっているのか、僕は確認していなイ。
道を描いて来た僕が、未知に挑戦する。何だか少し洒落の様だけど、今からドキドキが止まらなイ。
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闇に溶けて行った言葉の様に、僕の恋心もまたまどろみの中に溶けて行っタ。
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