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Prologue
盗賊団 財宝発掘 2
しおりを挟む――財宝という名に期待してはならない、何故ならば財宝を見付けるまでの過程こそ、他では得られぬ期待感という財宝に他ならないからだ――
鍵足のダイナーの手記より
一見すれば分からない、だけど良く見ればそこには他の場所とは違い動かす事の出来る板があった。
ヤルタさん曰く。この板に気付けたのは偶然にも上を歩いた時に地面を踏みしめる音がいつもと違ったから…らしい。
僕は自分が歩く時の音を意識したことなんて…そもそもまともに歩けるようになって一カ月と少しの僕に出来るハズも無く。これからは少しだけ意識してみようかと思った。
歴史の重みを感じさせる苔蒸した板をどかしてみると、内から外目掛けて溢れて来た風に頬を撫でられた。自分を見付けた探索者を称賛するかのようにも思えて、その中に踏み入る覚悟を問われた気もした。
自分達のアジトの近くにこんな場所があるなんて、そう思ったのは板の向こうに見えた暗闇がそうさせたのだろう。
まるで見てはいけない深淵を除いたかのような罪悪感と、そこに財宝があるかもしれないという期待が僕の胸を高鳴らせた。
「ユーマ、私の傍に…先導はチャルチュ、次にダイナー、ユーマ、私、ヤルタの順で行く…チャルチュは光
苔を持ってきているか?」
義父さんの指示に従って、板の中に進む前に隊列を組む。
チャルチュさんは義父さんに尋ねられて答える為に腰に付けているサイドバックから淡く光を帯びた布袋を取り出した。
「ちゃんと持って来てるって、こういう日の為にアジトにも溜めてあるんだから」
チャルチュさんはその布袋の中に手を入れて、再び取り出すと指の先端に輝く何かが付着していた。きっと、先程言っていた光苔だろう。
チャルチュさんが先んじて板の先、地下へと続く階段を折り始めた。続くダイナーさんの背を逃さぬように僕も降りて行くと、チャルチュさんが通った後に光の線が地面に残っていた。
「コレが光苔っていう奴なん、簡単に言えば道標になるんよ」
ダイナーさんの説明は簡易的な物だったが、確かにこれがあれば初めて入る真っ暗な場所でも跡を辿って行く事で入口まで到達できそうだ。
「ただし使い難い点もあってな、この光苔、踏まない様にしてほしいんよ」
その後、チャルチュさんの後ろを歩きながら光苔の説明を受けた。
まず。光苔は見ての通り輝いているが、これを見ていては暗闇に眼を慣らす事が出来ないから集中してはいけない。
そして、集中してはいけないけれど、光苔は撒きながら歩いているに過ぎないので踏んだりしたら簡単に靴裏に付着してしまう。
これが一本道で起きる分には問題ないけれど、もしも偶然、少しの続く距離を光苔を踏みながら歩いて十字路や道の分かれている場所に到達した時は…迷子の原因になってしまう。
当然気を付けるべき点だけど、聞かなければ必要以上の意識もせずに踏んでしまっていたかもしれないのが事実だ。僕はダイナーさんに頷いて、慣れてきた視界の中で何とか二人に付いて行った。
「こういう場所で危険なのは、ジャイアントラットと呼ばれる化け鼠とスケルトンなんて呼ばれてる歩く死体だ」
義父さんの言葉は正しい、その正しさを証明したのは地下をしばらく進んで、解錠が必要な扉に出くわした時だった。聞いた事も無い物と物の擦れる音に、前を行くチャルチュさんもダイナーさんも足を止めた。
チャルチュさんの行動を見てなのか、それとも何処かでそういった雰囲気を悟ったのか義父さんは静かに僕の肩を抱いた。
そしてそこで僕は、スケルトンと呼ばれる歩く死体を目撃した。
所々に僅かに肉の破片が付着している辺り、元が人だった事を強く僕に意識させた。
「義父さん…」
思わず漏れた心配を孕んだ声に、義父さんは僕の肩を抱いて元気づけるように二回撫でてくれた。
ここに来るまで、幾つかの白骨化した死体を見付ける事はあった。僕には色々と刺激の強い光景だったけれど、沸き上がる吐き気を抑えながら歩き続けた。
「大丈夫だユーマ、私の傍に居ろ」
そうした吐き気を抑える事が出来たのは間違いなく義父さんのその言葉のお陰だと思う。
義父さんが僕の後ろに居て、守ってくれる。
それは安心感以上に、嬉しさを覚える状況だった。
迫りくるスケルトンに一歩も引かず。一歩も前に出ず。ただ剣の有効範囲に相手が踏み入った瞬間に切り裂く堅実な刃だった。
「…スケルトンは何故生まれるのか分かっていない化物だ。怨念や生れ付いて魔力という存在を多く身体に負荷んでいただとか、様々な理論がある。興味があればベンダルに聞いてみると良い、アイツはああ見えて元々は農家だからな」
魔力とは何だろうと思いながらも、魔法などの存在がこの世界にならあってもおかしくはないと気付いた。
魔法を使う為の何かなのだとしたら、僕の中にもあってくれると嬉しいなと胸の前で拳を握り込んだ。
農家と魔力の関連性がまるで無い様に感じたけれど、今度ゆっくりと話を聞いてみれば一見何の関係も無い様に思える二つの事柄がしっかりと結ばれるだろうと僕は覚えておく事にした。、
スケルトンが昔この場所で暮らしていた誰かなのだとしたら、僕達は墓に踏み入っているに等しい行いをしている様にも感じられたけど、僕はふと考えた。
自分の死が誰にも気付かれないとしたら…という恐怖を…。
僕は、元の世界で死んでしまった後、誰かに見付けて貰う事は出来たのだろうか、もしも出来ていなければ、僕の死体は未だにあの寒い部屋の中で…。
溢れだしそうになる涙を飲み込みながら、嗚咽と一緒に咳を一つで誤魔化した。
誰かの死を知る事に繋がるのなら、もしもそれを、誰かに報告する事が出来るのなら、行方不明という立場で終わってしまったこの地下に住んでいた人々の死も報われると信じて、踏み出す足を止める事を僕はしなかった。
突然、チャルチュさんが動きを止めた。
うす暗い視界の中で見えて来た荘厳とも呼べる佇まいの柱の前に何故かチャルチュさんは首を傾げていた。
ダイナーさんが一歩近寄り、何処に違和感を覚えたのか尋ねていた。
スケルトンが出てきたりと落ち着かない時間だったので忘れていたけれど、ここには財宝発掘の目的で来ている訳で…先導を任される位に信頼の置かれているチャルチュさんが感じた違和感は、僕にその事を思い出す時間を作り胸の鼓動が早さを得た。
今まで通って来た道、これから通る道の何処かに宝物があるかもしれない…そう考えると素敵な空間にも
思えてくる。
ふと後ろを振り返ってみると、集中に眉を吊り上げた義父さんと、何かを紙に描いているヤルタさんが眼に映った。
その二人の更に向こう。
美しさを覚える光の道筋が何処かへと続いていた。いや、その何処かからこの場所に繋がっているのだとしたらあの先は入口出口が待っているだろう。
幻想的な暗闇に薄ぼんやりと姿を見せる光の道筋は、歩いて来た証であり、これから先を行けばその光景がより長く美しい物に変わる事を予感させた。
損な感動うを覚えている時に、こちらに歩いて来たダイナーさんに僕は意識を現実に戻した。ついつい想像の中に自分を落ち着かせてしまうのは、僕の悪い癖なのかもしれない。
近付いて来たダイナーさんは、僕の手を引いてチャルチュさんが何やら辺りに手を這わせて調べている所に連れて来てくれた。
「おっ、ユーマ…ここを良く見てみろ」
そう言われて見てみると、僅かに動かされた跡が残っていて先に何が在るのか、きっと知識欲の部分を掻き立てられた。
「多分あるぞ、この先にん」
自信満々なダイナーさんの言葉に、確認の為の何かを投げ掛ける意味も無い、その行動はチャルチュさんが起こして下さったから。
「…ここね」
そして僕達の財宝発掘は危険な事を幾つか学びながらも、佳境に差しかかる。
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