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Prologue
盗賊団 盗み 2
しおりを挟む『あぁ、今日はユーマ君も盗みに付いて行くのでしたね…そうですか、それなら君にも保存食を幾つか持って頂きましょうか』
『い、いいんですか?』
『えぇ、ダイナーさんに直接食べさせてあげたら、喜ぶかもしれませんよ』
ユーマが保存食を受け取って去って行った後で、密かに笑いを漏らしてコリックは言葉を続けた。
『私がね』
アジト内で厨房として使用されているその場所で呟かれたその言葉を聞く者は、誰もいなかった。
―― 盗賊団 盗み 2 ――
突然の出来事だった。
前触れも無く。何かを悟らせる事も無く。
突然、ダイナーさんがその場に崩れ落ちた。
邸に侵入して五分、まだ二つの部屋を見回ってしかおらず。警備の監視ルートも分かっていない段階だ。
部屋から出ようとドアノブに手を掛けた所で、ダイナーさんは突然足元がフラついたみたいに踏鞴を踏んだ。
何が起きているのか把握する事も出来ないまま、ダイナーさんがその場に崩れ落ちるのを僕は背中に括り付けられたまま見守る事しか出来なかった。
「だ…」
思わず叫びそうになる気持ちを抑えて、ダイナーさんの口元に手を持って行く。決して呼吸が止まった訳じゃない、判断を誤って危険に身を晒す所だった。
義父さんはいつも僕に、冷静に事に対処すれば何とか出来ないことなんて無いと教えてくれる。
ダイナーさんがどうして倒れたのかも分からないし、他の『手』の人達にこの事を伝える手段も僕には無い、一体全体何が起きているのか…まずはそれを把握する事から始めよう。
腰に挿してある小さなナイフで紐を斬って、僕はダイナーさんの背中から離れて口元に耳を寄せた。
何かを伝えようとしている訳でも無く。呼吸を規則的に繰り返していた。
顔を見る。顔色が変わった訳でも無い、ただ唐突に眠ってしまっただけ…?ダイナーさんが盗みの最中にそんなミスをするとは思えない。
眼を開いて、意識はあるみたいだけど身体が痺れているのか痙攣するみたいに動こうとしている。
せめて『手』の人達に今の事態を伝える事が出来れば…いや、この邸の中に何かがあるとして、偶然にも僕が掛かっていないだけとかだったら…『手』の人達に助けて貰うのも危険だ。
その時―――廊下を歩く。足音がした。
思考が、駆け巡る。
選択肢は多く無い、身回りの警備だったらこの部屋も覗かれるかもしれない、扉は閉まっている。ベッドは大きめ、ダイナーさん一人を下に隠す事は出来るだろうか、無理だ僕じゃ運べない、ダイナーさんを隠すには布か何かを背中に滑り込ませないと難しい、この場を凌ぐにはどうすればいい、僕だから取れる手段は無いか、ダイナーさんの症状が長く続くのか分からない、経度の麻痺毒だったら数分で治るとチャルチュさんは言っていた。最善の手を考えるんだ。盗賊団にとっての最善の手を。
―――簡単じゃないか。
僕はダイナーさんに背を向けて深呼吸をする。
覚悟を決めるんだ。
怖い、怖い、怖い、だけどダイナーさんを失う方がずっと怖い。
僕だって盗賊団なんだ。
使える手は、自分でも使え。
僕はきっと物語の主人公になれる様な器じゃない、それは義父さんやダイナーさんみたいな格好の良い男性が務める役割だ。
だけど、だけど今、この時だけは―――僕は主人公になろう。
僕自身の人生の大舞台だ。
「や…め…」
ダイナーさんが静止を呼び掛けてくれた。だけど、僕は首を振った。
「ダイナーさん、僕なら捕まっても興味本位で忍びこめた子供で誤魔化せるかもしれないから、だから、身体が動けるようになったら逃げて下さい、僕もちゃんと、逃げ出しますから…大丈夫です!ちゃんと逃げる為の手立ても考えてありますから!」
僕が守ります。
この二カ月間、身寄りの無い僕を守ってくれた貴方達の為にも―――僕がそうしたいから。
戦う事は怖いけど、僕なりの戦いを始めよう。
そして僕は扉の外へ、しっかりと扉は閉めて、ダイナーさんが見つからない様にする。
わざと歩いてい来る警備の方へと向かい、
「ん…おいおい坊主、一体何処から…」
すれ違い様に走り出す。
「あっ…こら!」
さぁ、僕の人生で初めての鬼ごっこの始まりだ。
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