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Prologue
盗賊団 義父 2
しおりを挟む貴族の邸…ダイナーに案内されて辿り着いたそこは、警備が大勢いて面倒臭い事が分かり切っている建物だった。だけど、面倒臭がってちゃいけない事態が起きてんだ。
俺は一人前に出て、右手に握った棍棒に力を込める。
デカイ邸だ。きっと壁も分厚いんだろうな、だけどよ…。
こちとら昔は、城壁殴って壊したりしてた馬鹿なんだよ。
勢い良く振り抜いた棍棒が、抉る様に壁の一部を消し飛ばした。まるで柔らかい物をスプーンで掬うみたいに、その後には削られた後だけが残っている。
ソレを繰り返す。
何度も何度も、壁を壊してその内に待っている宝の為に邸を壊して行く。
大きな音に集まって来た警備が悲鳴を上げて倒れ伏す。俺の背中は任せておけばいい、最高に頼りになる仲間がここにはいるんだから。
俺達は取り返しに来た。大切な物を。
撒き上がった土煙を棍棒で払い、開けた視界の先に集まった警備の連中を視界に収めて口元を歪める。
居やがる居やがる。こんなに沢山、俺達の道を邪魔しようとする障害物がよ…ユーマは悲しむかもな、自分の為に人が死んだって、だけど悪いなユーマ。
このまま放っておいてお前が辛い目に合うなら、俺達は他人の死なんてどうでもいいクズなんだよ!
仲の良い奴や大好きな奴を守る為なら、何かを傷付けることなんて怖くねぇ!!
俺達がやって来た意味を此処に!
その為の名乗りを上げろ、ユーマにこの声が届く程に張り上げろ、喉を震わせ、俺は叫びを上げる!
「俺達の大切なモノ、返して貰いに来たぜこの野郎ォ!!」
―――盗賊団 義父 2―――
私は、首領として間違った事をしているのだと気が付いている。
盗賊団という大事な物を放り投げて、レイシュールと、彼女との想い出をそこに置いて一人の義父としてユーマを助けに来ているのだから。
自分の過去を置き去りに、今を取りに来た。
責任を負うべき立場としては間違った行為だ。
だが、これだけは自信がある。私の行為は、人として間違った物では無いと。
この言葉は大きくていい、そして、街中の人々が何事かと集まってきている事も気が付いている。何せ、その為にベンダルに盛大に壊させたのだからな。
目論見通り、ただユーマを取り返すだけで終わらせない、我々の存在を、悪としての矜持を広める道具となって貰おう。
だがこの叫びだけは心からの物だ。
ベンダルの言葉に続いて叫ぼうとした所で、警備の人間が襲い掛かって来た。
関係無いな、雑兵だ。
合わさった敵の剣を流し、体制を崩させた所で剣を再び手元に戻して切り掛かる。己に出来る最高錬殿の技、切り口から血は噴き出さず。地に伏した後に静かに血溜まりを作った。
切っ先に僅かに付着した血を払い、脚を竦ませた眼前の警備達に向けて吼える。
「さぁ、道を開けろ!私の息子を返して貰いに来た!」
その言葉に嘘は無い、私にとってユーマは義理でも息子だ。
本当の息子と変わらない、そしてそれは、きっと私にとってだけじゃ無い、横を見ればベンダルと眼が合い、彼もまた頷いた。
彼が見付けて来た子だ。彼にとっても、息子に近い感覚だろう。
我々二人の言葉もあってか、警備の者達は浮足立って攻めあぐねる様子を見せた。
そこに走る破裂音、それは細腕の名を持つ中距離戦の鬼の仕業だ。
ゆっくりとジュネが前に出て、二本の鞭をその手に警備達を薙ぎ払う。まるで死神の鎌の様に、触れた者を昏倒させる手の動き、止める事は叶わず。次々に警備の者は倒れていく。
「ダイナー!」
「分かってるんよ!!」
言葉を全て受け取らずとも理解したと走り出すダイナーが、我々から見て右の扉を蹴り破り、中に居た警備の者達と戦闘を始めた。
「マシェット」
「当然だ!」
そしてマシェットは左の扉を拳で貫きそのまま盾にして悲鳴を上げる警備の者に襲い掛かる。
「ジュネ!」
「あぁ…!」
最後にジュネは一人を鞭で拘束すると引き寄せて、背後にいる我々に向けて解放した。すぐさまベンダルが強烈な拳の一撃をお見舞いし、骨が折れる音と共にその者は床に伏した。
だが、役割は残っている。意識が途切れそうになっているのか震える身体に剣を突き立てて意識も身体も繋ぎとめる。
「まだ寝るな…吐け…ユーマは何処だ」
「ぐあぁあぁあぁあ!!がっ!?」
剣を無理やり動かして、肉を掻き混ぜるように痛みを与える。
これは気絶したければ吐けという拷問だ。戦場やこういった急場でも可能な拷問だ。
「だ、誰だよユーマって、知らない、俺は知らないんだ!」
「ならば誰が知っている!」
「男爵だよ、この邸の主、二階、二階にいる!」
「御苦労」
剣を引き抜いて腹の部分で顎を殴り気絶させてやる。出血死するだろうけれど、その苦しみを味合わずには済むだろう。
「ベンダル」
「おう!」
私の言葉から何を求められているのか察したベンダルは、棍棒を肩に担ぐと一度深く息を吐いた。
壊し屋の異名を持つベンダルはとにかく力が強い、だがそれだけでは壊し屋の名は付かなかっただろう。ベンダルが最も得意とする事は、生物や建物の弱点を見抜く事、その建物の支柱や、生物の大事な血管を見抜く事だ。
それは並大抵の技術では無く。多くの物を壊して来たベンダルだからこそ出来る業だ。
吐いた息を吸い、呼吸を止めて天井を見上げた。ベンダルの視線が忙しなく走り、そして一箇所に止められた。
「崩れとけぇ!!」
掬いあげるように振るわれた棍棒が天井を貫き、まるで初めからそうなる事が決まっていたかの様に天井の一部に穴が空いた。
穴の下には瓦礫、邪魔にはならずに足場として二階に上がるのに使えそうだ。
ベンダルは壊すだけが能じゃない、壊れる範囲、壊した後の形、そういった物を瞬時に計算する事が出来る。それが一人で盗賊をしていた男、ベンダルだ。
崩れた瓦礫を蹴って二階へ、二階は扉が少なく探索に割く時間は少なくて済みそうだ。
銀色の髪に続いて、黒い髭も登って来る。こんなことなら髪を短く切っておけば良かったな。
近くの扉から蹴破って入り、中に居る人間でこちらに敵意を向ける者を切り捨てる。明らかに雇われの者や、、事態の把握も出来ていない使用人まで殺める必要は無いからな。
一つ目、二つ目と書斎寝室を探索し終えて、下の階からも悲鳴と戦闘音が聞こえなくなった頃、遂に三つ目の扉にこれまでとは装いの違う人間が居た。
「貴様が男爵か」
私の言葉に、腹の出たいかにもな雰囲気をした男は頷いてパイプに火を点けた。そして、わざとらしく間を作り、私の正面まで歩いてくると自己紹介をした。
「あぁ、私がこの邸の主、ユゲ―ルだ」
その余裕綽々な態度に苛立ちを覚え、私は近くに在った椅子を切り捨てた。音を立てて崩れた椅子に一瞥もせず。ユゲ―ルと名乗った男爵は笑みを浮かべていた。
「何がおかしい」
「ふふ…ふはは…なに、君の部下の醜態を思い出してね」
「何?」
ユーマの事かと思ったが、どうにも話し方からするに違う。倒れ伏していたというダイナーの事かと思ったが、次の言葉で違うのだと分かった。
「コリック…だったかな、愚かな料理人よな、自分の手柄だと吹聴しておったから用済みと切り捨てれば一気に顔を青褪めさせたわ」
…コリック。
覚えてる。あいつは料理人でありながらに自分の望む飯を作らせて貰えず。奉公先の主に包丁で襲い掛かった結果捕えられたのだ。
向上心の高い奴だから色々と危険だとは思っていたが、その噂を耳にした時、不自由な環境に在ったと知り助けた相手だ。
彼もまた…望む最後を遂げられ無かったか。
怒りが込み上げてくる。冷静にならなければいけないと分かっていても、私は神でも悪魔でも無い、人だ。
己の感情が昂るままに言葉にし、己の感情が命じるがままに動く。
「貴様、ユーマを、少年を何処にやった?」
「さて…それを教える前に一つゲームをしないか、いや、これは提案では無いな、ゲームをするぞ…勝てばおしえてや」
私は、その口の動きを遮る様に剣を奴の肩に突き立てた。
「あぁ、ゲームをしよう。いつになったらお前が情報を自分から吐き出したくなるかという…そういうゲームをな」
例え裏切り者で馬鹿であっても、コリックは私の部下だった男だ。
その男の命さえ弄び、あまつさえユーマを賭けたゲームだと?馬鹿にするのもいい加減にしろ。
ユーマを隠し立てするこの男のペースに呑まれるてなるものか、私は、怒りの刃をさらに深く突き立てた。
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