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Prologue
盗賊団 奪還 2
しおりを挟む俺は、盗みの仕事だけじゃなく時に暗殺も請け負ってきた男なんよ。
「ダイナー、この匂い」
暗殺ってのは、盗みよりも難しいん…相手は殺される理由を持つ者、故に必ずその場には強者が居合わせるモノだったん。
「あぁ」
何もそいつを殺す必要なんて無くて、掻い潜り標的を殺しさえできれば俺の目的は達成なんよ…だけど。
レイシュールにぶっ飛ばされるあの日まで、暗殺によって荒みきった俺の心は、いつの間にか自分では開ける事の出来ない鍵を掛けてしまっていたんよな。
この匂いは、あの頃を思い出させるん。
「色濃い…何重にも染み付いてる」
戦闘は出来ない、ただ殺す事だけに特化していた頃の俺。
「この場所は、血に塗れてる」
―――盗賊団 奪還 2―――
暗い場所、そこを行くのに金猫のチャルチュ以上に適した人間を俺は知らないん。
だけど、俺もそれなりに暗い場所、いや…眼に頼らずに進む事は得意なんよ。
その昔、俺が暗殺を生業としていた頃はバンダナを眼元に下げて素性が分からない様に工夫をしていたん。
嗅覚を頼りに、聴覚で位置を探り、バンダナ越しの光の刺激で何とかする。
俺は戦闘自体は得意じゃないん、戦闘っていうのは戦いだから、俺が得意なのはあくまでも…一方的な攻撃だけなんよ。
防御側に回らない事が大前提の、俺の殺しのスタイルから来る物…それがこの場で俺が警備を殺す事が出来ている理由なんよ。
「だがここは貴族の邸だ…一体誰が殺される?」
「そうだな…貴族ってのは政敵も多いから殺す相手なんて山盛りなんよ、だが同時に客を招く事も突然訪問を受ける事もある…だから、ほんの数時間以内にこの地下で何かがあったんだろうんよ」
進んでいくにつれて匂いはどんどん強くなっていくん。
嫌な殺され方をしているな…暗殺の依頼によっては目立つ殺し方なんてのもある。そういう時はこういう…臓物をバラ撒く様な趣味の悪い殺し方をしないといけないんよ。
そして、ついにその部屋に辿り着いたん。
俺はその瞬間、何故こんなにも匂いが強いのか気が付いてしまったん。ジュネは気付いていないみたいだったけど、その場所には数種類の血が混ざり合って、最悪な匂いを創り上げていたん。
有り得ない、そう思いながらも急ぎ足になってしまう自分の心の弱さがもどかしいん。
あいつの血の匂いなんて俺は知らないから、どうしても疑念が尽きないんよ。
そして俺は扉を開けたん。
「…こいつは」
後ろから付いて来たジュネが、小さく声を漏らしたん。
余りに凄惨な現場、誕生日会じゃないんだぞと怒りを吐き出したくなる光景なん。
死体、死体、更に死体と幾重にも混ざり合った血の海、暗殺でもここまで酷い事はした事が無い、そう確信できる光景だったん。
そして、その三人は、俺の知っている人物だった。二人は団員の人間、『足』に所属していて、昨日の夜に俺を逃がしてくれた奴等だったん。
そしてもう一人は、
「コリック…死んだ…いや、殺されたのか」
大きく開かれた腹部が、その残酷さを物語っていた。
麻酔も無かったのだろう。顔の表情金が戻る事を知らない様に憎悪に満ちた表情で固まっている。
裏切り者の末路を、この眼で見た。
レイシュール盗賊団から抜ける時、こんな凄惨な現場を創り上げる事は無い、去る者追わずが俺達のルールなんよ。
開き、見ているだけで嫌悪感を得てしまう様なん、そんな現場なのに、俺が最初に思った事は何処までも壊れている感想。
良かった…ユーマがいなくて。
そう。ユーマはその場に居なかった。
それが嬉しくもあり、その感想が真っ先に出て来た事が悔しくもあった。
人の死を悲しむより、誰かの生存を喜べるのは正しいのかもしれない、だけど、人の死を前にして良かったと思う事は、間違いだと思うんよ。
「殺されてるん…抵抗も、しているみたいなん…だけど」
「内臓を全て遊びに使われている様な殺され方だな…最悪だ…」
俺達はその場をどうにかする事も出来なかった。
埋めてやるくらいの事、してやるべきだったのかもしれないけれど…俺にはコリックの事を、許せそうにも無かったんよ。
二人の団員がそこに居る事だけは確りと覚えて、俺達はその場を後にしたん。
なぁユーマ、お前ならこの場所を見た時にどんな感想を漏らすんだ。この光景の中でも、お前は優しく居られるのか?
「分かった…分かった話す!」
二階の一室、叫び声を上げた男爵は、既に血を流し過ぎて死を避ける事は出来ないだろう。
そして、男爵は口を開いた。
私は、義父として、ユーマをこの腕に抱きしめる。
剣に付いた血を払い、私は再び確かめるように言葉にする。
「さぁ、早く話せ…あの子は今、何処にいる?」
その言葉に揺らされたかのように、コリックの死体の近く、壁につるされた鎖が小さく揺れた。
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