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第一章
氷雪大陸 ユーマ 懐かしさ
しおりを挟むずっと、義父さんに語りかけていた。出来ればいいなって、爺ちゃんの鱗を調べてみると言っていた義父さんに伝われば良いなって…。
そうしたら、僕と義父さんは何か細い糸で繋がった様な、互いで互いを引っ張り合う感覚を覚えた。そして、遠くに居る筈の義父さんと胸中で喋れるようになっていた。
チャルさんの後ろに付いて家に向かう傍らで、僕はずっと義父さんに上手くいきそうである事を報告していた。
そして、聞いてみて欲しい事を尋ねた時、義父さんがこの地の誕生までの事を聞いて欲しいと尋ねて来た。一つの言葉と共に…。
『この地からは、我が母の気配が色濃くするのだ』
義父さんの、お母さん…。
チャルさんから聞いた話をそのまま義父さんに伝える中で、クシャルナディアという龍の存在が出てきた際に義父さんは大きく反応を示した。
『クシャルナディア様…?あの方がこの地に…?』
納得、そして悲嘆、歓喜さえも孕んだ不思議な感情だった。
僕は、その感情を受け止めてもなお、事の次第を理解する事が出来ていなかった。
自分の中で物語を噛み砕いて理解出来るように整理していく。チャルさんの口から話された物語は何処か歪だった…きっとそれは、祖父の魔族から聞いた話と文献の情報が入り混じっているからだろう。
昔、魔族はこの世界の至る所に散り散りに存在していた。各種族ごとに小さく生きていたんだ。そこへ、種として台頭してきたヒトが住処を奪う形で繁栄を極めた。結果として魔族は更に静かに、そして影の中で生きる事を余儀なくされ、当時は迫害される魔族もいれば隠れ潜む事で生き延びている様な魔族もいた様だ。
そこに、声がした。
世界の創造と同じ様に、神様が手を加えて造り出した龍という生命体…それに類する後から造られた魔族、同じ神の創造物だからこそ伝わる伝達方法で、ただ『北』を目指す事を魔族達は告げられた。
疑い無く向かった北の地こそが氷雪大陸、この場所だ。
そしてそこで待っていたのは、クシャルナディアという美しき水晶龍、この地を創り上げた偉大なる龍。
世界が生み出したヒトの台頭は、世界が神の手元を離れて巣立ちの時を迎えた事を意味するのだと彼女は、クシャルナディアさんは告げた。だけど、それ故に神の創造物である魔族が追いやられる事を良しと出来なかった優しき龍は、この地に彼らの住処を創り上げる事に決めたのだ。
そうして出来たのが…この場所、水晶都市。
だけど、その完成に至る物語を全て聞いた訳では無い、チャルさんが話してくれた物語の最後、登場したアトラスという龍の存在…。
『我が父が…』
それは、グレン義父さんの父の名であると同時に、この地に何かを残したであろう事を示していた。
僕には、チャルさんがどうしてここまで良くしてくれているのかが分からなかった。突然現れた僕に対して、優しくする意味なんて無いのだから、それとも、魔族というのはそういう種族なのだろうか、見知らぬ相手にも優しく接する事が当然である…そんな…。
水晶の門を抜けて、こちらに視線を投げ掛けていたチャルさんに話し掛けた事は大正解だったと思う。
チャルさんは、雰囲気が何処か義父さんに似ているんだ。鱗の肌や、鋭い目付きまで…。
その姿から魔族としての種に名前があるのなら龍人というのが妥当だろう。だとすれば、龍である義父さんと仲が良い僕だから良くしてくれたのだろうか…。
言語が伝わるのは不思議だけど、義父さんは疑念を抱く事も無く『そういうモノだ』と返してくれた。
僕は、自分の事が分かっていない…そんな気がした。
まるで惹かれるかの様にチャルさんに話しかけて、家まで案内してもらえたけれど、上手く行き過ぎな気もする。
そして一番、一番おかしいと感じているのは、この地に来てからの感覚なんだ。
場所はまるで違う。風景だって違う。だけど、どうしてだろう。
この場所で、ファーリエルさんから感じたあの優しさが、僕をずっと包んでくれているのは…。
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