勇者として生きる道の上で(R-18)

ちゃめしごと

文字の大きさ
1 / 72
第一章 島からの旅立ち

第一話 世の中は勇者を欲している

しおりを挟む
 人々が勇者を求めるのでは無く、時代が勇者を求める。
 故にその時、勇者と呼ばれる者が現れる。
         ―エンデュミラ・コーレリウス―


 この世界は東西で二分されている。
 東の連合国家と西の連合国家、それぞれに十三の国が所属しており形成されている。

 真ん中に東西を二分する直径十キロの川幅を持つ巨大な運河が流れている一つの大陸を有し、周りに小さな島々があるだけの非常に整った形をしているのがこの世界だ。

 百年前に世界の何処かから侵略を始めた魔族達、その容姿は人に似た者もいれば文字通りに魔に魅入られたかの様に歪な姿をした者もいた。
 
 その侵略は毒の様にじわりじわりと行われた。
 
 人の街に溶け込み、魔族である事を話し、共に生活を始めて人々がその姿に慣れた頃には街中の魔物の数が増えている。
 段々と減り始める人間・亜人、目に見えて増える魔族達。

 最初は魔族が疑われた。
 次に迫害が行われた。
 するとどうだ、他の街から迫害を止めろと文書が届くでは無いか。

 それもそのはず、魔族はほぼ全ての街に等しく同じタイミングで侵略を始めたのだ。
 中には迫害をする街もあった。
 中には亜人へとその矛先を向けた街もあった。
 中には一切の抵抗無く、増え続ける魔族を受け入れ、魔族の街となる所もあった。

 気が付けば、全ての都市の半分が魔族の街になっていた。
 選民主儀を持つ東の連合国家は人の街が、資本主義を掲げる西の連合国家は魔族の街が多い。
 
 魔族が侵略を始めてから七十五年、遂に西の連合国家が魔国連合と名前を改めた。
 
 こうして、東の人国、西の魔国と呼ばれる二国連合時代が訪れた。
 
 人国へと侵略をしようにも、これまでのやり方では迫害を受けてしまう。
 言葉ではもう侵略は行えない、ならばどうするか、そう武力だ。

 こうして始まったのが人魔戦争、今なお続く争いである。
 この争いはいつ終わりを見せるのだろうか、時代は今、求めているのだ。
 人間でも亜人でも魔族でも良い、この戦争を終わらせることが出来る勇者の存在を。

「おしまい…と、大雑把にだけど分かったかしら?」
 綺麗な、風鈴の音を彷彿とさせるよく響く声で語られた大陸の歴史は驚きが多かった。

 青空教室、僕と先生二人の学びの場で分かったかと聞かれたのは僕、アルノート=ミュニャコスだ。
「分かりました!」
「はいよろしい、流石は勇者ね」
 褒めてくれたのは先生、ツミレ=クィナス先生だ。

「ぼ、僕が勇者って本当なんですか?」
「えぇ本当よ?あなたが生まれた日に島の皆が神様からのお告げを聞いたのだから」
 生まれてから十四年、事ある度に『勇者』と呼ばれてきた僕だけれど、僕自身が自分を勇者だと信じられない。

 生まれた時、僕はなんでも光り輝いていたという。
 その為、産婆の人がまず最初に行ったのは照明としていた蝋燭の火を消して節約することだったという。

 光り輝く僕は生誕を泣き叫びながら宙に浮いて、光り輝く誰かに抱きかかえられたと思ったらその誰かが言葉を紡いだのだと言う。

『私は神です。
神なのです。
この子は勇者、勇者になります。
世界を平和に導くでしょう、世界は彼を望むでしょう。
十五の歳月重ねた時、再度この子に語りかけます。
アルノートの名を継ぐ勇者よ、どうか健やかに成長しなさい』

それがお告げ、神様って本当にいるんだ凄いなぁ。
僕が勇者と言われて、将来危険な場所に行かなくちゃいけないんだって分かって、お母さんは泣いたという。
お父さんは少しでも僕が活動しやすい様に、大陸へと渡って僕の事を広めにいったらしい。

お父さんがいなくなって三年後、母さんは病気で亡くなった。
最後の言葉は「頑張って…」だ。

お母さんが亡くなって一週間もした時に、お父さんは姿を見せた。
仲間の人と一緒に凄くボロボロの姿で駆け付けて、間に合わなかったと涙を流した。
再び旅立つ時、お父さんは僕に「頑張れ」と告げた。

僕の両親は二人とも、僕が『勇者』であることを受け入れていた。
なら、僕も受け入れなくちゃいけない、両親の思いを無碍にしない為にも。

両親から受け継いだ銀色の髪と紅い瞳、お父さんの身長までは受け継げなかったみたいで背は百四十程だ。
 剣の腕も、魔術の腕も、全部が全部人並みに出来る程度の僕が…『勇者』。

 だけど、『勇者』とは何をすればいいのかすら分かっていない僕だ。
 世界を平和に導かなくちゃいけない、だけど、どうやって平和に導けばいいのだろうか?

 そして十五歳になるのが明日だ。
 僕は、どんな運命に導かれるのだろうか。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...