勇者として生きる道の上で(R-18)

ちゃめしごと

文字の大きさ
27 / 72
第二章 船上の証明

第二十四話 船上の乙女

しおりを挟む

 船旅は二週間掛かった。
 その間、ひたすら修行をして修行をして修行をして修行をした。

 船の旅ってここまで暇なのか、と驚いた程だ。
 その二週間で僕は自分が今使える魔法を発動させる事が出来るまでには至った。一部の魔法は少し強い効果も引き出せる。

 だけど、それは発動させる事が出来るだけで万全に使えるワケでは無い、どうやらまだまだ修行しなければいけないらしい。
 使えるのと使いこなすのは違うことだってギル兄は言ってた。

 ただ。ずっと修行しているのは身体に毒だとギル兄に促されて何度か甲盤に出て風を浴びろと言われた。

 それでその日、船旅を始めてから五日目の日に夜風を浴びていたんだけれど…これは、その時から航海が終わるまでの出来事なんだ。


―船旅5日目―

 魔法は難しい…そんな事、僕は良く分かっているつもりだったけれど全然、僕の想像よりも難しかった。

 ギル兄さんは傍らで本を読みながら、僕の魔法が発現した時だけこちらに視線をくれていた。

 空中に水を出現させたり、炎を生み出したり、静電気を走らせたり、土を凝縮させたり、風で髪を靡かせたり、色々と頑張っていた。
 だけど、光と闇、それに影、そして…空間魔法に関しては難しいと言うか、想像が出来ないというか、足止めを喰らっていた。

「はぁ」

 夜風に頬を撫でられて、気持ち良さに手摺に頬杖を付いて流れる海の景色をぼーっと見ていた。

 そこに、船室に繋がる扉が開いて誰かが甲板に出てきたのが分かった。目を向けるよりも風を楽しんでいたかった僕は、突然その人が僕の肩に手を添えたから驚いてしまった。

「な…なんですか?」

 振り向いた僕の目に映ったのは妖艶なワインレッドの髪色をした女性だった。

 お化粧はきっとしていないのに、頬は上気しているみたいに赤みを帯びていて、唇は艶やか、まつげだって長くて…うん、大人の女性がそこにいた。

 決してツミレ先生が大人の女性じゃ無かったと言いたい訳じゃ無くて、なんていうか…行動とか、考え方とか以前に大人だって感じさせる凄みがその人にはあったんだ。

「ねぇ坊や?」

 むっ、僕は十五歳なのに坊やだって、失礼しちゃうよね!

 確かに身長も低いし、子供っぽい部分はあるかもしれないけど、僕だって立派な十五歳なんだ。

「坊やじゃないから知りません!」

 顔を背けると目の前でくすくすと笑う声、もしかして、僕のこう言う部分が子供っぽいのかもしれない。

「ごめんなさいね、そうよね、君はもう立派な大人…そうよね?」

 頭を撫でられて、思わず頬が緩みそうになる。この人、頭撫でるの上手いなぁ、頭が撫でるのが上手い人は大好きだな、モデーモさんも上手だったし悪い人はいないんじゃないかな。

「うん!それで、お姉さんはどうしたの?」
「お姉さん!?お姉さんって言ったかしら?」
「う…うん、ごめんなさい、もしかして何か失礼に当たる言葉だったのかな、僕これまで島で育ってきたから大陸の文化に疎くて…」
「いいえ、いいえ違うの、君みたいに純朴な少年がまだいたなんて最高だわ…地元に帰ればおばさん呼ばわりの日々、なんて素敵な出会いなのかしら」

 こんなに綺麗な人をおばさんだなんて呼べないよ…。

 大陸の方ではそれが普通なのかな、だとしたら、今の僕の常識とはかけ離れた現実が一杯舞っているのかもしれない…少し、不安になっちゃったな。

「どうしよう…」
「あら、何か悩みごと?」
「うん、もしも大陸で、お姉さんの事をおばさんって呼ぶのが普通なら、こんなに綺麗な人をおばさんだなんて僕、絶対に呼べないと思ったら文化の違いで圧倒されちゃうんじゃないかなって思ったら…不安で」
「君…ふふ、嬉しい事を言ってくれてありがとう。だけど大丈夫よ、君みたいに素直な子なら、大陸の文化に触れても感動を覚えて喜ぶ事が出来るはずよ」

 その言葉に、僕は考え方が間違っていたんだって気が付いた。

 そっか、僕はこれから全く違う文化に触れる事が出来るんだ。それって、新しい事に出会う日々が始まるって事だよね、だとしたら…ちょっと、楽しみになってきた。

「あら、笑顔が戻ったわね」
「うん、お姉さんのお陰で不安じゃなくなったんだ。ありがとうお姉さん」
「いいえ、私こそ船旅でつまらなかったけれど、君に出会えて良かったわ」

 お姉さんは僕から一歩下がると、身に着けている物を整えて僕に一礼をしてくれた。

「私はアリサス・マージョリ―、君にならアリスって呼んで貰って構わないわ」

 首元のリングから繋がる布地で肌を隠している刺激的な服装のお姉さんは、一礼をした事で少しだけ谷間が強調されて…自然と僕は目をやってしまった。

 気付かれない様に慌てて頭を振って、僕も自己紹介をした。

「僕はアルノート=みゃ…ミュニャコスって言います。みんなからはアルって呼ばれてるよ、よろしくねお姉さん」

 胸の動揺もあって、自分の名前を噛んでしまって赤面しちゃってるかもしれないけど、ちゃんと自己紹介は言いきれた。よくやったぞ僕。

「アル君ね…ふふ、アル君はどうして甲板に、もう夜遅い時間だけど」
「えっと…僕は今、魔法を頑張ってるんだ。だけど、一緒に来てくれてるギル兄さんがずっと修行してちゃ駄目だぞって、甲板で夜風にでも当たって来いって言ってくれたんだ」

「あら、いいお兄さんが一緒なのね、兄弟で大陸に行くなんて素敵ね」
「ううん、兄弟じゃ無いんだ。ギル兄さんは僕の兄貴分で、父さんの親友なんだ」

 それを聞いたアリスさんは何かを考えるみたいに顎に手を当てた。

 そして、しばらくしてから僕に一歩詰め寄って、肩に手を置いて来た。

「アル君、それなら私も魔法を教えてあげる。修行はしないけれど、イメージを掴む練習をしてあげるわ…だから」

 一拍を置いて、アリスさんは僕の眼を見て、その綺麗な金色の瞳で不思議な条件を告げた。

「私の事は、アリス姉さんって呼びなさい」

 船旅を初めて5日目の、僕に姉さんが出来たお話だ。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...