勇者として生きる道の上で(R-18)

ちゃめしごと

文字の大きさ
26 / 72
第二章 船上の証明

第二十三話 その少年を守る為 

しおりを挟む
 それは、修行を始めてから5日目の出来事。

 一隻の船が海上を進んでいた。
 その船の中には勇者という宿命を背負った少年が乗っていて、それを守る死神も同乗していた。

 その船に近付く、また別の船。

 帆に髑髏を掲げたその船には強奪、略奪を生業としている輩が乗っている。

 ひっそりと近付き、豹のように素早く相手方の船から金銀財宝を掠め取っていく存在、海賊だ。

 しかし、いかにひっそりとを心掛けていようと乗っているのは船、波を掻きわけて進むその音は大きく、さらに船自体も大きい為ある程度近付けば気付かれてしまうのは当然だった。

「お頭、あいつらこっちに気が付いたみたいですぜ…!」
「ガハハハハ!安心しろォ、お貴族様の船に乗っている奴等なんぞワシ等の敵にもならんわぁ!」

 海賊船の一室、その作りから船長室と思われる部屋で一人の男が大きな腹を叩いて威張り散らしていた。

「さすが頭だぜ、グリナバハート戦役で生き残っただけの事はあるってもんよ!」
「ガハハハハ!俺は生き残りなんて呼べねぇよ、俺は単に逃げ延びただけだからなぁ!」
「でも生きてるってだけでも凄いって聞きますぜ、あの戦役は」
「違う違う、あの戦役で生き残った奴が凄いんじゃなくて、あの戦役をそういう風に言われるようにした奴が凄いんだよ」

 頭と呼ばれた男は自らを誇るのでは無く、その頃を思い出して頬に残る傷をさすりながら続けた。

「いいかぁ、あの戦役は人が死に過ぎた…俺が生きてるのは固有能力で『ギャグ補正』ってのを持ってたお陰だ」
 
 最上級レア固有能力である『ギャグ補正』、それはこの世の中で持っている存在が三人しかいない貴重な物だ。
 
 この男はその能力で常に生き残ってきた。

「こいつのお陰で俺は首が落ちても拾ってくっつければ生きていられるし、大けがを負っても速攻で回復するが…それでも勝てなかった相手だからな」
「な、なんすか、その化物」

 そう部下に問われた男は、一瞬だけ身震いをした。まるで過去を思い出すかのように月を仰ぎ、何か下らない事を馬鹿にするかのように笑った。

「あいつはな…そう、満月の似合う男だった、そいつが鎌を振るう度に満月が断ち切られたんじゃないかって誰もが空を仰いだ、それだけ力強く、それだけ雄々しい一振りで、大きな動きで靡いたマントが落ち着くころにはそいつの周りには生きている奴は誰もいなかったんだ」

 自分の表現がまるで誇張された物であるかのように言いながら、男の顔は言葉とは裏腹に一歳の笑みが無かった。

「はは…そんな、鎌なんて使う奴いるんですかい?それに満月だなんて…今日だって満月何ですぜ、怖がらせないでくださいよ」
「…が、ガハハハハ!まぁアイツは今じゃどっかの孤児院で過ごしてるって聞いたし、心配するこたぁ無ぇよ!」

―――――――――――――

 海賊の乗る船とは別、アルが乗る貴族の船、華美な装飾がされた船体の中央、無骨だがしっかりとした作り、折れる事を感じさせない一本のマストの頂上、およそ人の立つ場所では無いそこに、『死神』は舞い降りた。

「髑髏…海賊船か…」

 右手を天に掲げ、勢い良く振り下ろすとそこには武器が、形状、用途、それらを説明するのであれば言葉を選びこう答えよう。


『命を刈り取る為の物』


 黒一色の出で立ち、満月が雲に隠れ、海に闇が訪れた。

 数秒と立たずに雲は動き、再び月が照らしだす。

 その頃には、もうマストの頂点に『死神』の姿は無かった。

 一体何の残滓なのか、そこに僅かに黒い布が散っていた。

――――――――――――――――

「頭ぁ!なんか貴族の船が点滅信号を送ってきてやすぜ!」
「あぁ?なんつってんだ?」
「『ごようけんは?』…あっはっはっはっは!暗闇で髑髏が見えねぇのか?そんなもん略奪に決まってんだろぉが!」
「まったく…『たすけて』とでも返しておけ、そうすりゃ近付きやすくならぁよ」
「アイアイサー!」

 屈強な男達はそれぞれが武器を取る。サーベル、鉈、ハンマーに短剣、当然の様にカトラスも。

「おぉしテメェら!武器は持ったなぁ!」
「「「オォ!」」」
「酒は飲んだかぁ!?」
「「「オォ!」」」
「なぁら後やるべきことは分かるなぁ!?」
「「「潮風の香りを血の匂いで染め上げろぉ!!!」」」
「敵が剣を抜いてきたらぁ!?」
「「「そいつの剣で喉元切り裂きゃ暖かいシャワーが浴びれらぁ!!!」」」
「よぉおし!渡し板の準備をしろぉ!」
「「「アイアイサー!!!」」」

 統率の取れた動きは並の海賊では無い、国の一将ですら部下に欲しいと思う程の指揮能力の高さだ。
 今宵も絶好の略奪日和、そう思いながら未来の勝利を祝うかのような満月を一人の団員が仰いだ。

 そう、仰ぎ、硬直した。

 そこに、何かが居たから。
 
 背に月を、空に自身を、そしてその手には―――。

「空に…人…?」

 ―――絶望を。

 空に居たその『人』は、瞬く間に目撃した海賊の目の前に移動した。
 高身長、黒い髪、眼帯、黒一色のフザケた装い。

「てめぇ…だれ―――」

 その海賊は違和感を感じた。

「―――だぁ?」

 目の前の男が横に移動していくのだ。

 いや、横に移動しているのはその男じゃない、海賊、その人自身だ。
 

「よぉ、こいつはまた良い船だな」


 そんな呑気な言葉とは裏腹に、纏う空気は剣呑な物だった。
 ただ一言、そう、一言呟いただけだ。

 海賊の面々はそれでその男を認識した。
 海賊の頭もまたその男を認識した。

 耳に届いた言葉はまるで今宵の月を見ながら酒を楽しむかの如く、されどもその手に持つのは今宵の月すら両断してしまいそうな大きな、大きくて漆黒の『鎌』だ。

「本当に良い船だな、沈んでしまうのが勿体無い位に」

 何も出来ず、何も許されず、ただ船は二つに断たれた。

 その鎌の大きさからは到底成し得るとは思えないが、そこにいた海賊達は身を持って体験した。
 自身の乗ってきた船がゆっくりと二つに分かれ、段々と仲間達との距離が離れて行くという体験をした。

 運が良かったのはどちらか、すぐに沈み水の中に落ちていった者達と、沈みはしなかったが、男と共に船上に残った者達。

 だが運命は変わらない、結局の所、全ての者がその命を刈り取られたのだから。











――――――――


続きは夜です!
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...