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第二章 船上の証明
第二十六話 舌準備と因縁
しおりを挟むきっとこの子はまだ魔法の入り口に入ったくらいの子、魔法の可能性を広げる事が出来ていない。
だからまずは小さなイメージから送り込む。その為にも、あくまでもその為に私は母性を胸に、魔力を舌に、アルの唇に再び流しに入った。吸いつくのでは無く。相手に呑ませる為の乱暴なまでの行為。
嚥下した事を確認して、魔力はもうアルの身体の中に入ったけれど、舌を絡ませるたびに伸ばされる指先が可愛くて何度も何度も舌を絡める。
水音を立てる以上に、粘膜同士の接触を意識した。
私の舌は長い、それは明確な理由がある物では無く生まれながらにそうだったという理由だけ、キスをしながら――アルのおちんちんに手を伸ばす。
そして、膨らんでいるソレの周りをくるくると指でなぞる。
「んっ…ん!?んんんっ…」
その動きと一緒に舌もくるくる。二つの動きを同じにして、どうしても考えが繋がってしまう様に仕向ける。
「らっ…あ…んん…はっ…」
くるくるという表現を使っているけれどやっている事はゆっくりと形をなぞる行為、例えば指先、掴むのでは無く指を添えてなぞるだけでも強く力を入れる行為とは全く別の感覚が味わえる。それをアルは、舌とおちんちんで味わっている。
その中で頭が段々と熱に侵されて、思考を奪われていく。
「あ…ん…んん…れぅ…ん…」
何かを考えようとする頭を、熱が段々と…角砂糖に垂らした水がじわり、じわりと色を変える様にゆっくりと、それは凄く自然な流れ、気持ち良さ、快楽の波が考える力を奪っていく。
キスの好きな所はここなのよ、急激な快楽には人は驚いてしまい抵抗を考える。だけどキスの快楽は急激じゃ無い、寒い時に入った布団の様に優しく内に染み込んでくる快楽だ。人は、優しさを拒む事が一番苦手だから―――。
「はぅ…ふぁ…んっ…あ…」
アルの眼が虚ろになり、考える力が極端に低くなっている事が見て取れた。
ぼーっとした目で私を映して、口の中から全身に広がる快楽を私が与えてくれているんだと理解している。だから、離れようとしない、気持ち良さが嬉しいから。
その気持ち良さに、強引な、暴力的な、害意を孕んだ物があればきっと逃げようとするだろう。考えを放棄するまでの気持ち良さに身を委ねないだろう。
「んんっ…」
だけどこれは愛情、アルの身体を、私の愛情が跳ねさせる。
唇同士を離して、私はもう一度舌に魔力を込める。
「あ…ぅー…うぅ…」
私と唇が離れたのが恋しいのか、アルが細い指を私に伸ばしてきた。まるで赤子が、親に縋る様なその姿に胸の内が跳ねた。
可愛すぎ―――!
涙に濡れた目元は若干の赤みあを帯びていて、伝う涙が顎に降りて行く道筋が、途中で口元を通過し、一瞬だけ引っ掛かりを見せる。
まるで誘う様な涙の軌道、視線が誘導され、自然と唇へと…。
…この子と会う時は、精神制御の魔法を自分に掛けておこう。襲いかねない可愛さと、滲んでいるエロさがまた危うい。
「うー…うー…!」
キスをせがむ様子も、また可愛い。
私が魔法で若干の知能低下をさせているのもあるけれど、それを差し引いても…これは可愛い。
この子にお預けをしたら、どれだけ楽しませてくれるのだろうか。
思わず、舌舐めずり。
「大丈夫よ、ちゃんとキス…してあげるから」
一日目からあまり傾倒してしまうと、まずいかもしれない…。
今日だけで少なくともアルはキスの気持ち良さと依存性の高さをその唇で覚えた筈…キスは魔法にも等しい、だって粘膜同士の接触がここまで特別な意味を持っているのだから。
今日だけはなんて言ったけど…今日だけで満足するのは、私には出来そうにない…。
今日はこのタイミングで、ちゃんとイメージを伝えてあげよう。
伝えるイメージは小さな蝋燭の灯りが、蝋燭そのものを呑みこんで炎になり、その炎が置かれた家を呑みこんで大炎となる様子。いきなり魔法を使う時に大きな炎を想像する事は難しい、だから、こうやって広がりを見せてあげると使い易くなる。
同じ様に、雫が波紋を作り、景色が広がり水たまりが移り、水たまりが移動して川に注がれて果ては湖に繋がる光景。
風が木々を揺らし、飛び去る木の葉が木枯しに巻き込まれ更に天高く舞い上がり、竜巻の中に消えていく光景。
小さな電気が起きて周囲を照らし、更に大きな電気に繋がり、その電気さえも雷が飲み込む光景。
砂を掌から大地に降ろし、こんもりとした砂の山が出来上がり、その砂の山から視線を広く持ってみると砂の山が岩山の上にある光景。
まずはこの位、自身に働きかける魔法は明日にしよう。
あとはアルの知識低下の魔法を解いて終わり…いきなり意識が覚醒したみたいに、目が大きく開かれて手を大きく振って慌てだした様子からちゃんと溶けた事が分かった。
なんて可愛い生物だろうか。
「ぷはっ…どう?伝わったかしら?」
アルは唇に自分の指を触れさせながら、呆然とした様子で虚空を見つめていた。きっと、頭の中で私の渡したイメージを何度も思い返しているのだろう。
イメージが流れるのは渡したその時だけ、だけど、一度受け取ったイメージなら頭の中で思い描く事は簡単なハズ。
これで…少しでも彼の助けになると良いのだけれど。
「…はい、なんて言えば良いか分からないんですが、そういう事なんですね」
「えぇ、何も焦って強くならなくてもいいの、小さな所からコツコツと…ってね」
私も最初は母にそう教えられて、本当に小さな所から学んだ。
風を起こして洗濯物を乾かしたり、母が寒いというから暖炉の火を点けたり、食材の保存の為に氷を生み出したり…思い出したく無い日々だ。
その時だった。
海の遠方で大きな音がして、水飛沫が上がった。何が起きたのか全く分からずに取り敢えずアルを背に隠す。
まさかモンスター?海上での戦闘はあまり慣れていないけれど、もしもモンスターならこの子を守らなくちゃ…。
そんな考えを掻き消したのは、アルだった。
「あ!ギル兄だ!」
彼はまるで星空に手を振るみたいに、私の視力では到底見えない場所に手を振っていた。
確かに、星空の中に真っ黒な棒が浮かんでいる様に見えるけれど、あれが人であることなんて分かりはしない。
…この子、とんでもなく眼が良い。
彼がギル兄と呼んだ存在が、私達のいる船に降りてきた。羽も無いのにゆっくりと、間違いなく重力魔法を使っている。それも、風魔法無しで重力魔法だけで浮いて此処まで来たのだ。
どれだけ繊細な魔力のコントロールをしているのだろうか、この男は…。
アルはギルという男が降り立つと、すぐに駆け寄って腰に抱き着いた羨ましい。
…ギル?
「どうしたアル、外に出たりなんかして…まさかあの女に何かされたのか!?」
「えっ、ち、違うよギル兄、あの人は僕に魔法を教えてくれてたの」
「…そうか、俺の教えだけじゃ満足できずに他の女に手を出したのか」
「うん!早く強くなって、ギル兄の事も守るんだ」
うわ残酷、ギルという男の言葉選びも中々に違和感を覚えるけれど、満足出来なかったの部分で満面の笑みで肯定されちゃ…何も言えないわよね。
あぁ、そう思ったけれどギルという男も満面の笑みだわ、凄くうれしそうにしてる。
守るんだ…なんて言われたら、あの顔になるのも頷けるわね。
「…それでアンタ、アルに魔法を教えてくれたらしいな?」
「えぇ…所で貴方、何だか聞き覚えのある声なんだけど、気のせいかしら」
「いや、多分気のせいじゃないぞ、俺もアンタの声には聞き覚えがあるし腹立たしい記憶が呼び覚まされて来てる」
間違いない、ギル…ギルバート…!
昔傭兵をやっていた時に戦場を共にした男で…私に失礼を働いた愚者!!
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「あんたこそ、相変わらずダサい鎌使って男にカマ掘られる事でも期待してんの?ギルバート・アードロット!!」
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アルには私が魔法の真髄まで教え込んであげるんだから!
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