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第二章 船上の証明
第二十八話 想われる
しおりを挟む☆アル視点
段々と分かって来た事がある。
魔力に集中すると、魔力自身が僕に手を伸ばして来てくれている感覚を覚えた。
これが魔力なんだ…その段階はもう通り過ぎて、今は魔力と手を繋ぐ練習をしている。
夕暮れが海をオレンジ色に染める頃、ずっと見てくれていたアリス姉さんが僕の変化に気付いてアドバイスをくれた。
「アル…貴方もう魔力に気付いているのね、それなら早い話よ、魔法を使う時はもちろんイメージだけでも発動は出来るわ、だけどより威力を、より効果を高める為には魔力を魔法の発動によって引っ張り出すんじゃなくて、使ってあげる必要があるわ」
そう言いながら、アリス姉さんは僕の後ろに立って目元に手を添えてくれた。良い香りがして少し緊張しちゃったけど、ギル兄が何かを察して立ち上がって、眼を閉じた事で僕は集中し無きゃいけないタイミングなんだって気が付いた。
そして、アリス姉さんが何かを呟くと僕の視界が変わった。突然ギル兄の内側に蒼い炎が見えた。
「アル…見えてるか?これが俺の魔力だ…それでだ。そこの年増が言っていた事は…」
突然、ギル兄の内にある蒼い炎が風に吹かれたみたいにギル兄の右腕に吸い込まれていった。
「こうやって…魔法を発動する前に発動時に起点となる場所への流れを作ってやると、魔法ってのは威力を増すんだ」
実際に見てみると分かり易い物だった。僕の身体の中にもあの炎と同じ物があるのだろうか、だとしたら…これまで以上にイメージがし易い。
「どうかしらアル、これで何か変わりそう?」
「うん!ありがとうアリス姉さん!」
その言葉は唯のお礼だったハズなのに、アリス姉さんは何故か少しの間呆けた様子を見せたんだ。
その眼も、まるで僕じゃない僕を見ているみたいな…僕の向こうに、誰かを見ているみたいな…。
「いいのよ、私だって君の事…助けたいんだもの」
凄く優しい笑みだった。
アリス姉さんは、とても綺麗に笑う人だったけど…その時の笑みは綺麗に笑おうとしていない、普段の表情が砕けて思わず漏れ出した笑みで、優しさを感じた。
眼に添えられていた手はそのまま僕の肩に、僕を励ますみたいに一度強く叩いてから言葉をくれた。
「さ、ほら、修行の続きをやらなきゃでしょ?オラ、そこの黒ノッポはさっさと座るのよ、いつまでも突っ立ってんじゃないわよ危ないわね」
「なっ…テメェ、言われねェでも座るっての!!」
二人は…なんで数時間も黙って一緒の部屋に居られるのに、こんなに仲が悪いのかな…。
ギル兄がベッドに座り直して、五秒くらいした時かな、普段は聞こえない波の音が聞こえて、船がとても強く揺らされたんだ。
アリス姉さんは肩に置いた手に力を込めて、思わず転がりそうになった僕を支えてくれた。ギル兄も座っていたから、ベッドに手を付いて変にバランスを取り損ねる事も無かった。
「…礼は、一応言っておく」
「どういたしま…気持ち悪っ」
「んだとテメェ!?」
うーん、仲が悪い訳じゃ無い…のかなぁ?
☆ ギル視点
アルが夜風を浴びてくると言って、アリサスが付いて行くというから俺は先に眠る事にした。
…我ながら、不器用だ。
アリサスは平然とやってのけていたけれど、俺はずっと集中して何とかアルの魔力の動きを追っていた。いかにStg.2といっても、Stg .2に階段が100段あったとしたら俺の位置は10か11、その辺りだ。これは修行とかじゃなくて、もうどうにもならないライン、研鑽を積んでもこれ以上の向上は望めないと言われた段数だ。
だから俺は、ずっと集中をしていた。
それでも俺は、アリサスには及ばなかったらしい、アリサスはアルが魔力の存在に気付き始めている事を見抜いて見せたが、俺にはそんな事は分からなかった。というよりも、アルの魔力があるだけしか見えていなかった。きっと、俺とアリサスでは見ている景色そのものが違う。
同じStg.2なのに…こうも差があるのか。
実際、アリサスはアルに丁寧に教えてくれていた。警戒していた俺が一人だけ馬鹿みたいに…それにさっきだって、アルが夜風を浴びに行くと言ってアリサスが付いて行くと言い出した時、俺は条件反射的に立ち上がったが…力を入れずに肩を押されて、ベッドに腰を着いてしまった。
『フラフラで何言ってるのよ、寝てなさい馬鹿』
…反論出来る訳ねぇよな。
案外、良い奴…な訳は無いからまともな奴かもしれないな…。
お陰で、疲れきって眠気に負けそうな俺は助かって仕方が無いし、いや…これはもう…抗えないな…。
アリサスが一緒ならアルも大丈夫だろう…俺は一足先に…おやすみ、アル。
そして俺は…眠りに就いた。
☆アリス視点
っしゃあ!!馬鹿一人撃沈!
魔法でも攻撃でも無い物に対してはあの馬鹿ノッポとことん弱いわね!
私がアルの後ろに座って、さらにその私の後ろで秘かに焚いていた香りがしない眠り香。香りがしないのに香という名前なのも不思議な話だけれど、そういったアイテムで睡眠不足の人が良く使う道具よ。
…とはいえ、ギルバートはまともにアルに教えていたわ、私が想像していたよりもずっと真面目にね。
きっとあれは、アルを心から想っていないと出来る事じゃ無い、あの馬鹿、ずっと魔力探知の為に集中をしていたのだから、対して上手でも無い魔力探知を…。
眠り香は疲れていないと効き目が薄い、ギルバートはきっとすぐに眠るでしょうね。
だから、此処から先は私の教育の時間。
私がアルに、色々な事を教える時間よ…。
どうしてギルバートに教えを請うているのかは分からない、だけど、ギルバートが教える様な何かにアルが首を突っ込んでいるのだとしたら、間違いなく今のままだと壁にぶつかる。
壁にぶつかって、その時にどうすればいいのか分からなくなって…あの子みたいに…。
いいえ、いいえ違うわ。
アルとあの子は別人…別人よ。
似てはいるけれど…あの子はもう…私の前には姿を現さないのだから。
だからアルには教えておきたい事が沢山ある。
例え今は役に立たなくても、つまずいた時の支えになる様に。
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