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第二章 船上の証明
第三十話 いつか繋がる出会い
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「…貴方、誰?」
褐色の肌に、真っ白な髪の毛、金色の眼…大きな眼で見られていると、何だか自分が悪い事をしていないか心配になってきてしまう。
そんな、僕を見つめる女の子を廊下で見つけた。
日中の修行を終えてギル兄も寝ると言ったので僕はアリス姉さんと甲板に出る事にしたのだけれど、その前に折角だから船の中を見て回る事にした。
大きな船なのに自分の部屋と甲板しか見ていないのは勿体無いと思ったからだ。
そして、金の額物付きの窓や、紅いカーペットの敷かれた廊下を歩いていると、この少女に出会った訳だ。
「僕は…僕はアルノートって言うよ、君は?」
「…私の名前を、知りたいの?」
そう告げた少女は、何処か僕を警戒している様子だった。
「うーん、名前を知りたいかって聞かれたら、知りたいかな、君とお話する時に何て呼べばいいか分からないから」
「…おにーちゃん、人間?」
「うん、君は人間じゃないの?」
「うん、私は魔族…」
魔族っていうと、人間と戦争をしている種族だったよね、モンスターと違って知能もあるし、外見も人に似ている種族もいればモンスターに近い種族もいて千差万別だった筈。
この子が魔族だって自己紹介してくれなかったら、きっと気付けなかったな。
「そっか、遠くから来たんだね」
「…?」
何故か首を傾げられてしまった。
「もしかして遠くからじゃ無かったの?」
「ううん、遠くだよ、思い出せない位遠く」
「凄いね、僕もいつかそれだけ遠くの場所に行ってみたいな」
「…あれ?」
何故だかまたもや首を傾げられてしまった。
「おにーちゃん言葉分かる?私、魔族だよ」
「えっ…もしかしてマゾクって名前だったの!?」
「…おにーちゃんは、変わった人?」
変わった人…自分の人生を考えると、変わった人と言われてもおかしくない様な…だけど認めたくない様な。
「少しね、少しだけ変わった人かも」
「…へぇ」
少女は立ち上がると、僕の傍までやってきた。
…どうしてこの子は、こんなにボロボロの服装をしているのだろうか?
「ねぇおにーちゃん、私の名前、教えてあげる」
「え?どうして?君はマゾクちゃんじゃ無かったの?」
「くす…おにーちゃんは、少しどころじゃ無くてとっても変わってるかも」
うぐ…そう言われると、変わっているのかなぁ。
もしかして大陸だと、僕みたいな外見の子はいないかもしれない…だとしたら凄く周囲から浮いちゃうだろうなぁ。
「私はグリモア、グリム・ワルドって名前だけど、仲の良かった子達はグリモアって呼んでくれてた」
「グリモアちゃんだね、よろしく!」
「グリモアで良い、アルノートおにーちゃん」
「分かった。よろしくねグリモア」
そう言って僕は握手を求めた。手を差し出しただけだった。
だけど、またもやグリモアは首を傾げた。
「おにーちゃん、汚れるよ?」
「え?何が?」
「…ううん、ううん、なんでもない、ほんとうに、なんでもないから」
何故か震える手で、グリモアは僕と握手をした。
そしてその時、繋いだ手が光輝いた。
僕には何が起きたのか全く分からなかったけれど、グリモアは何かを確認するみたいに服の内側を見て、その後から僕に詰め寄って来た。
「お、おにーちゃん、身体大丈夫?」
何を確認されているのか分からずに、僕もなんとなく服の内側を見てみたけれど、特になにも無いし、体長が悪い所も無い。
「うん…えっと、別に何かおかしなことは無いけど…」
グリモアはますます首を傾げて、何度も傾げて、ついには腕まで組んで考え始めてしまった。
「えっと…グリモア?」
「…もう。いいや、気にしない、おにーちゃんはやっぱり変」
そう言いながらも、彼女の顔は笑っていた。
皮肉めいた笑いとかじゃなくて、凄く純粋な笑みだった。
「ねぇおにーちゃん、おにーちゃんは魔族って、嫌いじゃないの?」
そんな質問を投げ掛けられて、僕は自分の暮らしていた島を少しだけ思い出した。
僕の自宅の周辺に住んでいた何人もの魔族の人、どうして世界は、あの島みたいに仲良く暮らす事が出来ないんだろうか。
「僕は、魔族も人間も好きだよ、中でも友達になれたグリモアの事は…」
特別に思ってる…と言おうとして、何故だかクレア姉さんが頭を過った。
そういえば幼少の時分に、クレア姉さんが『お嫁さんとお婿さんは、特別な関係なんだよー!』と可愛らしく言っていた気がする…!
だとしたら僕は今、あやうく告白する所だったのか。
少し間を置いてしまったけれど、僕も純粋に、今の彼女に想っている事を伝えよう。
自分で魔族だって明かしてくれて、握手が怖かったのか、それでも僕と握手してくれて、僕の事を心配までしてくれた。
凄く短い出来事だったけど、この子が悪い子だとは思えない、僕はそういう子、
「大好きだよ」
嘘じゃ無いよって、満面の笑みで伝えた。
何故か、顔を赤くして仰け反るグリモア。
かと思いきや、勢い良く頭部を前に振り下ろして、金色の瞳で僕を睨むように見つめてきた。
「―――おにーちゃん、アルノートっていう名前だったよね」
「う、うん…アルノート=ミュニャコスだけど」
「…分かった。絶対に忘れない、ありがとうおにーちゃん、私、おにーちゃんに会えて本当に良かった」
えっと…何だか怖いけど、良いのかな?
もうそろそろ甲板に出てアリス姉さんとの修行も行わないとね。
「そ、それじゃあ僕はもう行くね、またねグリモア!」
「うん、ありがとうおにーちゃん、覚悟しておいてね」
えっと、僕は喧嘩を売られてる訳じゃないんだよね…。
と、ともかく行こう。
そんな短い出来事だったけど、僕はまるで予想もしていなかった。
この出会いがいずれ、僕の命を救ってくれるなんて。
褐色の肌に、真っ白な髪の毛、金色の眼…大きな眼で見られていると、何だか自分が悪い事をしていないか心配になってきてしまう。
そんな、僕を見つめる女の子を廊下で見つけた。
日中の修行を終えてギル兄も寝ると言ったので僕はアリス姉さんと甲板に出る事にしたのだけれど、その前に折角だから船の中を見て回る事にした。
大きな船なのに自分の部屋と甲板しか見ていないのは勿体無いと思ったからだ。
そして、金の額物付きの窓や、紅いカーペットの敷かれた廊下を歩いていると、この少女に出会った訳だ。
「僕は…僕はアルノートって言うよ、君は?」
「…私の名前を、知りたいの?」
そう告げた少女は、何処か僕を警戒している様子だった。
「うーん、名前を知りたいかって聞かれたら、知りたいかな、君とお話する時に何て呼べばいいか分からないから」
「…おにーちゃん、人間?」
「うん、君は人間じゃないの?」
「うん、私は魔族…」
魔族っていうと、人間と戦争をしている種族だったよね、モンスターと違って知能もあるし、外見も人に似ている種族もいればモンスターに近い種族もいて千差万別だった筈。
この子が魔族だって自己紹介してくれなかったら、きっと気付けなかったな。
「そっか、遠くから来たんだね」
「…?」
何故か首を傾げられてしまった。
「もしかして遠くからじゃ無かったの?」
「ううん、遠くだよ、思い出せない位遠く」
「凄いね、僕もいつかそれだけ遠くの場所に行ってみたいな」
「…あれ?」
何故だかまたもや首を傾げられてしまった。
「おにーちゃん言葉分かる?私、魔族だよ」
「えっ…もしかしてマゾクって名前だったの!?」
「…おにーちゃんは、変わった人?」
変わった人…自分の人生を考えると、変わった人と言われてもおかしくない様な…だけど認めたくない様な。
「少しね、少しだけ変わった人かも」
「…へぇ」
少女は立ち上がると、僕の傍までやってきた。
…どうしてこの子は、こんなにボロボロの服装をしているのだろうか?
「ねぇおにーちゃん、私の名前、教えてあげる」
「え?どうして?君はマゾクちゃんじゃ無かったの?」
「くす…おにーちゃんは、少しどころじゃ無くてとっても変わってるかも」
うぐ…そう言われると、変わっているのかなぁ。
もしかして大陸だと、僕みたいな外見の子はいないかもしれない…だとしたら凄く周囲から浮いちゃうだろうなぁ。
「私はグリモア、グリム・ワルドって名前だけど、仲の良かった子達はグリモアって呼んでくれてた」
「グリモアちゃんだね、よろしく!」
「グリモアで良い、アルノートおにーちゃん」
「分かった。よろしくねグリモア」
そう言って僕は握手を求めた。手を差し出しただけだった。
だけど、またもやグリモアは首を傾げた。
「おにーちゃん、汚れるよ?」
「え?何が?」
「…ううん、ううん、なんでもない、ほんとうに、なんでもないから」
何故か震える手で、グリモアは僕と握手をした。
そしてその時、繋いだ手が光輝いた。
僕には何が起きたのか全く分からなかったけれど、グリモアは何かを確認するみたいに服の内側を見て、その後から僕に詰め寄って来た。
「お、おにーちゃん、身体大丈夫?」
何を確認されているのか分からずに、僕もなんとなく服の内側を見てみたけれど、特になにも無いし、体長が悪い所も無い。
「うん…えっと、別に何かおかしなことは無いけど…」
グリモアはますます首を傾げて、何度も傾げて、ついには腕まで組んで考え始めてしまった。
「えっと…グリモア?」
「…もう。いいや、気にしない、おにーちゃんはやっぱり変」
そう言いながらも、彼女の顔は笑っていた。
皮肉めいた笑いとかじゃなくて、凄く純粋な笑みだった。
「ねぇおにーちゃん、おにーちゃんは魔族って、嫌いじゃないの?」
そんな質問を投げ掛けられて、僕は自分の暮らしていた島を少しだけ思い出した。
僕の自宅の周辺に住んでいた何人もの魔族の人、どうして世界は、あの島みたいに仲良く暮らす事が出来ないんだろうか。
「僕は、魔族も人間も好きだよ、中でも友達になれたグリモアの事は…」
特別に思ってる…と言おうとして、何故だかクレア姉さんが頭を過った。
そういえば幼少の時分に、クレア姉さんが『お嫁さんとお婿さんは、特別な関係なんだよー!』と可愛らしく言っていた気がする…!
だとしたら僕は今、あやうく告白する所だったのか。
少し間を置いてしまったけれど、僕も純粋に、今の彼女に想っている事を伝えよう。
自分で魔族だって明かしてくれて、握手が怖かったのか、それでも僕と握手してくれて、僕の事を心配までしてくれた。
凄く短い出来事だったけど、この子が悪い子だとは思えない、僕はそういう子、
「大好きだよ」
嘘じゃ無いよって、満面の笑みで伝えた。
何故か、顔を赤くして仰け反るグリモア。
かと思いきや、勢い良く頭部を前に振り下ろして、金色の瞳で僕を睨むように見つめてきた。
「―――おにーちゃん、アルノートっていう名前だったよね」
「う、うん…アルノート=ミュニャコスだけど」
「…分かった。絶対に忘れない、ありがとうおにーちゃん、私、おにーちゃんに会えて本当に良かった」
えっと…何だか怖いけど、良いのかな?
もうそろそろ甲板に出てアリス姉さんとの修行も行わないとね。
「そ、それじゃあ僕はもう行くね、またねグリモア!」
「うん、ありがとうおにーちゃん、覚悟しておいてね」
えっと、僕は喧嘩を売られてる訳じゃないんだよね…。
と、ともかく行こう。
そんな短い出来事だったけど、僕はまるで予想もしていなかった。
この出会いがいずれ、僕の命を救ってくれるなんて。
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