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第二章 船上の証明
第三十三話 理由
しおりを挟む俺はアリサスに、アルが勇者として生まれた事、神からのお告げがあった事…そして、大好きな島を出る決意をしてまで、アルの親父、ガルディアが基盤を整えてくれた大陸に向かう途中である事を伝えた。
部屋の外、甲板まで連れだされた俺は、船首の近くまで連れられると突然頭突きを喰らわせられた。
「がっ…なっにをすんだテメェ…は…」
「人魔戦争を止める…なんて、無理に決まってるじゃないの!?」
…涙目で、訴える程かよ。
やっぱりこいつは、アルを大事に思ってくれてる。
アルを大事に思うがあまり、見えていないんだろうな。
「まぁ、無理かもな」
「だったらどうしてあの子をそんな世界に送り出すのよ!?殺す気なの!?」
俺は思わず…拳を握った。
確かによ…そう問われても仕方の無い様な事だ。
「俺は、お前よりもアルと長く一緒にいるんだぜ?」
「それが何!?アンタのお墨付きだから死なないって思ってるの!?馬鹿言ってるんじゃないわよ!!」
「俺は、お前よりも小さな時のアルも知ってるんだぜ?」
「理由になっていないわ!昔のアルよりも強くなってるとでも言いたいの!?」
察してくれれば…助かったのによ。
もう感情を、抑え切れねぇ。
こいつには見えてねぇんだ。俺や…ガルディアの事が…!!
「俺だって…!!俺だってアルを大陸になんざ送りたくねぇんだよ!!」
思わず引き寄せた。胸倉を掴んで、自分の感情をぶつける為に。
「だけど駄目なんだよ!理由も無いと思ったのか!?ガルディアが…実の親父が大陸に渡ってまで、生まれたばかりの息子を放ってまで基盤を整えておこうと思った理由が!!」
それは、俺とガルディアと、島の人の中でも数人しか知らない秘密だ。
「話しただろ…俺とガルディアが、ガルディアの嫁さんが亡くなった時に何処に居たか!!」
その時、俺達が居た場所は運命の塔。
人の定めを読む婆さんが住む…魔力に満ちた地獄の塔だ。
眼帯の奥の…空間が疼く。感情を昂らせるとすぐにこれだ。だから、落ち着いていようと思ったのに…。
「俺達はな…そんな事は分かってて、だけどそうするしかないからそうしてるんだよ!!」
怒鳴り声はアルには聞こえないはずだ。あいつはそれだけ、集中していた。
「どうして、どうして十五になってから連れだしたのよ!?」
「十五になって初めてアルは勇者となる…最初に伝えただろ、神様のお告げだ」
俺だって十五になる前から連れ回したかったけど、大陸を連れ回すには…危険過ぎる。
「天性なのか、それとも勇者として目覚めたからなのか、アリサスが見た通りアルは異常なまでに成長が早い、俺が教えた剣の基礎だって、学ぼうと思い型まで確りとやれば早くて半年の修行だ。魔法の魔力探知と魔力操作なんて一年掛かって覚える様な代物だぞ…あいつはそれを、数日でやってのけるんだ」
「それが…勇者の力?」
「さぁな、それは分からない…だけど安心はしたさ」
「安心?」
察せる内容じゃないもんな…・仕方ない、ここまで話したのだし、全部話してしまおう。
「絶対にアルには言うなよ…アイツは…アルは…死か生かの二択の中で生きてるんだよ!!」
アリサスが目を見開いたのが見えたけれど、俺の言葉はもう。感情の波に呑まれて濁流の様に吐き出し続けるしかない。
「十五歳と半年…十六歳…十六歳と半年、そして十八歳、その時期にアイツには、その二択しか選べない運命が待ち受けている」
「どういう…事よ…人魔戦争を止めるのが目的だって」
「俺だって知らねぇよ!!神様だって分からないんだ…普通の人間はよ、川みたいに幾つかの分岐はあっても、最終的に行き着く海って場所が用意されてる…だけどアルは、アルは最初から海に居るのも同然なんだ。あいつに待ってるのはその海における波だけ、分かるのは波だけなんだ」
神が告げた言葉は、アルには少し隠して伝えられている。それが今、語った部分だ。
普通は、川みたいなもんだから、せき止められている石程度の難関が待っているらしい、だけどアルは波が、海における波の様に、何処までも横に続く予想も付かない何かが待っているんだと…告げられた。
そしてそれは大波、死ぬか、生きるか…そのレベルの物が待っている。
「だから俺は…アルと一緒に旅をする事を選んだんだよ、その時に何が起きても良い様にな、だからさっきお前に尋ねたんだよ、命を張れるかって…」
今のアルに必要なのは力、そして仲間だ。
アルの為に、命を張ってでもその時を共に乗り越えてくれる仲間が必要だ。
「もう一度聞くぜ…お前、アルの為に命張れんのか、一人の少年の為に命を張って一緒に荒波を超える事が出来るのか!?」
「…私は」
「言っておくがな…さっきのお前の質問、あの中には実際にその選択をした物もあったんだぜ、勇者という存在が世界の混沌を引き起こすなんて叫んでる村とかな…」
「わたし…は…」
困惑を顔に映すアリサスに背を向けて歩き出す。
「あいつが人魔戦争を止めるっていうのは、俺達にとって目的の一つだ。俺達の本当の目的は…アルを生かす事だ。偶然それが、人魔戦争を止めるって未来に繋がるだけだ」
…少し、興奮しすぎたな。
「…怒鳴って、すまなかった。もしもお前が、アルの為に命を張ってくれるって言うのなら、願わくば…もう少し一緒に、旅がしたかったよ」
それは確かに俺の願いだけど、そんな理想は波の音に攫われて聞こえなければいい。
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