勇者として生きる道の上で(R-18)

ちゃめしごと

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第三章 商会を束ねる者

第四十三話 カエラ商会

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 遂に、大陸に着いた。

 潮風が頬を撫でるけれど、クリッケの港町とは違う街並が病院から出て来たばかりの僕達を出迎えてくれた。

 僕達…僕と、ギル兄だ。

 アリスも一緒に旅をしたかったけれど、ギル兄が言うにはアリスにはアリスの道があるということらしい。

 それは僕も同じだ。アリスが残してくれたイメージと、そのイメージを封じた結晶石が僕の手元にはある。これらがあれば、いつでもアリスが僕に教えてくれた事を想い出せる。

 もっともっと、色々な事を教わりたかったけれど…僕は今、ようやく大陸に着いたんだ。
 
 前を見て、進まないと駄目だよね。

 真っ白な建物が多いその街は、『アトゥナ』という名前で親しまれているらしい。

 外界との入口とも呼ばれる『アトゥナ』、この場合の外界は大陸外の僕が住んでいた島の事を指すんだってさ。

 真っ白な建物は太陽の陽射しを反射して暴力的なまでの輝きを放っている。外界からの侵入者に対して昔はこの輝きが聖なる守りを得た街だとして威嚇の意味合いを持っていたんだそうだ。

 ここまでの話を僕はこの街に暮らす人から聞いた。というのも、



「いいかアル、初めての場所に来たら自分で色々見て回れ、そりゃ俺が教えられる事も多いけど、目で見て耳で聞いた事の方が忘れねぇぞ?」



 三日間の入院を経て、後遺症が残らない様に丁寧に時間を置いて施された光魔法と水魔法による治療のお陰で僕は動けるようになっていた。

 それで退院してギル兄にどんな街なのかと尋ねてみた所で返って来たのがさっきの言葉。

 ギル兄にそう言われては動くしかない、早速僕は色々な人に分からない事やこの街の事を尋ねてみたんだ。

「この街で合流する予定の奴が一人いてな、そいつと合流できるまでは腰を据える形になる」

 そう言っていたので、少しこの街を楽しむ事も出来そうだ。

 そこで街を歩く人や、露天商をしている人に色々と話を聞いて行く。そうやって先程知り得た情報なんかを、自分の中で大事な物や、この街で役立ちそうな情報、街の外に行っても役立ちそうな情報、歴史なんかも知らないよりはずっといいかなと刻み込んでいく。

 その中の一つに、気になる情報があったんだ。

『この辺りの事かい?そうだねぇ…最近、大陸の北部の物を熱心に集めてる商会があるって聞くね、北部の方が危険だからね、防具なんかも多いみたいだよ』

 僕の旅装は、この前の戦いの中でボロボロになってしまっている。変え時を逃し易いと聞く旅装だけに、今のうちに変えてしまおうと僕は考えた。

『お店の名前?確かお店の名前は…』





――カエラ商店前――

 そうしたやり取りもあって、僕は『カエラ商店』というお店の前まで来ていた。

 旅装を買うとしたら、僕が使用出来るのは自分のお金だと言える今回の騒動のお礼と、僕が自分で溜めてきたお金を合わせたクローネ金貨四十一枚分だ。騒動のお礼が大分大きくて四十枚も貰えた。

 ギル兄が教えてくれたお金の価値…後で思い出してみよう。だって、今僕が購入するのは防具や武器、基準を気にして値段を気にして、それで望む物を高いからと諦めたら後悔が残るからね。

 そんな訳でお店の中へ…。

「うわぁ…」

 色々な剣や防具が置いてあって、目映りしてしまう程だった。

 銀色の刀身を輝かせるグレートソード、取り回しがし易そうに持ち手にレザーの張られたダガ―、柄から伸びる鎖の部分まで攻撃に使えそうなトゲトゲいっぱいモーニングスター、どうやって使用するのかも分からない円状の刃。

 部分ごとに置かれた使用している鉱石まで明記された防具の棚に、全身鎧フルプレートの浪漫溢れる装備、内と外で別々の素材を使用した幾ら掛かるのかも分からない重厚な盾などが並べられている。

 僕は南の方の装備自体を知らないから、出来れば誰かに良い装備を選ぶのを手伝って欲しいけれど…。

「おや、どうなさいましたお客さん」

 そんな風に考えていたら、細目の狐を彷彿とさせる髪色をしたお兄さんに声を掛けられた。

 少し早口だったので緊張してしまったけれど、声を掛けてくれて内心とても嬉しかった。

 僕は口の中で何度か言葉を転がして、装備を買いに来たでも無いし…武器が欲しい訳でも無いし…と移り気な心から一番の優先するべき願いを引き出した。

「えっと…実は旅装がボロボロになっちゃって…」

 自分の着ている服を見えるようにクルリと周ると、お兄さんは何故か僕を優しい目で見ていた。どうして?

「あぁ…それはまた激しい何かが起きたんでしょうなぁ、ご予算はお幾ら程で?」

 予算…相場が分からない僕には、なんとも言い難い部分を突いてこられた。

 金貨一枚は残しておきたいよね…宿とか食料とか色々と買い出しもしたいし。

「クローネ金貨で四十枚…です」
「―――クローネ金貨四十枚?」

 お、お兄さんが、険しい顔になった。

「あぅ…もしかして、足りないですか?良い装備ばかりだから、やっぱりお高いですよね」
「いや、いやいやいや、何を言ってるんですか!クローネ金貨四十枚と言ったら平均的な軍属の兵士さんの給料十年分!足りないことなんてありませんよ!」

 あれ…足りるの…かな?

 でも、どうしよう。僕お勧めですよって言われたらそのまま購入しちゃいそうだ。勧めてくれたこの人にも悪い気がしちゃうし。

「それじゃあお客さんは旅装をお求めで?」
「はい、出来れば長く使えるのが良いです」
「あぁ、まぁそりゃそうですね、同じ物を幾つも買いたくは無いですよね」

 …?

 なんだろう。論点が違うというか、僕とみている部分が違う様な。

 確かに装備品がすぐにダメになるのは嫌だし、お金も一杯使わなくちゃいけないけれど、それ以上に僕にとって旅装は、旅を共にする物だ。

 だから、僕はこう考えるんだ。

「えっと、そうじゃなくて…長く使えたら、売ってくれたお兄さんの事とか、この街の事とか、思い出せるかな…って」

 少し恥ずかしくて、最後の方は俯いて上目遣いになってしまった。

「――――ッ」

 僕の上目遣いがあまりにも不評だったのか、その人は固まってしまった。
 
 な、謎の既視感。

「お、お、お、お任せくださいな、長持ちするもんもってきますんで、個室に案内します!」

 こうして僕は、商会の中の一部屋に案内された。

 中には小さなソファーが二つ、綺麗なテーブルを挟んで窓から陽射しが入る場所に置かれていた。

「それじゃあここで待っとってて下さい、今持って来ますので」

 気に入ってもらえたのか、それとも怒られちゃうのか分からないけれど…どんな旅装を購入する事が出来るのか、楽しみだ!


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