勇者として生きる道の上で(R-18)

ちゃめしごと

文字の大きさ
50 / 72
第三章 商会を束ねる者

第四十五話 婚約者

しおりを挟む
「なんとなく勘付いてはいたんだ。君が告げたクローネ金貨四十枚、近々入院したという事、そして大陸出身じゃ無い事も証明されたからね」

 商会の中、大きな建物の一階の廊下を歩く。

 お兄さんから装備の付け方を教えて貰って、今はお兄さんに案内されて二階へ向かう所だ。

「証明…ですか?」
「そう。ほら、これが私の名前だ」

 差し出された四角い紙には『ジュネ・モンタール』と書かれていた。

 …?

 思わず足を止めて首を傾げていると、お兄さんが見せてくれた名前の中間、黒い点を指差した。

 あぁ、そういえば僕の名前だと『=』を使うけど、お兄さんやギル兄、アリス姉さんの名前は全員『・』が使われてる!

「そういうことだったんですね!」
「はは、小さな点だけどね、小さな点だけに」
「……………?」
「俺が悪かったからそんな何を言っているのか分からないって顔をしないでくれ…!」

 そのまま歩き出そうと思ったけれど、誰かと一緒に歩く時は手を繋がなきゃいけない事を思い出して僕はお兄さんの手を取った。お兄さんも忘れてしまっていたから僕が気付けて良かった。危ない危ない。

 何故かお兄さんの脚が止まってしまったので、「忘れてましたよ、握りますね」と告げると、忘れていた事を指摘されたのが恥ずかしかったのか顔を真っ赤にしていた。

 やっぱり大人の人でも忘れちゃう事はあるんだなぁ。

 そのまま手を繋いで商会の二階へ、お兄さんは一つの部屋の前で立ち止まると、僕との手を放して扉をノックした。
 どうやらここに、僕と関わりが在る人がいるらしい。

「要件は?」

 聞こえてきた声は少し変わったイントネーションだった。

「アル君ですよ、会長」
 
 その言葉には言葉では無く。何やら慌ただしい音が返って来た。そしてその後にようやく言葉。

「ほ、ほんまかいな!!は、はよう入り!」

 その言葉に頷いて、お兄さんは扉を開けた。

 豪華な装飾の目立つ室内、入って前方には先程僕とお兄さんが話をしていた商談スペースの様な物が置かれており、その奥に大きな机と大きな椅子、背にする形で大きな硝子窓が見えた。

 そしてその大きな椅子に、金色の髪をして、蒼い瞳で勝ち気に口元に笑みを作る女の人がいた。縦の線が入ったスーツを首元で蒼色のリボンで留めてあり、ベストを身に着けている。
 その人は椅子から立ち上がって黒いタイトスカートから伸びる脚を伸ばし、ハイヒールをカツカツと鳴らして僕に近付くと射抜く様な視線を僕に向けてきた。

 な、何か悪いことしたかな…。

 思わずお兄さんの腰に手を添えて、少し身を隠してしまった。

 お兄さんが凄く固くなっていた。

「あんたが…アル君?」
「…うー!」

 ツミレ先生直伝、歯をいーにして威嚇行動!

 怖い人から声を掛けられたらこれをしなさいって島を出る前に教えて貰った技だ!

 お隣のお姉さんに続いてコレを使うのは二人目だ!

「おいジュネ、なんやこの可愛い生物は、アル君は何処や…見ただけで鼻血出る位可愛いって言うのはガルディアさんの親バカちゃうんかったんか」
「どうやら事実を述べていたみたいですね…アル君、手を繋ぎますか?」

 何故かそう問い掛けられて、僕は今の不安を払拭する為にも誰かのぬくもりが欲しかった。

「うん!」

 お兄さんの手はギル兄と違って柔らかい。だけど、柔らかくない部分もある。

「お兄さんのって先っぽが固いね」
「「――――っ」」

 何故かお兄さんと怖い人が仰け反った。

 多分、お兄さんはお仕事で先っぽを良く使うんだろうな、だからこんなに固くなっちゃったんだ。

「お、おいジュネ、これはあかんで、ウチの精神が持ちそうにあらへん!!あんな十五歳反則や!十五ってもっとすさんどる物と違うんか!?」
「会長、俺もです!だからこの場は会長にお任せしますので失礼します!!」
「あぁ!!ジュネ!!」

 お兄さん…ジュネさんは僕の頭を二回ポンポンしてくれるとそのまま去って行った。

 うう…怖い人と部屋に二人。

「…ま、まずは、自己紹介から…やな、ああぁああぁああ!!」

 怖い人は僕がまだ胸元に手をやって怯えているからなのか、頭がガシガシと掻いて息を大きく吐いた。



「うしっ!よぉ来てくれたなアル君、ウチはカエラ・E・ヴェンディック!このカエラ商会の会長をやっとる者で…」



 何故か、顔を赤らめてもじもじ、もじもじ、指先もじもじ。

 そして何かを決意したように顔を上げて、僕に告げた。



「君の…こ、こん、婚約者や!!」



 その時、何処かから聞き覚えのある声で「えぇぇええぇえぇえ!?」と叫ぶ声が聞こえてきた。

 もしかしたら、僕の心の声を代弁してくれる誰かが居たのかもしれない。


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...