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第二章 洞窟探検
第9話 街の外!
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私たちは、ホナミの後を追って、街の外に出てきた。 海や市場とは反対側の、島の内部へ向かう、森や山があるほうだ。
この辺りは、上りの傾斜の丘になっている。 辺り一面に草が生えていて、向こうには森が見える。 森の中では、軍隊が訓練をしていたりして、ふつうの人が行くことは、あまりない。
丘を上っていきながら、歌子ははあはあと息を吐く。 汗がたれて、体にくっつく服が、重く感じられる。
背後には、少し遠くに、街が見えている。 さっきまで、たくさん階段を上り下りしてきたから、もうへとへとだ。 前を見ると、ホナミは相変わらず、地面から浮いて、ふわふわと楽そうに移動している。 いいなあ、幽霊は、いつも、楽そうで。
「ホナミー! ちょっと早いー!」
歌子が、疲れた足を動かしながら、耐えかねたように叫んだ。 私たちの街は、低い山の斜面にあるから、階段がやたらと多い。 いつも、たくさん階段をのぼって、足腰は鍛えられてるから、簡単なことでは疲れない。
……だけど、幽霊の調子には、やっぱりついていけないことも、ある。
大声で呼びかけると、向こうでホナミが振り返って、こっちを見た。 生身は遅いなあ、なんて、考えてるのかも。
頑張って歩く歌子の近くを、さっき憶え屋に来た、はつらつとして元気そうな女の子が、一緒に歩いている。
この子は、さっき名前を聞いたら、スズネというらしい。
一緒に丘を上っていきながら、スズネは憶え屋での話の、続きを始めた。
「ねえ、さっきの話だけど、私の死体、見つからなかったの?」
「えっ?! 死体?!」
前を歩いていた小春が、振り返って大声を出した。 まだ、さっきの話は、小春たちにはしてなかった。 いきなり死体なんて言葉が出てきたから、びっくりしたんだろう。
話題に反応して、今度はおしゃべりな雨子が、後ろから声をかけてくる。
「あ、なんか分かったの?」
雨子は、死体が見つからなかった事件のことだって、すぐに分かったみたいだ。 雨子は記憶力がいいから、大体の都市伝説のことは知っている。
……でも、どうやって答えたらいいの? 『この子が自分で死んだみたいでさ』って……なんとも言いづらい。
歌子は、何と答えていいか分からず、まごついた。
「あぁいや、えっと……」
「私、200年前に、自分で死んだの」
スズネが、あっさりと自分のことを話す。 小春は眉をひそめて、一瞬黙り込んだ。 その言葉の意味を、考えているようだったが、すぐに驚いたように大声を出した。
「ふーん……。 ……えぇっ?!!」
「自分で死んだ?」
後ろから、大きな体で歩きながら、ミツバが入ってきた。 話の内容が気になったみたいだ、眉をひそめて聞いてくる。
振り返ったスズネは、頷いて答えた。
「うん。 ……こう、ふいっと高い所から……」
そういいながら、両腕を広げて、ふっと地面から跳ねるような動作をする。
ミツバは、まだ飲み込めていないようだった。 考えるような、ぼんやりしているような、複雑な表情になっている。
その前で、歌子は歩きながらじっと考えていたが、口を開いた。
「でも、200年前って、たしか、ひどい災害が、たくさん起きた時だよね?」
歴史所で働いている歌子は、各時代のできごとは、ある程度知っている。 200年前といえば、ひどい災害が頻発して、降霊術すらもままならないほど酷かった時代だ。
それを知っているはずのスズネは、軽い調子で頷いた。
「うん、そうだよ」
「だったら、他にも死んだ人って、たくさんいるんだから、……その飛び降りた人ってのも、スズネちゃんなのかは、分からないかも……?」
そういって、歌子は色んな可能性を考えてみる。 飢餓で人々が死んで、雨に巻き込まれて死んで……。
……でも、謎として噂があったのは、『飛び降りた人』だ。 飛び降りた人なんて、災害が多い時代だとしても、あまり想像できない。
前を歩いていた小春が、こっちに近づいてきた。 歩調を遅くして横に来ると、スズネの顔を覗き込み、観察するように聞いていく。
「あなた、自分で? ……ひとりで、死んだの?」
小春はなんだか、理解できないというような顔だ。 そりゃそうだろう、この街では、そんな話は聞かないのだ。
「うん。 変だよね」
スズネは、自嘲するように、ははっと笑った。 それを見た小春は、まだ不思議そうな、疑うような、よく分からない表情をして唸っている。
「うーん……?」
「……生け贄で死んだ人とかも、確かいたような……」
考えていた歌子が、ぼそっと言った。
「生け贄?! ……あぁ」
小春はびっくりしたように、また大声を上げたが、すぐにそれが何を意味するのかを分かったのか、何も言わなくなった。 そういう話なら、この街では、ごくたまにだけど、聞くんだよね。 昔からの、変な風習としてあるみたい。 最近は、廃止になったと聞くけど……。
200年前に生け贄があったことは、スズネは知らなかったようだ。 初めて聞いたような声で、反応する。
「あ、そうなんだ。 私、多分その前に死んでるから」
「そうなの?」
「うん。 ……ずっとコメが取れなかったしねー。 そっかー、あの後、たくさん死んだんだ」
自分の生きてた時代のことなのに、なんだかスズネは他人事みたいだ。 というか、自分が死んだ後に起こったことを、ここに来てからも、知ろうとしなかったのだろうか? 歴史所に行けば、そんなことはすぐに分かる。 ……なぜだか分からないけど、それは不思議な感じもする。
「ホナミー! どこ行くの?」
話の途中で、小春が前のほうを向いて、大声を出した。 前で立ち止まっていたホナミは、どこか別のほうを眺めていた。 振り返ってこっちを見ると、ホナミは腕を上げて、方角を指し示す。
「こっち」
ホナミが差した方には、山があった。 それも一つではなく、見渡す限り山しかないところ……。 しかも、ホナミの腕は、角度が低く、どこか下のほうを指してる気がする。
それを見たスズネは、変な気分がして、思わず聞いた。
「……え? 山の中?」
「うん。 山の中の、まんなかぐらい」
まんなか? ……どういうこと? なに、土の中ってこと? 嫌な予感がした小春が、聞き返す。
「あんたの言うまんなかって、どこよ? ……また、土の中のことじゃ、ないわよね」
「うん、そうだけど……」
ホナミが普通に答えると、小春はやっぱりねといった様子で、呆れたような仕草をした。
「ほら。 だから、私たちは慣れてないんだって、そういうの!」
この前、同じようにホナミに連れていかれた時に、そんなことがあったのだ。 山のふもとに行ったかと思えば、道もないのに、ホナミはすいすいと土の中を進もうとした。 しかし、他のみんなは立ち止まってしまった。
幽霊は、体が透けてるから、壁も地面も通り抜けられる。 だけど、それは理屈上のことだ。 生きてた時の感覚が邪魔をして、ふつうは簡単にはできない。
ホナミは何かを通り抜けたり、宙をふわふわと浮いて移動するなどが、得意らしい。 街の中でも、ホナミほど物理法則を無視して動ける人は、少ない。 空を飛んだり、壁を通り抜けたりするのは、練習を積む必要があるのだ。
「俺らは、そもそも行けないぞ」
大柄な体を落ち着かせ、立ち止まったミツバが言った。 生きてて、生身の体を持ったミツバと歌子は、もちろん通り抜けるなんて無理だ。 そんなことも考えてなかったのか、ホナミは今気づいたような声を出した。
「あ、そっか」
「あそっかって、あなたねえ」
小春がゆるやかにツッコミを入れる。
一行は立ち止まり、辺りを眺めた。 歌子が一番最後に追いついてきて、息をはあはあと吐きながら、辺りの景色に目をやる。 この辺りはひらけていて、風が吹いていて、気持ちがいい。 汗が光る歌子の額で、髪の毛が小さく揺れている。
ホナミは景色をきょろきょろと見ていたが、思い出したように言った。
「じゃあ、向こうからも行けるよ」
そういって今度は別のほうを、腕で指す。 見ると、正反対の、海のほうを指しているようだ。
「海? 海から行けるのか?」
「うん。 ちょっと、回り道だけど」
ホナミは宙に浮いたまま、一人で動き始めた。 みんなはそれについていって、再び足を動かしていく。 向こうには、海と浜辺が見えている。
この辺りは、上りの傾斜の丘になっている。 辺り一面に草が生えていて、向こうには森が見える。 森の中では、軍隊が訓練をしていたりして、ふつうの人が行くことは、あまりない。
丘を上っていきながら、歌子ははあはあと息を吐く。 汗がたれて、体にくっつく服が、重く感じられる。
背後には、少し遠くに、街が見えている。 さっきまで、たくさん階段を上り下りしてきたから、もうへとへとだ。 前を見ると、ホナミは相変わらず、地面から浮いて、ふわふわと楽そうに移動している。 いいなあ、幽霊は、いつも、楽そうで。
「ホナミー! ちょっと早いー!」
歌子が、疲れた足を動かしながら、耐えかねたように叫んだ。 私たちの街は、低い山の斜面にあるから、階段がやたらと多い。 いつも、たくさん階段をのぼって、足腰は鍛えられてるから、簡単なことでは疲れない。
……だけど、幽霊の調子には、やっぱりついていけないことも、ある。
大声で呼びかけると、向こうでホナミが振り返って、こっちを見た。 生身は遅いなあ、なんて、考えてるのかも。
頑張って歩く歌子の近くを、さっき憶え屋に来た、はつらつとして元気そうな女の子が、一緒に歩いている。
この子は、さっき名前を聞いたら、スズネというらしい。
一緒に丘を上っていきながら、スズネは憶え屋での話の、続きを始めた。
「ねえ、さっきの話だけど、私の死体、見つからなかったの?」
「えっ?! 死体?!」
前を歩いていた小春が、振り返って大声を出した。 まだ、さっきの話は、小春たちにはしてなかった。 いきなり死体なんて言葉が出てきたから、びっくりしたんだろう。
話題に反応して、今度はおしゃべりな雨子が、後ろから声をかけてくる。
「あ、なんか分かったの?」
雨子は、死体が見つからなかった事件のことだって、すぐに分かったみたいだ。 雨子は記憶力がいいから、大体の都市伝説のことは知っている。
……でも、どうやって答えたらいいの? 『この子が自分で死んだみたいでさ』って……なんとも言いづらい。
歌子は、何と答えていいか分からず、まごついた。
「あぁいや、えっと……」
「私、200年前に、自分で死んだの」
スズネが、あっさりと自分のことを話す。 小春は眉をひそめて、一瞬黙り込んだ。 その言葉の意味を、考えているようだったが、すぐに驚いたように大声を出した。
「ふーん……。 ……えぇっ?!!」
「自分で死んだ?」
後ろから、大きな体で歩きながら、ミツバが入ってきた。 話の内容が気になったみたいだ、眉をひそめて聞いてくる。
振り返ったスズネは、頷いて答えた。
「うん。 ……こう、ふいっと高い所から……」
そういいながら、両腕を広げて、ふっと地面から跳ねるような動作をする。
ミツバは、まだ飲み込めていないようだった。 考えるような、ぼんやりしているような、複雑な表情になっている。
その前で、歌子は歩きながらじっと考えていたが、口を開いた。
「でも、200年前って、たしか、ひどい災害が、たくさん起きた時だよね?」
歴史所で働いている歌子は、各時代のできごとは、ある程度知っている。 200年前といえば、ひどい災害が頻発して、降霊術すらもままならないほど酷かった時代だ。
それを知っているはずのスズネは、軽い調子で頷いた。
「うん、そうだよ」
「だったら、他にも死んだ人って、たくさんいるんだから、……その飛び降りた人ってのも、スズネちゃんなのかは、分からないかも……?」
そういって、歌子は色んな可能性を考えてみる。 飢餓で人々が死んで、雨に巻き込まれて死んで……。
……でも、謎として噂があったのは、『飛び降りた人』だ。 飛び降りた人なんて、災害が多い時代だとしても、あまり想像できない。
前を歩いていた小春が、こっちに近づいてきた。 歩調を遅くして横に来ると、スズネの顔を覗き込み、観察するように聞いていく。
「あなた、自分で? ……ひとりで、死んだの?」
小春はなんだか、理解できないというような顔だ。 そりゃそうだろう、この街では、そんな話は聞かないのだ。
「うん。 変だよね」
スズネは、自嘲するように、ははっと笑った。 それを見た小春は、まだ不思議そうな、疑うような、よく分からない表情をして唸っている。
「うーん……?」
「……生け贄で死んだ人とかも、確かいたような……」
考えていた歌子が、ぼそっと言った。
「生け贄?! ……あぁ」
小春はびっくりしたように、また大声を上げたが、すぐにそれが何を意味するのかを分かったのか、何も言わなくなった。 そういう話なら、この街では、ごくたまにだけど、聞くんだよね。 昔からの、変な風習としてあるみたい。 最近は、廃止になったと聞くけど……。
200年前に生け贄があったことは、スズネは知らなかったようだ。 初めて聞いたような声で、反応する。
「あ、そうなんだ。 私、多分その前に死んでるから」
「そうなの?」
「うん。 ……ずっとコメが取れなかったしねー。 そっかー、あの後、たくさん死んだんだ」
自分の生きてた時代のことなのに、なんだかスズネは他人事みたいだ。 というか、自分が死んだ後に起こったことを、ここに来てからも、知ろうとしなかったのだろうか? 歴史所に行けば、そんなことはすぐに分かる。 ……なぜだか分からないけど、それは不思議な感じもする。
「ホナミー! どこ行くの?」
話の途中で、小春が前のほうを向いて、大声を出した。 前で立ち止まっていたホナミは、どこか別のほうを眺めていた。 振り返ってこっちを見ると、ホナミは腕を上げて、方角を指し示す。
「こっち」
ホナミが差した方には、山があった。 それも一つではなく、見渡す限り山しかないところ……。 しかも、ホナミの腕は、角度が低く、どこか下のほうを指してる気がする。
それを見たスズネは、変な気分がして、思わず聞いた。
「……え? 山の中?」
「うん。 山の中の、まんなかぐらい」
まんなか? ……どういうこと? なに、土の中ってこと? 嫌な予感がした小春が、聞き返す。
「あんたの言うまんなかって、どこよ? ……また、土の中のことじゃ、ないわよね」
「うん、そうだけど……」
ホナミが普通に答えると、小春はやっぱりねといった様子で、呆れたような仕草をした。
「ほら。 だから、私たちは慣れてないんだって、そういうの!」
この前、同じようにホナミに連れていかれた時に、そんなことがあったのだ。 山のふもとに行ったかと思えば、道もないのに、ホナミはすいすいと土の中を進もうとした。 しかし、他のみんなは立ち止まってしまった。
幽霊は、体が透けてるから、壁も地面も通り抜けられる。 だけど、それは理屈上のことだ。 生きてた時の感覚が邪魔をして、ふつうは簡単にはできない。
ホナミは何かを通り抜けたり、宙をふわふわと浮いて移動するなどが、得意らしい。 街の中でも、ホナミほど物理法則を無視して動ける人は、少ない。 空を飛んだり、壁を通り抜けたりするのは、練習を積む必要があるのだ。
「俺らは、そもそも行けないぞ」
大柄な体を落ち着かせ、立ち止まったミツバが言った。 生きてて、生身の体を持ったミツバと歌子は、もちろん通り抜けるなんて無理だ。 そんなことも考えてなかったのか、ホナミは今気づいたような声を出した。
「あ、そっか」
「あそっかって、あなたねえ」
小春がゆるやかにツッコミを入れる。
一行は立ち止まり、辺りを眺めた。 歌子が一番最後に追いついてきて、息をはあはあと吐きながら、辺りの景色に目をやる。 この辺りはひらけていて、風が吹いていて、気持ちがいい。 汗が光る歌子の額で、髪の毛が小さく揺れている。
ホナミは景色をきょろきょろと見ていたが、思い出したように言った。
「じゃあ、向こうからも行けるよ」
そういって今度は別のほうを、腕で指す。 見ると、正反対の、海のほうを指しているようだ。
「海? 海から行けるのか?」
「うん。 ちょっと、回り道だけど」
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