幽霊だらけの古代都市!発達した呪術国家で、破滅的な未来なんて蹴り飛ばせっ! 幽霊たちと一緒に、ワクワクしながら元気に走り回るっっ!!!

折紙いろは

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第四章 動乱の前日

第24話 ……50年前の、冒険隊?

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歌子は壁のほうに行って、持っていた石板を立てかけていく。

 2人が入ってきたこの部屋は、石板を書き直すための場所だ。 部屋は大きくはなく、外からの光がうっすらと入ってきている。 向こうには、黒い液体が入った、汚すぎるお風呂みたいなのが見える。 あそこに石板を浸して、黒く染めるのだ。
 部屋には机があり、何かの作業が出来るようになっていた。 そこに歌子は座っていき、持っていた紙束を置いていく。
 まずは、下書きの修正をするのだ。 さっき地下から持ってきたメモ書きと、下書き用の紙束かみたばをつきあわせて、修正作業に入っていく。

「……あっ、そうだ。 なんか変な書き込みが、私たちの活動記録用の口座こうざにあったんだけど」

 作業を眺めながら、思い出したようにスズネが言った。

 口座こうざというのは、憶え屋で扱う記録帳の、一つの単位のことだ。 記録帳と呼ぶのは、分かりにくいしオシャレじゃないから、かっこよく未来っぽい言い方をしようってことになったんだ。
 『歌子の通貨記録口座』、『スズネの買い物記録口座』……そんな感じだね。

 今まで私が書き溜めていた、都市伝説のことをびっしり書いた記録帳は、今は憶え屋に預けてる。 新しい都市伝説を発見したりしたら、小春やスズネの幽霊も含めて、みんなが好きに書き込んでるみたい。
 それで、えーっと……そこに、変な書き込みがあった? どういうことだろう、歌子は筆を動かしながら、答える。

「変な書き込み?」
「うん。 日記みたいな……『議会で、また冒険隊ぼうけんたいを出すって話になったべ。 でも私たちは、地図作りしようっ! 友達が、言い始めたんだ』……って。 憶えたんだけど」

 ……どういうことだろう? 言葉もちょっと聞きなれないが、内容もよく分からない。 冒険隊があったのは、かなり昔の話だ。 最近では、色々な国外事情がもう十分に分かったということで、やらなくなっているからだ。

 歌子は筆を動かしながら、答える。

「うーん、確かに、変だね」
「でしょ? だって、冒険隊って、何?」

 そうスズネは笑って言う。
 ……あ、そっか。 スズネは最近降霊されたから、昔、冒険隊があったってことを、知らないんだ。

「昔、そういうのがあったんだよ。 結構古くてね、50年前から、10年前ぐらいまでは、やってたみたい」

 私はいま14歳だから、最後の冒険隊があった時は4歳だ。 だから、ほとんど憶えていない。
 スズネは知らなかったようだ。 意外そうな顔で、驚いたように言う。

「あ、そうなんだ」
「うん。 多分、他の人じゃないかな。 ……新しい都市伝説のことを、黙って置いていく人とかも、いるみたいだし」

 私の記録帳は、憶え屋で誰でも書き込めるようになってる。 だから最近は、私たち以外の人も書き込みだしたみたいなんだ。 同じように謎や都市伝説を調べている人が、私たち以外にもいるみたいなの。 そして調べたことを、私たちの口座に黙って置いていくんだ。 挨拶ぐらい、すればいいのに。

 その不思議ななまりの子や、黙って都市伝説の情報を置いていく人は、たぶん私たちが『リアル』で会ったことも無い人たちだろう。
 スズネも心当たりがあったようだ、思い出したように言う。

「あ、そう! 私も、それ気になってた。 あれ書いたの、歌子とか、雨子じゃないよね?」
「うん。 ……えーっと、たしか名前はアキラくん、だったかな……」

 歌子が思い返していると、スズネが理解するように、頷く。

「へー。 ……ねえ、もしかして、私たちに、混ざりたいんじゃないの? その人たちも」

 それを聞き、歌子は辻褄つじつまがあったような気がした。 なんだ、それなら、言ってくれればいいのに。

「あぁ! そうか」
「うん。 ……だって、前は私も、そうだったし」

 スズネは自分を指して、笑って言う。 そうか! スズネもじつは前から私たちのことを知ってて、ずっと参加したかったのかもしれない。

「へえ。 ……面白いね、会ったこともないのに、友達になれるよ」
「ほんとだ」

 こんなことになるなんて、憶え屋を使い始めた時には、想像もしていなかった。 全く見たことのない人と、一緒に活動できるなんて!  いつもの日常から抜け出して、ちょっと、自由になった気分だ。

 ……ん? でも結局、その不思議な訛りの子は、何のことを話してるんだろう。 冒険隊……?
 もしかして、50年前の人が、時を超えて私たちの口座に、話を入れていってくれてるとか……。 ……いやいや、まさかね。


 そんなことを話していると、下書きの修正作業が終わった。 歌子は立ち上がり、部屋の隅に置いていた石板を取ってくる。 石板を黒い液体に浸して、ふたたび真っ黒に染め上げるのだ。
 石板は、もとは白い石でできている。 表面を真っ黒に染めて、乾かした後に棒切れなんかで削ると、白い文字が浮き出るっていう仕組みなんだ。


 歌子が、風呂みたいな場所で、黒い液体に石板を浸していく。 スズネがその作業を眺めながら、思いついたように、また話を始めた。

「あ、じゃあさ、私たちの口座の中で、色んな話を募集するとかやったらいいんじゃない? ……夢見酒ゆめみざけの話について、とか、時のはざまについてとか。 ……そうすれば、色んな人が、どんどん話を持ってきてくれるかも」

 他の人が勝手に書き込んでくれるなら、それはもう『掲示板』みたいなもんじゃん! スズネはそう思ってると、勿論もちろんというように歌子は頷く。

「それ、もうやってるよ」
「あ、そうなんだ」
「うん。 でも出来事できごとごとに募集するんだと、量がすごく多いから現実的じゃなくてね」

 あの歌子の記録帳を思い出すと、びっしりと文字が書かれていた。 あれだけの都市伝説を、よく見つけてきたものだ。 都市伝説ごとに分けて一つ一つ募集するのは、たしかに無理があるかも。

「あぁ、そっか」
「だから、時代別に、募集してみたんだ。 100年前の話を募集します、200年前、300年前……みたいに。 そうすれば、ざっくりだけど、話が集まるかなって」
「あぁ、なるほど! 確かに」

 そんなことを話していると、入り口のほうに、人の気配がした。 見るとそこには、独り言をブツブツ言ってそうな幽霊の女の子の、イトが立っていた。 黙って静かに立って、こっちを見ている。

「ん? ……あ、イト」

 無言で立っているから、気づきにくい。 元々、静かな性格だから、なおさらだ。 一応、声をかけてくれないかな。 それとも、スズネと話していたのを、気を使ってくれたとか?

「歌子ー。 ……今、仕事中?」

 イトは声をかけてきながら、入ってくる。 歌子は頷いた。

「うん。 あっ!!!」

 そうだ、思い出した。 今は仕事中じゃなくて、休憩中だった。 昼休みなのに、私はなんで、まだ仕事してるんだろう。
 大声で叫ぶと、座っていたスズネがびっくりした顔をする。

「……え、何?」
「私、昼休みだった! ……なにか、食べなきゃ!」

 食べることだけは、欠かしてはならないと、母が、いつも口を酸っぱくして言っている。 この街で、生身なまみの人として生きていくために、大事なことなのだという。
 歌子は色んなものを放り投げ、慌てて立ち上がった。 そのままの勢いで、外へ向かおうとして、目の前にイトがいたことを思い出す。

「……あぁイト、何?」

 身支度みじたくを整えながら、適当に聞く。 もう、昼休みが終わるかも。 急がないと、夕方までずっと食べるのを我慢がまんしなくちゃいけなくなってしまう。

 イトは、そんな歌子の気持ちを知ってか知らずか、落ち着いた声で話した。

「……雨子が口座に入れてた、夢見酒ゆめみざけの作り方っていうのを、試してみたいと思って」

 あぁ、都市伝説のお酒を、実際に作りたいのね。 どうでもいいけど、その『夢見酒』の話が入ってきた時、一番興味を示してたのは、ユメだったな。 自分の名前が入ってるからかな? まあいいや。

 歌子は急ぎながら、返事をする。

「あぁ、分かった。 じゃ、仕事終わってからでいい?」
「うん」
「じゃ、私、食べてくるから!」

 そういって、歌子は部屋を飛び出していった。

 あとには、スズネとイトの2人だけが残された。 初めて会ってまだ挨拶もしていないし、ちょっと気まずい空気のようにも感じられる。 ……いや違う、イトは何かを考えるように、立ったままぼうっとしているみたいだ。 他のものが目に入っていない感じで、どこか別のほうを見ている。

「歌子、忙しそうだね」

 座ったままのスズネが、笑顔で話しかけてみる。 イトは初めて、そこにいたスズネに気づいたようだった。 目の前の人が目に入らないって、マジ? イトは、ぼうっとしながらも、一応答える。

「……うん」

 一言うなずいただけで、何も言わず立ち去ろうとする。 どうやらイトは考え事をしているようだ、周りの景色すら、目に入ってないように見える。

「あっ、ねえ!」

 スズネは思い切って声をかけると、立ち上がっていった。 バタバタと走って、イトの目の前に行くと、自己紹介をしていく。

「私、スズネっていうの。 あなたは、イトちゃんだよね?」

 イトは、相変わらずぼうっとしているようだ、機械的に挨拶を返してきた。

「うん。 ……あ、よろしく」
「うん」

 植物にでも、語りかけてる気分だ。 スズネはそう思っていると、ふっとイトは、その場を立ち去っていった。
 ……あれ? 私、何かした? スズネは、ちょっと寂しそうに、その場に立ち尽くした。
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