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第四章 動乱の前日
第23話 歴史所っ!
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『死者と話せる』サービスのドタバタから、いくらか日にちが経った。 あれからいつもの日常に戻って、私たちは新しい謎や都市伝説を探している。
スズネも、すっかり打ち解けたみたいだ。 最初はちょっと、遠慮しているような所もあったけど、今ではふつうに、楽しく話している。
最近は、色んな事が起きて賑やかだな。 未来人の降霊は失敗したし、『死者と話せますサービス』は詐欺だったし……。 あれ? 最近の私たちの活動、ろくなものがないかな? いやいや、そんなことはないよ。
ユメの憶え屋は軌道に乗ってきたし、洞窟で見つけた異国の文字も順調に解読が進んでる。 ……たしか、ほぼ悪戯だって、ミツエダさんたちは結論づけたらしいけど。
……いや、だから違うんだよ。 長く活動を続けてると、こういうこともあるの。 気にしないで、次に行こうっ! イェェーーイっっ!!!ww
そんなある日の、昼のこと。 歌子が、いつものように、歴史所で働いていた。 辺りには、掲示板のような木でできた板が、たくさん並んでいる。
……そうだ、ここのことは、まだ話してなかったっけ。
ここは、歴史所の地下なんだ。 歴史所は、地下に2つ階があってね。 地上も含めて、全部で3階建てになってるの。
地上1階は、石板がずらりと並んでいるところで、ふつう歴史所って言ったらここのことを指すね。 ここに並んでる石板って、大きな出来事とか事件などの、重要な記録が書かれてるんだ。 1600年江戸幕府みたいな……そういう大きな出来事だけ、地上1階には書かれてるの。
黒い石板に、白い文字が大きく書かれてて……すごく分かりやすいっ! 私の仕事でもあるんだけど、立派な石板がずらっと並んでて、いい眺めだなあ……。 この石板は、いわば『清書』なんだ。 事実として確かめられた出来事が、きちんと順序だてて書かれてるの。
それに対して、地下の部屋には『雑』な記録が並んでてね。 ある出来事の細かい人間関係とか……そういうのって、どうでもいいことも多いんだ。 そういう細かい記録が、地下に置いてあるの。
掲示板みたいなのがずらっと並んでて……大量のメモ紙が、べたべたと貼りつけられてる。 見栄えは悪いけど、どうせ職員の人以外は来ないから、平気平気っ!
歴史を調べていくとき、最初は何が重要か分からないから、とりあえず見聞きしたことを何でも記録していくんだ。 それが置いてあるのが、地下。 そこから重要な部分だけを整理して、地上の石板の『清書』を作っていくんだ。
地下1階よりも、地下2階のほうが、さらに重要度が低いことが書かれてる。 ちなみに、私や雨子が調べてる都市伝説も、これぐらいの重要度だよ。
たまに私たちが調べたことが、ここの地下2階に書き写されることもあってね。 どうでもいいような事件だったりするんだけど、それでもなんか嬉しいっ!!
……あれ? でも、何か、変だ。
今、私の目の前には、1つの掲示板があるんだけど。 木の板に、たくさんの紙のメモがぺたぺたと貼られている。 そのうちの1枚のメモを、眺めているんだけど……。
「……これって……?」
そう呟きながら、ぺりっと紙を剥がしてみる。 このメモに書いてる内容って、けっこう重要なのに、地上1階の石板には、書いてなかったような気がする。 この箇所は、たしか最近変化があったところだ。 新しく提供された情報によって、地上1階の石板の内容も、書き換えられることがあるんだ。 でもこの部分は、まだ書き換えられてなかったと思う。 みんな忙しいから、担当の人が、うっかり忘れてるのかもしれない。
歌子は剥がしたメモ紙を持ったまま、立ち上がって歩きだした。 地下室の中をスタスタと歩くと、日の光が横から差してきて、体の横を照らしてくる。 ここは地下だけど、立地の影響で、日の光が入ってくるんだ。 だから、火を使って部屋を照らす必要がないの。 紙と木ばかりだから、火を扱うのも危ないしね。
地下の部屋を出ると、上へと向かう階段があった。 歌子はトントンっと軽快に上がっていくと、別の歴史所の職員が階段を下りてきていた。 すれ違っていきながら、話しかけてくる。
「あれ、歌子ちゃん、ご飯は?」
「すぐ食べますっ!」
そうだ、忘れてた。 今は、昼休みだ。
生きている生身の人は、どの職場でも忙しい。 生身にしかできないことはたくさんあるから、いつも引っ張りだこなのだ。
この歴史所でも、生身の人は忙しい。 やることがたくさんあるから、つい休みを忘れてしまう。
地上1階に戻ってきて、広い部屋の中を歩いていく。 石板が並んだ棚が、ずらっと並んでいて……雰囲気は図書館って感じだよ。
歌子は棚の横をスタスタと歩きながら、辺りの様子を見る。 もうみんな昼休みに入っているようだ、座って休憩している人が、ちらほらと見える。
目的の棚のところへと入っていくと、見慣れた姿があった。
「あれ、スズネ?」
スズネは、石板を読んでいたようだ。 顔を見上げて、高いところにある石板を眺めている。 呼びかけるとこっちに気づいて、軽く手を振ってきた。
「あ、歌子ー。 よっ」
「どうしたの? 何か、調べもの?」
そう尋ねながら、歌子は立ち止まっていく。 この辺りの石板には、200年前のことが書かれてる。 スズネは200年前に生きてた人だから、なにか、自分の時代について、知りたいことでもあるのかな。
「あぁ、うん。 ……ちょっと、自分の時代の事、知っておこうかなって思って」
スズネはそういって、別にそんなに興味ないけどね、みたいな感じで答える。
もし自分が死んで生き返ったら、ふつう、自分の時代の『その後』を、知りたくなるような気がする。 でも、スズネはそうは見えない。 最初に会ってから、ホナミに連れ出されて丘の原っぱに出ていった時……あそこで話したときも、自分の時代のことなのに、他人事みたいだった。
聞くところによると、スズネがこの街に降霊されたのは、3年前らしい。 それから今までの間、自分の時代について、まったく興味が無かったってこと?
スズネは字が読めるらしいから、知ろうと思えばこの歴史所に来て、知ることもできたはずだ。 でも、そうしなかった……うーん、それはちょっと、不思議な気もする。
歌子は、「そっか」とか言って適当に話を合わせる。 こういう時は、変なことを言わないのが吉だ。 ……え? 消極的すぎって? 大丈夫、大丈夫っ! これぐらいで私たちの友情は、壊れたりしないよっ!
スズネは石板を眺めながら、難しい新聞を読んでいるような顔をして、言う。
「でも、知らない文字も、結構あってね」
歴史所は、文字を使いすぎてて、行っても内容が全然わからない……そんな声は、ここで仕事をしていると、よく耳にする。 そんな人のために、職員が代わりに読み上げるサービスは、やってるんだけど。
ちなみに、この街には学校は無いけど、巫女だけは専用の学校があるよ。 巫女になりたかったら、そこに通って、何年かしっかりと勉強する必要があるんだ。 だから巫女の人たちって、知識があって読み書きができる人がすごく多いんだ。
……え、私は興味ないのかって? 無理無理、私なんて、まったく霊力が無くてね。
最近だと道具を使って降霊したりするから、『霊力0の人が道具だけで降霊できるか実験するぜ!』なんていう、治験みたいなイベントがあったりするんだけど……そういうのに参加したこともあるぐらいだから。
最近は、一般にも学校を作ろうという話も、あるみたい。 とはいえ、みんな仕事で忙しいから、実現してないんだけど。
「歌子、これ、全部読めるの?」
スズネが、信じられないというように聞いてくる。 歌子は仕事に戻って、足元のほうにしゃがんでいきながら、答えた。
「うん、読めるよ」
「へー、すごいね」
驚いた様子で、スズネは作業を眺める。 今度は仕事に興味を持ったようだ、スズネは屈んでいった。
「……何やってんの?」
歌子は、足元の石板を読んでいた。 地下で見つけたメモ紙と、同じ時期のことが書かれてる場所を、探しているのだ。
「えー……ちょっと、確認を……ここか」
そういって手を添えて、石板の内容をすばやく読んでいく。
「……んん? ……あぁ、やっぱり、ここ修正してない」
思った通りだ。 地下に書いてあった内容と、一致してない。 修正しないまま、ほうっておかれたんだろう。
歌子はそう思いながら、石板のさらに下のほうへ目を移していった。 棚の一番下には、石板は置かれておらず、紙の束が積まれていた。 石板の清書を書く前に書く『下書き』が、ここに積まれているのだ。 石板を書くときは、まず紙に下書きを書いて、石板の清書を書く。 修正箇所が見つかった時も手順は同じで、まず紙の下書きを修正する必要があるのだ。
歌子は、取り出した紙をぱらぱらとめくっていった。 やがて手を止め、ぼそっと呟く。
「……あ、こっちは、大丈夫なんだ。 なら、書き換えないと」
どうやら下書きは修正したけど、石板にまで手が回らなかったらしい。 歌子は紙束をわきに抱えると、石板を、腕に抱えて持ち上げはじめた。 結構大きな石板だから、力がいりそうだ。 歌子は頑張ってそれを抱えると、通路を歩きだす。
「それ、どうするの?」
スズネは一緒に歩きながら、聞いてくる。 歌子は石板を運んで、ふんふんと息を漏らしながら、答えた。
「ここの1階って、重要で大きな記録が並んでるんだよ。 で、下の階2つ分は、どうでもよかったり、細かい記録なの」
歴史所の仕組みを、スズネに説明する。 ここに地下があることを知ってる人は、少ない。 一般の人は立ち入り禁止だから、入れないしね。
スズネは理解するように頷いた。
「へー、そうなんだ」
「うん。 だから、細かい記録とおおざっぱな記録を、一致させておく必要があるんだけど、たまにこういう風に、ずれてるのがあるんだよね。 ……あれ、イト?」
ふと、イトの姿が見えた気がした。 歌子はゆっくり歩きながら、向こうの方を見る。
「……え、誰?」
スズネが聞く。 未来人を降霊しようとした夜……あの後も、スズネは結局、イトとは自己紹介もしていないのだ。 それを知らない歌子は、説明していく。
「あの子も、私たちと、けっこう一緒にいる子なんだ」
「……あぁ、そうなんだ」
「うん。 まだ、会ったことないの?」
話しながら、2人は歴史所の奥にあった小部屋に入っていく。
「うーん、そうなんだよね。 ……なんか、ちょっと、恥ずかしくてさ」
スズネは、たまに、よく分かんない言い回しをする。 もうちょっと、主語とかをはっきりさせてくれないかな。
「え、何が?」
「あぁいや……うーん」
そういって、スズネは沈むように、黙り込んでしまった。 ……どうしたんだろう? まあいっか。
歌子は壁のほうに行って、持っていた石板を立てかけていく。
スズネも、すっかり打ち解けたみたいだ。 最初はちょっと、遠慮しているような所もあったけど、今ではふつうに、楽しく話している。
最近は、色んな事が起きて賑やかだな。 未来人の降霊は失敗したし、『死者と話せますサービス』は詐欺だったし……。 あれ? 最近の私たちの活動、ろくなものがないかな? いやいや、そんなことはないよ。
ユメの憶え屋は軌道に乗ってきたし、洞窟で見つけた異国の文字も順調に解読が進んでる。 ……たしか、ほぼ悪戯だって、ミツエダさんたちは結論づけたらしいけど。
……いや、だから違うんだよ。 長く活動を続けてると、こういうこともあるの。 気にしないで、次に行こうっ! イェェーーイっっ!!!ww
そんなある日の、昼のこと。 歌子が、いつものように、歴史所で働いていた。 辺りには、掲示板のような木でできた板が、たくさん並んでいる。
……そうだ、ここのことは、まだ話してなかったっけ。
ここは、歴史所の地下なんだ。 歴史所は、地下に2つ階があってね。 地上も含めて、全部で3階建てになってるの。
地上1階は、石板がずらりと並んでいるところで、ふつう歴史所って言ったらここのことを指すね。 ここに並んでる石板って、大きな出来事とか事件などの、重要な記録が書かれてるんだ。 1600年江戸幕府みたいな……そういう大きな出来事だけ、地上1階には書かれてるの。
黒い石板に、白い文字が大きく書かれてて……すごく分かりやすいっ! 私の仕事でもあるんだけど、立派な石板がずらっと並んでて、いい眺めだなあ……。 この石板は、いわば『清書』なんだ。 事実として確かめられた出来事が、きちんと順序だてて書かれてるの。
それに対して、地下の部屋には『雑』な記録が並んでてね。 ある出来事の細かい人間関係とか……そういうのって、どうでもいいことも多いんだ。 そういう細かい記録が、地下に置いてあるの。
掲示板みたいなのがずらっと並んでて……大量のメモ紙が、べたべたと貼りつけられてる。 見栄えは悪いけど、どうせ職員の人以外は来ないから、平気平気っ!
歴史を調べていくとき、最初は何が重要か分からないから、とりあえず見聞きしたことを何でも記録していくんだ。 それが置いてあるのが、地下。 そこから重要な部分だけを整理して、地上の石板の『清書』を作っていくんだ。
地下1階よりも、地下2階のほうが、さらに重要度が低いことが書かれてる。 ちなみに、私や雨子が調べてる都市伝説も、これぐらいの重要度だよ。
たまに私たちが調べたことが、ここの地下2階に書き写されることもあってね。 どうでもいいような事件だったりするんだけど、それでもなんか嬉しいっ!!
……あれ? でも、何か、変だ。
今、私の目の前には、1つの掲示板があるんだけど。 木の板に、たくさんの紙のメモがぺたぺたと貼られている。 そのうちの1枚のメモを、眺めているんだけど……。
「……これって……?」
そう呟きながら、ぺりっと紙を剥がしてみる。 このメモに書いてる内容って、けっこう重要なのに、地上1階の石板には、書いてなかったような気がする。 この箇所は、たしか最近変化があったところだ。 新しく提供された情報によって、地上1階の石板の内容も、書き換えられることがあるんだ。 でもこの部分は、まだ書き換えられてなかったと思う。 みんな忙しいから、担当の人が、うっかり忘れてるのかもしれない。
歌子は剥がしたメモ紙を持ったまま、立ち上がって歩きだした。 地下室の中をスタスタと歩くと、日の光が横から差してきて、体の横を照らしてくる。 ここは地下だけど、立地の影響で、日の光が入ってくるんだ。 だから、火を使って部屋を照らす必要がないの。 紙と木ばかりだから、火を扱うのも危ないしね。
地下の部屋を出ると、上へと向かう階段があった。 歌子はトントンっと軽快に上がっていくと、別の歴史所の職員が階段を下りてきていた。 すれ違っていきながら、話しかけてくる。
「あれ、歌子ちゃん、ご飯は?」
「すぐ食べますっ!」
そうだ、忘れてた。 今は、昼休みだ。
生きている生身の人は、どの職場でも忙しい。 生身にしかできないことはたくさんあるから、いつも引っ張りだこなのだ。
この歴史所でも、生身の人は忙しい。 やることがたくさんあるから、つい休みを忘れてしまう。
地上1階に戻ってきて、広い部屋の中を歩いていく。 石板が並んだ棚が、ずらっと並んでいて……雰囲気は図書館って感じだよ。
歌子は棚の横をスタスタと歩きながら、辺りの様子を見る。 もうみんな昼休みに入っているようだ、座って休憩している人が、ちらほらと見える。
目的の棚のところへと入っていくと、見慣れた姿があった。
「あれ、スズネ?」
スズネは、石板を読んでいたようだ。 顔を見上げて、高いところにある石板を眺めている。 呼びかけるとこっちに気づいて、軽く手を振ってきた。
「あ、歌子ー。 よっ」
「どうしたの? 何か、調べもの?」
そう尋ねながら、歌子は立ち止まっていく。 この辺りの石板には、200年前のことが書かれてる。 スズネは200年前に生きてた人だから、なにか、自分の時代について、知りたいことでもあるのかな。
「あぁ、うん。 ……ちょっと、自分の時代の事、知っておこうかなって思って」
スズネはそういって、別にそんなに興味ないけどね、みたいな感じで答える。
もし自分が死んで生き返ったら、ふつう、自分の時代の『その後』を、知りたくなるような気がする。 でも、スズネはそうは見えない。 最初に会ってから、ホナミに連れ出されて丘の原っぱに出ていった時……あそこで話したときも、自分の時代のことなのに、他人事みたいだった。
聞くところによると、スズネがこの街に降霊されたのは、3年前らしい。 それから今までの間、自分の時代について、まったく興味が無かったってこと?
スズネは字が読めるらしいから、知ろうと思えばこの歴史所に来て、知ることもできたはずだ。 でも、そうしなかった……うーん、それはちょっと、不思議な気もする。
歌子は、「そっか」とか言って適当に話を合わせる。 こういう時は、変なことを言わないのが吉だ。 ……え? 消極的すぎって? 大丈夫、大丈夫っ! これぐらいで私たちの友情は、壊れたりしないよっ!
スズネは石板を眺めながら、難しい新聞を読んでいるような顔をして、言う。
「でも、知らない文字も、結構あってね」
歴史所は、文字を使いすぎてて、行っても内容が全然わからない……そんな声は、ここで仕事をしていると、よく耳にする。 そんな人のために、職員が代わりに読み上げるサービスは、やってるんだけど。
ちなみに、この街には学校は無いけど、巫女だけは専用の学校があるよ。 巫女になりたかったら、そこに通って、何年かしっかりと勉強する必要があるんだ。 だから巫女の人たちって、知識があって読み書きができる人がすごく多いんだ。
……え、私は興味ないのかって? 無理無理、私なんて、まったく霊力が無くてね。
最近だと道具を使って降霊したりするから、『霊力0の人が道具だけで降霊できるか実験するぜ!』なんていう、治験みたいなイベントがあったりするんだけど……そういうのに参加したこともあるぐらいだから。
最近は、一般にも学校を作ろうという話も、あるみたい。 とはいえ、みんな仕事で忙しいから、実現してないんだけど。
「歌子、これ、全部読めるの?」
スズネが、信じられないというように聞いてくる。 歌子は仕事に戻って、足元のほうにしゃがんでいきながら、答えた。
「うん、読めるよ」
「へー、すごいね」
驚いた様子で、スズネは作業を眺める。 今度は仕事に興味を持ったようだ、スズネは屈んでいった。
「……何やってんの?」
歌子は、足元の石板を読んでいた。 地下で見つけたメモ紙と、同じ時期のことが書かれてる場所を、探しているのだ。
「えー……ちょっと、確認を……ここか」
そういって手を添えて、石板の内容をすばやく読んでいく。
「……んん? ……あぁ、やっぱり、ここ修正してない」
思った通りだ。 地下に書いてあった内容と、一致してない。 修正しないまま、ほうっておかれたんだろう。
歌子はそう思いながら、石板のさらに下のほうへ目を移していった。 棚の一番下には、石板は置かれておらず、紙の束が積まれていた。 石板の清書を書く前に書く『下書き』が、ここに積まれているのだ。 石板を書くときは、まず紙に下書きを書いて、石板の清書を書く。 修正箇所が見つかった時も手順は同じで、まず紙の下書きを修正する必要があるのだ。
歌子は、取り出した紙をぱらぱらとめくっていった。 やがて手を止め、ぼそっと呟く。
「……あ、こっちは、大丈夫なんだ。 なら、書き換えないと」
どうやら下書きは修正したけど、石板にまで手が回らなかったらしい。 歌子は紙束をわきに抱えると、石板を、腕に抱えて持ち上げはじめた。 結構大きな石板だから、力がいりそうだ。 歌子は頑張ってそれを抱えると、通路を歩きだす。
「それ、どうするの?」
スズネは一緒に歩きながら、聞いてくる。 歌子は石板を運んで、ふんふんと息を漏らしながら、答えた。
「ここの1階って、重要で大きな記録が並んでるんだよ。 で、下の階2つ分は、どうでもよかったり、細かい記録なの」
歴史所の仕組みを、スズネに説明する。 ここに地下があることを知ってる人は、少ない。 一般の人は立ち入り禁止だから、入れないしね。
スズネは理解するように頷いた。
「へー、そうなんだ」
「うん。 だから、細かい記録とおおざっぱな記録を、一致させておく必要があるんだけど、たまにこういう風に、ずれてるのがあるんだよね。 ……あれ、イト?」
ふと、イトの姿が見えた気がした。 歌子はゆっくり歩きながら、向こうの方を見る。
「……え、誰?」
スズネが聞く。 未来人を降霊しようとした夜……あの後も、スズネは結局、イトとは自己紹介もしていないのだ。 それを知らない歌子は、説明していく。
「あの子も、私たちと、けっこう一緒にいる子なんだ」
「……あぁ、そうなんだ」
「うん。 まだ、会ったことないの?」
話しながら、2人は歴史所の奥にあった小部屋に入っていく。
「うーん、そうなんだよね。 ……なんか、ちょっと、恥ずかしくてさ」
スズネは、たまに、よく分かんない言い回しをする。 もうちょっと、主語とかをはっきりさせてくれないかな。
「え、何が?」
「あぁいや……うーん」
そういって、スズネは沈むように、黙り込んでしまった。 ……どうしたんだろう? まあいっか。
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