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第六章 新しい街の始まり・初日
第53話 新たな朝っ!
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夜が明けて、街には新しい朝がやって来た。 街は、なんとか降霊の乱れを乗り切ったようだ。
早朝は、夜中にはうるさかった街中も、静かになっていた。 さすがにみんな疲れたんだろう、普段の朝より静かだったかもしれない。
朝になると、街は活気を取り戻していった。 市場には不良のヤンキーがたむろして、道端では妙ちくりんな料理を売り歩く人がいて……。 いつもより賑やかなぐらいだ!!!
そんな元気すぎる空気の中、街の階段をナツミが駆け上がっていた。 ほっほっと軽やかに息を吐きながら、勢いよく上っている。
よーっし、今日から私も街の一員よーっ!! はりきって仕事しちゃうぞっ! そんな感じで、生き生きした表情をしている。 未来の街に来たんだから、最高にワクワクしているのだ。
階段を上りきると、広い道へと出ていった。 目の前には岩のマンション群があり、壮観な景色が広がった。
場所は変わって、ある部屋の中。
岩で作られた建物の中に、タンポポちゃんがいた。 床に寝そべって、じっとしているみたいだ。
部屋は岩で緻密に囲まれていて、外の様子は見えない。 上のほうから小さく光が入ってきていて、朝だということがなんとなく分かるぐらいだ。
ここは、タンポポちゃんの家だ。 幽霊が住んでいるアパートのような集合住宅の、一室に住んでいるのだ。
タンポポちゃんはぐでっと横になっているだけで、何もしていないようだ。 恐らくずっと、こういう風に寝そべっているだけなんだろう。 目は開いているが、やる気がないナマケモノか何かのようにじっとしている。 表情は憂いに満ちており、遠い日の思い出に浸っている老人のような顔つきだ。 これで3年間過ごしてきたのは、ある意味凄いのかもしれない。
タンポポちゃんは寝そべりながら、グルグルと頭の中で考えていた。
……昨日はあのあと山から街に帰って、何もなく家に帰ってきた。 スズネたちと一緒に帰ってきたけど、何も言いだせないまま別れてしまった……。
後になって、自分が出来る仕事がないかとか、聞けばよかったと後悔してる……。 なんで私はいつも自分から行動を起こせないんだろうって、悶々と考えながら夜中ずっと起きていたんだけど……。
「あ、いた! タンポポちゃん!」
そこへ、元気な声がいきなり響いた。 突然のことに驚いて、一瞬反応が遅れてしまう。
入り口のほうを見ると、女の子が部屋に入ってきていた。 体からエネルギーがビシビシと発散されているかのような歩き方で、こっちに歩いて来る。
「……え?」
「やっほー。 ……何してんの?」
女の子は素早く部屋を歩いて来ると、目の前に来て屈んで覗き込んできた。 もっさりと身を起こしていきながら、頭をフル回転させていく。
……あれ、この人って、昨日、焚き木のところで話してた人だよね。 名前はたしか、ナツミさんとか言ったっけ。
スズネちゃんと知り合いだったみたいで、街に帰る時にも話してたのを憶えてる。 ……でも、わたしは最後まで一言も話してないし、挨拶もしてないんだけど……。 なんでこの人が、私のところに来るの?
っていうか、今ってどうなってるんだっけ? あの混乱は終わって、いつもの日常に戻ったんだよね。 ……あれ、日常って、なんだっけ???
もう意味不明に錯乱しながら、なんとか返答しようとするが、言葉がうまく出てこない。 昨日一日人と話して、スルスル話せるようになったと思ったのに、元に戻ったらいつも通りだ。
「あ、いや……」
「あなた、何もしてないらしいじゃん。 ちょっと、手伝ってよ」
ナツミはそれだけ言うと、返事も聞かずに背中を向けていく。 ……手伝う? どういうことっ?!
混乱しながらも立ち上がり、慌てて後を追っていく。
「え、何を……」
「精神科の仕事。 なんか、私やることになってさー」
振り向きもせずにスタスタと歩き、ナツミは部屋の外へと向かった。 一緒に部屋を後にすると、建物の狭い廊下へと出てくる。 廊下も岩は緻密に組まれていて、外の景色はほとんど見えない。
……精神科の仕事? それを私が手伝う? 訳が分からない、第一この人は何なの?
スズネの友達? ……っていうか現代人? 昨日降霊された人? ……見た目はどう見ても現代人だけど、話し方はちょっと昔っぽい……???
状況が分からないままに足を回転させていると、建物の外に出ていった。 視界が光に満ち、生き生きと動いている世界の様子が目に飛び込んでくる。 人々が道を行き来していて、物を売ったり買ったり、歌を歌ったり……。 誰も私なんてこれっぽっちも見ておらず、一人一人が自分の方向へと歩いている。 人の活気が溢れていて、目の前の風景が目まぐるしく変わっていく。
乾いた風を切って進み、体に、髪の毛に、次々に新たな風が吹きつけてくる。 呼吸をすると、体の中の風車が全力で回っていき、新しさで換気されていくのを感じる。
外に出てズンズンと歩いていくナツミの後を追って、急いで足を動かしていきながら聞いていく。
「……どこに行くの?」
「患者さんのところ。 さっき、場所は憶え屋で確認してね……」
突然、つんざくような大声が聞こえてきた。 何の大声だろう、どこからかは分からないが、人の名前を呼んでいるようだ。 辺りに響き渡るほど、大きな声が聞こえている。
うるさいけど、なんだか元気でエネルギーを感じる!
ナツミは片目をつぶって、顔をしかめて笑った。
「ひゃー、うるさっw」
街は、新しい降霊者を迎えて、大きく変わろうとしていた。 混乱があった直後だというのに、さっそくあちこちで建物を作っている。 新しい人たちを住まわせるためのもののようだ、建築の音が朝の街に鳴り響いている。
新しい人たちを迎え入れるためとはいえ、それ以上に張り切っているようにも見える。 最近は新しい人を増やさなくなっていたから、空気が停滞していた。 もしかしたら、こんな新しい流れを、じつはみんな待っていたのかもしれない。
2人は少し歩き、別の場所へやってきた。 辺りには岩のごつごつした建物があり、ここも幽霊の集合住宅街のようだ。
「あ、いた!」
待ち合わせをしていた人物を見つけて、ナツミは手を振って合流していく。 向こうに見える大きな岩の陰には、男が一人立っていた。 端正で、やわらかい表情の男だ。
この人は、精神科の先生だ。 昨日の混乱のとき、山で精神科の患者を探して、精神科が実在したことがはっきりしたわけだが、どうやらそれには理由があったらしい。
精神科はスパイのように変装しながら、街の中を動き回るらしい。 堂々としてたら、精神科にかかってるのを知られるのを嫌がって、相談を渋る人がいるんだそうだ。
だから、『まぼろしの精神科』なんて呼ばれるようになったんだとか。
ナツミが変装が上手いという話を聞きつけて、精神科の仕事をしないかと、あのあと頼まれたのだ。 聞いた話では、この精神科の先生の手伝いをあれこれやるらしい。
「やっほー! 来たよ」
ナツミはフレンドリーに挨拶を投げかけていく。 先生は2人の姿を見ると、穏やかな笑顔で頷いた。
「来たね。 よし、じゃあ行こうか」
岩の壁から背を離して、先生は歩きだす。
待ち合わせの場所は、岩がごとごとと組み合わさったようなトンネルのような場所だった。 2人は合流すると、先生の後についていき、トンネルの中を歩いていく。
前を見ると、先生の歩みは安定していて、なんだか大人の余裕が感じられる。
その後を歩きながら、ナツミは思いついたように仕事について質問していった。
「ねえ、最初から変装しとけばよくない?」
精神科の仕事は、変装して街を歩くのだと聞いた。 それなら最初から別人になりすましておけばいいのに、仕事の説明を受けた時には、普段の格好で来てくれと言われたのだ。
先生は振り向いてにこやかに笑い、納得したように頷いた。
「あぁそっか、君、来たばかりだからね。 この街は、ふつうは他の人の格好をしちゃいけないっていう決まりがあってね。 そうじゃないと、お金とか、色々誤魔化せちゃうから」
この街での通貨は、言葉でやりとりする。 自分の持っているお金の金額を覚えておいて、ときどき通貨記録師の人に報告しなければならない。 『ナツミです。 前回から差し引きマイナス50円です』と、顔を見せながら名前を言って報告するのだ。
例えばここで、別の人がナツミの顔になりすましたらどうだろう。 『ナツミです。 前回からマイナス3000000000円です』。 全く身に覚えがないのに、ナツミのもとには巨額の請求書が届くことになる。
こういうことが起こってしまうから、顔を別人に変えるのは禁止されているのだ。 自分の顔のまま若返ったり年老いたりするのは、OKだけど。
精神科の人たちには、一時的に顔を変えてもいいと、公的に許可が出ている。 しかしそれは一時的で、日常生活まで顔を変えるのは禁止されているのだ。
「あー、そういうこと」
「そう。 だから変装は、最低限にしないといけないんだ。 どこかで一旦隠れてから変装するっていう、手順を踏むんだよ」
先生は説明しながら、柔らな顔でほほ笑みかけてくる。
先生の話し方は、明るいのに落ち着く。 精神科の先生なんだから、この話し方にも話術が入っているんだろう。 優しい顔して、まったく怖いんだから。
3人は歩いていくと、さらに大きな岩の建物が立ち並んでいる場所に来た。
先生は一般人みたいな顔で歩きながら、きょろっと辺りを眺めて、歩く向きを変えていく。
「……この辺でいいかな?」
自然な動作でさらっと周囲の様子を確認して、裏路地へと入っていく。 あまりにも自然な動きだ、朝なのに自分の家に帰宅する、幽霊の父親と娘たちにしか見えない。
3人は裏路地に入って、建物と建物の間を通り、奥のほうへと進む。 横にはビルのように岩の建物が立っていて、日の光は当たらず影に覆われている。
少し歩いたところで、先生はもう一度周りを自然な感じで確認していくと、合図をして建物の影に身を隠していった。 決まったっ!! 先生、かっこいいーーっ!!! フゥゥゥッ!!!www
建物の影に身を隠すと、先生は2人のほうに向いていった。
「……よし。 じゃあ、変装しよう。 変装の仕方は、分かる?」
「んー……こんな感じ?」
もはや目も閉じずに、ナツミは姿を変えてみせる。
見るとそこには、今までいなかった40代ぐらいの女性が立っていた。 地味で目立たない感じだ、道を歩いていても違和感がない姿を選んだようだ。
予備動作も何もなしに変装したナツミを見て、先生は心底驚いたようだ。 目を丸くして、感嘆の声を漏らす。
「へえー、君、聞いてた通り、本当にすごいね。 こんなにうまく出来る人を見たの、初めてかもしれない」
そう言いながらも先生も目を閉じて集中して、一瞬で姿を変えてみせる。 60代ぐらいの初老の男性の姿だ。
いつもこの姿で診察をしているんだろうか……確かに精神科の先生なら、年を取った落ち着いた雰囲気の人のほうが、話しやすいのかもしれない。
先生は変装を終えて目を開けると、今度はまだ一言も喋ってないタンポポちゃんへと目を向けていった。
「君は? ……そういえば、この子の説明は、受けてないな」
そういって先生はきょとんとした顔で、考えるようにタンポポちゃんを見つめる。
その横で、ナツミは近くにあった入れ物の水を眺めていた。 水面を鏡のようにして、自分の姿を整えているみたいだ。 女子高生のように髪の毛をイジイジしながら、40代の女性が振り返って、落ち着いているんだか元気なんだかよく分からない声で説明を加える。
「あ、ごめん、私が勝手に連れてきたの。 なんか、暇そうだったから」
適当な説明だが、先生は納得したようだ。 理解するように頷いて、仕事に迎え入れてくれる。
「あぁ、そうなんだ。 ……君、変装はできる?」
タンポポちゃんの姿は、相変わらず髪がボサボサで、古臭い格好のままだ。 変装どころか、現代の姿にすらなっていない。
あ、いや、とかタンポポちゃんがまごついていると、姿を整え終えたナツミが、元気に割って入ってきた。
「ちょっと、やってみよ。 ……えー、どうやるんだっけ?」
『一般的な』変装の仕方は、もはや忘れてしまったようだ。 ナツミは先生のほうを振り向いて、変装のやり方を聞いていく。
先生は思わず笑いながら、説明を始めた。
「君、いま自分でしただろw ……まず、目を閉じるんだ。 そして、なりたい自分を強く想像する……やってみて」
促されて、タンポポは目を閉じていった。
じっと動かずに……眉をひそめて……うーんと唸るが、何も起こらない。
「まあ、最初はそんなもんだよ」
「タンポポちゃん、いいよ。 ……なんか、別の仕事ないの?」
またナツミが周囲のテンポを崩すがごとく割って入ってきて、先生に出来ることがないか聞いていく。 本当にノリだけでタンポポちゃんを連れて来たらしい、精神科の許可もなければ、計画も無かったようだ。
「あ! そうだ、じゃあ、暗号師をやってもらおう」
「……アンゴウシ?」
きょとんとした顔でナツミが聞き返す。 先生は頷いて、説明を加えた。
「そう。 最近、憶え屋を使うようになって、やるようになったことでね。 憶え屋も、人がやってるから、いつどんな風に中身が洩れるか分からないよね。 だから、口座に入れる内容を、全部暗号化することにしたんだ」
……はあ。 ……アンゴウカ? ふーん、ごちゃごちゃ説明してるけど、よく分かんないけどw
耳をほじりながら、ナツミは首をひねる。
「あー、そう。 ……よく分かんないけど」
「それを、頼んでいいかな?」
先生はタンポポちゃんのほうを向き直って、聞いてくる。
……精神科の機密情報まで聞いてしまったし、どう見ても断れる状況じゃないけど……。
タンポポちゃんはブツブツと心の中で呟きながらも、ノリで頷いて承諾した。
「……分かりました」
先生は頷いて、引き締まった顔をする。 ……さて! 仕事の時間だ。 かっこいぃぃっ!!!!ww 先生っ!!w
「よし、分かった。 じゃ、今日のところは、ここで待ってて。 ……ナツミくん、行こうか」
「じゃねー」
ナツミは先生についていきながら、建物の陰に残るタンポポちゃんを見て、手を振っていった。
残されたタンポポは空を見上げて、はあと息をついた。
……なんだかよく分からないけど、外に引っ張り出されてきた。 これからどうなるかは分からないし、不安だらけだけど……。
……とりあえず、やってみよう。
早朝は、夜中にはうるさかった街中も、静かになっていた。 さすがにみんな疲れたんだろう、普段の朝より静かだったかもしれない。
朝になると、街は活気を取り戻していった。 市場には不良のヤンキーがたむろして、道端では妙ちくりんな料理を売り歩く人がいて……。 いつもより賑やかなぐらいだ!!!
そんな元気すぎる空気の中、街の階段をナツミが駆け上がっていた。 ほっほっと軽やかに息を吐きながら、勢いよく上っている。
よーっし、今日から私も街の一員よーっ!! はりきって仕事しちゃうぞっ! そんな感じで、生き生きした表情をしている。 未来の街に来たんだから、最高にワクワクしているのだ。
階段を上りきると、広い道へと出ていった。 目の前には岩のマンション群があり、壮観な景色が広がった。
場所は変わって、ある部屋の中。
岩で作られた建物の中に、タンポポちゃんがいた。 床に寝そべって、じっとしているみたいだ。
部屋は岩で緻密に囲まれていて、外の様子は見えない。 上のほうから小さく光が入ってきていて、朝だということがなんとなく分かるぐらいだ。
ここは、タンポポちゃんの家だ。 幽霊が住んでいるアパートのような集合住宅の、一室に住んでいるのだ。
タンポポちゃんはぐでっと横になっているだけで、何もしていないようだ。 恐らくずっと、こういう風に寝そべっているだけなんだろう。 目は開いているが、やる気がないナマケモノか何かのようにじっとしている。 表情は憂いに満ちており、遠い日の思い出に浸っている老人のような顔つきだ。 これで3年間過ごしてきたのは、ある意味凄いのかもしれない。
タンポポちゃんは寝そべりながら、グルグルと頭の中で考えていた。
……昨日はあのあと山から街に帰って、何もなく家に帰ってきた。 スズネたちと一緒に帰ってきたけど、何も言いだせないまま別れてしまった……。
後になって、自分が出来る仕事がないかとか、聞けばよかったと後悔してる……。 なんで私はいつも自分から行動を起こせないんだろうって、悶々と考えながら夜中ずっと起きていたんだけど……。
「あ、いた! タンポポちゃん!」
そこへ、元気な声がいきなり響いた。 突然のことに驚いて、一瞬反応が遅れてしまう。
入り口のほうを見ると、女の子が部屋に入ってきていた。 体からエネルギーがビシビシと発散されているかのような歩き方で、こっちに歩いて来る。
「……え?」
「やっほー。 ……何してんの?」
女の子は素早く部屋を歩いて来ると、目の前に来て屈んで覗き込んできた。 もっさりと身を起こしていきながら、頭をフル回転させていく。
……あれ、この人って、昨日、焚き木のところで話してた人だよね。 名前はたしか、ナツミさんとか言ったっけ。
スズネちゃんと知り合いだったみたいで、街に帰る時にも話してたのを憶えてる。 ……でも、わたしは最後まで一言も話してないし、挨拶もしてないんだけど……。 なんでこの人が、私のところに来るの?
っていうか、今ってどうなってるんだっけ? あの混乱は終わって、いつもの日常に戻ったんだよね。 ……あれ、日常って、なんだっけ???
もう意味不明に錯乱しながら、なんとか返答しようとするが、言葉がうまく出てこない。 昨日一日人と話して、スルスル話せるようになったと思ったのに、元に戻ったらいつも通りだ。
「あ、いや……」
「あなた、何もしてないらしいじゃん。 ちょっと、手伝ってよ」
ナツミはそれだけ言うと、返事も聞かずに背中を向けていく。 ……手伝う? どういうことっ?!
混乱しながらも立ち上がり、慌てて後を追っていく。
「え、何を……」
「精神科の仕事。 なんか、私やることになってさー」
振り向きもせずにスタスタと歩き、ナツミは部屋の外へと向かった。 一緒に部屋を後にすると、建物の狭い廊下へと出てくる。 廊下も岩は緻密に組まれていて、外の景色はほとんど見えない。
……精神科の仕事? それを私が手伝う? 訳が分からない、第一この人は何なの?
スズネの友達? ……っていうか現代人? 昨日降霊された人? ……見た目はどう見ても現代人だけど、話し方はちょっと昔っぽい……???
状況が分からないままに足を回転させていると、建物の外に出ていった。 視界が光に満ち、生き生きと動いている世界の様子が目に飛び込んでくる。 人々が道を行き来していて、物を売ったり買ったり、歌を歌ったり……。 誰も私なんてこれっぽっちも見ておらず、一人一人が自分の方向へと歩いている。 人の活気が溢れていて、目の前の風景が目まぐるしく変わっていく。
乾いた風を切って進み、体に、髪の毛に、次々に新たな風が吹きつけてくる。 呼吸をすると、体の中の風車が全力で回っていき、新しさで換気されていくのを感じる。
外に出てズンズンと歩いていくナツミの後を追って、急いで足を動かしていきながら聞いていく。
「……どこに行くの?」
「患者さんのところ。 さっき、場所は憶え屋で確認してね……」
突然、つんざくような大声が聞こえてきた。 何の大声だろう、どこからかは分からないが、人の名前を呼んでいるようだ。 辺りに響き渡るほど、大きな声が聞こえている。
うるさいけど、なんだか元気でエネルギーを感じる!
ナツミは片目をつぶって、顔をしかめて笑った。
「ひゃー、うるさっw」
街は、新しい降霊者を迎えて、大きく変わろうとしていた。 混乱があった直後だというのに、さっそくあちこちで建物を作っている。 新しい人たちを住まわせるためのもののようだ、建築の音が朝の街に鳴り響いている。
新しい人たちを迎え入れるためとはいえ、それ以上に張り切っているようにも見える。 最近は新しい人を増やさなくなっていたから、空気が停滞していた。 もしかしたら、こんな新しい流れを、じつはみんな待っていたのかもしれない。
2人は少し歩き、別の場所へやってきた。 辺りには岩のごつごつした建物があり、ここも幽霊の集合住宅街のようだ。
「あ、いた!」
待ち合わせをしていた人物を見つけて、ナツミは手を振って合流していく。 向こうに見える大きな岩の陰には、男が一人立っていた。 端正で、やわらかい表情の男だ。
この人は、精神科の先生だ。 昨日の混乱のとき、山で精神科の患者を探して、精神科が実在したことがはっきりしたわけだが、どうやらそれには理由があったらしい。
精神科はスパイのように変装しながら、街の中を動き回るらしい。 堂々としてたら、精神科にかかってるのを知られるのを嫌がって、相談を渋る人がいるんだそうだ。
だから、『まぼろしの精神科』なんて呼ばれるようになったんだとか。
ナツミが変装が上手いという話を聞きつけて、精神科の仕事をしないかと、あのあと頼まれたのだ。 聞いた話では、この精神科の先生の手伝いをあれこれやるらしい。
「やっほー! 来たよ」
ナツミはフレンドリーに挨拶を投げかけていく。 先生は2人の姿を見ると、穏やかな笑顔で頷いた。
「来たね。 よし、じゃあ行こうか」
岩の壁から背を離して、先生は歩きだす。
待ち合わせの場所は、岩がごとごとと組み合わさったようなトンネルのような場所だった。 2人は合流すると、先生の後についていき、トンネルの中を歩いていく。
前を見ると、先生の歩みは安定していて、なんだか大人の余裕が感じられる。
その後を歩きながら、ナツミは思いついたように仕事について質問していった。
「ねえ、最初から変装しとけばよくない?」
精神科の仕事は、変装して街を歩くのだと聞いた。 それなら最初から別人になりすましておけばいいのに、仕事の説明を受けた時には、普段の格好で来てくれと言われたのだ。
先生は振り向いてにこやかに笑い、納得したように頷いた。
「あぁそっか、君、来たばかりだからね。 この街は、ふつうは他の人の格好をしちゃいけないっていう決まりがあってね。 そうじゃないと、お金とか、色々誤魔化せちゃうから」
この街での通貨は、言葉でやりとりする。 自分の持っているお金の金額を覚えておいて、ときどき通貨記録師の人に報告しなければならない。 『ナツミです。 前回から差し引きマイナス50円です』と、顔を見せながら名前を言って報告するのだ。
例えばここで、別の人がナツミの顔になりすましたらどうだろう。 『ナツミです。 前回からマイナス3000000000円です』。 全く身に覚えがないのに、ナツミのもとには巨額の請求書が届くことになる。
こういうことが起こってしまうから、顔を別人に変えるのは禁止されているのだ。 自分の顔のまま若返ったり年老いたりするのは、OKだけど。
精神科の人たちには、一時的に顔を変えてもいいと、公的に許可が出ている。 しかしそれは一時的で、日常生活まで顔を変えるのは禁止されているのだ。
「あー、そういうこと」
「そう。 だから変装は、最低限にしないといけないんだ。 どこかで一旦隠れてから変装するっていう、手順を踏むんだよ」
先生は説明しながら、柔らな顔でほほ笑みかけてくる。
先生の話し方は、明るいのに落ち着く。 精神科の先生なんだから、この話し方にも話術が入っているんだろう。 優しい顔して、まったく怖いんだから。
3人は歩いていくと、さらに大きな岩の建物が立ち並んでいる場所に来た。
先生は一般人みたいな顔で歩きながら、きょろっと辺りを眺めて、歩く向きを変えていく。
「……この辺でいいかな?」
自然な動作でさらっと周囲の様子を確認して、裏路地へと入っていく。 あまりにも自然な動きだ、朝なのに自分の家に帰宅する、幽霊の父親と娘たちにしか見えない。
3人は裏路地に入って、建物と建物の間を通り、奥のほうへと進む。 横にはビルのように岩の建物が立っていて、日の光は当たらず影に覆われている。
少し歩いたところで、先生はもう一度周りを自然な感じで確認していくと、合図をして建物の影に身を隠していった。 決まったっ!! 先生、かっこいいーーっ!!! フゥゥゥッ!!!www
建物の影に身を隠すと、先生は2人のほうに向いていった。
「……よし。 じゃあ、変装しよう。 変装の仕方は、分かる?」
「んー……こんな感じ?」
もはや目も閉じずに、ナツミは姿を変えてみせる。
見るとそこには、今までいなかった40代ぐらいの女性が立っていた。 地味で目立たない感じだ、道を歩いていても違和感がない姿を選んだようだ。
予備動作も何もなしに変装したナツミを見て、先生は心底驚いたようだ。 目を丸くして、感嘆の声を漏らす。
「へえー、君、聞いてた通り、本当にすごいね。 こんなにうまく出来る人を見たの、初めてかもしれない」
そう言いながらも先生も目を閉じて集中して、一瞬で姿を変えてみせる。 60代ぐらいの初老の男性の姿だ。
いつもこの姿で診察をしているんだろうか……確かに精神科の先生なら、年を取った落ち着いた雰囲気の人のほうが、話しやすいのかもしれない。
先生は変装を終えて目を開けると、今度はまだ一言も喋ってないタンポポちゃんへと目を向けていった。
「君は? ……そういえば、この子の説明は、受けてないな」
そういって先生はきょとんとした顔で、考えるようにタンポポちゃんを見つめる。
その横で、ナツミは近くにあった入れ物の水を眺めていた。 水面を鏡のようにして、自分の姿を整えているみたいだ。 女子高生のように髪の毛をイジイジしながら、40代の女性が振り返って、落ち着いているんだか元気なんだかよく分からない声で説明を加える。
「あ、ごめん、私が勝手に連れてきたの。 なんか、暇そうだったから」
適当な説明だが、先生は納得したようだ。 理解するように頷いて、仕事に迎え入れてくれる。
「あぁ、そうなんだ。 ……君、変装はできる?」
タンポポちゃんの姿は、相変わらず髪がボサボサで、古臭い格好のままだ。 変装どころか、現代の姿にすらなっていない。
あ、いや、とかタンポポちゃんがまごついていると、姿を整え終えたナツミが、元気に割って入ってきた。
「ちょっと、やってみよ。 ……えー、どうやるんだっけ?」
『一般的な』変装の仕方は、もはや忘れてしまったようだ。 ナツミは先生のほうを振り向いて、変装のやり方を聞いていく。
先生は思わず笑いながら、説明を始めた。
「君、いま自分でしただろw ……まず、目を閉じるんだ。 そして、なりたい自分を強く想像する……やってみて」
促されて、タンポポは目を閉じていった。
じっと動かずに……眉をひそめて……うーんと唸るが、何も起こらない。
「まあ、最初はそんなもんだよ」
「タンポポちゃん、いいよ。 ……なんか、別の仕事ないの?」
またナツミが周囲のテンポを崩すがごとく割って入ってきて、先生に出来ることがないか聞いていく。 本当にノリだけでタンポポちゃんを連れて来たらしい、精神科の許可もなければ、計画も無かったようだ。
「あ! そうだ、じゃあ、暗号師をやってもらおう」
「……アンゴウシ?」
きょとんとした顔でナツミが聞き返す。 先生は頷いて、説明を加えた。
「そう。 最近、憶え屋を使うようになって、やるようになったことでね。 憶え屋も、人がやってるから、いつどんな風に中身が洩れるか分からないよね。 だから、口座に入れる内容を、全部暗号化することにしたんだ」
……はあ。 ……アンゴウカ? ふーん、ごちゃごちゃ説明してるけど、よく分かんないけどw
耳をほじりながら、ナツミは首をひねる。
「あー、そう。 ……よく分かんないけど」
「それを、頼んでいいかな?」
先生はタンポポちゃんのほうを向き直って、聞いてくる。
……精神科の機密情報まで聞いてしまったし、どう見ても断れる状況じゃないけど……。
タンポポちゃんはブツブツと心の中で呟きながらも、ノリで頷いて承諾した。
「……分かりました」
先生は頷いて、引き締まった顔をする。 ……さて! 仕事の時間だ。 かっこいぃぃっ!!!!ww 先生っ!!w
「よし、分かった。 じゃ、今日のところは、ここで待ってて。 ……ナツミくん、行こうか」
「じゃねー」
ナツミは先生についていきながら、建物の陰に残るタンポポちゃんを見て、手を振っていった。
残されたタンポポは空を見上げて、はあと息をついた。
……なんだかよく分からないけど、外に引っ張り出されてきた。 これからどうなるかは分からないし、不安だらけだけど……。
……とりあえず、やってみよう。
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なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
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