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第五章 混乱
第52話 1日終わりっ!
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小春は、再び歴史所に戻ってきた。 まだ怒っているようだ、地面を踏み鳴らしながら歩いてくる。
「まったく……ん?」
歴史所の廊下を歩いていると、不意にどこからか大声が聞こえてきた。 建物の外からのようだ、誰かがバタバタと慌ただしく叫んでいる。
「アワ! アワ!」
「うわっ!」
大柄な男の幽霊が目の前を通り過ぎていったのに、振り返った小春はびっくりして飛びのく。 どうやら降霊術の創始者のアキカゼのようだ、人の名前を呼びながら歴史所の廊下を走っていく。
アワといえば、さっき山で降霊されたばかりの、人探しの上手い女の人の名前もアワだった。 500年前の知り合いだと言ってたし、それを聞きつけてやってきたのかもしれない。
アキカゼは歴史所の部屋へと突入していくと、部屋の中を大声で叫びはじめた。 歴史所の中にいた人々は、何事かといった顔でその様子を眺めている。 大男が突入してきて、生死の境をさまよってるかのごとく必死の形相で叫ぶものだから、びっくりだ。
「……アキカゼ?」
部屋の真ん中にいた一人の女の幽霊が立ち上がった。 山で降霊されたアワだ、きょとんとした顔を浮かべている。
街に戻ってきた後、歌子と一緒に歴史所に来たんだろう。 住民登録の途中だったようで、横には職員の人も座っている。
部屋の中を探し回っていたアキカゼは気づいて振り返ると、勢いよく走ってきた。
「ひゃっ! ……ちょっと、どうしたの?」
驚くアワの足元にやってきて、アキカゼは床へと崩れこんでいく。 床に伏して倒れこむと、うめき声を上げ始めた。 どうやら泣いているようだ、500年前から会っていなかったからだろうか、抑えていたものが噴き出すようにして声を上げている。
小春は廊下から部屋の中を覗いて、その様子を見ていた。
……ふうん、アキカゼちゃんも、あんなに泣くことあるのねえ。 体が大きくて、いつもは凛としていて偉そうなのに。 今朝、山で一緒にいた時は頼もしかったけど……意外とまだまだなのね。
別の場所では、歌子が仕事をしていた。 向こうのアキカゼたちの騒ぎは聞こえていないようだ、疲れ切った顔で筆を動かして書類を作っている。
書類が完成したのか、筆を机に放り投げていった。
「……はあ……これで一応、終わりました?」
隣に座っていた所長に聞く。 所長も幽霊たちの処理に疲弊したようだ、ぐったりした顔を浮かべて頷く。
「うん、そうだね。 ……帰っていいよ」
今日の仕事がようやく終わった……! 歌子は力をゆるめて、岩の椅子から立ち上がっていく。
今まで動き続けていたから、なんだか嘘みたいだ。 ……あぁ、体が重い。 ギシギシと軋んでて、自分の体じゃないみたいだ。
机から立ち上がりながらふと辺りを見ると、向こうにある明かりが消えかけているのに気づいた。 臨時に設置した火が、今にも消えそうになっている。
「あ、でも、向こうの明かりが……」
「いや、いいよ。 もう、帰ろう」
所長は面倒くさそうに、ハエを振り払うようにして言った。 所長も相当疲れているようだ、これ以上の仕事は、人がするのも見たくないらしい。
……まあ、大丈夫か。 火が消えても、別に死ぬわけじゃないし。
歌子は立ち上がると、あくびをしながら歩きだした。
「……はーあ。 ……あ」
歴史所の廊下へ向かって歩きだすと、弟と妹が見えた。 入り口から入って、こっちに向かって走ってくる。 仕事が終わるのを待っててくれたみたいだ。
「ねえちゃーん! ……終わった?」
「うん。 ……帰ろうか」
2人はバタバタと、足元に走ってきた。 弟と妹の勢いを受け止め、2人の体に触っていくと、生身の体の匂いや服の肌触りを感じていく。 安心感を覚えつつ、歌子はゆっくりと歩き続けた。
さっきも料理を作って食べさせてくれたし、ありがとね。
ぼんやりとそう思いながら、3人で歴史所を後にしていく。
外に出ると、街はすっかり夜の姿になっていた。 点々に見える明かりが見えていて、暗く涼しい空気が心地よい。
落ち着いた温度の風が体にあたっていくたび、解放された気分が増してくる。 歩く足の筋肉は疲れ切っているけど、地面を蹴る感触が気持ち良い。
「あー……あ、きれい」
天を見上げると、星空があった。 暗く静かな中に星が輝いていて、いつもと同じ夜空に安心感を覚える。 本当に私たちってちっぽけだなあ……。 こんなにあたふたしても、自然はいつものままだ。
今日は、色々あった。 朝起きたら誰もいないってところから始まって、山の中を歩き回って、街を歩き回って……。 ちゃっかり降霊洞穴にも入ったし、降霊術も経験したし。 ……あれ、意外と悪くなかったかも? やったー、イェイ……。
これだけの出来事が1日の中に納まってるなんて、とんだ日だ。
……ぁあ、疲れた……。 そんなことを思っていると、ふっと力が抜けてくる。
「うわっ! ……なんだ?」
「ぎゃっ!」
弟と妹の2人が、びっくりした声を上げた。 歌子の体が倒れこんできて、2人の上に覆いかぶさってきたのだ。 歌子に抱き寄せられて腕に巻き込まれるようにして、勢いよく地面に押し倒される。
弟は地面に尻もちをつくと、痛そうに顔をしかめた。
「……おい、大丈夫か?」
「あー、きもちいー……あったかーい……」
歌子は2人を抱きしめたまま、目をつむって独り言をつぶやいていた。 極限まで疲れているだろうに、ちょっとだけ微笑んでいる。
歌子は呼吸を上下しながら独り言を続けていたが、そのままずるずると力が抜けていった。 2人を抱きしめていた腕の力も緩んでいき、体が地面に落ちてやがて動かなくなる。
「おい! ……あ、寝てる」
歌子は草の上に頬を押しつけて、すやすやと寝息を立てていた。 表情は消えて、うつぶせに地面に倒れたまま、静かに呼吸をしている。
弟はその様子を覗き込み、呆れた顔をした。
だらしねえな、おい! 『食べないと倒れるよ』『しっかり働きなさい』って、いつも俺に説教垂れるくせによ。 ……まあしょうがねえか、ずっと動き回ってたみたいだしな。
「……しょうがねえ、おい、頑張って運ぶぞ!」
「よーし、まかしとけい!」
妹と一緒に声を上げて、2人は歌子の体を抱えていった。 重い体をなんとか持ち上げ、えっちらおっちらと家まで運んでいく。
「まったく……ん?」
歴史所の廊下を歩いていると、不意にどこからか大声が聞こえてきた。 建物の外からのようだ、誰かがバタバタと慌ただしく叫んでいる。
「アワ! アワ!」
「うわっ!」
大柄な男の幽霊が目の前を通り過ぎていったのに、振り返った小春はびっくりして飛びのく。 どうやら降霊術の創始者のアキカゼのようだ、人の名前を呼びながら歴史所の廊下を走っていく。
アワといえば、さっき山で降霊されたばかりの、人探しの上手い女の人の名前もアワだった。 500年前の知り合いだと言ってたし、それを聞きつけてやってきたのかもしれない。
アキカゼは歴史所の部屋へと突入していくと、部屋の中を大声で叫びはじめた。 歴史所の中にいた人々は、何事かといった顔でその様子を眺めている。 大男が突入してきて、生死の境をさまよってるかのごとく必死の形相で叫ぶものだから、びっくりだ。
「……アキカゼ?」
部屋の真ん中にいた一人の女の幽霊が立ち上がった。 山で降霊されたアワだ、きょとんとした顔を浮かべている。
街に戻ってきた後、歌子と一緒に歴史所に来たんだろう。 住民登録の途中だったようで、横には職員の人も座っている。
部屋の中を探し回っていたアキカゼは気づいて振り返ると、勢いよく走ってきた。
「ひゃっ! ……ちょっと、どうしたの?」
驚くアワの足元にやってきて、アキカゼは床へと崩れこんでいく。 床に伏して倒れこむと、うめき声を上げ始めた。 どうやら泣いているようだ、500年前から会っていなかったからだろうか、抑えていたものが噴き出すようにして声を上げている。
小春は廊下から部屋の中を覗いて、その様子を見ていた。
……ふうん、アキカゼちゃんも、あんなに泣くことあるのねえ。 体が大きくて、いつもは凛としていて偉そうなのに。 今朝、山で一緒にいた時は頼もしかったけど……意外とまだまだなのね。
別の場所では、歌子が仕事をしていた。 向こうのアキカゼたちの騒ぎは聞こえていないようだ、疲れ切った顔で筆を動かして書類を作っている。
書類が完成したのか、筆を机に放り投げていった。
「……はあ……これで一応、終わりました?」
隣に座っていた所長に聞く。 所長も幽霊たちの処理に疲弊したようだ、ぐったりした顔を浮かべて頷く。
「うん、そうだね。 ……帰っていいよ」
今日の仕事がようやく終わった……! 歌子は力をゆるめて、岩の椅子から立ち上がっていく。
今まで動き続けていたから、なんだか嘘みたいだ。 ……あぁ、体が重い。 ギシギシと軋んでて、自分の体じゃないみたいだ。
机から立ち上がりながらふと辺りを見ると、向こうにある明かりが消えかけているのに気づいた。 臨時に設置した火が、今にも消えそうになっている。
「あ、でも、向こうの明かりが……」
「いや、いいよ。 もう、帰ろう」
所長は面倒くさそうに、ハエを振り払うようにして言った。 所長も相当疲れているようだ、これ以上の仕事は、人がするのも見たくないらしい。
……まあ、大丈夫か。 火が消えても、別に死ぬわけじゃないし。
歌子は立ち上がると、あくびをしながら歩きだした。
「……はーあ。 ……あ」
歴史所の廊下へ向かって歩きだすと、弟と妹が見えた。 入り口から入って、こっちに向かって走ってくる。 仕事が終わるのを待っててくれたみたいだ。
「ねえちゃーん! ……終わった?」
「うん。 ……帰ろうか」
2人はバタバタと、足元に走ってきた。 弟と妹の勢いを受け止め、2人の体に触っていくと、生身の体の匂いや服の肌触りを感じていく。 安心感を覚えつつ、歌子はゆっくりと歩き続けた。
さっきも料理を作って食べさせてくれたし、ありがとね。
ぼんやりとそう思いながら、3人で歴史所を後にしていく。
外に出ると、街はすっかり夜の姿になっていた。 点々に見える明かりが見えていて、暗く涼しい空気が心地よい。
落ち着いた温度の風が体にあたっていくたび、解放された気分が増してくる。 歩く足の筋肉は疲れ切っているけど、地面を蹴る感触が気持ち良い。
「あー……あ、きれい」
天を見上げると、星空があった。 暗く静かな中に星が輝いていて、いつもと同じ夜空に安心感を覚える。 本当に私たちってちっぽけだなあ……。 こんなにあたふたしても、自然はいつものままだ。
今日は、色々あった。 朝起きたら誰もいないってところから始まって、山の中を歩き回って、街を歩き回って……。 ちゃっかり降霊洞穴にも入ったし、降霊術も経験したし。 ……あれ、意外と悪くなかったかも? やったー、イェイ……。
これだけの出来事が1日の中に納まってるなんて、とんだ日だ。
……ぁあ、疲れた……。 そんなことを思っていると、ふっと力が抜けてくる。
「うわっ! ……なんだ?」
「ぎゃっ!」
弟と妹の2人が、びっくりした声を上げた。 歌子の体が倒れこんできて、2人の上に覆いかぶさってきたのだ。 歌子に抱き寄せられて腕に巻き込まれるようにして、勢いよく地面に押し倒される。
弟は地面に尻もちをつくと、痛そうに顔をしかめた。
「……おい、大丈夫か?」
「あー、きもちいー……あったかーい……」
歌子は2人を抱きしめたまま、目をつむって独り言をつぶやいていた。 極限まで疲れているだろうに、ちょっとだけ微笑んでいる。
歌子は呼吸を上下しながら独り言を続けていたが、そのままずるずると力が抜けていった。 2人を抱きしめていた腕の力も緩んでいき、体が地面に落ちてやがて動かなくなる。
「おい! ……あ、寝てる」
歌子は草の上に頬を押しつけて、すやすやと寝息を立てていた。 表情は消えて、うつぶせに地面に倒れたまま、静かに呼吸をしている。
弟はその様子を覗き込み、呆れた顔をした。
だらしねえな、おい! 『食べないと倒れるよ』『しっかり働きなさい』って、いつも俺に説教垂れるくせによ。 ……まあしょうがねえか、ずっと動き回ってたみたいだしな。
「……しょうがねえ、おい、頑張って運ぶぞ!」
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妹と一緒に声を上げて、2人は歌子の体を抱えていった。 重い体をなんとか持ち上げ、えっちらおっちらと家まで運んでいく。
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