65 / 100
第七章 鬼退治とお泊りパーティー
第65話 ナツミとタンポポ、店の中!
しおりを挟む
街中のある建物から、出ていく2人がいた。 アパートっぽい集合住宅の建物から、初老の男性と、幼い女の子が出てくる。
「じゃあ、後よろしくね」
「はーい」
2人は建物から出ると、言葉を交わしながら分かれていく。 老人は柔和で穏やかで、幼い女の子は活発な感じだ。 おじいちゃんと孫とかだろうか?
女の子は元気よく、パタパタと階段を駆け下りていった。 道へ出ると、向きを変えてそのアパートの横の裏路地へと入っていく。
日陰に入っていき、大きな建物の間を、女の子は歩いていく。 涼しい風が吹いてくる中で、女の子は解放されたように気持ちよさそうだ。 体を伸ばして深呼吸をしていく。
「はー! ……気持ち良い」
「……ナツミ!」
歩いていると、いきなり横のほうから、控えめな声で呼びかけられた。 建物の影からのようだ、見ると、ボサボサの髪の女の子が、建物の影からこっちを見ている。
呼び止められた幼い女の子は一瞬きょとんとした顔を浮かべるが、思い出したように向きを変えた。
「……ん? ……あぁ、そうだったw」
幼い女の子は笑いながら、同じ建物の影へと隠れるようにして入っていく。
陰に入ると同時に、ふわっと姿を変えていった。 体が大きくなり、顔が変わり、服装も違うものに変わる。
幼い女の子は、実はナツミだったのだ。 精神科の仕事をするために、変装をしていたようだ。
建物の影に隠れていた女の子は、タンポポちゃんだ。 こちらは顔は変わっていないし、服装も少し現代らしくなった程度で大して変わっていないからすぐに分かる。
ナツミはタンポポちゃんのそばに立つと、仕事の報告を始めた。
「じゃあ、暗号化しようか。 『……体調良好、復帰の兆しあり』……今日は、それだけ」
手慣れた感じで、ナツミは報告していく。 精神科の仕事が板についてきたようだ。
タンポポちゃんは報告を聞いて、考えるように眉をひそめている。 結局タンポポちゃんは、精神科の暗号師をやることになったらしい。 いま頭の中で暗号変換しているんだろう。
憶え屋の精神科は、患者の情報や診察の結果などのデータを、憶え屋の口座に保存している。 その際にこうやって暗号変換しておくと、事故か何かでデータが流出したとしても、精神科の患者のことは分からないというわけなのだ。
「じゃ、行こう」
報告を終えたナツミはすぐに再び歩き出し、陰を出ていった。 相変わらず行動的でマイペースだ、一人でズンズン歩いていく。 タンポポちゃんももう慣れたようで、素早く陰から出ていった。
裏路地を軽快に歩きながら、ナツミが振り向く。 仕事はもう終わったのか、すっきりした顔だ。
「あ! そうだ、ちょっといい感じの店、出来たんだよ。 タンポポにも行ってほしくてね。 これから行ってみようよ」
最近では、この街では『店』が流行るようになった。 固定の場所に店を構えて、サービスを提供する……。 そういう形式は、今まではそんなに無かったのだ。
街は、どんどん未来に近づいてきているようだ。
「入るよー」
トイレみたいに言いながら、ある店に入っていく人たちがいた。
2人組で、どちらも女の子だ。
1人は不思議な模様の入った服を着ていて、どこか未来を感じさせる装いをしている。 元気ではつらつとした感じで、ズイズイと店の中へと入っていく。
もう1人は背が小さく、控えめな感じの子だ。 静かに後ろについていき、一緒に店の中へと入っていく。
……あれ? この2人は見たことのあるような感じがする。
不思議な模様の服を着た人は、見た目は違うが雰囲気はナツミっぽい感じだし、もう一人はタンポポちゃんに見える。
しかし、顔や服装は2人ではない。 前を歩く人は未来っぽい服装で、どちらかといえばソラを思い起こさせるし、後ろの人もタンポポちゃんの顔ではない。
「はー! ……あ、なんか来てるかな」
息を気持ちよさそうに吐きながら歩いていたナツミっぽい人は、店に入ると、思いついたように歩く向きを変えていった。
2人が入ってきたこの店は、喫茶店のような場所だった。 古代の街にしては、未来的でおしゃれな店だ。 客もいて、席に座って料理や飲み物を楽しんでいる。
辺りにはテーブルと椅子が並べられていて、奥へ行くとカウンター席のような場所もあるようだ。
ナツミっぽい女の子は、カウンターのほうへと向かっているようだ。 途中ですれ違った店員の人に、「私、どんぐり茶が欲しいな」などと言いつつ、「あとこの子もね」と後ろにいたこの飲み物も勝手に決めつつ、ズカズカと歩いていく。
……やはり、この人はナツミにしか見えない。 恰好はソラの服装だが、行動は明らかにナツミだ。
精神科の仕事がらみか、そうでないのか……。 いずれにせよ、事情があって変装しているんだろう。
しかしこう見ていると、姿かたちがちぐはぐだ。 見た目の姿と、中身の性格が違ってて……。 頭がこんがらがってくるけど、自由な気分になってくるっ!!
カウンター席の近くには、掲示板のようなものがあった。 メモ紙がたくさん貼ってある大きな木の板が、カウンターの横にどっしりと置いてある。
この掲示板は、情報交換の場として使われているものだ。 悩みを書き込む人もいれば、遊びの誘いをする人もいて……。 雑多に色々な内容が書かれてあり、ネットの掲示板みたいに使われているようだ。
掲示板のそばには、大きなカゴが置かれている。 中にはメモ用の石ころがゴロゴロ入っていて、その一つ一つには文字が書かれているみたいだ。 どうやらこの掲示板は、メモ紙だけでなく石ころにも対応しているらしい。
ナツミは掲示板の前に来ると、貼ってあるメモ紙を眺め始めた。
「うーん……」
何か変で、面白い情報はないものか。 眺めていくナツミの横で、タンポポちゃんも一緒に掲示板を見はじめる。
掲示板に顔を近づけていたナツミは、一つのメモ紙に目をつけて、面白そうな声を上げた。
「……あ! なんだ、これ。 ……夢見酒……夢と現世がつながる酒? うわー、馬鹿だな、こいつ」
そういって笑いながら、そのメモ紙を手に取っていく。
どうやら夢見酒を調べている人が、この掲示板にいるらしい。 都市伝説を探すメンバーたち……歌子やユメたちも探していたが、そのうちの誰かだったりするんだろうか?
馬鹿にするように紙を見つめて、ナツミは楽しそうに笑っていたが、ふと何かを思いついたようにウキウキしだした。
「あ! ちょっと、変なうわさ流しとこw」
そういって、そばに置いてあった白い石ころを手に取っていく。 そこには歌子の考案した『石ころ改』がいくつか置かれていた。 掲示板を使う人がメモ用として使っていいように、紙のメモ紙と一緒に置かれているみたいだ。
ナツミはそれを一つ手に取ると、ノリノリで演技をしながら書き込み始めた。
「……えーっと……『多分、私、見ました。 ……紙束がたくさん並んだ部屋で、夢見酒について書かれた紙きれがあったのを、見たことがあります』……っと」
どうやら嘘の情報を流しているみたいだ。 ナツミはガリガリッと書き終えると、石ころをカゴの中にがこっと投げ入れていった。 すっきりした顔を浮かべて、満足そうにニンマリとしている。 そばでその様子を見ているタンポポちゃんは、何も言わず黙っている。
こんなことして、いいんだろうか? ……たぶん悪気はない悪戯心なんだろうが、現代日本だと意外とヤバいかもしれない。
ナツミは楽しそうだ、はあと気持ちよさそうに息を吐いて、再び掲示板を眺めはじめる。
「あれ、これも、同じやつ? ……ん、ここにも?」
気づくと、掲示板の中には、同じ人が書いたと思われるメモ紙が、他にもあった。 どうやらこの掲示板で夢見酒を探している人は、他にも色んなことを書き込んでいるらしい。
ナツミは次々に、その人の名前を、掲示板のあちこちに見つけていく。
「あっ! なんかいたな、色んなところに変なこと、書き込みまくってるやつ。 はー、こいつか」
ナツミはようやく、思い出した。 最近、色んな掲示板や口座に出没して、書き込みまくっているやつがいるのだ。 しかも内容が意味不明だから、誰も相手にしていない。
そして日を追うごとに、どんどん酷くなってきているようなのだ。 一人で色んな場所を彷徨って訳の分からない妄言をまき散らし、なぜだか苦しそうにしているのだ。
ナツミは改めて、手元のメモ紙に目をやった。 まじまじと見つめながら、独り言を呟く。
「……こいつ、大丈夫かな。 なんか、悩みでもあるの。 精神科に来た方が、いいんじゃない?」
ひどい言い方だが、ナツミなりに気を使ってるのかもしれない。 嘘の情報を流して、からかったかと思えば、同情して……。 行動原理は意味わからないが、こういう性格なんだろう。
そのメモ紙を懐に入れると、ナツミは店の中へと戻っていく。
同じ店の中には、見慣れた姿もあった。 一つのテーブルに、小春が座っている。
一人で頬杖ついて、何か考え事でもしているみたいだ。 ぼうっと目の前の虚空を眺めながら、片手で飲み物をずずっと飲んでいる。 元気な小春にしては見たことのないような姿だが、一体どうしたんだろう。
そこへ、掲示板から戻ってきたナツミがやって来た。
「小春ー! なに、変な顔して。 ……あ、ありがと」
店員からさっき注文したどんぐり茶を受け取っていきながら、ナツミは隣の空いた席に座っていく。
小春は、さっき歌どころで話していた『鬼退治』のことを考えているんだろうか。 飲み物を飲みながら、むすっとした顔のまま答えた。
「変な顔じゃ、ないわよ。 ……うーん、どうしよう」
「ねえ、面白い話とか、なんかないの?」
ナツミは周囲のペースをガツガツと崩しながら、質問を投げかけていく。
面白い話がないかって……。 言いたいことは分かるが、問いかけがあまりにも雑過ぎだろう。
「あるには、あるけど……」
「どんな話? ……話だけでも、聞くよ?」
精神科のお姉さんっぽい口調で、ナツミは聞いていく。 精神科の先生は、穏やかで優しそうな男の先生だが、裏の顔があるような感じがしないでもなかった。 あの人の優しさあふれる話術を、少しずつ習得しているらしい。
小春は相変わらず、ぼうっとしたまま答える。
「……鬼が出たって」
「……は? 鬼?」
きょとんとした顔で、ナツミが聞き返す。 湯呑みたいなコップを静かに置きながら、小春は頷いた。
「そう。 ……人の血を求めて、真夜中に色んなところをさまよう、悪い鬼なんだって」
「え?! なにそれ、面白いじゃんっ!w ちょっと、くわしく……」
うきうきしながら話の続きを聞こうとしていたナツミだったが、ふと何かに気づいたように顔を上げた。 目立った格好の人が、テーブルのすぐそばを通り過ぎていく。
マツリだ、今日もボサボサの長い髪を垂らして、手入れを全くしていない汚い服を着ている。 マツリも、この喫茶店に通っているんだろうか?
通り過ぎながら、マツリはこっちの視線に気づいた。 偉そうな顔で見下してきて、ふんと鼻息を鳴らしながら去っていく。
「なに、あいつ」
ナツミはその後ろ姿を見ながら、ムカついたように呟く。
……そういえばマツリは、200年前に生きていた人らしかった。 ソラのことを知り合いだと表現していたから、ナツミとも知り合いの可能性が高い。 もしかしたら、友達だったりしたんだろうか。
しかし200年前は、同時期に人が集中している。 スズネに、生け贄のソラに、はっちゃけたナツミ、目つきの悪いマツリ……。 よく見るとスズネだけ外れていて、他の人はみな知り合いのようだが。
「あ、いた。 小春ーっ!」
今度はいきなり、聞きなれた別の声がやって来た。
……なによ、今日は忙しいわね! いいことじゃないの。
小春は矛盾を抱えながら振り返ると、店の中を雨子がこっちに向かって走ってきていた。 周りのテーブルを蹴とばしながら、いつものように慌ただしくバタバタと走ってくる。 落ち着きなさい、あなた。
「なんか、アマネが研究棟のまんなかで、寝てて!」
「え?!」
元気すぎる巫女のアマネが研究棟で寝てる? ……どういうこと? いきなりすぎて、意味わかんないんだけど。
そう思っていると、今度は横からナツミが会話に入ってくる。 話の流れを把握していないのか、よく分かってない言い方だ。
「研究棟? 私も、寝てるよ?」
「……へ?」
息を切らしてきた雨子が、きょとんとした顔でナツミを見る。
……研究棟で自分も寝てる? 何の話? ……ナツミの会話は、少しかみ合ってないように見える。
何かを誤解されたと思ったのか、ナツミはなぜか弁解するような口調になった。
「いや、だって、一気に人が増えて寝るとこないじゃん。 ……え、いや、私だけじゃなくて、結構寝てる人いるよ?」
恐らくナツミが話しているのは、夜寝る場所の話だろう。 今回の混乱で一気に人が増えたから、まだ寝る場所が無い人がいるのだ。 新しい建築は進んでいるが、それでも追いついてないらしい。 今回は特例として、公的な場所で寝てもいいよと許可が下りたのだ。
50年前にも、そういう話はあったらしい。 人がどんどん増えていくから、みんな寝る場所が無くて、ぐちゃぐちゃに眠っていたんだとか。
しかし、今アマネが寝てるのは、それとは違う。 真昼間に意味も無く、研究棟のど真ん中に寝ているという意味ではないのか?
雨子はもう面倒くさくなったようだ、話の流れを無視して、無理やり小春を引っ張っていった。
「……ちょっと、来て!」
腕をつかまれて、小春は引っ張られるようにテーブルから離れていく。 それを見て、ナツミが慌てたように立ち上がった。
「あ! さっきの鬼の話……」
「ちょっと待って、後でー!」
あぁ、鬼の話がぁっ!! ……面白そうだったのに……。
テーブルに残されたナツミは、不満そうにちゅうーっと口を尖らせた。
2人は店を出ていくと、廊下のようなところへと出ていった。 店は大きな建物の一部だったようだ。 岩で組まれた廊下が、長く向こうの方まで続いている。 このまま歩いていけば、別の店などにも繋がっているのだろうか。
廊下を走りながら、雨子が思い出したように聞いてきた。
「あ、ユメは、見つかった?」
夜に憶え屋に入るために、ユメに許可を取る……。 手分けしてユメを探していたのだが、どこを探しても見つけることができなかったのだ。
そんなことをしているうちに探し疲れて、小春は店で一休みしていたらしい。
「いや。 ……まったく、あの子、どこほっつき歩いてんのかしら」
ぶつくさとぼやきながら、小春は雨子と一緒に走っていく。
「じゃあ、後よろしくね」
「はーい」
2人は建物から出ると、言葉を交わしながら分かれていく。 老人は柔和で穏やかで、幼い女の子は活発な感じだ。 おじいちゃんと孫とかだろうか?
女の子は元気よく、パタパタと階段を駆け下りていった。 道へ出ると、向きを変えてそのアパートの横の裏路地へと入っていく。
日陰に入っていき、大きな建物の間を、女の子は歩いていく。 涼しい風が吹いてくる中で、女の子は解放されたように気持ちよさそうだ。 体を伸ばして深呼吸をしていく。
「はー! ……気持ち良い」
「……ナツミ!」
歩いていると、いきなり横のほうから、控えめな声で呼びかけられた。 建物の影からのようだ、見ると、ボサボサの髪の女の子が、建物の影からこっちを見ている。
呼び止められた幼い女の子は一瞬きょとんとした顔を浮かべるが、思い出したように向きを変えた。
「……ん? ……あぁ、そうだったw」
幼い女の子は笑いながら、同じ建物の影へと隠れるようにして入っていく。
陰に入ると同時に、ふわっと姿を変えていった。 体が大きくなり、顔が変わり、服装も違うものに変わる。
幼い女の子は、実はナツミだったのだ。 精神科の仕事をするために、変装をしていたようだ。
建物の影に隠れていた女の子は、タンポポちゃんだ。 こちらは顔は変わっていないし、服装も少し現代らしくなった程度で大して変わっていないからすぐに分かる。
ナツミはタンポポちゃんのそばに立つと、仕事の報告を始めた。
「じゃあ、暗号化しようか。 『……体調良好、復帰の兆しあり』……今日は、それだけ」
手慣れた感じで、ナツミは報告していく。 精神科の仕事が板についてきたようだ。
タンポポちゃんは報告を聞いて、考えるように眉をひそめている。 結局タンポポちゃんは、精神科の暗号師をやることになったらしい。 いま頭の中で暗号変換しているんだろう。
憶え屋の精神科は、患者の情報や診察の結果などのデータを、憶え屋の口座に保存している。 その際にこうやって暗号変換しておくと、事故か何かでデータが流出したとしても、精神科の患者のことは分からないというわけなのだ。
「じゃ、行こう」
報告を終えたナツミはすぐに再び歩き出し、陰を出ていった。 相変わらず行動的でマイペースだ、一人でズンズン歩いていく。 タンポポちゃんももう慣れたようで、素早く陰から出ていった。
裏路地を軽快に歩きながら、ナツミが振り向く。 仕事はもう終わったのか、すっきりした顔だ。
「あ! そうだ、ちょっといい感じの店、出来たんだよ。 タンポポにも行ってほしくてね。 これから行ってみようよ」
最近では、この街では『店』が流行るようになった。 固定の場所に店を構えて、サービスを提供する……。 そういう形式は、今まではそんなに無かったのだ。
街は、どんどん未来に近づいてきているようだ。
「入るよー」
トイレみたいに言いながら、ある店に入っていく人たちがいた。
2人組で、どちらも女の子だ。
1人は不思議な模様の入った服を着ていて、どこか未来を感じさせる装いをしている。 元気ではつらつとした感じで、ズイズイと店の中へと入っていく。
もう1人は背が小さく、控えめな感じの子だ。 静かに後ろについていき、一緒に店の中へと入っていく。
……あれ? この2人は見たことのあるような感じがする。
不思議な模様の服を着た人は、見た目は違うが雰囲気はナツミっぽい感じだし、もう一人はタンポポちゃんに見える。
しかし、顔や服装は2人ではない。 前を歩く人は未来っぽい服装で、どちらかといえばソラを思い起こさせるし、後ろの人もタンポポちゃんの顔ではない。
「はー! ……あ、なんか来てるかな」
息を気持ちよさそうに吐きながら歩いていたナツミっぽい人は、店に入ると、思いついたように歩く向きを変えていった。
2人が入ってきたこの店は、喫茶店のような場所だった。 古代の街にしては、未来的でおしゃれな店だ。 客もいて、席に座って料理や飲み物を楽しんでいる。
辺りにはテーブルと椅子が並べられていて、奥へ行くとカウンター席のような場所もあるようだ。
ナツミっぽい女の子は、カウンターのほうへと向かっているようだ。 途中ですれ違った店員の人に、「私、どんぐり茶が欲しいな」などと言いつつ、「あとこの子もね」と後ろにいたこの飲み物も勝手に決めつつ、ズカズカと歩いていく。
……やはり、この人はナツミにしか見えない。 恰好はソラの服装だが、行動は明らかにナツミだ。
精神科の仕事がらみか、そうでないのか……。 いずれにせよ、事情があって変装しているんだろう。
しかしこう見ていると、姿かたちがちぐはぐだ。 見た目の姿と、中身の性格が違ってて……。 頭がこんがらがってくるけど、自由な気分になってくるっ!!
カウンター席の近くには、掲示板のようなものがあった。 メモ紙がたくさん貼ってある大きな木の板が、カウンターの横にどっしりと置いてある。
この掲示板は、情報交換の場として使われているものだ。 悩みを書き込む人もいれば、遊びの誘いをする人もいて……。 雑多に色々な内容が書かれてあり、ネットの掲示板みたいに使われているようだ。
掲示板のそばには、大きなカゴが置かれている。 中にはメモ用の石ころがゴロゴロ入っていて、その一つ一つには文字が書かれているみたいだ。 どうやらこの掲示板は、メモ紙だけでなく石ころにも対応しているらしい。
ナツミは掲示板の前に来ると、貼ってあるメモ紙を眺め始めた。
「うーん……」
何か変で、面白い情報はないものか。 眺めていくナツミの横で、タンポポちゃんも一緒に掲示板を見はじめる。
掲示板に顔を近づけていたナツミは、一つのメモ紙に目をつけて、面白そうな声を上げた。
「……あ! なんだ、これ。 ……夢見酒……夢と現世がつながる酒? うわー、馬鹿だな、こいつ」
そういって笑いながら、そのメモ紙を手に取っていく。
どうやら夢見酒を調べている人が、この掲示板にいるらしい。 都市伝説を探すメンバーたち……歌子やユメたちも探していたが、そのうちの誰かだったりするんだろうか?
馬鹿にするように紙を見つめて、ナツミは楽しそうに笑っていたが、ふと何かを思いついたようにウキウキしだした。
「あ! ちょっと、変なうわさ流しとこw」
そういって、そばに置いてあった白い石ころを手に取っていく。 そこには歌子の考案した『石ころ改』がいくつか置かれていた。 掲示板を使う人がメモ用として使っていいように、紙のメモ紙と一緒に置かれているみたいだ。
ナツミはそれを一つ手に取ると、ノリノリで演技をしながら書き込み始めた。
「……えーっと……『多分、私、見ました。 ……紙束がたくさん並んだ部屋で、夢見酒について書かれた紙きれがあったのを、見たことがあります』……っと」
どうやら嘘の情報を流しているみたいだ。 ナツミはガリガリッと書き終えると、石ころをカゴの中にがこっと投げ入れていった。 すっきりした顔を浮かべて、満足そうにニンマリとしている。 そばでその様子を見ているタンポポちゃんは、何も言わず黙っている。
こんなことして、いいんだろうか? ……たぶん悪気はない悪戯心なんだろうが、現代日本だと意外とヤバいかもしれない。
ナツミは楽しそうだ、はあと気持ちよさそうに息を吐いて、再び掲示板を眺めはじめる。
「あれ、これも、同じやつ? ……ん、ここにも?」
気づくと、掲示板の中には、同じ人が書いたと思われるメモ紙が、他にもあった。 どうやらこの掲示板で夢見酒を探している人は、他にも色んなことを書き込んでいるらしい。
ナツミは次々に、その人の名前を、掲示板のあちこちに見つけていく。
「あっ! なんかいたな、色んなところに変なこと、書き込みまくってるやつ。 はー、こいつか」
ナツミはようやく、思い出した。 最近、色んな掲示板や口座に出没して、書き込みまくっているやつがいるのだ。 しかも内容が意味不明だから、誰も相手にしていない。
そして日を追うごとに、どんどん酷くなってきているようなのだ。 一人で色んな場所を彷徨って訳の分からない妄言をまき散らし、なぜだか苦しそうにしているのだ。
ナツミは改めて、手元のメモ紙に目をやった。 まじまじと見つめながら、独り言を呟く。
「……こいつ、大丈夫かな。 なんか、悩みでもあるの。 精神科に来た方が、いいんじゃない?」
ひどい言い方だが、ナツミなりに気を使ってるのかもしれない。 嘘の情報を流して、からかったかと思えば、同情して……。 行動原理は意味わからないが、こういう性格なんだろう。
そのメモ紙を懐に入れると、ナツミは店の中へと戻っていく。
同じ店の中には、見慣れた姿もあった。 一つのテーブルに、小春が座っている。
一人で頬杖ついて、何か考え事でもしているみたいだ。 ぼうっと目の前の虚空を眺めながら、片手で飲み物をずずっと飲んでいる。 元気な小春にしては見たことのないような姿だが、一体どうしたんだろう。
そこへ、掲示板から戻ってきたナツミがやって来た。
「小春ー! なに、変な顔して。 ……あ、ありがと」
店員からさっき注文したどんぐり茶を受け取っていきながら、ナツミは隣の空いた席に座っていく。
小春は、さっき歌どころで話していた『鬼退治』のことを考えているんだろうか。 飲み物を飲みながら、むすっとした顔のまま答えた。
「変な顔じゃ、ないわよ。 ……うーん、どうしよう」
「ねえ、面白い話とか、なんかないの?」
ナツミは周囲のペースをガツガツと崩しながら、質問を投げかけていく。
面白い話がないかって……。 言いたいことは分かるが、問いかけがあまりにも雑過ぎだろう。
「あるには、あるけど……」
「どんな話? ……話だけでも、聞くよ?」
精神科のお姉さんっぽい口調で、ナツミは聞いていく。 精神科の先生は、穏やかで優しそうな男の先生だが、裏の顔があるような感じがしないでもなかった。 あの人の優しさあふれる話術を、少しずつ習得しているらしい。
小春は相変わらず、ぼうっとしたまま答える。
「……鬼が出たって」
「……は? 鬼?」
きょとんとした顔で、ナツミが聞き返す。 湯呑みたいなコップを静かに置きながら、小春は頷いた。
「そう。 ……人の血を求めて、真夜中に色んなところをさまよう、悪い鬼なんだって」
「え?! なにそれ、面白いじゃんっ!w ちょっと、くわしく……」
うきうきしながら話の続きを聞こうとしていたナツミだったが、ふと何かに気づいたように顔を上げた。 目立った格好の人が、テーブルのすぐそばを通り過ぎていく。
マツリだ、今日もボサボサの長い髪を垂らして、手入れを全くしていない汚い服を着ている。 マツリも、この喫茶店に通っているんだろうか?
通り過ぎながら、マツリはこっちの視線に気づいた。 偉そうな顔で見下してきて、ふんと鼻息を鳴らしながら去っていく。
「なに、あいつ」
ナツミはその後ろ姿を見ながら、ムカついたように呟く。
……そういえばマツリは、200年前に生きていた人らしかった。 ソラのことを知り合いだと表現していたから、ナツミとも知り合いの可能性が高い。 もしかしたら、友達だったりしたんだろうか。
しかし200年前は、同時期に人が集中している。 スズネに、生け贄のソラに、はっちゃけたナツミ、目つきの悪いマツリ……。 よく見るとスズネだけ外れていて、他の人はみな知り合いのようだが。
「あ、いた。 小春ーっ!」
今度はいきなり、聞きなれた別の声がやって来た。
……なによ、今日は忙しいわね! いいことじゃないの。
小春は矛盾を抱えながら振り返ると、店の中を雨子がこっちに向かって走ってきていた。 周りのテーブルを蹴とばしながら、いつものように慌ただしくバタバタと走ってくる。 落ち着きなさい、あなた。
「なんか、アマネが研究棟のまんなかで、寝てて!」
「え?!」
元気すぎる巫女のアマネが研究棟で寝てる? ……どういうこと? いきなりすぎて、意味わかんないんだけど。
そう思っていると、今度は横からナツミが会話に入ってくる。 話の流れを把握していないのか、よく分かってない言い方だ。
「研究棟? 私も、寝てるよ?」
「……へ?」
息を切らしてきた雨子が、きょとんとした顔でナツミを見る。
……研究棟で自分も寝てる? 何の話? ……ナツミの会話は、少しかみ合ってないように見える。
何かを誤解されたと思ったのか、ナツミはなぜか弁解するような口調になった。
「いや、だって、一気に人が増えて寝るとこないじゃん。 ……え、いや、私だけじゃなくて、結構寝てる人いるよ?」
恐らくナツミが話しているのは、夜寝る場所の話だろう。 今回の混乱で一気に人が増えたから、まだ寝る場所が無い人がいるのだ。 新しい建築は進んでいるが、それでも追いついてないらしい。 今回は特例として、公的な場所で寝てもいいよと許可が下りたのだ。
50年前にも、そういう話はあったらしい。 人がどんどん増えていくから、みんな寝る場所が無くて、ぐちゃぐちゃに眠っていたんだとか。
しかし、今アマネが寝てるのは、それとは違う。 真昼間に意味も無く、研究棟のど真ん中に寝ているという意味ではないのか?
雨子はもう面倒くさくなったようだ、話の流れを無視して、無理やり小春を引っ張っていった。
「……ちょっと、来て!」
腕をつかまれて、小春は引っ張られるようにテーブルから離れていく。 それを見て、ナツミが慌てたように立ち上がった。
「あ! さっきの鬼の話……」
「ちょっと待って、後でー!」
あぁ、鬼の話がぁっ!! ……面白そうだったのに……。
テーブルに残されたナツミは、不満そうにちゅうーっと口を尖らせた。
2人は店を出ていくと、廊下のようなところへと出ていった。 店は大きな建物の一部だったようだ。 岩で組まれた廊下が、長く向こうの方まで続いている。 このまま歩いていけば、別の店などにも繋がっているのだろうか。
廊下を走りながら、雨子が思い出したように聞いてきた。
「あ、ユメは、見つかった?」
夜に憶え屋に入るために、ユメに許可を取る……。 手分けしてユメを探していたのだが、どこを探しても見つけることができなかったのだ。
そんなことをしているうちに探し疲れて、小春は店で一休みしていたらしい。
「いや。 ……まったく、あの子、どこほっつき歩いてんのかしら」
ぶつくさとぼやきながら、小春は雨子と一緒に走っていく。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる