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第七章 鬼退治とお泊りパーティー
第72話 50年前の、石ころ!
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鬼探しを終えたユメグループは、『城』へと向かった。 そのまま城へと帰って、お泊りパーティーをするのだ。
城の辺りに来ると、別の人たちの姿が見えた。 残りのグループも鬼探しを終えて、ちょうど城のほうへと向かっているところのようだ。 ワイワイガヤガヤと、楽しそうに話しながら歩いているのが見える。
ユメグループが近づいていくと、何人かが気づいて振り返ってきた。
「あ! そっち、どうだった?」
「なんか、ユメの日記だったw」
「え? どういうこと?」
前を歩いていた歌子が、興味があるように振り返った。 ナツミは楽しそうに、前の集団へと合流していきながら話していく。
歌子グループも、夜半警備隊に追いかけ回されたりしたが、大丈夫だったみたいだ。 妹なども一緒に歩いて、他のグループの人と話しているのが見える。
……おや? でも小春の姿だけ、見えないみたいだ。
よく見ると、集団のずいぶん先で、一人でフラフラと歩いている。 どこかぼうっとした様子で、心ここにあらずといった感じだ。
生気の抜けたような顔をしているが、どうしたんだろう? 警備隊に追いかけ回されすぎて、疲れたんだろうか。
城の中では、お泊りパーティーが進んでいるようだった。
雨子が派手に宣伝したらしく、普段見ないような人たちも話を聞きつけてやって来ていた。 城の色んな部屋の中で、談笑したりご飯を食べたりしている。
鬼退治だけでなく、お泊りパーティーも盛り上がっているみたいだ。
雨子やホナミたちも、城の中にいた。 2人は鬼退治には来なかったが、先に城に来ていたらしい。
今は2人は談話室のような部屋にいて、なにか作業でもやってるみたいだ。
暖かい雰囲気の広い部屋では、周りには他の人もいて腰を落ち着けて話しているのが見える。
そんな中で、雨子は机に座って、せっせと筆を動かして文章を書いている。
これは、『雑誌』を作っているのだ。 自分たちが集めた情報をまとめて、それを発信出来たら楽しいだろうという、雨子の発案である。
作った雑誌は、色んな場所で売ってみるらしい。 人が良く通る場所で売るといいかも、など考えているのだ。
雨子が雑誌作りの作業をしていると、近くにホナミが来た。
「雨子ー。 一冊、作ったよ」
ホナミは机に近づいてくると、紙束を渡してくる。 ホナミも、一緒に雑誌作りをしていたようだ。
雨子はその紙束を受け取ると、中身を開いて眺め始めた。 ホナミは島の自然観光ツアーの雑誌を作ったらしい。 島の地形と、そこで採れる植物なんかの情報が、ホナミの語り口を添えて書かれてある。
雨子はふうむと探偵のように手を顎に当てながら、ペケを入れたり、線を引いたりし始めた。 文章の修正でもしているんだろうか。 雨子は昔、巫女としてたくさん勉強したから、こういうことは得意なんだろう。
ホナミは机のそばに立って、部屋の中をなんとなく眺《なが》めていると、小春が談話室に入ってきたのに気づいた。
「小春ー」
「……ん? あぁ」
小春は顔を上げると、挨拶するように適当に頷いた。
小春はやはりぼうっとしているようだ。 挨拶にもあまり反応せず、フラフラと歩いている。 そんなに激しく、警備隊の人たちに追いかけ回されたんだろうか?
小春は机の近くに来ると、その辺の床の上に座っていった。
よっこいしょと腰を下ろすと、はあとため息をつきながら、人生に疲れたおっさんのように背中を丸めてどこかを眺めている。 一体何があったんだろう。
部屋には、続けてスズネが入ってきた。 こちらはいつもの調子みたいだ。 夜なのに元気に、パタパタと足音を鳴らして走ってくる。
「よーっす! あ、雨子、雑誌作り、進んでる?」
「うん、順調だよ」
スズネはその場に来ると、机の上の一つの雑誌の原稿を手に取って、中身を見ていく。
「ほうほう。 ……ん? また、異国の情報、追加されたの?」
手元の雑誌の原稿には、相変わらず存在するんだかよく分からない異国の情報が、ぎっしりと書かれていた。 緑に覆われまくった土地、海の中に沈んだ街とそこでなぜか生きている人々……。
おぉ、真偽はともかく、内容は面白そうじゃん。 雨子のしゃべり口調がそのまま文字にされているから、文章も生き生きしてて楽しい。
雨子がぐわんと高速で首を回して、振り向いた。
「そうなの! また、いくつも追加されてね。 えーっと……」
そう言いながら、雨子は机の上の資料をごそごそと漁り始めた。 何か見せたい資料があるらしい。 机の上の石ころを手に取って、これだっけ、とか呟いている。
また『異国』の情報が、大量に追加されたのか。 ……雨子……。 その異国の情報って、やっぱり悪戯だと思うけどなあ。 まあいっか、これだけ楽しそうなんだしw 水を差すのも、野暮ってもんだ。 ははっ!w
話していると、大きな集団が部屋に入ってきた。 歌子にナツミ、ツムギちゃん……。 さっき城の近くにいた集団だ、部屋の中が一気に騒がしくなる。
まださっきの話で盛り上がっているようだ、特にナツミがゲラゲラと笑っているのが見える。
そんな中、雨子の机の近くには、別の人が来た。 さっきから部屋の中にいた人で、30代半ばほどに見える女の人だ。 一体誰だろう? 書類のようなものを手に持って、話しかけてくる。
「スズネ! 50年前の記録、見つかったんだけど、どこにあったの? ……ほら、未来の予測を書いてたってやつ。 前に研究所に、ユメが探しに来た……」
スズネはそれを聞いて、昔のことを思い出していく。
……えーっと、アマネと一緒に未来研究所に行って、積み重なった紙をぐちゃぐちゃにした時だっけ。
あぁ、そんなこともあったな……。 異国文字の手信号なんかも、開発したりもしてたような気がする。 あれからずいぶん時間がたったなあ。
気づけば目の前にいる人は、その時の研究員の人だった。 30代に見えるのに、60代の女の人だ。
50年前の人たちが、未来を予測した記録……。 ユメはそれを探すために、未来研究所に行ったんだったっけ。 アマネと一緒に探したけど、結局見つからなかったやつだ。
……で、それが今になって見つかった?
「え? ……見つかったんですか?」
そう呟きながら、私は差し出された紙束を受け取っていった。 目を落として、ぺらりとめくって読んでみる。
おっ、最近街で建てられているような建物のデザインが、ずらっと並んでる! 大きく作られた歌どころみたいな建物に、複雑に組み上げられた研究棟の建物……。
そうか、これが50年前の未来予測の書類で、あの時、ユメは見たがってたものなのか。
50年前に、既にアイデアは考えられていたんだ。 当時は技術の問題とかで、建設をやめてたんだろう。 今になって技術が整って、ようやく実際に街に作り始めたってことなのかな。
前に話した時にぼそっと言ってたんだけど、ユメって、近頃の発展しない街にイライラしているみたいなんだよね。 発展してる街の様子を、昔のでもいいから見たかったのかな。
確かにこれを読んでるだけでワクワクしてくるし、当時の活気に満ちた雰囲気が伝わってくる。
そう思いながらページをめくると、今度は別のものが目に入った。
ページ一面に、漢字の文章がずらっと書かれてる。 うわ、文字バッカっ! くぅーっっ! 目が痛いっ!w
内容は……なになに? 『破滅的なこの街の未来』……?
「あれ、それヨウが書いたやつじゃん。 まだあるんだ」
いきなり、声が近くで聞こえた。 振り返ると、軽い調子のススキが書類を覗き込んできていた。
……え? 大陸出身のヨウさんが書いた? この『破滅的な未来』の論文を?
横にいる研究員の人も、よく分からないみたいだ。 眉をひそめて、え? みたいな感じでぽかんと口を開けている。
ススキは近くの椅子にドサッと座りながら、説明を加えた。
「ほらヨウがこないだ、石ころに書いたやつ。 ……あれ、でも漢字じゃなくて、例の文字で書いたけど」
「あぁ、そっか! あの時のか」
研究員はそれを聞いて、思いついたように声を上げた。
50年前、この街が発達し始めたころに、冒険隊が次々に出発していった。
私――未来研究所の研究員は、この島の出身ではなく、別の場所で生まれ育った。 冒険隊がこの島に戻る時、私たちも一緒にこの島に移り住んできた。 大陸から戻ってきたススキやヨウたちとも、この島に来て知り合ったのだ。
この街を、いかに発展させていくか……。 それをテーマにして、日々私たちは議論しまくった。
『異国文字』というのは、その時にススキとヨウが2人で発明したものだ。 漢字はこの島の言語には合わないからと言って、別の文字を遊びで発明したのだ。
そしてこの文字を使って、色んなことを石ころに書くというのが、私たちの中で流行ったことがあったのだ。 紙は、使う用事が他にいくらでもあるし、ぶっちゃけ作るのが面倒だったしw
適当にその辺で拾ってきた石ころに、日記を書いてみたり、空想の『異国』のことを書いてみたり……。 幽霊の人たちにもせがまれて、色々書き残したっけ。
歌子ちゃんたちが洞窟で見つけた石ころというのは、その時のものだろう。 中にはススキが考えた、空想の『異国』のことが書かれてたというわけだ。
洞窟にあったのは、ススキが自分の分は保存したくて隠してたってことだろうか。 自分がいずれこの街に降霊されて、戻ってきた時のために……とか、あいつなら考えそうだなw
この『未来の破滅的な予測』に関する論文も同じだ。 これはその時期にヨウが書いたものだったから、紙ではなく石ころに書き残したんだった。
メモとして書いた他の石ころは、破棄したのかは知らない。 でも今になって見つかっているということは、誰かが島のどこかで、昔の石ころを拾ってきているんだろう。
そしてその『誰か』は、石ころに書かれてあった内容を、紙の書類に整理しなおして、城の中にこっそり置いていっている……。
……その『誰か』って、誰なんだろう?
「え、石ころ? ……文字?」
そんなことはスズネは知らない。 何のことやらといった表情で目をパチパチさせている。
その様子を見て、座っているススキが説明を続けた。
「あぁうん。 気まぐれで2人で文字作ったら、仲間うちで流行ってさw それで、未来の予測とか、空想とか、昔の日記とか、色々あることないこと……」
「えっ??! あなたが考えたんですか?」
突然、そばにいた雨子が大声を上げて立ち上がった。 勢いが良すぎて、がたっと椅子が倒れる。
ススキは平然とした顔で頷くと、向こうのほうに大声で呼びかけた。
「うん。 なあ、ヨウー!」
部屋の別のところに、ヨウがいるみたいだ。 見ると、別の人と話しているのが見える。
説明されても、雨子はまだ何が起こっているか分からないようだ。 いきなりすぎて、情報が頭に入ってこないみたいな顔だ。 突っ立って呆然としたまま、間抜けな声で聞く。
「え? じゃあ異国は?」
「……うん? あぁ、あれ、俺が空想で書いたやつだけど」
「えぇっっっっっ!!!!!!! ……そんなっ……」
雨子は断末魔のような叫び声をあげると、へなへなと体から力が抜けていった。 手に持っていた紙束が、ぼとっと床に落ちる。
うそだ……。 そんなことあるわけない。 だって、あれだけワクワクしたのにっ……!
「え? あれ、本当だと思ってたの?」
「はい……」
雨子は落胆した表情で、がっくりと肩を落とす。 そんな様子を見て、はははと、ススキが軽やかに笑った。 自分の想像に振り回された人がいて、愉快だといった感じだ。
これで、ようやく『文字の書かれた石ころ』の謎が解けた。 石ころや『異国文字』は、50年前の人たちが残した記録だったのだ。
歌子たちが発見してからは、現代でもメモ紙として使うようになった。 さらには、『石ころ改』を作るようになって、憶え屋なんかでも本格的に普及しだして……。
工夫を凝らして遊ぶ気持ちが、時代を超えて通じているようで楽しくなってくる。
未来研究所の研究員は、昔を懐かしむように話す。
「あぁ、思い出した。 そんなことも、あったな。 陸から一緒に来た人らでつるんでなぁ。 ……あ、そういえば、ヨウが考えた、この未来の破滅的な予想ってさ……」
「はあ?! あんたが考えたの? あれ」
今度は近くにいた小春が、びっくりするような大声を上げて会話に入ってきた。
……あぁ、小春、いたんだ。 静かすぎて、分からなかったよ。 そう思いながら、スズネは振り向く。
「小春、読んだの?」
「読んだわよ! なにあれ、なんであんなこと、言うのよ?!」
来たーっ!! 小春火山が、久しぶりに爆発したっ!! ぐわんぐわんと頭を振って、小春は血が上ったようにキレ散らかす。
破滅的な未来?! ふざけんじゃないわよ、この明るくて素晴らしい街が見えないのっ?!
しかしヨウは冷静だ。 いやぁ、当然のことを言ったまでだけど……。 そんな感じで、軽いノリで答える。
「うーん、だって普通に考えて……」
「普通って、何よ?! 私たちが、普通だっていうの?」
「いや、全然普通じゃないけどw」
幽霊の社会なんて、聞いたことがない。 大陸で生まれ育ったヨウにとっても、もちろんそうだ。
小春はため息まじりに話を続けた。
「まったく、そんなこと考えてどうすんのよ。 未来は、明るいのっ! 希望に向かって、私たちは、歩いてるのよっ!!」
そういって、小春は腰に手を当てて、びしっと指をどこかへ向けてみせる。
小春の言うことは、根拠が全くない。 言ってる内容は支離滅裂で、矛盾だらけだ。 自分でも言ってる通り、元気さだけで乗り切ってる感じがする。
しかし周りのみんなは楽しそうだ。 いいぞー、小春! フゥゥゥツッ!www 応援するみたいに、手を叩いて笑っている。
そんな様子を見て、ヨウも思わず笑って頷いた。
「そうかもなw」
そう言いながらも、ヨウは完全には納得してない感じだ。 言いたいことがあるけど、言葉を飲み込んだみたいに見える。
小春が拍手喝さいを浴びていると、別のほうから声がした。 見ると歌子だ、この場の楽しそうな雰囲気を見ながらやってくる。
「小春ー、服作るよ。 ……どうかした?」
「え? 何でもないわよ。 服作んのね、はいはい」
今日のお泊りパーティーでは、新しい服を作ろうという話にもなっているのだ。 もう夜は深いが、関係ねえぜっ!!! 一緒に服を作ろうぜ、イェェイっっ!!!!ww
「あれ、ユメは? ……さっき、いなかったっけ?」
スズネが一緒に行きかけて、気づいたように辺りを見回しながら言った。 部屋の中を見ると、ユメの姿だけが見えない。 一緒に服を作る予定だったんだけど……。
そんな様子に気づいて、近くにいたナツミが振り返った。 顔をしかめて、少し苦い顔になる。
「……あぁ、ちょっと、からかいすぎたかも」
やっちまった、という感じの悪戯小僧みたいな顔だ。 ナツミは持っていた紙をその辺に投げ捨てると、勢いよく歩きだし、部屋の外へと向かっていった。
城の辺りに来ると、別の人たちの姿が見えた。 残りのグループも鬼探しを終えて、ちょうど城のほうへと向かっているところのようだ。 ワイワイガヤガヤと、楽しそうに話しながら歩いているのが見える。
ユメグループが近づいていくと、何人かが気づいて振り返ってきた。
「あ! そっち、どうだった?」
「なんか、ユメの日記だったw」
「え? どういうこと?」
前を歩いていた歌子が、興味があるように振り返った。 ナツミは楽しそうに、前の集団へと合流していきながら話していく。
歌子グループも、夜半警備隊に追いかけ回されたりしたが、大丈夫だったみたいだ。 妹なども一緒に歩いて、他のグループの人と話しているのが見える。
……おや? でも小春の姿だけ、見えないみたいだ。
よく見ると、集団のずいぶん先で、一人でフラフラと歩いている。 どこかぼうっとした様子で、心ここにあらずといった感じだ。
生気の抜けたような顔をしているが、どうしたんだろう? 警備隊に追いかけ回されすぎて、疲れたんだろうか。
城の中では、お泊りパーティーが進んでいるようだった。
雨子が派手に宣伝したらしく、普段見ないような人たちも話を聞きつけてやって来ていた。 城の色んな部屋の中で、談笑したりご飯を食べたりしている。
鬼退治だけでなく、お泊りパーティーも盛り上がっているみたいだ。
雨子やホナミたちも、城の中にいた。 2人は鬼退治には来なかったが、先に城に来ていたらしい。
今は2人は談話室のような部屋にいて、なにか作業でもやってるみたいだ。
暖かい雰囲気の広い部屋では、周りには他の人もいて腰を落ち着けて話しているのが見える。
そんな中で、雨子は机に座って、せっせと筆を動かして文章を書いている。
これは、『雑誌』を作っているのだ。 自分たちが集めた情報をまとめて、それを発信出来たら楽しいだろうという、雨子の発案である。
作った雑誌は、色んな場所で売ってみるらしい。 人が良く通る場所で売るといいかも、など考えているのだ。
雨子が雑誌作りの作業をしていると、近くにホナミが来た。
「雨子ー。 一冊、作ったよ」
ホナミは机に近づいてくると、紙束を渡してくる。 ホナミも、一緒に雑誌作りをしていたようだ。
雨子はその紙束を受け取ると、中身を開いて眺め始めた。 ホナミは島の自然観光ツアーの雑誌を作ったらしい。 島の地形と、そこで採れる植物なんかの情報が、ホナミの語り口を添えて書かれてある。
雨子はふうむと探偵のように手を顎に当てながら、ペケを入れたり、線を引いたりし始めた。 文章の修正でもしているんだろうか。 雨子は昔、巫女としてたくさん勉強したから、こういうことは得意なんだろう。
ホナミは机のそばに立って、部屋の中をなんとなく眺《なが》めていると、小春が談話室に入ってきたのに気づいた。
「小春ー」
「……ん? あぁ」
小春は顔を上げると、挨拶するように適当に頷いた。
小春はやはりぼうっとしているようだ。 挨拶にもあまり反応せず、フラフラと歩いている。 そんなに激しく、警備隊の人たちに追いかけ回されたんだろうか?
小春は机の近くに来ると、その辺の床の上に座っていった。
よっこいしょと腰を下ろすと、はあとため息をつきながら、人生に疲れたおっさんのように背中を丸めてどこかを眺めている。 一体何があったんだろう。
部屋には、続けてスズネが入ってきた。 こちらはいつもの調子みたいだ。 夜なのに元気に、パタパタと足音を鳴らして走ってくる。
「よーっす! あ、雨子、雑誌作り、進んでる?」
「うん、順調だよ」
スズネはその場に来ると、机の上の一つの雑誌の原稿を手に取って、中身を見ていく。
「ほうほう。 ……ん? また、異国の情報、追加されたの?」
手元の雑誌の原稿には、相変わらず存在するんだかよく分からない異国の情報が、ぎっしりと書かれていた。 緑に覆われまくった土地、海の中に沈んだ街とそこでなぜか生きている人々……。
おぉ、真偽はともかく、内容は面白そうじゃん。 雨子のしゃべり口調がそのまま文字にされているから、文章も生き生きしてて楽しい。
雨子がぐわんと高速で首を回して、振り向いた。
「そうなの! また、いくつも追加されてね。 えーっと……」
そう言いながら、雨子は机の上の資料をごそごそと漁り始めた。 何か見せたい資料があるらしい。 机の上の石ころを手に取って、これだっけ、とか呟いている。
また『異国』の情報が、大量に追加されたのか。 ……雨子……。 その異国の情報って、やっぱり悪戯だと思うけどなあ。 まあいっか、これだけ楽しそうなんだしw 水を差すのも、野暮ってもんだ。 ははっ!w
話していると、大きな集団が部屋に入ってきた。 歌子にナツミ、ツムギちゃん……。 さっき城の近くにいた集団だ、部屋の中が一気に騒がしくなる。
まださっきの話で盛り上がっているようだ、特にナツミがゲラゲラと笑っているのが見える。
そんな中、雨子の机の近くには、別の人が来た。 さっきから部屋の中にいた人で、30代半ばほどに見える女の人だ。 一体誰だろう? 書類のようなものを手に持って、話しかけてくる。
「スズネ! 50年前の記録、見つかったんだけど、どこにあったの? ……ほら、未来の予測を書いてたってやつ。 前に研究所に、ユメが探しに来た……」
スズネはそれを聞いて、昔のことを思い出していく。
……えーっと、アマネと一緒に未来研究所に行って、積み重なった紙をぐちゃぐちゃにした時だっけ。
あぁ、そんなこともあったな……。 異国文字の手信号なんかも、開発したりもしてたような気がする。 あれからずいぶん時間がたったなあ。
気づけば目の前にいる人は、その時の研究員の人だった。 30代に見えるのに、60代の女の人だ。
50年前の人たちが、未来を予測した記録……。 ユメはそれを探すために、未来研究所に行ったんだったっけ。 アマネと一緒に探したけど、結局見つからなかったやつだ。
……で、それが今になって見つかった?
「え? ……見つかったんですか?」
そう呟きながら、私は差し出された紙束を受け取っていった。 目を落として、ぺらりとめくって読んでみる。
おっ、最近街で建てられているような建物のデザインが、ずらっと並んでる! 大きく作られた歌どころみたいな建物に、複雑に組み上げられた研究棟の建物……。
そうか、これが50年前の未来予測の書類で、あの時、ユメは見たがってたものなのか。
50年前に、既にアイデアは考えられていたんだ。 当時は技術の問題とかで、建設をやめてたんだろう。 今になって技術が整って、ようやく実際に街に作り始めたってことなのかな。
前に話した時にぼそっと言ってたんだけど、ユメって、近頃の発展しない街にイライラしているみたいなんだよね。 発展してる街の様子を、昔のでもいいから見たかったのかな。
確かにこれを読んでるだけでワクワクしてくるし、当時の活気に満ちた雰囲気が伝わってくる。
そう思いながらページをめくると、今度は別のものが目に入った。
ページ一面に、漢字の文章がずらっと書かれてる。 うわ、文字バッカっ! くぅーっっ! 目が痛いっ!w
内容は……なになに? 『破滅的なこの街の未来』……?
「あれ、それヨウが書いたやつじゃん。 まだあるんだ」
いきなり、声が近くで聞こえた。 振り返ると、軽い調子のススキが書類を覗き込んできていた。
……え? 大陸出身のヨウさんが書いた? この『破滅的な未来』の論文を?
横にいる研究員の人も、よく分からないみたいだ。 眉をひそめて、え? みたいな感じでぽかんと口を開けている。
ススキは近くの椅子にドサッと座りながら、説明を加えた。
「ほらヨウがこないだ、石ころに書いたやつ。 ……あれ、でも漢字じゃなくて、例の文字で書いたけど」
「あぁ、そっか! あの時のか」
研究員はそれを聞いて、思いついたように声を上げた。
50年前、この街が発達し始めたころに、冒険隊が次々に出発していった。
私――未来研究所の研究員は、この島の出身ではなく、別の場所で生まれ育った。 冒険隊がこの島に戻る時、私たちも一緒にこの島に移り住んできた。 大陸から戻ってきたススキやヨウたちとも、この島に来て知り合ったのだ。
この街を、いかに発展させていくか……。 それをテーマにして、日々私たちは議論しまくった。
『異国文字』というのは、その時にススキとヨウが2人で発明したものだ。 漢字はこの島の言語には合わないからと言って、別の文字を遊びで発明したのだ。
そしてこの文字を使って、色んなことを石ころに書くというのが、私たちの中で流行ったことがあったのだ。 紙は、使う用事が他にいくらでもあるし、ぶっちゃけ作るのが面倒だったしw
適当にその辺で拾ってきた石ころに、日記を書いてみたり、空想の『異国』のことを書いてみたり……。 幽霊の人たちにもせがまれて、色々書き残したっけ。
歌子ちゃんたちが洞窟で見つけた石ころというのは、その時のものだろう。 中にはススキが考えた、空想の『異国』のことが書かれてたというわけだ。
洞窟にあったのは、ススキが自分の分は保存したくて隠してたってことだろうか。 自分がいずれこの街に降霊されて、戻ってきた時のために……とか、あいつなら考えそうだなw
この『未来の破滅的な予測』に関する論文も同じだ。 これはその時期にヨウが書いたものだったから、紙ではなく石ころに書き残したんだった。
メモとして書いた他の石ころは、破棄したのかは知らない。 でも今になって見つかっているということは、誰かが島のどこかで、昔の石ころを拾ってきているんだろう。
そしてその『誰か』は、石ころに書かれてあった内容を、紙の書類に整理しなおして、城の中にこっそり置いていっている……。
……その『誰か』って、誰なんだろう?
「え、石ころ? ……文字?」
そんなことはスズネは知らない。 何のことやらといった表情で目をパチパチさせている。
その様子を見て、座っているススキが説明を続けた。
「あぁうん。 気まぐれで2人で文字作ったら、仲間うちで流行ってさw それで、未来の予測とか、空想とか、昔の日記とか、色々あることないこと……」
「えっ??! あなたが考えたんですか?」
突然、そばにいた雨子が大声を上げて立ち上がった。 勢いが良すぎて、がたっと椅子が倒れる。
ススキは平然とした顔で頷くと、向こうのほうに大声で呼びかけた。
「うん。 なあ、ヨウー!」
部屋の別のところに、ヨウがいるみたいだ。 見ると、別の人と話しているのが見える。
説明されても、雨子はまだ何が起こっているか分からないようだ。 いきなりすぎて、情報が頭に入ってこないみたいな顔だ。 突っ立って呆然としたまま、間抜けな声で聞く。
「え? じゃあ異国は?」
「……うん? あぁ、あれ、俺が空想で書いたやつだけど」
「えぇっっっっっ!!!!!!! ……そんなっ……」
雨子は断末魔のような叫び声をあげると、へなへなと体から力が抜けていった。 手に持っていた紙束が、ぼとっと床に落ちる。
うそだ……。 そんなことあるわけない。 だって、あれだけワクワクしたのにっ……!
「え? あれ、本当だと思ってたの?」
「はい……」
雨子は落胆した表情で、がっくりと肩を落とす。 そんな様子を見て、はははと、ススキが軽やかに笑った。 自分の想像に振り回された人がいて、愉快だといった感じだ。
これで、ようやく『文字の書かれた石ころ』の謎が解けた。 石ころや『異国文字』は、50年前の人たちが残した記録だったのだ。
歌子たちが発見してからは、現代でもメモ紙として使うようになった。 さらには、『石ころ改』を作るようになって、憶え屋なんかでも本格的に普及しだして……。
工夫を凝らして遊ぶ気持ちが、時代を超えて通じているようで楽しくなってくる。
未来研究所の研究員は、昔を懐かしむように話す。
「あぁ、思い出した。 そんなことも、あったな。 陸から一緒に来た人らでつるんでなぁ。 ……あ、そういえば、ヨウが考えた、この未来の破滅的な予想ってさ……」
「はあ?! あんたが考えたの? あれ」
今度は近くにいた小春が、びっくりするような大声を上げて会話に入ってきた。
……あぁ、小春、いたんだ。 静かすぎて、分からなかったよ。 そう思いながら、スズネは振り向く。
「小春、読んだの?」
「読んだわよ! なにあれ、なんであんなこと、言うのよ?!」
来たーっ!! 小春火山が、久しぶりに爆発したっ!! ぐわんぐわんと頭を振って、小春は血が上ったようにキレ散らかす。
破滅的な未来?! ふざけんじゃないわよ、この明るくて素晴らしい街が見えないのっ?!
しかしヨウは冷静だ。 いやぁ、当然のことを言ったまでだけど……。 そんな感じで、軽いノリで答える。
「うーん、だって普通に考えて……」
「普通って、何よ?! 私たちが、普通だっていうの?」
「いや、全然普通じゃないけどw」
幽霊の社会なんて、聞いたことがない。 大陸で生まれ育ったヨウにとっても、もちろんそうだ。
小春はため息まじりに話を続けた。
「まったく、そんなこと考えてどうすんのよ。 未来は、明るいのっ! 希望に向かって、私たちは、歩いてるのよっ!!」
そういって、小春は腰に手を当てて、びしっと指をどこかへ向けてみせる。
小春の言うことは、根拠が全くない。 言ってる内容は支離滅裂で、矛盾だらけだ。 自分でも言ってる通り、元気さだけで乗り切ってる感じがする。
しかし周りのみんなは楽しそうだ。 いいぞー、小春! フゥゥゥツッ!www 応援するみたいに、手を叩いて笑っている。
そんな様子を見て、ヨウも思わず笑って頷いた。
「そうかもなw」
そう言いながらも、ヨウは完全には納得してない感じだ。 言いたいことがあるけど、言葉を飲み込んだみたいに見える。
小春が拍手喝さいを浴びていると、別のほうから声がした。 見ると歌子だ、この場の楽しそうな雰囲気を見ながらやってくる。
「小春ー、服作るよ。 ……どうかした?」
「え? 何でもないわよ。 服作んのね、はいはい」
今日のお泊りパーティーでは、新しい服を作ろうという話にもなっているのだ。 もう夜は深いが、関係ねえぜっ!!! 一緒に服を作ろうぜ、イェェイっっ!!!!ww
「あれ、ユメは? ……さっき、いなかったっけ?」
スズネが一緒に行きかけて、気づいたように辺りを見回しながら言った。 部屋の中を見ると、ユメの姿だけが見えない。 一緒に服を作る予定だったんだけど……。
そんな様子に気づいて、近くにいたナツミが振り返った。 顔をしかめて、少し苦い顔になる。
「……あぁ、ちょっと、からかいすぎたかも」
やっちまった、という感じの悪戯小僧みたいな顔だ。 ナツミは持っていた紙をその辺に投げ捨てると、勢いよく歩きだし、部屋の外へと向かっていった。
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