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第九章 未来へ
第92話 動く箱に乗って、スズネが200年前に行くぜっ!
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街の中では、新たな混乱が起きて慌ただしくなっていた。 道のあちこちで人が歩き回っていて、安全確認をしたり、新たな人たちを誘導している様子が見られる。
前回の混乱の時は山や森などがほとんどだったが、なんと今回は街の中にも新しい人たちが現れているらしい。 古い格好をした人が建物から出てきて、不思議そうな顔で辺りを見回す姿がそこらにある。
混乱の仕組みはいまだに分かってないが、自然現象は予測がつかないものだ。
街の中で混乱の処理にあたっている人の中には、スズネの姿もあった。 街の階段の途中に立って、古い格好の人たちを目の前にして説明しているようだ。
どうでもいいが、スズネの服装が新しくなっている。 未来っぽくなっていて、首の後ろにはフードみたいなものまでくっつけているみたいだ。 よく見ると、髪の毛を束ねる糸もリボンっぽいものに変わっている。 スズネらしくて、すごく似合っている。
説明を終えたスズネは、去っていく新しい人たちの背中を見届けると、汗をぬぐった。
「ふー。 ……今回は、街中にもいるのか」
「スズネ!」
説明を終えて一息ついていると、背後から自分を呼ぶ声が聞こえた。 振り返ると、一族のハナが階段を駆け上がってきていた。
ハナもさっきから、処理するのを手伝ってるんだよね。 こんな混乱なんだし、みんなで対処しなきゃいけないって言っててさ。
……あれ? でも、走ってくるハナの表情は妙に切迫している。 どうしたんだろう?
「ハナ。 どうした?」
「ねえ、ソラちゃんが、また死ぬつもりって、本当?」
「え?!」
スズネはびっくりして、思わず大声を上げる。 なにそれ。 ……どういうこと? ……ソラが、また死ぬ?
いや! ちょっと待て、私。 聞いた話では、一族のハナは思い込みが激しい子だということだった。 もしかしたら、違う情報を間違えて考えてしまった可能性がある。
おぉ……。 いいじゃん私、いい感じに冷静じゃん。 そうそう、ここは私が落ち着いて、情報をさばいてあげないと。 かっけぇぇぇっっ私っ!!ww フゥゥッッッ!!!!wwwww
「なんで? ……え? 何かあったの?」
「城に、書置きがあって。 『生きられて楽しかった、満足!』って。 ……あ、スズネっ!」
私は聞き終わらずに、思わず走り出していた。 ……ソラ、どうして?
楽しかったから、満足って……。 それってまた、自分から死ぬってこと? ねえソラ、なんでそんなこと言うの?
ソラは、いつもどこにいるか分からない。 いつどこで生きてるかも分からないし、どんな姿かたちをしているかも分からない。 最近では街にいないという噂まであって、存在さえもはっきりしない。
その書置きというのも、もう何のことなのかは分からない。
だけど、そんなの関係ねえっ!
ソラ、もう死なないでよ。 私はソラのことなんて、全然知らないし分からない。 だけど、私は生きて欲しいんだっ!
私は頭がぐちゃぐちゃになりながら、近くにあった地下への入り口に飛び込んでいった。 下の方へと続いていく階段を、急いで駆け下りていく。
階段を下りきると、今度は人の往来が多い場所に出た。 すごく広い通路のような場所に多くの人が歩いていて、まるで祭りがおこなわれている場所みたいだ。
私はその中を、人をよけながら素早く歩き始めた。
ソラがいるのは200年前だ。 ソラが昔、海に飛び降りたという場所にいるんだ。 なぜだか分からないけど、私には確信がある。
私はこれから200年前に行く。 自分が昔生きていた、でも自殺してしまったあの場所に行く。
今まであそこにだけは行かなかったけど、ソラのためならしょうがない。 行って、今度こそソラを助けよう。 そしてソラに会って、面と向かって文句を言ってやる。
私は義憤のようなものにかられながら、足をズンズンと動かした。
……でも、足を進めるごとに、ほんの少しずつ嫌な気分がしてくる。 嫌な記憶の断片が、パラパラと頭の中をかすめていく。
あの時代の、不快さに覆われた世界の空気が、じんわりと私に迫ってくるようだ。
自分が嫌いだった、昔の世界に行くからだろうか?
……昔のことなんて終わったと思ってたのに、なんでこんなに嫌な気持ちになるんだろう。
ふと見ると、向こうの方から見知った人たちが歩いてきていた。 さっき500年前で山の中を一緒に歩いた、創始者のアキカゼさんたちだ。
人探しの上手い図書館司書のアワさんとか、第3病院の弥生ちゃんなんかが一緒にいるみたいだ。 混乱が起こったと聞いて、500年前から現代に戻ってきたところだろう。
会話がはずんでいるようで、先頭で弥生ちゃんがはしゃいでいる。
「あ! じゃあ、アワさんと一緒に、祭りの最初に踊ればいいじゃん! アワ~↑♪ 愛してる~↑↑♪ とか言ってさ」
見た感じ、今度の祭りの話をしているみたいだ。 話が盛り上がっていて、みんな楽しそうだ。 アキカゼさんが、苦々しい顔で切り捨てるように言い返している。
「やだよ、そんなの、恥ずかしい」
「えー、私は、別にいいけど」
横からアワさんが、口をとがらせるようにして反論している。
確かこの2人は、結婚しているような関係だと聞いた。 祭りの中で、街の代表の一部として踊りを踊るってアイデアってことだろうか。
その話している3人の横には、端っこにタンポポの姿もあった。 弥生ちゃんは祭りでタンポポがどう過ごすか気になったのか、今度はタンポポに聞いている。
「あ! ねえ、タンポポちゃんは、去年何やってたの?」
「……私は、ずっと部屋にいたから……」
「えー! もう、みんな、暗いなあ」
4人の会話は盛り上がって、すごく楽しそうだ。 私は淡々と歩き続けて、背中のフードを頭に被せていった。
なぜかは分からないけど、今は誰とも顔を合わせたくない。
私はまっすぐに歩き続けて、4人のほうは全く見ずに進んでいく。 やがて横に近づいてきて、すれ違っていった。 みんなの声が大きくなったかと思うと、少しずつ小さくなっていく。
……よし、誰も気づいてない。 別に気づかれたって、何かあるわけじゃない。 だけど、なんとなく喋りたくないと思ってしまった。
そのまま歩くと、目の前にはさらに下へと続く階段が見えてきた。 私はその階段に入って駆け下りながら、フードを外していく。
階段を降りると、そこにも広い空間が広がっていた。 ここも広くて長い通路のような場所だ。
しかし、ここは少し様子が違った。 広い通路をはさむようにして、両側に大きくて長い箱のようなものが置かれている。
箱は石で作られていて、ところどころには人が入るための入り口があった。
これに乗って、時代を行き来するんだ。 箱が動いて、別の時代に連れて行ってくれるんだよ。 すごいでしょ。
私が階段を下りていると、ちょうど出発の合図の音が鳴り響いた。 私は急いで近づいていき、入り口に飛び込んでいく。 中に入ると、すぐに箱は動きだした。
箱の中には、人がいくらかいた。 中には座るための座席が長く伸びていて、並んで座れるようになっている。
壁には穴が開いて窓が作られていて、外の景色がきれいに見える。 座っている人々は眠ったり、外を眺めたりしてくつろいでいるようだ。
別の時代に着くまで少し時間がかかるから、みんなこうやって適当に時間をすごして待つんだ。
私は箱の中を歩いていくと、隅っこの座席に向かっていった。
この大きくて長い箱は、いくつかの箱が、連結するようにして作られている。 小さな箱どうしは入り口みたいなもので繋がっていて、動いている間にも行き来できるようになっている。
私は箱の端に来ると、石でできた座席に腰を下ろしていった。 この隅っこの辺りって、なんか落ち着くんだよね。 片方が壁で遮られてるからかな。
私はほうと息を吐いて、前の方をぼんやりと眺める。
箱は、前に進むと同時に左右に少し揺れていく。 不安定にガタガタと、小さな振動が伝わってくる。
揺れるリズムに身を任せて、私は体から力を抜いてみる。 ガタンゴトン、ガタンゴトン……。 速度が上がるにつれて、揺れはどんどん規則的になっていく。
風が、私の髪の毛を揺らした。 箱が動いていくのにつれて、窓から風が入ってくるのだ。
外を見ると、街の景色がきれいに見えた。 日はもう暮れかけていて、夕日がオレンジ色に光り輝いている。 まぶしい夕日の光が窓から入ってきて、辺りの座席や壁を明るく照らしていく。
景色に目をやっていた私は、ふと思い出したことがあって、腕を持ち上げていった。 髪を後ろで束ねていたリボンを外して、目の前に持ってきて両手に広げてみる。
これは、髪飾りと同じように通信用の小道具だ。 リボンに文字を書きこむと、相手のにも伝わって、文字が光って浮かび上がるという仕組みなのだ。
でも、今は文字は何も書かれていなかった。
このリボンは、他にも何人か持ってる人もいるんだけど、少し使いづらい。
着信を音で知らせてくれたりするわけじゃないから、いつ通信が来たのか分からないんだw 気づいたら伝言が来てるんだけど、1日前だったりして意味が無かったりする。
……なんで、今これを見たくなったんだろう? もしかして、一人で200年前に行くのに不安になっているのかな。
私は少しの間、何も書かれていないリボンを見つめていたが、やがてどうでもよくなり、見るのをやめていった。
反対側の窓を見ると、奥の景色が変わっていくのが見えた。 振動に揺れながら、箱の中の空気が少しずつ移り変わっていくのを感じる。
景色が移動するのに従い、ちらりと夕日の光が視界に入ってきた。 ……そうだ、いま何時だろう。 私は腕を持ち上げて、再び目を落とす。
私の手首には、腕輪のようなものがしてあった。 輪っかには円盤みたいなものがついていて、これで時間が確認できるんだ。
円盤の中には中心に突起があり、日向と日陰になっている部分に分かれている。 ミニチュア版の日時計って感じだ。
見ると、今は午後5時だった。 もう、日が沈むな。
しばらくすると、箱の中はさらに暗くなっていった。 徐々に辺りを照らしていた夕日の光が消えて、薄暗い場所が増えていく。
しかし、妙な感じだ。 まだ夕日は残っているのに、なぜだか変に暗い空気が満ちているように感じる。
ただ明かりが少なくなっていくのではなく、何か別の暗さが箱の中に入り込んできているようだ。 床に、壁に、外の景色に、不純なような、毒々しいものが混じり始めている。
それにつられるようにして、気分も暗く、陰鬱なものになっていく。
ふと、別のところから叫ぶような声が聞こえた。 荒々しく、激しい声だ。 隣に連結している箱の中からのようだ。 私は座ったまま顔を出して、ちらっと隣の箱の中を覗いてみる。
どうやらその箱の中では、数人が言い争っているようだった。
「なんだてめえ、やんのか!」
「上等だよ、この野郎!」
何の騒ぎかは知らないが、人々が言い争っている。 男たちが互いに胸倉をつかんで、通路の中で暴れていた。 あと少しで200年前に着くから、そこに行く人たちだろうか。
男たちが暴れているところに、近くにいた女も怒ったように入ってくる。
「ちょっと、やめてよ! あんたが、謝ればよかったのよ!」
「うるせえよ、てめえは黙ってろ!」
そんなことを言って突き飛ばし、もみ合いのけんかに発展している。 感情と攻撃性が先走っていて、まるで理性を感じられない。
近くの人まで入ってきて、喧嘩はさらに激しく、泥沼の様相になっていっている。
私は隣の箱で、その様子を静かに眺める。
……なんで、あんなことをするんだろう。 もっと静かに話し合って、解決すればいいのに。 こんな光景を見ると、ますますあの頃を思い出す。
陰からそっと見ていた私は、小さく息を吐いて、見るのをやめた。 黙って前を向き、座席に背中をあずけていく。
ぼんやりと目の前の床を見つめていると、まだ怒った声や人を殴る音が聞こえてくる。 喧嘩は止む気配がなく、延々と続いていくようだ。
私は考えるのをやめて、周りの環境に身を任せた。 耳に入ってくる音を消さず、嫌がらず……。
やがて、周囲の音が気にならなくなってきた。 すべての音の輪郭が失われて互いにぐちゃぐちゃになり、善し悪しの意味の境界もあいまいになっていく。
そうして静かにただ世界の音を聞きながら、私は目を閉じた。
前回の混乱の時は山や森などがほとんどだったが、なんと今回は街の中にも新しい人たちが現れているらしい。 古い格好をした人が建物から出てきて、不思議そうな顔で辺りを見回す姿がそこらにある。
混乱の仕組みはいまだに分かってないが、自然現象は予測がつかないものだ。
街の中で混乱の処理にあたっている人の中には、スズネの姿もあった。 街の階段の途中に立って、古い格好の人たちを目の前にして説明しているようだ。
どうでもいいが、スズネの服装が新しくなっている。 未来っぽくなっていて、首の後ろにはフードみたいなものまでくっつけているみたいだ。 よく見ると、髪の毛を束ねる糸もリボンっぽいものに変わっている。 スズネらしくて、すごく似合っている。
説明を終えたスズネは、去っていく新しい人たちの背中を見届けると、汗をぬぐった。
「ふー。 ……今回は、街中にもいるのか」
「スズネ!」
説明を終えて一息ついていると、背後から自分を呼ぶ声が聞こえた。 振り返ると、一族のハナが階段を駆け上がってきていた。
ハナもさっきから、処理するのを手伝ってるんだよね。 こんな混乱なんだし、みんなで対処しなきゃいけないって言っててさ。
……あれ? でも、走ってくるハナの表情は妙に切迫している。 どうしたんだろう?
「ハナ。 どうした?」
「ねえ、ソラちゃんが、また死ぬつもりって、本当?」
「え?!」
スズネはびっくりして、思わず大声を上げる。 なにそれ。 ……どういうこと? ……ソラが、また死ぬ?
いや! ちょっと待て、私。 聞いた話では、一族のハナは思い込みが激しい子だということだった。 もしかしたら、違う情報を間違えて考えてしまった可能性がある。
おぉ……。 いいじゃん私、いい感じに冷静じゃん。 そうそう、ここは私が落ち着いて、情報をさばいてあげないと。 かっけぇぇぇっっ私っ!!ww フゥゥッッッ!!!!wwwww
「なんで? ……え? 何かあったの?」
「城に、書置きがあって。 『生きられて楽しかった、満足!』って。 ……あ、スズネっ!」
私は聞き終わらずに、思わず走り出していた。 ……ソラ、どうして?
楽しかったから、満足って……。 それってまた、自分から死ぬってこと? ねえソラ、なんでそんなこと言うの?
ソラは、いつもどこにいるか分からない。 いつどこで生きてるかも分からないし、どんな姿かたちをしているかも分からない。 最近では街にいないという噂まであって、存在さえもはっきりしない。
その書置きというのも、もう何のことなのかは分からない。
だけど、そんなの関係ねえっ!
ソラ、もう死なないでよ。 私はソラのことなんて、全然知らないし分からない。 だけど、私は生きて欲しいんだっ!
私は頭がぐちゃぐちゃになりながら、近くにあった地下への入り口に飛び込んでいった。 下の方へと続いていく階段を、急いで駆け下りていく。
階段を下りきると、今度は人の往来が多い場所に出た。 すごく広い通路のような場所に多くの人が歩いていて、まるで祭りがおこなわれている場所みたいだ。
私はその中を、人をよけながら素早く歩き始めた。
ソラがいるのは200年前だ。 ソラが昔、海に飛び降りたという場所にいるんだ。 なぜだか分からないけど、私には確信がある。
私はこれから200年前に行く。 自分が昔生きていた、でも自殺してしまったあの場所に行く。
今まであそこにだけは行かなかったけど、ソラのためならしょうがない。 行って、今度こそソラを助けよう。 そしてソラに会って、面と向かって文句を言ってやる。
私は義憤のようなものにかられながら、足をズンズンと動かした。
……でも、足を進めるごとに、ほんの少しずつ嫌な気分がしてくる。 嫌な記憶の断片が、パラパラと頭の中をかすめていく。
あの時代の、不快さに覆われた世界の空気が、じんわりと私に迫ってくるようだ。
自分が嫌いだった、昔の世界に行くからだろうか?
……昔のことなんて終わったと思ってたのに、なんでこんなに嫌な気持ちになるんだろう。
ふと見ると、向こうの方から見知った人たちが歩いてきていた。 さっき500年前で山の中を一緒に歩いた、創始者のアキカゼさんたちだ。
人探しの上手い図書館司書のアワさんとか、第3病院の弥生ちゃんなんかが一緒にいるみたいだ。 混乱が起こったと聞いて、500年前から現代に戻ってきたところだろう。
会話がはずんでいるようで、先頭で弥生ちゃんがはしゃいでいる。
「あ! じゃあ、アワさんと一緒に、祭りの最初に踊ればいいじゃん! アワ~↑♪ 愛してる~↑↑♪ とか言ってさ」
見た感じ、今度の祭りの話をしているみたいだ。 話が盛り上がっていて、みんな楽しそうだ。 アキカゼさんが、苦々しい顔で切り捨てるように言い返している。
「やだよ、そんなの、恥ずかしい」
「えー、私は、別にいいけど」
横からアワさんが、口をとがらせるようにして反論している。
確かこの2人は、結婚しているような関係だと聞いた。 祭りの中で、街の代表の一部として踊りを踊るってアイデアってことだろうか。
その話している3人の横には、端っこにタンポポの姿もあった。 弥生ちゃんは祭りでタンポポがどう過ごすか気になったのか、今度はタンポポに聞いている。
「あ! ねえ、タンポポちゃんは、去年何やってたの?」
「……私は、ずっと部屋にいたから……」
「えー! もう、みんな、暗いなあ」
4人の会話は盛り上がって、すごく楽しそうだ。 私は淡々と歩き続けて、背中のフードを頭に被せていった。
なぜかは分からないけど、今は誰とも顔を合わせたくない。
私はまっすぐに歩き続けて、4人のほうは全く見ずに進んでいく。 やがて横に近づいてきて、すれ違っていった。 みんなの声が大きくなったかと思うと、少しずつ小さくなっていく。
……よし、誰も気づいてない。 別に気づかれたって、何かあるわけじゃない。 だけど、なんとなく喋りたくないと思ってしまった。
そのまま歩くと、目の前にはさらに下へと続く階段が見えてきた。 私はその階段に入って駆け下りながら、フードを外していく。
階段を降りると、そこにも広い空間が広がっていた。 ここも広くて長い通路のような場所だ。
しかし、ここは少し様子が違った。 広い通路をはさむようにして、両側に大きくて長い箱のようなものが置かれている。
箱は石で作られていて、ところどころには人が入るための入り口があった。
これに乗って、時代を行き来するんだ。 箱が動いて、別の時代に連れて行ってくれるんだよ。 すごいでしょ。
私が階段を下りていると、ちょうど出発の合図の音が鳴り響いた。 私は急いで近づいていき、入り口に飛び込んでいく。 中に入ると、すぐに箱は動きだした。
箱の中には、人がいくらかいた。 中には座るための座席が長く伸びていて、並んで座れるようになっている。
壁には穴が開いて窓が作られていて、外の景色がきれいに見える。 座っている人々は眠ったり、外を眺めたりしてくつろいでいるようだ。
別の時代に着くまで少し時間がかかるから、みんなこうやって適当に時間をすごして待つんだ。
私は箱の中を歩いていくと、隅っこの座席に向かっていった。
この大きくて長い箱は、いくつかの箱が、連結するようにして作られている。 小さな箱どうしは入り口みたいなもので繋がっていて、動いている間にも行き来できるようになっている。
私は箱の端に来ると、石でできた座席に腰を下ろしていった。 この隅っこの辺りって、なんか落ち着くんだよね。 片方が壁で遮られてるからかな。
私はほうと息を吐いて、前の方をぼんやりと眺める。
箱は、前に進むと同時に左右に少し揺れていく。 不安定にガタガタと、小さな振動が伝わってくる。
揺れるリズムに身を任せて、私は体から力を抜いてみる。 ガタンゴトン、ガタンゴトン……。 速度が上がるにつれて、揺れはどんどん規則的になっていく。
風が、私の髪の毛を揺らした。 箱が動いていくのにつれて、窓から風が入ってくるのだ。
外を見ると、街の景色がきれいに見えた。 日はもう暮れかけていて、夕日がオレンジ色に光り輝いている。 まぶしい夕日の光が窓から入ってきて、辺りの座席や壁を明るく照らしていく。
景色に目をやっていた私は、ふと思い出したことがあって、腕を持ち上げていった。 髪を後ろで束ねていたリボンを外して、目の前に持ってきて両手に広げてみる。
これは、髪飾りと同じように通信用の小道具だ。 リボンに文字を書きこむと、相手のにも伝わって、文字が光って浮かび上がるという仕組みなのだ。
でも、今は文字は何も書かれていなかった。
このリボンは、他にも何人か持ってる人もいるんだけど、少し使いづらい。
着信を音で知らせてくれたりするわけじゃないから、いつ通信が来たのか分からないんだw 気づいたら伝言が来てるんだけど、1日前だったりして意味が無かったりする。
……なんで、今これを見たくなったんだろう? もしかして、一人で200年前に行くのに不安になっているのかな。
私は少しの間、何も書かれていないリボンを見つめていたが、やがてどうでもよくなり、見るのをやめていった。
反対側の窓を見ると、奥の景色が変わっていくのが見えた。 振動に揺れながら、箱の中の空気が少しずつ移り変わっていくのを感じる。
景色が移動するのに従い、ちらりと夕日の光が視界に入ってきた。 ……そうだ、いま何時だろう。 私は腕を持ち上げて、再び目を落とす。
私の手首には、腕輪のようなものがしてあった。 輪っかには円盤みたいなものがついていて、これで時間が確認できるんだ。
円盤の中には中心に突起があり、日向と日陰になっている部分に分かれている。 ミニチュア版の日時計って感じだ。
見ると、今は午後5時だった。 もう、日が沈むな。
しばらくすると、箱の中はさらに暗くなっていった。 徐々に辺りを照らしていた夕日の光が消えて、薄暗い場所が増えていく。
しかし、妙な感じだ。 まだ夕日は残っているのに、なぜだか変に暗い空気が満ちているように感じる。
ただ明かりが少なくなっていくのではなく、何か別の暗さが箱の中に入り込んできているようだ。 床に、壁に、外の景色に、不純なような、毒々しいものが混じり始めている。
それにつられるようにして、気分も暗く、陰鬱なものになっていく。
ふと、別のところから叫ぶような声が聞こえた。 荒々しく、激しい声だ。 隣に連結している箱の中からのようだ。 私は座ったまま顔を出して、ちらっと隣の箱の中を覗いてみる。
どうやらその箱の中では、数人が言い争っているようだった。
「なんだてめえ、やんのか!」
「上等だよ、この野郎!」
何の騒ぎかは知らないが、人々が言い争っている。 男たちが互いに胸倉をつかんで、通路の中で暴れていた。 あと少しで200年前に着くから、そこに行く人たちだろうか。
男たちが暴れているところに、近くにいた女も怒ったように入ってくる。
「ちょっと、やめてよ! あんたが、謝ればよかったのよ!」
「うるせえよ、てめえは黙ってろ!」
そんなことを言って突き飛ばし、もみ合いのけんかに発展している。 感情と攻撃性が先走っていて、まるで理性を感じられない。
近くの人まで入ってきて、喧嘩はさらに激しく、泥沼の様相になっていっている。
私は隣の箱で、その様子を静かに眺める。
……なんで、あんなことをするんだろう。 もっと静かに話し合って、解決すればいいのに。 こんな光景を見ると、ますますあの頃を思い出す。
陰からそっと見ていた私は、小さく息を吐いて、見るのをやめた。 黙って前を向き、座席に背中をあずけていく。
ぼんやりと目の前の床を見つめていると、まだ怒った声や人を殴る音が聞こえてくる。 喧嘩は止む気配がなく、延々と続いていくようだ。
私は考えるのをやめて、周りの環境に身を任せた。 耳に入ってくる音を消さず、嫌がらず……。
やがて、周囲の音が気にならなくなってきた。 すべての音の輪郭が失われて互いにぐちゃぐちゃになり、善し悪しの意味の境界もあいまいになっていく。
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