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第九章 未来へ
第91話 ヨウの意志!
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歌子たちが歩いていた山からほど近いところには、川があった。 周囲には山が挟むようにして連なっていて、山の間を流れている川みたいだ。
そこにも数人、現代から来た人たちがいた。 500年前に遊びに来て、川のほとりで時間を潰しているようだ。
街は今日休みになったから、暇になってきたんだろう。 何人かがそれぞれ違うことをして、楽しんでいるのが見える。
ある所では、第3病院に勤めている元気すぎる弥生が、一人で水をバシャバシャと跳ねながら遊んでいるのが見える。 一人ではははと笑っていて、ちょっとヤバい感じの人に見えなくもない。
その近くには、マツリの姿なんかもある。 こちらは静かに川辺に座って、ボケっと何もしないで暇そうにしているみたいだ。
川辺には、何か作業をしているような人もいた。 別の地方出身の、軽い感じのススキが、大きな入れ物の前に立ってなにやら変な作業をしている。
見ると入れ物の中には大量に白いどろどろの液体が入っていて、石ころの入った網を沈めていっているようだ。
どうやらススキは、『石ころ改』を作っている最中らしい。 こうして白いものを塗った後に、天日干しにして乾かすのだ。
足元にはまだ大量の石ころがあるのを見ると、休みになった今日のうちにまとめて作ろうということだろうか。
石ころの入った網を引きあげると、どろどろの液体がぼたぼたと滴っていった。
「ふー!」
汗をぬぐいながら、ススキは爽やかな顔をする。 天気は晴れていて、周りを見ると緑で満たされているし、なかなか気持ちよさそうだ。
向こうの方に目を向けると、『破滅的な未来』の論文を書いた、大陸出身のヨウの姿もあるみたいだ。 ススキと仲がいいらしいから、一緒にここに来たんだろうか。
今は低くて広い大きな石の上に座り込んで、どこか遠くを眺めているみたいだ。 身動き一つしておらず、考え事をしているような様子でぼうっとしている。
川辺のマツリは、ぼんやりと暇をつぶしているようだった。 川岸の岩の上に座って、頬杖ついてむすっとした顔をしている。
はあ……。 やっぱりクールだな、俺。 休みの日に一人で川辺で過ごすなんて、最高にかっこいいじゃねえか。
耳をすませば川のせせらぎが聞こえてきて、野鳥の声が美しい。 さすが俺、最高にクールな休日の過ごし方だぜ。
そう思っていると、いきなり第3病院の弥生が、ばしゃばしゃと水を跳ねながらやって来た。
「マツリくーんっ! 調子はどうーーーっっっ?」
そういって、勢いよく目の前で立ち止まりながら聞いてくる。 水が跳ねて、顔にかかってきた。 うわっ、つめてっ!! なんだ、こいつ?
さっきから近くにいんだけどよ、ずっと体動かしてるし、たまに変な奇声を上げたりしてるし……。
……なんか、嫌な予感がするぜ。 こいつも、ナツミと同類じゃねえだろうな? あいつと同じタイプなんて、もう俺は結構だぜ。
そう思いながらも、マツリは眉一つ動かさずに、ぼそっと答える。
「……なんだ、調子って」
目の前では、弥生は落ち着かないように常に体を動かしていた。 ふんふんっ!と無意味に腰を回したりして、こいつは一体何をやってるんだ?
またこういう奴か……。 もっとおしとやかで、優しくて、穏やかに微笑みかけてくれるような女はいねえのかよ。
俺がこんな風にクールに座ってたら、ふつう隣にそっと座ってくるだろ。 柔らかに微笑みかけてきて、そっと俺のほうに頭を預けてくるだろ。
そしたら俺は、クールな感じのままかっこよく片腕で力強く抱きしめてやってよ。 女は嬉しそうにして、きゃんっとか言って可愛い声を漏らしながら俺の体に抱き着いてきて……。 フォオォォッォゥッッッ!!!!!ww おぉ、いいじゃねえかwww なんかテンション上がってきたぜっっ!!wwww
……え? そんなやつ現実にはいないだろって? 馬鹿野郎、考えなきゃ始まんねえだろ。
現代に来ても、結局うるさい奴らばっかなんだけどよ、一体どういうことだよ。 静かで慎ましい子はみんな俺を怖がって避けていくし、結局まわりにやかましい女しか残らねえんだよ。 どうすっか。
目の前で弥生は体を動かしながら、話し続けている。
「なんか、祭りの仕事、頑張ってるんだってねえ。 歌子ちゃんから、聞いたよ」
マツリは黙り込んだまま、身動き一つせずに座っている。 答えが返ってこないのも気にせず、弥生は叫び声を上げながら、川の中にバシャン!と浸っていった。
目の前で水が跳ねて、今度はマツリの頭からびっしょびっしょに水だらけになっている。 しかしマツリは動かず、我慢大会のようにじっとしている。
弥生は川の中に仰向けになり、空を見上げた。 川は浅く、体の半分だけが浸かっている。 髪の毛が水に流れていて、気持ちよさそうだ。
その状態のまま、弥生は目を閉じて周囲の音に耳を傾けていく。
「はー! ……気持ちいいっ! あー……」
弥生は耳をすますと、水のせせらぎが聞こえてきた。 トクトク、チャラチャラと、涼やかな音が鳴っている。 奥の方からは、小さく森の音も聞こえてくる。 葉っぱがこすれる音や、風がそよぐ音が運ばれて、耳の中へと届いてくる。
少しの間、静かに周りの音を聞いていると、ふと人の声のような音が混じってきた。
目を開けて振り向くと、山のほうから数人が歩いてきていた。 歌子とマツが、この川にやってきたみたいだ。
「……あ、歌子たち、戻ってきた」
山を出てきたのは、歌子とマツの2人だけだった。
スズネは昼ご飯を食べに現代の街に戻り、創始者のアキカゼはまだ研究があるとか言って、山の中に残ってきたのだ。 残った2人で雑談しながら、のんびり帰ってきたというわけである。
川辺では、ススキは『石ころ改』づくりを続けていた。 今度は、白く塗られた石ころを乾かそうと、藁の敷物の上に並べていた。 一つ一つ大きな石ころを、整然と並べていっている。 几帳面な性格なんだろうか。
そこへ、山から戻ってきた歌子が近づいてきた。 歌子は肩にかけていたポーチを開けながら、話しかけていく。
「いくつか、持ってきましたよ」
「お、サンキュー」
石ころを並べていたススキは、素早い身のこなしで反応した。 そばにあった網を引っ掴んできて、両手で目の前に広げてくる。 立ち止まった歌子は、ポーチをひっくり返して、石ころをゴロゴロと入れていった。
入れ終えると、歌子はポーチを閉めながら辺りを眺めた。
ふと見ると、向こうのほうにヨウの姿があった。 大きな石の上に一人で座って、別のほうをぼんやりと眺めている。 まだ考え事を続けているようだ。
歌子はその様子を少し見つめていたが、気になったのか、そこへ向かって歩きだした。
大きな石に近づいていくと、ヨウの姿がはっきりと見えてきた。 座り込んで背中を丸めている。 いつもはもうちょっと存在感がある感じなのに、今日はその姿が小さく見えた。
歌子は、その低くて広い石の上に飛び乗りながら、声をかけていった。
「ヨウさーん」
「あぁ、歌子ちゃん」
広い石の上を歩いて近づいていくと、ヨウが振り向いた。
少し疲れたような表情をしていて、元気がないみたいに見える。 もしかして、図書館でイトが怒ったというのが関係しているんだろうか。
「イトが、怒ったらしいですね」
「あぁ、そうなんだよw」
ヨウは小さく笑って答える。 やっぱりそうか。
『破滅的な未来』の論文を巡って、2人は図書館で口論したという。 私は直接見たわけじゃないけど、イトが怒ったんだったらすごかったのかも。
私はヨウさんに近づいていくと、隣に座っていった。 ふうと息を吐いて、並んで腰を下ろしていく。
同じ方向を見ると、川の景色がきれいに見えた。 遠くから山に沿って流れてきていて、気持ちのいい空気が運ばれてくる。
……ん? ふと見ると、ちょっと遠くの方で、川の中に変な男がいた。 座り込んで、何やってんだろう?
がにまたで、足を広げて……もしかして、うんこしてるのかも。
まったく、誰も見てないと思ってるんだろうか。 ちゃんと隠れてやってよね。 ぷんぷん。
隣のヨウさんも、同じ方向をぼうっと見つめている。 もしかして、うんこ男を見つめているんだろうか。
でも、表情は笑っていなかった。 すこし哀愁に浸っているような表情をしている。
『破滅的な未来』の論文には、社会の問題点がいくつも書かれていた。 何が今問題なのかを、一つ一つ細かく指摘していた。
しかしイトが言うように、その中には問題の回避方法が書かれていなかった。
イトはそれを指して、ヨウさんが諦めているのだと言ったらしい。 そして、意志が足りないのだとも。
私が隣に座ると、少しして、ヨウさんは話し始めた。
「……ずっと考えててさ。 俺も、諦めてたのかなって。 ……俺が生まれた場所は、もう無いんだよ。 大きな国同士の争いで、消えてしまってね。 だからかは分からないけど、そういうのは大きな流れだって考えて、気づかずに諦めてた気がするんだ」
私は静かに黙って聞く。
大陸では、ひどい争いがたくさんあると聞く。 こんな小さな島とは比べ物にならないほど、悲しいことが起こっているんだろう。
ミツエダお姉さんが大陸を横断した時に、その途中でヨウさんが加入してきたと聞いた。
ただ好奇心を満たすためだけに冒険しているという旅の話を聞いて、ヨウさんは面白そうだと言ったという。 一緒に旅をすることになり、ワクワクして大陸を横断していった。
話を聞くと、ヨウさんは自分の故郷を失っていた。 こんな大きな争いの中で、自分の村が消えたのに、ずいぶんチャラくて軽い奴だなと、面白い奴だなと、ミツエダさんは思ったらしい。
でも、果たして本当にそうだろうか。 自分の生まれ故郷が消えたのだ。 住んでいた家が崩れて、近所で笑っていた人たちは誰もいなくなり、元気に走り回っていた子供たちも消えるのだ。
そして目の前には、無意味ながれきが積み重なっている光景だけが残る……。 そんな経験をして、悲しくない人などいない。
ヨウさんはいつも余裕がある感じだし、軽いノリだけど……でも、背負っているものは重いように感じる。
大陸でも楽しく一緒に旅をしたらしいが、悲しみを紛らわす気持ちもあったんじゃないか。
横をちらりと見ると、ヨウさんは遠くのほうをぼんやりと見つめているようだった。 そのまま話し続ける。
「……実は今でも、生まれた場所が、そのまま未来になった、理想的な場所なんかを、夢に見るんだ。 でもよく見ると、それは元々の場所とも、けっこう違ってて……。 そんなことを考えてると、なんだか逆に、息苦しく感じたりもしてね。 ……自分でも、馬鹿だなあと思うんだけどw」
そういって、ヨウさんは自分で噴き出すようにして笑っている。
理想的な場所……。 ヨウさんが生まれ育った場所で、争いがもし起こらなかったら、素敵な場所になっていたかもという想像なんだろう。
でも気づけば、自分が頭の中で勝手に作ってしまった想像も含まれていた。
自分が気持ち良いと思えるような理想の場所を追求するほど、逆に息苦しさを感じてくる、そういうことなんだろうか。
理想を考えるのに、息苦しくなる。 矛盾してるようで変だけど、でも、じつは誰にでも起こりうることなのかもしれない。
「調和だから、崩壊も受け入れるとか、なんとか言ったんだけどさ。 結局のところ、喪失感から立ち直ってなかっただけの、腑抜けな男なんだよ、俺はw」
ヨウさんは振り向いて、こっちを見て笑った。 私は顔を上げて笑い返しながら、ふと気づいた。 あぁ、そうか。 もしかしたらイトの言ったことは、間違ってなかったのかもしれない。
人は誰でも、過去の経験や知識を持っている。 その中で色々なことを考えて決めていくわけだけど、時には昔のよかったことを忘れられずに、前に進めなくなる時がある。
でも、そんなので立ち止まっててもしょうがない。 自分の気持ちを強く持って、本当に自分が向かいたいところに目を向けないと、結局建設的に物事は進まない。
世界のつくりがどうだとか、そんなのは自分に対する言い訳だったんだ。 それはそうかもしれない、だって世界は大きいんだ。 そんなの、個人が考えたってしょうがない。
ヨウさんは話してすっきりしたのか、気持ちが軽くなったようだった。 石の上で立ち上がりながら、話し続ける。
「もう、そういうのを考えるのはやめとこうと思って。 新しい可能性にも鈍くなって、気づけなくなるしね」
そういって笑いかけてくるヨウさんの顔は、爽やかだった。 自分が向かうべき方向が分かったような感じだ。
私は座ったままうつむき、じっと考えながら頷いた。
「……そうですね」
「歌子ー!」
向こうから、名前を呼ぶ声がした。 顔を上げると、第3病院の弥生ちゃんが、こっちに手を振ってきている。
「また、降霊の乱れが起こったってよーっっ!!」
「分かったーっ! ……あ、つけてないんだった」
髪飾りをつけるのを忘れていた。 今朝、休みだからということで、イトに無理やり外されたんだよねw
私は取り出した髪飾りを頭につけていくと、音が鳴っていることに気づいた。 通信が来ていたらしく、私を呼ぶ声が聞こえてくる。
『歌子ー? 歌子ー!』
聞こえていたのは、ことば所のツムギちゃんの声だった。 私は返事をして答える。
「あ、ごめん、いるよ!」
『ちょっと忙しいみたいだから、来て!』
通信の向こうは、慌ただしい雰囲気だ。 ……っていうか、また混乱が起こってるっ?! もう、仕方ないなあ。
私は分かったと返事をして立ち上がると、石を下りていった。 先に下りていたヨウさんに追いつきながら、元気に声を出していく。
「行きましょう!」
「だね、さっさとやってしまおう。 小春の言う通り、前には希望が開けてるかも、しれないしねっ!」
ヨウさんは歩きだすと、楽しそうに声をはずませて言った。
そうだ、小春の言う通りだと、私も思う。 私も未来は、希望に満ちているようにしか見えないんだ。 そのために、今やることをやんなきゃっ!
そこにも数人、現代から来た人たちがいた。 500年前に遊びに来て、川のほとりで時間を潰しているようだ。
街は今日休みになったから、暇になってきたんだろう。 何人かがそれぞれ違うことをして、楽しんでいるのが見える。
ある所では、第3病院に勤めている元気すぎる弥生が、一人で水をバシャバシャと跳ねながら遊んでいるのが見える。 一人ではははと笑っていて、ちょっとヤバい感じの人に見えなくもない。
その近くには、マツリの姿なんかもある。 こちらは静かに川辺に座って、ボケっと何もしないで暇そうにしているみたいだ。
川辺には、何か作業をしているような人もいた。 別の地方出身の、軽い感じのススキが、大きな入れ物の前に立ってなにやら変な作業をしている。
見ると入れ物の中には大量に白いどろどろの液体が入っていて、石ころの入った網を沈めていっているようだ。
どうやらススキは、『石ころ改』を作っている最中らしい。 こうして白いものを塗った後に、天日干しにして乾かすのだ。
足元にはまだ大量の石ころがあるのを見ると、休みになった今日のうちにまとめて作ろうということだろうか。
石ころの入った網を引きあげると、どろどろの液体がぼたぼたと滴っていった。
「ふー!」
汗をぬぐいながら、ススキは爽やかな顔をする。 天気は晴れていて、周りを見ると緑で満たされているし、なかなか気持ちよさそうだ。
向こうの方に目を向けると、『破滅的な未来』の論文を書いた、大陸出身のヨウの姿もあるみたいだ。 ススキと仲がいいらしいから、一緒にここに来たんだろうか。
今は低くて広い大きな石の上に座り込んで、どこか遠くを眺めているみたいだ。 身動き一つしておらず、考え事をしているような様子でぼうっとしている。
川辺のマツリは、ぼんやりと暇をつぶしているようだった。 川岸の岩の上に座って、頬杖ついてむすっとした顔をしている。
はあ……。 やっぱりクールだな、俺。 休みの日に一人で川辺で過ごすなんて、最高にかっこいいじゃねえか。
耳をすませば川のせせらぎが聞こえてきて、野鳥の声が美しい。 さすが俺、最高にクールな休日の過ごし方だぜ。
そう思っていると、いきなり第3病院の弥生が、ばしゃばしゃと水を跳ねながらやって来た。
「マツリくーんっ! 調子はどうーーーっっっ?」
そういって、勢いよく目の前で立ち止まりながら聞いてくる。 水が跳ねて、顔にかかってきた。 うわっ、つめてっ!! なんだ、こいつ?
さっきから近くにいんだけどよ、ずっと体動かしてるし、たまに変な奇声を上げたりしてるし……。
……なんか、嫌な予感がするぜ。 こいつも、ナツミと同類じゃねえだろうな? あいつと同じタイプなんて、もう俺は結構だぜ。
そう思いながらも、マツリは眉一つ動かさずに、ぼそっと答える。
「……なんだ、調子って」
目の前では、弥生は落ち着かないように常に体を動かしていた。 ふんふんっ!と無意味に腰を回したりして、こいつは一体何をやってるんだ?
またこういう奴か……。 もっとおしとやかで、優しくて、穏やかに微笑みかけてくれるような女はいねえのかよ。
俺がこんな風にクールに座ってたら、ふつう隣にそっと座ってくるだろ。 柔らかに微笑みかけてきて、そっと俺のほうに頭を預けてくるだろ。
そしたら俺は、クールな感じのままかっこよく片腕で力強く抱きしめてやってよ。 女は嬉しそうにして、きゃんっとか言って可愛い声を漏らしながら俺の体に抱き着いてきて……。 フォオォォッォゥッッッ!!!!!ww おぉ、いいじゃねえかwww なんかテンション上がってきたぜっっ!!wwww
……え? そんなやつ現実にはいないだろって? 馬鹿野郎、考えなきゃ始まんねえだろ。
現代に来ても、結局うるさい奴らばっかなんだけどよ、一体どういうことだよ。 静かで慎ましい子はみんな俺を怖がって避けていくし、結局まわりにやかましい女しか残らねえんだよ。 どうすっか。
目の前で弥生は体を動かしながら、話し続けている。
「なんか、祭りの仕事、頑張ってるんだってねえ。 歌子ちゃんから、聞いたよ」
マツリは黙り込んだまま、身動き一つせずに座っている。 答えが返ってこないのも気にせず、弥生は叫び声を上げながら、川の中にバシャン!と浸っていった。
目の前で水が跳ねて、今度はマツリの頭からびっしょびっしょに水だらけになっている。 しかしマツリは動かず、我慢大会のようにじっとしている。
弥生は川の中に仰向けになり、空を見上げた。 川は浅く、体の半分だけが浸かっている。 髪の毛が水に流れていて、気持ちよさそうだ。
その状態のまま、弥生は目を閉じて周囲の音に耳を傾けていく。
「はー! ……気持ちいいっ! あー……」
弥生は耳をすますと、水のせせらぎが聞こえてきた。 トクトク、チャラチャラと、涼やかな音が鳴っている。 奥の方からは、小さく森の音も聞こえてくる。 葉っぱがこすれる音や、風がそよぐ音が運ばれて、耳の中へと届いてくる。
少しの間、静かに周りの音を聞いていると、ふと人の声のような音が混じってきた。
目を開けて振り向くと、山のほうから数人が歩いてきていた。 歌子とマツが、この川にやってきたみたいだ。
「……あ、歌子たち、戻ってきた」
山を出てきたのは、歌子とマツの2人だけだった。
スズネは昼ご飯を食べに現代の街に戻り、創始者のアキカゼはまだ研究があるとか言って、山の中に残ってきたのだ。 残った2人で雑談しながら、のんびり帰ってきたというわけである。
川辺では、ススキは『石ころ改』づくりを続けていた。 今度は、白く塗られた石ころを乾かそうと、藁の敷物の上に並べていた。 一つ一つ大きな石ころを、整然と並べていっている。 几帳面な性格なんだろうか。
そこへ、山から戻ってきた歌子が近づいてきた。 歌子は肩にかけていたポーチを開けながら、話しかけていく。
「いくつか、持ってきましたよ」
「お、サンキュー」
石ころを並べていたススキは、素早い身のこなしで反応した。 そばにあった網を引っ掴んできて、両手で目の前に広げてくる。 立ち止まった歌子は、ポーチをひっくり返して、石ころをゴロゴロと入れていった。
入れ終えると、歌子はポーチを閉めながら辺りを眺めた。
ふと見ると、向こうのほうにヨウの姿があった。 大きな石の上に一人で座って、別のほうをぼんやりと眺めている。 まだ考え事を続けているようだ。
歌子はその様子を少し見つめていたが、気になったのか、そこへ向かって歩きだした。
大きな石に近づいていくと、ヨウの姿がはっきりと見えてきた。 座り込んで背中を丸めている。 いつもはもうちょっと存在感がある感じなのに、今日はその姿が小さく見えた。
歌子は、その低くて広い石の上に飛び乗りながら、声をかけていった。
「ヨウさーん」
「あぁ、歌子ちゃん」
広い石の上を歩いて近づいていくと、ヨウが振り向いた。
少し疲れたような表情をしていて、元気がないみたいに見える。 もしかして、図書館でイトが怒ったというのが関係しているんだろうか。
「イトが、怒ったらしいですね」
「あぁ、そうなんだよw」
ヨウは小さく笑って答える。 やっぱりそうか。
『破滅的な未来』の論文を巡って、2人は図書館で口論したという。 私は直接見たわけじゃないけど、イトが怒ったんだったらすごかったのかも。
私はヨウさんに近づいていくと、隣に座っていった。 ふうと息を吐いて、並んで腰を下ろしていく。
同じ方向を見ると、川の景色がきれいに見えた。 遠くから山に沿って流れてきていて、気持ちのいい空気が運ばれてくる。
……ん? ふと見ると、ちょっと遠くの方で、川の中に変な男がいた。 座り込んで、何やってんだろう?
がにまたで、足を広げて……もしかして、うんこしてるのかも。
まったく、誰も見てないと思ってるんだろうか。 ちゃんと隠れてやってよね。 ぷんぷん。
隣のヨウさんも、同じ方向をぼうっと見つめている。 もしかして、うんこ男を見つめているんだろうか。
でも、表情は笑っていなかった。 すこし哀愁に浸っているような表情をしている。
『破滅的な未来』の論文には、社会の問題点がいくつも書かれていた。 何が今問題なのかを、一つ一つ細かく指摘していた。
しかしイトが言うように、その中には問題の回避方法が書かれていなかった。
イトはそれを指して、ヨウさんが諦めているのだと言ったらしい。 そして、意志が足りないのだとも。
私が隣に座ると、少しして、ヨウさんは話し始めた。
「……ずっと考えててさ。 俺も、諦めてたのかなって。 ……俺が生まれた場所は、もう無いんだよ。 大きな国同士の争いで、消えてしまってね。 だからかは分からないけど、そういうのは大きな流れだって考えて、気づかずに諦めてた気がするんだ」
私は静かに黙って聞く。
大陸では、ひどい争いがたくさんあると聞く。 こんな小さな島とは比べ物にならないほど、悲しいことが起こっているんだろう。
ミツエダお姉さんが大陸を横断した時に、その途中でヨウさんが加入してきたと聞いた。
ただ好奇心を満たすためだけに冒険しているという旅の話を聞いて、ヨウさんは面白そうだと言ったという。 一緒に旅をすることになり、ワクワクして大陸を横断していった。
話を聞くと、ヨウさんは自分の故郷を失っていた。 こんな大きな争いの中で、自分の村が消えたのに、ずいぶんチャラくて軽い奴だなと、面白い奴だなと、ミツエダさんは思ったらしい。
でも、果たして本当にそうだろうか。 自分の生まれ故郷が消えたのだ。 住んでいた家が崩れて、近所で笑っていた人たちは誰もいなくなり、元気に走り回っていた子供たちも消えるのだ。
そして目の前には、無意味ながれきが積み重なっている光景だけが残る……。 そんな経験をして、悲しくない人などいない。
ヨウさんはいつも余裕がある感じだし、軽いノリだけど……でも、背負っているものは重いように感じる。
大陸でも楽しく一緒に旅をしたらしいが、悲しみを紛らわす気持ちもあったんじゃないか。
横をちらりと見ると、ヨウさんは遠くのほうをぼんやりと見つめているようだった。 そのまま話し続ける。
「……実は今でも、生まれた場所が、そのまま未来になった、理想的な場所なんかを、夢に見るんだ。 でもよく見ると、それは元々の場所とも、けっこう違ってて……。 そんなことを考えてると、なんだか逆に、息苦しく感じたりもしてね。 ……自分でも、馬鹿だなあと思うんだけどw」
そういって、ヨウさんは自分で噴き出すようにして笑っている。
理想的な場所……。 ヨウさんが生まれ育った場所で、争いがもし起こらなかったら、素敵な場所になっていたかもという想像なんだろう。
でも気づけば、自分が頭の中で勝手に作ってしまった想像も含まれていた。
自分が気持ち良いと思えるような理想の場所を追求するほど、逆に息苦しさを感じてくる、そういうことなんだろうか。
理想を考えるのに、息苦しくなる。 矛盾してるようで変だけど、でも、じつは誰にでも起こりうることなのかもしれない。
「調和だから、崩壊も受け入れるとか、なんとか言ったんだけどさ。 結局のところ、喪失感から立ち直ってなかっただけの、腑抜けな男なんだよ、俺はw」
ヨウさんは振り向いて、こっちを見て笑った。 私は顔を上げて笑い返しながら、ふと気づいた。 あぁ、そうか。 もしかしたらイトの言ったことは、間違ってなかったのかもしれない。
人は誰でも、過去の経験や知識を持っている。 その中で色々なことを考えて決めていくわけだけど、時には昔のよかったことを忘れられずに、前に進めなくなる時がある。
でも、そんなので立ち止まっててもしょうがない。 自分の気持ちを強く持って、本当に自分が向かいたいところに目を向けないと、結局建設的に物事は進まない。
世界のつくりがどうだとか、そんなのは自分に対する言い訳だったんだ。 それはそうかもしれない、だって世界は大きいんだ。 そんなの、個人が考えたってしょうがない。
ヨウさんは話してすっきりしたのか、気持ちが軽くなったようだった。 石の上で立ち上がりながら、話し続ける。
「もう、そういうのを考えるのはやめとこうと思って。 新しい可能性にも鈍くなって、気づけなくなるしね」
そういって笑いかけてくるヨウさんの顔は、爽やかだった。 自分が向かうべき方向が分かったような感じだ。
私は座ったままうつむき、じっと考えながら頷いた。
「……そうですね」
「歌子ー!」
向こうから、名前を呼ぶ声がした。 顔を上げると、第3病院の弥生ちゃんが、こっちに手を振ってきている。
「また、降霊の乱れが起こったってよーっっ!!」
「分かったーっ! ……あ、つけてないんだった」
髪飾りをつけるのを忘れていた。 今朝、休みだからということで、イトに無理やり外されたんだよねw
私は取り出した髪飾りを頭につけていくと、音が鳴っていることに気づいた。 通信が来ていたらしく、私を呼ぶ声が聞こえてくる。
『歌子ー? 歌子ー!』
聞こえていたのは、ことば所のツムギちゃんの声だった。 私は返事をして答える。
「あ、ごめん、いるよ!」
『ちょっと忙しいみたいだから、来て!』
通信の向こうは、慌ただしい雰囲気だ。 ……っていうか、また混乱が起こってるっ?! もう、仕方ないなあ。
私は分かったと返事をして立ち上がると、石を下りていった。 先に下りていたヨウさんに追いつきながら、元気に声を出していく。
「行きましょう!」
「だね、さっさとやってしまおう。 小春の言う通り、前には希望が開けてるかも、しれないしねっ!」
ヨウさんは歩きだすと、楽しそうに声をはずませて言った。
そうだ、小春の言う通りだと、私も思う。 私も未来は、希望に満ちているようにしか見えないんだ。 そのために、今やることをやんなきゃっ!
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ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
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