能ある元令嬢は爪を隠す

安蒜佑香

文字の大きさ
11 / 12
一章

10、石鹸①

しおりを挟む
 あけましておめでとうございます。
 今年もどうぞ、安蒜佑香をヨロシクお願いします!!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 レイリアは無言でコトリと何か四角い白い物体をテーブルに乗せた。
 見たことの無いそれにアルベルトは首を傾げる。


「何だ?これ?」


 思わずつぶやいてレイリアに問うと、レイリアはすぐには答えず、仕草で触ってみるように促してきた。

 丁寧に表面が整えられたそれの表面はツルツルしていて、でも陶器などを触ったのとは違う不思議な感じがする。
 5分程触ったり光に透かしてみたりと色々試したが、さっぱりわからない。


「降参だ。さっぱりわからん。本当に何なんだ?」


 おどけて両手を挙げて問いながら、右手に持ったままのそれを見て再び首を傾げた。


「それは、石鹸だ。」
「へえー、石鹸かぁ~、これが、ふ~ん………………ッて、えええぇぇぇ!!! これが!? 石鹸!?」
「そう、石鹸。」
「え!? だって石鹸ってあれだろ? 液状の物凄く臭いやつだろ? それとこれが同じって……」


 普通、ここらで使われている石鹸は固体ではなく液体だ。
 しかも、臭い。
 とてつもなく、臭い。
 だから、「ここらで使われている」と言っても実質ほとんど使っている人はいない。
 清潔だ何だと言われても、あの臭いの方がよっぽど健康に悪いと思う。
 そんな『普通の石鹸』と『今持っている固体』が同じ役目を果たす物だとは到底思えない。

 目の前に座る少年は「やっぱりそういう反応になるよな」と言いたげな顔をしつつも、アルベルトに質問する。


「そもそも、この国で使われている石鹸が何からできているかは知ってるか?」
「いや、知らん。考えた事すらないな。」


 アルベルトは本当に知らなかったので素直にそう答える。

 ちなみに、この時レイリアが若干呆れた顔をした事にアルベルトは気づいていない。
 レイリアも気づかれなかったのをいい事に何事も無かったかのように話を進める。


「この国で使われている石鹸には2種類ある。1つは体を洗う、主に魚油と植物灰を使ったもの。もう1つは洗濯とかをする用の動物油脂で作られたもので、どちらも液状だ。ここまではいいか?」
「おう。」
「実はこの石鹸はほとんど他の国では使われて無くてな。他の国はオリーブオイルで作られたやつを使ってる。そして、そっちの方が格段に品質が良い。」


 品質が良いものを何故この国では使わないのだろう? 良いものを使った方が皆の為になるに決まっているのに。
 そうアルベルトは不思議だったが、それはすぐにレイリアの言葉によって解決される事となる。


「ところで、思い出してみてくれ。この国、ルナリア王国と隣り合っているのはどこの国だ?」
「どこって…フレンス王国とガイアナ公国とエルサルータ王国だろ?」
「そう。その三国のうち、フレンスとエルサルータとは常に交戦中のようなもの。ガイアナとは工芸品くらいしかやり取りがない。すると、どうなると思う?」


 ここまで言われたら、大陸地図を思い浮かべなくてもわかる。
 答えは明白だ。


「「石鹸はルナリアに入って来ない。」」


 声を揃えて、顔を見合わせて、アルベルトとレイリアは答えを出す。

 結論が出たのはいいが、その結果としてアルベルトが得られたのは絶望感だけだった。
 フレンス、エルサルータ両国との戦は100年以上前から繰り返されて来た。よって交易は不可能。
 ガイアナとは交易している。しているが、入って来るのは工芸品だけ。そして交渉しようにもガイアナは中立を貫いており、山地の厳しい気候の民故かとても頑固なのだ。

 てっきり輸入品で稼ぐ算段かと思っていたアルベルトは当然絶望する。
 レイリアはどうしてこんな出来ないとわかりきった事を提案してきたのか。その真意を確かめるべくアルベルトは口を開く。


「なあ、レイ。輸入ができないのに、一体どうやって商売なんてするんだよ。それとも何かツテがあるのか?」
「何言ってるんだ?そんなもの、あるわけないだろう。」
「ですよね~」


 じゃあどうすればいいんだと頭を抱えるアルベルトにレイリアは変なものを見るような目を向けた。


「アル、君は何を勘違いしているんだ?」
「え?」
「輸入出来ないのなら、作ればいいだろう?君が持ってるその石鹸だって、僕が作ったものだぞ?」


 その言葉にアルベルトは絶句する。
 いや、作れないからこの国で作られてないんじゃないか、とか、そもそもどうやって作り方を知ったんだ、とか、色々な疑問が頭をぐるぐると回っているうちに、レイリアは詳しい説明を始めていた。


「他国の石鹸の材料になるオリーブオイルはその名の通りオリーブという木になる実から作られるんだが、オリーブが育つのは大陸の中でも南だけだ。国で言うとルナリアの南方、フレンスの北部以外、それとククルシアの南方のごく一部だな。ここまではいいか?」
「ちょっと待ってくれ。それを聞く限り、ルナリアにもオリーブは生えているんだろう?なら、石鹸だって作られててもいいんじゃないか?」
「まぁ、そうなんだがな。これには歴史が深く関わっていてだな…」


 レイリア曰く、戦争で基地だの何だのと建てる時に必要な木材がルナリア国内で必要にもなった時、その場しのぎとして海沿いに沢山生えていたオリーブの木を使い、その跡地に加工しにくいオリーブではなくて木材として使えるユーカリを大量に植えたと。

 また、かなり昔に「梅毒」という病気が大流行したという。
 これはただの…せ、性病なんだそうだが、当時は大衆入浴場が原因だと考えられたらしく、一度風呂文化が廃れた。
 それもオリーブの伐採に一役買ったらしい。「どっちにしろ、そんなに使わないだろう」と。

 今は裕福な貴族なら毎日入るくらいだし、平民が使う大衆入浴場も数は少ないがある。
 だが、今更石鹸の製造法など入って来ない。それで昔ながらの液体石鹸のままらしい。

 ならば話は早い。
 需要があるのなら作ればいいじゃないか。


 ところがそうはいかない。
 先程も言ったようにオリーブの生える場所は多く杉が植わっているし、作り方が伝わって来ない。実は海外から渡ってくる石鹸がオリーブから作られていることも知られてないと言う。


「じゃあ、オリーブはどこから仕入れるんだよ。それに作り方は?」
「オリーブが生えている場所はあるんだよ。最近は食用としても注目されてきてるから、どうにかなるだろうし。作り方は僕が知ってるから問題ない。」


 なら、商品は石鹸で決定でもいいんじゃないかとアルベルトは思ったが、問題はそれだけではないらしい。


 説明するべく、レイリアは再び口を開いた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 設定が載っているページを見れば、地図や各国関係図があります。
 参考にどうぞ~
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。 しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。 郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。  そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。 そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。 アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。 そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

勘当された少年と不思議な少女

レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。 理由は外れスキルを持ってるから… 眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。 そんな2人が出会って…

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

処理中です...