能ある元令嬢は爪を隠す

安蒜佑香

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一章

9、さぁ、何をやろうか

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 契約は結んだ。
 次は何を売るかだ。

 レイリアは少し考え込む。
 アルベルトは『色々と』やっていると言っていた。その色々が何なのかわからないとどうしようもないし、アルベルトがどんな商売をしたいのかにもよる。

 商売も様々なのだ。
 貴族をターゲットにするもの。平民をターゲットにするもの。
 一種類に特価したもの。様々な物を扱うもの。


 商人の数だけそのやり方がある…とまで言えるかどうかはわからないが、とにかく沢山のやり方があるのだ。
 まずはアルベルトが目指すものを把握しなくてはならない。


「アルはどんな商売がしたいんだ? 貴族向けとか、色々あるだろ?」
「そうだな……生活の役に立つ物、人の役に立つ物を売りたいとは思ってる。貴族向けとか平民向けとかは余り考えてないけど、平民にも使えたらいいなとは思うかな。」


 アルベルトの言葉を聞いて候補を頭の中で挙げていきながら、レイリアは質問を続ける。
 ある程度絞れてきたところで、聞きにくいけど聞かなければいけない事を口にする。

 アルベルトは呑気に自分で淹れた紅茶を飲んでいるが、そんな様子では困るのだ。


「聞きにくいんだけど…」
「うん?」
「資金ってどのくらいあるの?」
「ブフォ!!」


 ………吹いた。

 レイリアはお盆でカードする。避けるとベッドにかかるのだ。それに汚いからやめて欲しい。

 というか、思わず吹いてしまう程資金不足なのだろうか?
 心配になって思わず眉をひそめたレイリアの心中を察したのか、アルベルトは首をブンブン横に振って弁解し始める。

 レイリアからすると、弁解するより先にビシャビシャになった机と床を拭いて欲しい。


「いや、違うぞ! 資金がないっていう訳じゃなくてだな‼ ただ単にびっくりしただけであって…… あ、その顔は信じてないな!?」
「信じてる、信じてるから床を拭いてくれ。」


 雑巾を放ってアルベルト自身に床を拭かせる。
 緊急時でもない限り、人の口から出たものなんて触れたくない。

 しばらくして部屋が綺麗になって落ち着くと、レイリアはもう一度アルベルトを問いただした。


「それで? いくらあるんだ? これがわからないとどうしようもないんだが。」
「え~っと……… このくらい、かな?」


 アルベルトは指を4本立てる。


「ほう。一応聞くが、単位は?」
「勿論、これ。」


 今度は指を7本立てる。


「意外とあるな… 商売は失敗続きだったんじゃないのか?」


 そうレイリアが聞くと、アルベルトはものすっごいドヤ顔をした。
 正直ムカつく。


「そう思うだろ? だけど残念。損害を出さずに毎回乗り切っているんですな~これが。」


 「どうだ、すごいだろう!!」と今にも口に出しそうなアルベルトは凄く褒めて欲しそうである。
 そんな顔を見て、レイリアが褒める訳がない。


「でもさ」
「うん?」
「失敗は失敗だよね?」
「ま、まぁ…」
「そんな所で才能を発揮させるんじゃなくて、もっと別の所で発揮させなよ。そうじゃなきゃ、失敗であることに変わりはないんだから。」


 ガーン!とショックをうけたらしいアルベルトはウジウジし始めるが、レイリアにはそんなことより、はっきりさせなければならない事があった。


「アル、『損害を出さずに乗り切ってる』っていう事は、利益も出せてないんだよね? なのにそのお金はどこから来るわけ?」
「えっと……その…」
「どこから、来たの、かな?」


 言い渋るアルベルトをレイリアは赤い双眼でじっと見つめる。
 無言の圧に耐えかねて、アルベルトは案外あっさりと白状した。


「…じっ、実家からの仕送りです……」


 その言葉にレイリアは最悪のケースではない事に正直ほっとした。ちなみに、最悪のケースとは、たちの悪い闇金か何かから金を借りていた場合である。

 レイリアは頼み込んで雇用してもらう立場であったし、アルベルトに考えを変えられても困る為に先に契約をしたが、本来はこういった確認をしっかりしてから契約しなくてはならないのだ。
 契約してから「実は借金が…」なんて、笑い話にもならない。

 そんな大金を用意出来るだなんて、アルベルトの実家はよっぽど稼いでいるのだろう。
 名前が気になる所ではあるが、まぁそれは置いておこう。今、考えるべきは何を売るかである。



 実の所、レイリアの頭にはとある売り出したい商品があった。
 『それ』を売り出し、成功すれば、かなりの利益を生み出す事が出来るし、人々の役にも立ち、様々な相乗効果が見込まれる。

 だが、成功すれば・・・・・なのだ。

 過去にはーー「この世界」の過去ではないがーー『それ』は王族によって製造法が規制されたり、製造そのものが特定の地域以外は禁止された事があった。
 そうなっては面倒である。

 王族なんかから下手に注目を集めたくはないし、その王族が技術を求めて何かしてこないとも限らない。
 レイリアは王族の事をよく知らないのだから。


 言ってしまえば、レイリアは今の王族を信用していない。
 辺境伯という重要な立場にある人間がお家乗っ取りを企てているというのに何も気づかずに放っている者を信用出来るだろうか? 国に対して不穏な動きをしているのも、気づいているのか、いないのか。


 だから、目立ちたくない。目立ちたくはないが、『それ』を売り出すのには絶好の機会だ。
 むしろ、これを逃したら二度とチャンスは巡って来ないだろう。


 実家からの仕送りだというのが気に食わなかったのだろうか、と黙り込んでしまったレイリアに慌てふためいているアルベルトに、レイリアは判断を任せる事にした。


「なあ、アル。」
「はっ、ハイ! なんでしょうか!」


 必要以上にビクつくアルベルトにレイリアは思わず苦笑いをこぼす。
 雇い主はアルベルトの方なのだから堂々としていればいいのに、と散々脅したのを脇に置いてレイリアは思う。


「これはあくまで1つの案なんだか…聞いてくれるか?」


 その言葉を聞いた途端に表情をキリッとさせたアルベルトにレイリアが語った案は、アルベルトにとって驚くべきものだった。


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補足
 アルベルトが言う金額は4000万円です。
 7本立てた指は0の数を表しています。
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