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平将門追討……将門の乱燃ゆるアヅマ
シチセイとホクシン落つ
しおりを挟む燃える岩井の屋敷、火の粉と喧騒が舞い躍るのをよそに――藤原秀郷と平将門は対峙する。
将門の風貌たるや、魔界から這い出てきたかの如く。土気色の顔をし、髪を纏めず乱れさせ、服は破れよく鍛え上げられていた上半身を曝け出していた。
将門は太刀を持っているが、両手を下げ自然体。――構える、そぶりも一切みせない。
秀郷は半身になり腕を交差させ、手元が『への字』に反った独特の形である……蜈蚣切丸を顔の横で構えている。
「いつまでも掛かってこない所を見ると――不死身だ、なんだと言いつつも……蜈蚣切丸は怖いか小童が。奥の手があるなら出しておけよ!」
その言葉を聞き将門は一笑する。
手に持った太刀を天高く掲げる。――風が吹き、髪が靡く。髪の隙間より、金色に妖しく輝く瞳がちらつく。
「じじい、その挑発に乗ってやろう!」
将門から仕掛ける。――鬼気迫る顔で秀郷へと肉薄する。
「ぬあああ!」
雄叫びを上げ、太刀を上段より真っ直ぐに振り下ろす。――力任せの一撃。
秀郷は両腕で蜈蚣切丸を持ち、何とか迫る太刀を防ぐ。
「よく防いだな、じじい!」
将門は顔を近づけ、さらに力を込め押し切ろうとする。
苦しい顔となる秀郷。――将門の鼻っ柱を狙う様に兜の天辺で頭突きをし、将門の太刀から逃れる。
「――ッ小童が。兜がへこんだだろうが!」
兜を乱雑に脱ぎ捨てる秀郷。鉄製の兜がへこみ形が崩れていたが、将門は首を回しけろりとしていた。
「じじい、まだ余裕がありそうだな……奥の手があるなら出しておけよ」
大きく溜息を吐く秀郷。気を取り直し、刀を構え直す。
「ふー……ならば少しばかり、本気で行くぞ将門。――龍脈の力を三割だ、姫!」
誰もいない虚空に言葉を投げかける。
――光り輝く奔流が地を伝う。
秀郷の足から登り、丹田へと集まっていく。
「行くぞ!」
老齢である事を疑う速さ。――振るわれる刀は太刀風だけで木を根元より折れそうなほど力強い。
金色の瞳は太刀筋を一寸も見逃さず。将門と秀郷は数合打ち合う。――丁々発止。
「足りんか。――」
まだ届かないと見て、少し間合いをとる秀郷。
「ならば、五割だ!」
額に青筋を立てながら、全身に力を込める秀郷。――先ほどの様に、地を伝う光がさらに足を登っていく。
「何をしようと無駄だ! じじい!」
将門が怒声を放ち、秀郷の首を狙い横薙ぎに太刀を振るう。
秀郷の左方より迫る太刀――
「しゃら!」
秀郷の気合。
振られる蜈蚣切丸。――将門の太刀は甲高い音ともに真っ二つに切れる。
「斬鉄だと!」
将門は驚きの声を上げ、体勢を崩す。世界広しといえども、太刀を切る、さらに戦いの中で斬鉄を成せる人など数える程にも居ない。
「とった!」
秀郷は返す刀で蜈蚣切丸を振るう。狙うは将門の首……刃は吸い込まれていく。
将門の首は蜈蚣切丸により、綺麗に斬られ一寸の間を置き落ちる。
「将門……討ち取ったり」
秀郷は首が落ち地を転がる、ゆっくりと膝崩れになる将門の身体を見ながら、蜈蚣切丸の血振りをし納刀する。
「将門……ゆっくりと眠――」
「油断したぞ、じじい」
地を転がる、将門の首より発せられた言葉に、目を見開き驚愕の顔となる秀郷。
膝崩れになり倒れそうだった将門の身体は……ゆっくりと立ち上がり、自分の首を拾い上げる。
「まさか、斬鉄が出来るとは……我が鉄身も敢え無く、この通りよ」
笑い声を上げながら、拾った首を元の位置に戻す、将門の身体。
時が遡る様に――斬れていた首は身体にぴたりと引っ付き、傷も無くなる。
「ふん……一度で足らねば、二度、三度と斬るまでよ!」
秀郷は納刀した、蜈蚣切丸を再度抜き放つ。――将門の背後より斬りかかる。
しかし、将門は蜈蚣切丸の刃を素手で掴む。――手からは血の一滴も垂れず。
あろう事か力任せに掴んだ、蜈蚣切丸ごと秀郷を投げ飛ばす。
「くそ! なんじゃこの馬鹿力は!」
空中でくるりと猫の様に体勢を整えて、何とか足から着地する秀郷。
「じじい……本気を出してやる、すぐに死ぬなよ?」
将門より禍々しい気が溢れ出る。
風が強く吹きはじめる。――その風に押し退けられるかのように雲が晴れ、北東の空に煌々と輝く北斗七星が現れる。
「おん そちゅりした そわか――我は北辰妙見菩薩の化身なり……」
将門は真言を唱え出す。
「姫! 龍脈の力を目一杯に儂に流せ!」
秀郷は悪い予感を感じたのか、焦りながら言葉を発する。
光る奔流が秀郷の全身を駆け巡る。――秀郷は矢の様に将門へと迫る。
迫る秀郷の足を止める為、将門はまるで軽い畳を返す様に地を踏み抜き壁とする。
「小癪な!」
土の壁に進路を阻まれた秀郷は急激に足を止め、壁を迂回する様に左方へと回る。
「もう遅い! 北斗七星よ、我が手足となり顕現せよ――貧狼星!」
北斗七星からの光が天空より降りそそぐ。
光は秀郷と将門の間へと割り込み、縦に振るった蜈蚣切丸を遮る。
光からは男が現れる――その顔は将門と瓜二つであった……が、蜈蚣切丸を体で防いだせいか、正中から真っ二つに裂けていく。
「巨門星、禄存星、文曲星、廉貞星――」
次々と光から、ぬるりと将門と寸分違わず同じ顔の男が四人現れ、秀郷へと襲いかかる。
「かっ! 紛い物の癖におんなじ顔をしよって」
左右より同時に秀郷を目掛けて太刀が振るわれる。――瞬時に飛び引き、振るわれた四本の太刀をもう一振りの刀で叩き落とし――瞬時に蜈蚣切丸で首を斬り鮮血が舞う。
「武曲星、破軍星――北斗七星は揃い北辰は輝きを増す……北斗七星ある限り、北辰は不滅なり」
将門の横にさらに二人現れる。それと同時に秀郷が斬った五人の血が傷口に戻っていき、ぴたりと引っ付き再生し始める。
「これが桔梗が言っていた、北斗七星と北辰が……とはこういうことか……厄介なもんじゃ」
「桔梗か……あの裏切り者に会っていたか。じじいを殺した後に追いかけて殺してやろう」
七星が全て北辰へと揃い集まる。
「さて、じじいよ……死ぬ準備は万全か?」
全ての将門が虚空より太刀を取り出し、構える。
同じ顔、同じ動き、同じ言葉を発する。それを見ながら苦虫を噛み潰したような表情になる秀郷。
「これは骨が折れるどころか……死ぬかもしれんな」
腹をくくり、死をも覚悟する秀郷。
その時、どたどたと制圧を完了したのか秀郷の兵が走り寄ってくる。
「秀郷様! 少数を逃しましたが、制圧を粗方完了致しました! あとは将門のみです!」
「よし良くやったの! 向こうで伸びてる貞盛の様子を見てこい」
「お一人では危のうございます、我らもお手伝いします」
「行け! そして離れてろ、死ぬぞ!」
兵達に言葉を飛ばし、貞盛の方へと向け、将門から離れさせる。
「さて……"乙姫"よ! 周りに被害が出ないように結界を頼む……あとは無理をさせるが、全力で龍脈の力を回してくれ」
その言葉とともに秀郷の背後から天女のように美しく、空に浮いている女性が現れる。
「藤太……死なないで下さいね」
進路を阻むように薄い水で出来た結界が張られる。
「じじい、それが竜宮に棲まう龍神の娘か! 古き神も壊し尽くしてやる、差し出せぇ!」
八人の将門が秀郷へと次々と襲いかかる。――順番に襲いくる太刀を体捌きで、右へと左へと避け、腕を斬り飛ばし、脚を斬り飛ばしていく。
「本物には影があるとはいえ……これは埒が開かんのう! しゃ!」
気合いとともに影のある将門の胴を切り離す……しかし、本物の将門も少しの時が経てば傷が塞がり、立ち上がり始める。
「無駄よ! 我を蜈蚣切丸で斬ろうが不死身よ!」
少しずれた胴体を手で戻し、疲れも見せず雄健な八人の将門が集まる。
対して秀郷は大粒の汗を垂らしながら肩で息をしている。
「老体には堪えるのう、乙姫! 何か見えないか!」
結界の外からじっと闘いを見つめていた龍神の娘、乙姫に話しかける。しかし、またしても将門の刀が秀郷へと振るわれる。
「ぐだぐたと……さっさと死ね、じじい!」
振るわれた刀を避け損ね、纏っている大鎧を斬りつけられ、傷だらけになっていく。
「避来矢の鎧でも、そろそろ持たんかもしれん!」
未だに致命傷に至ってはいない……が、怪力で斬りつけられたせいか、大鎧が軋みはじめる。
「藤太! 見えました、こめかみに気が集まっています! そこが将門の再生力の要です!」
「龍脈の守護神、龍神の娘! 流石、頼りになるわい」
秀郷は乙姫の言葉を聞き、距離を将門から取り、蜈蚣切丸を構え直す。
「我は俵藤太! 我の一矢は手の平にあろうとも邪気を鎮める一矢なり!」
将門の一人へと駆け出す。上段からの一撃を左手に持った刀で防ぎ、右手で矢筒より一本の矢を滑らすように取り出し――こめかみを刺し貫く。
今までは刺しても切っても、再生し動き始めていた将門の身体は、ぴくりとも動かずに足元から灰となり崩れていく。
「貧狼星! あと六つ」
向かってきた二人の将門から放たれる、二本の突きをくるりくるりと独楽のように回転して避け、矢をこめかみに寸分違わずに刺す。
「巨門星、禄存星! あと四つ」
ばたりばたりと倒れたのを尻目に見ながら、秀郷は大弓に矢をつがえ目にも止まらぬ速さで四連射する。
矢は小さい龍を形どり、生きているように曲りくねり、四人のこめかみを撃ち抜く。
「文曲星、廉貞星、武曲星、破軍星! あとは…… 」
こめかみを刺され、撃ち抜かれた七人の紛い物は灰となり消えはじめる。
「将門! あとはお前一人じゃ!」
本物の将門へと駆け寄り、蜈蚣切丸による渾身の袈裟斬り……しかし、防がれ、ぎりぎりと音を立てながら鍔迫り合いとなる。
「ぬぐぅ! じじい、どこにこんな力を隠していた!」
じりじりと将門が老齢の秀郷に圧されはじめる。
「乙姫が龍脈の力を流し込んでくれているからの! 日ノ本の力じゃ! ぬえぃ! 」
将門の刀ごと袈裟斬りにする、将門は崩れ膝をつく。
「しまいじゃ!」
矢に唾を吐きかけ将門のこめかみに深々と力の限り、反対側に鏃が出るまで突き刺し、蜈蚣切丸で首を刎ね飛ばす。
鮮血とともに憎悪に歪んだ首が舞い落ちる。
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