異聞平安怪奇譚

豚ドン

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平将門追討……将門の乱燃ゆるアヅマ

マサカドの乱の終わり

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 気の集まる、こめかみ……という将門の驚異きょうい的な再生能力や、怪力を支えていた。
 力の源……唯一の急所。――そこを秀郷の矢で刺し貫かれたまま、首をね飛ばされた将門。
 最初の様に、将門の身体は勝手に動きだすことはなく……首元より、どこまでも朱い血が吹き出だし、揺れた後に倒れこむ。
 秀郷ひでさとは肩で息をしながら、蜈蚣切丸むかできりまるを数回血振ちふりをし、鞘を腰元から取り外し。納刀する。
 限界が来たのか、秀郷はぐらりと倒れこみそうになる。

「むぐ! 倒れるのはまだ早い!」

 ――何とか気合を入れ、蜈蚣切丸を杖の様に立て、踏み留まる秀郷。――将門まさかどの胴体に、ふらふらと歩み寄る。

「ぼろぼろじゃわい……あと少しで儂の方が死んでたわ」

 秀郷はゆっくりと近づき、将門の身体の前で膝をつき……手を触れる。
 将門の魂と、何かを語り合う様に目を瞑る。
 ――何かを感じ取ったのか、秀郷は目をかっと見開く。

こいつか・・・・!」

 秀郷は拳を振り上げ、気を込め、将門の身体に拳を振り下ろす。――将門の身体が陸に上げられた魚の様に跳ねる。
 それは血とはまた違った、全ての光を通さない漆黒しっこくの液体。――それが、ずるりと将門まさかどの胴体から抜け出す。
 漆黒の液体は細長く形となり、尺取り虫の様に逃げ出す。

「これが将門まさかどの体を操っていたモノか! 逃すものか!」

 力弱く、地をいし尺取り虫……秀郷は蜈蚣切丸むかできりまるを抜き放ち、突き立てる――すると、黒い染みを残し黒靄くろもやとなって消えていく。

「呪術か呪法の類かのう」

 将門の首がころころと転がる。――秀郷ひでさとは転がる首を手で止め、むんずと掴み上げ、顔に飛び散った血をぬぐう。

「将門の首はここにあれども、魂は何処へと……か。乙姫おとひめよ結界を解いてくれ」

 水の結界を張っていた龍神の姫へと声をかける。直ぐ様に結界が解かれ、秀郷ひでさとへと向かって飛んでくる乙姫おとひめ

藤太とうた、本当に無事で良かった……死んでしまわれるかと思いました。――歳を考えて下さい。全力なんて……藤太の身体が魂が壊れてしまいます」

 泣きそうな顔をしながら、秀郷ひでさとの身体を両手で叩きながら。懇々とどれだけ危険だったのか説く。

「それに貴方の魂は先約があるのですよ! 龍脈の力に耐えられても、あれに殺されていたら。――きっと魂は無事では済まなかった」

 怒りながら秀郷の胴を叩く。
 秀郷はその心遣いが、姿が、たまらなく愛おしくなり。
 微笑ほほえみながら、乙姫おとひめの頭に武骨ぶこつな手をのせ、優しく撫でる。

勿論もちろんだとも……儂の死後、魂は約束通り龍宮の守護者としてとな。さて、貞盛らがこっちに来る前に姿を隠すんじゃ」

 秀郷の言葉にうなずきながら見えなくなっていく乙姫。
 直ぐ様に貞盛が兵に肩を担がれ、さわがしく秀郷の元にやって来る。

「叔父上! ご無事でしたか! いたた」

 脇腹を押さえながら、倒れ込む貞盛。苦痛を耐え悶える。

「馬鹿じゃのう、そんなに興奮しては傷に響くじゃろうて」

 苦笑しながら、痛みでつくばってしまった貞盛さだもりを抱え上げる。

「さて、首は京に持って行かねばならぬが……将門の身体は手厚くとむらってやらねばな」

 貞盛を支えながら、何処が良いかと思案しはじめる秀郷。

「そういえば、叔父上……やはり、何か違うモノが入っておりましたか?」

 抱えられたまま、貞盛は疑問を投げかける。

「うむ、記憶や力は体に残ったままに別のモノが入っておった……残っていればの話じゃが、魂を探して、事の顛末てんまつを聞くしかあるまいて」

 痛みと秀郷に聞かされた話により、にが苦しい表情を浮かべていた……が、いつものように明るい顔に切り替え――

「叔父上……何はともあれ、将門は討ち取りましたからね。全軍! お預けにした分もだ、勝鬨かちどきを上げよ!」

 貞盛の掛け声と共に全員が勝鬨かちどきの声をあげ、遠くまで響いていく。――その声を望む者、望まない者、全てに分けへだてなく。


 大軍勢が平たい野原で休憩をしている……その軍勢を率いるは将門討伐を命ぜられた、征東大将軍――藤原忠文ふじわらのただぶみである。

忠文ただぶみ様……将門が討ち取られました」


「早過ぎぬか? 見えたのか経基つねもと?」

 経基つねもとと呼ばれた男。源満仲とよく似た顔立ちである。――秀郷と同じく老齢である、藤原忠文と耳打ちするように話をする。

「いえ、もう少し近づかないと見えないのですが……伝令が来ました故、藤原秀郷様が討ち取ったようです」

「ふむ、藤太は阿保あほほど強いからの……全軍、帰還するぞ! 途中ですれ違った女性達を護衛しながらの帰還じゃ!」

 どたどたと帰還の準備をしだし、慌ただしくなっていくなか、経基は忠文に話しかける。

「次は西の純友すみともですな」

「また儂が形だけの、今度は征西大将軍になるな……経基、西にはお前が行ってきてくれよ、"たこ"は嫌いじゃからな」

 忠文の豪快な笑いが野原に大きく響いていく。



 同じ頃、森の中を木の根に足を取られ大きく転んだ男が一人……仕立ての良かった着物も枝で切ったのか、ぼろぼろになっていた。

藻女みくずめ……みくずめ、一体どこにいったんだよ」

  大の男が地面に突っ伏したまま、ぼろぼろと涙を流しはじめる。

「なんだよ……『平将門たいらのまさかども死にましたし、興世王おきよおうさまとの縁はこれまで……お元気で』って言い残して消えてしまいやがって」

 興世王の恨み節と慟哭どうこくが森の中に入り混じる。

「絶対に……許さない、日ノ本を必ず呪って潰してやる。独りでも魔の国を作って、今度こそ余が皇に――ぐび」

 音もなく忍び寄ってきた男に背中を刺され……最後の言葉をつむぐ事無く、呆気あっけなく事切れる。
 興世王の顔は鼻水と涙に濡れ、情け無い顔であった。

興世王おきよおう……天誅てんちゅうである」

 口元を手拭いで隠し、顔を見られても問題がない様にしている、白髪の男。
 短く言葉を投げ、興世王おきよおうの身体を刺し貫いた刀を回収する。
 男は興世王の顔を手で持ち上げ、舌を引き出す。何をするかと思えば。――手に持つ刀で舌を根本から切り落とす。
 血の滴る舌。――紋様が刻まれている舌を、口が広い竹筒に押し込む。
 男は興世王の亡骸なきがらを捨て置き。鬱蒼としげる、森へと跳び上がり消えていく。

 木の上には赤い三日月が一つ……
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