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将門の過去
ヨシノとの出会い
しおりを挟む将門は盗賊達の死体を捨て置き、刀を血振りし、納刀しながら、うつ伏せになったままピクリとも動かない女の元へと歩いていく。
女の服は派手な刺繍などは無く、伏せた拍子に泥が跳ね汚れていたが……市井の者では、おいそれと手が届きそうにない程に良く、見事に作られた服を着ていた。
「気でも失っておるのか……おい、女よ、起きろ」
両腕で抱き抱えるように女の体を起こす。――その顔もやはり、野良仕事をするような顔では無く、何処かの箱入り娘であろうかと想像される。
何度か揺さぶる将門だが、女は呻き声を上げるだけで、一向に眼を覚ます気配が無い。
「仕方ないか……力丸に乗せるか」
将門は指笛で、ピュイと甲高い音を鳴らす。
すると、将門が飛び降りた後に、近くの水田の畦道にて草を食んでいたのか、口を動かしながら力丸がやってくる。
「力丸、すまんが道連れが増えたぞ」
軽く嘶きを上げ、将門が抱き抱えている女の顔をペロリと舐め上げ、力丸は乗り易いように体勢を下げる。
将門は鞍に跨り、女を後ろに引き上げ、帯で落ちないように……しかし、引っ張れば直ぐに解けるように腰同士を結ぶ。
「さて、近くの村に寄るか……それまでに起きてくれれば良いが」
チラリと後ろで将門に寄りかかる形になっている女を見ながら……血雨が降った場を後にする。
将門が見えなくなった後に、捨て置かれた盗賊の死体が転がる、場に一つの影……馬に跨る、狩衣の者。
「おおー! こいつは凄いね、やるじゃない平将門! これは益々……期待よな」
赤く燃えるような唇を、舌が這う。
近くにある村を目指して、力丸は将門と女を揺らしながら歩く。
「うん、ここ……は?」
女は目を覚まし、寝惚け眼を手の甲で擦る。
「起きたか、盗賊に襲われていたところを運良く助けたは良いが……気を失っておってな、近くの村まで送るところよ、馬に二人は窮屈だが我慢せよ」
将門は少し笑いながら、女に置かれている状況を説明する。
「貴方様が助けて下さったのですね、ありがとうございます。これは御縁でしょうね、私は平良兼の娘、良乃と申します。貴方様の御名前を教えて頂けませんか?」
女は名を明かす……それを聞き、将門は怪訝な表情を浮かべながらも、口調には出さずに答える。
「平将門よ、この様な所で会うなど奇妙な縁だな、従兄妹よ」
将門の言葉を聞き、パッと顔を明るくする良乃。
「貴方様が将門様だったのですね! 京から戻って来るとは聞き及んでいましたが……まさか私の窮地を救ってくださるとは」
良乃は将門の広い背に、自分の頭と右耳を押し付け、手を将門の体に回し抱き着く。
「もう少し離れよ、手綱捌きが鈍る」
将門は身を捩り、少しだけ良乃から離れようとする。
「将門様……もう少し、このまま」
良乃は口より、先が二股に分かれた長い舌を、ちろりちろりと数回出す。
蛇のように口を大きく開け、長い舌の先を喉奥へと進めていき……胃の奥底より、抜身の短刀の柄を舌で巻き付け、音も無く取り出す。
蛇の如く、舌を巧みに動かし、将門の首すじ目掛けて横薙ぎに短刀を振るう――刹那。
「臭い芝居で、この将門を謀ったつもりか?」
将門には背後にも目があるかのように、頭を下げ、体勢を下げ、横薙ぎ一閃を避け切り――良乃の舌を右手で掴む。
「甘いわ、阿呆が!」
手綱を離し、左手を使い結びつけていた帯を即座に離しながら、良乃を力丸の前方へと投げ飛ばす。
「力丸! 力の限り踏め!」
強かに身体を打ち付け、体勢を崩した良乃へ目掛けて、嘶きと共に力丸の蹄が迫る。
が……しかし、良乃は蛇のように地をスルリと這い、蹄を避け、力丸の腹下に潜り込む。
またもや、舌を巧みに使い、短刀で力丸の腹を、勢いよく突く。
力丸の臓腑を蹂躙しながら、短刀は背に乗る将門を目指して突き進み、遂に鞍を突き破る。
――が、そこには既に将門は無く、力丸の頭の上に立っていた。
「ずぁ!」
気合い、力丸の背から出てきた舌を刀で細かく寸断する。
舞う血と肉片、耳を劈く良乃の悲鳴。
将門は弱く嘶きながら、力尽き横に倒れこむ力丸。――力丸に挟まれないように距離を取り着地する。
「力丸……御苦労であった」
辺り一面が血で染まっていく様を見ながら将門は言つ。
すると、血だらけになりながら来た道へと走り逃げ出す良乃。
「まだ息があったか! 逃さん!」
将門は逃げ出した良乃を追いかける。
少し走ったところで馬を引きながら、狩衣の者が逃げる良乃の前に立ち会う。
「しょの馬を寄越しぇ!」
将門に舌を切られ、回らなくなった舌で叫びながら、狩衣の者へと襲いかかる。
「其処の者よ! 逃げろ!」
追いかけていた、将門より警告が飛ぶ。
狩衣の者は馬に括り付けていた布を被った棒を両手で持つと、飛びかかってきた良乃の胴体を薙ぎ払うように棒を振るう――
布が切れ、良乃の胴が真っ二つに割れ、臓腑が散らばりながら勢いよく飛んで行く。
「ほう……素晴らしい腕前だな!」
感嘆の声を漏らしながら、将門は狩衣の者へと近づく。
「あんたが平将門だね! そろそら近くで顔を見たいと思ってたところさね」
棒の布がはらりと落ち、二尺ほどの反りのある刃身の付いた棒。――血がついた薙刀が布の下から現れる。
「いかにも平将門である。――しかし、素晴らしき薙刀捌きであった、名はなんと申す?」
狩衣の者は髭が無く、浅黒く日焼けし、健康的な顔をしていた。
「あたしの名かい? 平良兼の娘、平良乃だよ、あんたの嫁になる女さ!」
将門を指差し、満面の笑みを浮かべる良乃。
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