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将門の過去
娶る将門
しおりを挟む「平良乃、あんたの嫁になる女さ!」
眩いほどの笑顔、そして大胆な発言に将門は呆気に取られる。
将門は、はたと気を取り直し、警戒をする。
蛇のような術を使った良乃を斬り飛ばし、薙刀を携え、狩衣を着込んだ、もう一人の……自称良乃へと問う。
「平良乃よ。二つ三つ程だが、問いたい事がある……よい――」
「ああ、勿論だとも! 何でも聞いておくれ!」
将門の言葉を食い気味に答える良乃。――薙刀を持っていない、左手で握り拳を作り、ドンと胸を叩く。
「そうか……良乃が斬り飛ばした女だが。――其奴も不可思議な事に、平良乃を自称していたが、面識はあるか?」
良乃は首を傾げながら、半分に斬り飛ばした女の顔を見る。――何とか判別できるほどには限界を留めている。
「あん? 知らない顔さね。ただの推測、憶測の話だけど、國香伯父の雇った刺客の一人だろうね。将門、あんたは――上に下に人気者だよ」
冗談を言いながら、カラッと笑う、良乃。――不意に、笑いを止め真剣な顔をする。
「……人の名を騙るなんて、不埒な奴だね、斬り飛ばして正解だよ」
良乃は手に持つ薙刀を数度、振るう。――眼を見張るほどの、速さと力強さで、空が唸る。
「次だな、何故そのような格好をしてい――」
「動きやすいからに決まってるじゃない! ヒラヒラとした服よりも、こっちの方が着慣れてるし、薙刀も扱い易いしねぇ」
またもや、将門の問いに、食い気味に答える良乃。
その答えに耐えきれず、将門から笑いが溢れる。
「武を嗜み、しかも狩衣が動きやすいとな。とんだじゃじゃ馬姫よ……だが、気に入ったぞ! 最後だ、嫁になるのは良兼伯父上からの命令故にか?」
最後の問いに良乃は笑いのツボに嵌ったのか、腹を抱えて大笑いをし、目に浮かぶ涙を指で撥ねる。
「いやー笑った、そうかい気に入られたかい……将門、あんたの言う通りさね、嫁になれと命令されたのさ」
薙刀の柄を、手で弄りながら続ける良乃《よしの》。――それを腕組みし、仁王像のようにじっと動かずに聞く将門。
「隙があれば殺してしまえとも言われたねぇ……だけどね、そんな命令を聞く気もなかった。何より将門……父上や伯父達が危険視していた、あんたが気になってねぇ」
良乃は馬に括り付けてある布を手に取り、薙刀を包む。
「それであんたの事を少し尾けていたのさ。分かったことは人を誑し込む魅力、不正を許さない正義の心、実に男らしく、そして何より強い! もうあんたに首っ丈さね!」
清々しく言い切る、その顔は熱に浮かされ、目が潤み、頬に朱が差す。
将門はズカズカと足音を立てながら良乃へと近づく。
「益々気に入った! ならば、これより我らは夫婦よ!」
将門は有無も言わさず、強引に、将門よりも、頭一つ小さい良乃の膝裏辺りを左腕で、背辺りを右腕で支えながら、ひょいと持ち上げる。
「ほひゃ、こんな格好、恥ずかしいじゃないか!」
驚きの声を上げ、満更でもない顔をしながら口では抗議する良乃。
「夫婦ならこれぐらい普通よ」
良乃が連れていた馬に軽々と持ち上げた良乃を跨らせ、その後ろに将門は跨り、手綱を握る。
「さて、良乃よ、この少し先に馬の力丸が死んでおる……荷物を回収して弔ってやってから、何処かの小川で血と汗に砂を落とそうと思うが、如何か?」
良乃は未だに、気恥ずかしい思いから立ち直れておらず、ほわりとした面持ちのままに、こくりと頷く。
「そうだ、将門……道すがら京の話とか、聞かせておくれよ。あんたのことがもっと知りたいんだ。」
「お安い御用よ、行け!」
馬の腹を蹴り進ませる。
二人は楽しそうに笑いながら、口々にお互いをさらに理解するために話をし、下総国を進んでいく。
――下総国豊田郡――
将門と良乃は馬に二人跨り、和気藹々としながら、馬をゆるりと歩かせている。
「ここまで来れば、もう少しだ」
将門は後ろに乗る、良乃を気にかけながら声をかける。
「早いこと将門の家族とも顔を合わせたいものだねぇ」
そんな折に、二人の話を遮るように、怒声に悲鳴、馬の嘶きが遠くない所から聞こえてくる。
「良乃よ! しっかりと掴まっていろ!」
「全速力で大丈夫さね、助けに行くんだろう?」
馬の後ろに跨る良乃は将門に微笑みながら、発破をかけるように、将門の大きい背を平手で数度叩く。――その微笑みと気合を入れてくれた、良乃をチラリと見ながら、将門は手綱を握る手に力を込め、馬を全速力で駆けさせる。
逃げ惑う民達を追いかけ回す、薄汚れた男達……その手には質の良さそうな刀を持つ。
「助けて! 命だけは! やめ――」
逃げる男の背を斬りつけ、血花が咲き、前のめりに倒れる。
「助けるわけないだろ、一番楽しい事なんだからな!」
下卑た笑いが襲撃に合った村に響く。
掠奪に勤しむ真っ最中に、見張りをしていた男から大声が飛ぶ。
「あにぃ! 一騎だけ全速力で走ってきます!」
血に濡れた刀で指し示しながら、ワタワタとする男。
「あん? 救援が一騎……とはいえ、早過ぎるな……見廻りか?」
集団の頭目らしき男は考え事をしながら、ブツブツと独り言つ。
「まあいい……ぶち殺して、成果を持って帰るぞ!」
「あいさ!」
十人の男達が馬目掛けて走って行く、誰もが簡単な仕事だと思って……
「将門! あいつら気がついて、こっちに向かってきているよ!」
良乃の言葉を聞き、将門はニヤリと笑い、馬に括り付けてある薙刀を手に持つ。
「全員が向かってくるとは、手間が省けたな! あいつらの前で飛び降りる、良乃は馬を右に方向転換させ、そのまま駆け抜けて民達の所に行け!」
「また無茶な事をする気だね……その話、乗ったよ!」
将門から手綱を手渡された良乃は、さらに加速させ……十人の男達との距離が迫ると右に方向転換する。
「何だぁ、あいつ恐れて逃げよったぞ!」
「玉無し野郎じゃな!」
口々に物言う、盗賊の二人。――その目の前に高く高く、跳ね上がっていた、二人にとっての死が落ちてくる。
獰猛に笑う将門、左手に薙刀を持ちつつ、右手で刀を抜きーー瞬く間に正面で笑う男の首二つが刎ね飛び、馬を見ていた後ろの男達に血が吹きかかる。
「さて……お前ら、閻魔が呼んでいるぞ。覚悟は出来ておろうな」
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